2024.10.01
自社の社内情報を未来の“ゴミ”にしないための備え 「情報量が多すぎる」時代がもたらす課題とは?
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松岡永里子氏(以下、松岡):本日は『従業員エンゲージメントを仕組み化する スキルマネジメント』の著者である中塚敏明さんにご登壇いただきます。書籍の中に書いてあることも含めて、またそこからプラスして、質疑応答も含めてお話ししていきたいと思います。では中塚さん、お話いただいてもよろしいでしょうか。
中塚敏明氏(以下、中塚):よろしくお願いします。
松岡:お願いいたします。
中塚:あらためまして、みなさまこんにちは。本日は「能力開発を仕組み化する スキルマネジメントとは」についてお話をさせていただきたいと思います。
まずはじめに、少し自己紹介をさせていただきたいと思います。スキルティの代表取締役の中塚敏明と申します。私はITの黎明期に生まれまして、NTT東日本での経験を経て、2011年にITの派遣会社を設立いたしました。
しかし社員の離職問題に直面しまして、これに対して成長環境作りに集中いたしました。この経験から能力開発の重要性を深く理解し、そのノウハウを提供するスキルティ株式会社を設立をいたしました。最近ではこのテーマに関連した書籍も刊行させていただいて、多くのメディア・企業さまからの注目も受けております。
今日、私がみなさまにお伝えしたいのは、能力開発、成長環境の構築方法だけでなくて、その過程でのエンゲージメントと生産性を最大化する方法と、その背景にある考え方です。本日の講義が、みなさまの組織での能力開発の環境改善に新たな視点を提供できれば幸いです。どうぞよろしくお願いいたします。
中塚:さて、能力開発の仕組み化に向けて、まずはじめに社会情勢のアジェンダに移ります。社会情勢の変動や技術改革の波が、個人と企業に能力開発の必要性をもたらしていることについて、ちょっと触れたいと思います。
特にコロナ危機や生成AIの台頭は、個人にキャリアの再評価を促し、企業には競争力を保つために能力開発が不可欠な要素になってきました。その背景について詳しく解説したいと思います。
次に、能力開発の取り組みにあたって大切な考え方と効果的な方法として、意思(WILL)と能力(SKILL)の着眼点をご紹介したいと思います。能力開発にあたっては、能力はもちろんなんですが、その動機づけも非常に大切な要素になります。
続いて、これらを高める具体的なポイントについても紹介していきたいと思います。そして最後に、これらすべての要素を組み合わせまして、能力開発の仕組み化を実現するスキルマネジメントについて、お時間の許す限りご紹介したいと思います。
スキルマネジメントは、個人と組織の能力開発を仕組み化・システム化し、持続可能な成長を支援するような仕掛けになっております。このテーマに関する研修は、通常数日ぐらいを要するほどの内容になりますが、今日はそのエッセンスを約40分ぐらいに凝縮してお伝えしていきたいと思います。
限られた時間の中で、最大限の価値を提供することを目指しておりますので、どうぞ最後までお付き合いください。
中塚:それでは、能力開発の必要性について詳しく見ていきたいと思います。世界的な傾向として、コロナ危機を通じて多くの個人が自身のキャリアを見つめなおし、新たなキャリアへとシフトするためのスキル開発や、リスキリングの機会を求めるようになってきております。
さらに、物価高の影響で生活の安定を求めて、収入を増やす機会や市場価値を向上させるためのスキルアップの重要性を再認識しているのかなと思います。また健康思考も高まりまして、個人は仕事と生活のバランスを保ちながら、持続的な成長の機会を求めています。
そして最近のニュースで見られるようになったんですが、企業ガバナンス、コンプライアンス、リスクマネジメントに対する世論の目は厳しくなってきていまして、社員教育を重視し、これらの領域で企業責任を果たしてるかどうかの評価も強く求められるようになっているかなと思います。
このような背景から、個人は自身のスキルを磨くことの重要性を認識するとともに、企業も個人にそのような環境を提供してるかを見直す必要性があるかなと思います。個人と企業の両方で、スキル習得や社員教育の重要性が強調されるようになってきてると思います。
中塚:個人の観点から必要性を見てきたんですが、企業側の変化にも焦点を当てたいと思います。特にテクノロジーの進歩、DXと新世代のAIの台頭が、企業の運営に大きな影響を与えております。
まず、求められるスキルの変化です。DXとAIの台頭は、生産性の向上のキーになっておりまして、世界経済フォーラムによりますと、それらを効果的に活用するために、分析思考、創造的思考、技術的リテラシーが重要なスキルとされてきております。
企業はこれらのスキルを持つ労働力を求めて、また内部のスキル開発とプログラムを通じてこれらのスキルを強化して、生産性を向上させようとシフトしてきています。
これを受けて技術進歩の影響についてなんですが、2025年までに全社員、従業員の50パーセントが、新技術の採用によりリスキリングが必要とされると推定もされています。このリスキリングは労働力の生産性を向上させ、企業の競争力を高めることが期待されております。
そしてAIには代替できない、ソフトスキルの重要性も増してきております。今後はプロジェクト管理やコミュニケーションのような、ソフトスキルやノンテクニカルスキルもAIに代替できないということで、生産性向上の観点でも重要になってきています。
企業は効果的なコミュニケーションと、プロジェクト管理能力を持つ人材を重視し、またこれらのソフトスキルのトレーニングを提供して、さらにチームの効率化と生産性を向上させる動きが加速されると思われます。
中塚:これらの変化を受けまして、企業も個人のスキル開発の必要性を強く認識して、世界的にも積極的に取り組むようになってきております。その理由は、企業はより競争力を持ち、持続的な成長を目指してるからです。
社会情勢やテクノロジーの進歩が進む中で、スキル開発やリスキリングの重要性が増してきていますが、日本の取り組みや状況はどうでしょうか。
昨年の資料ではありますが、経済産業省の「未来人材ビジョン」の資料によりますと、日本の人材投資は世界的に低く、投資が行われず個人もビジネススキルを高める学習をしてないという、衝撃的な結果が明らかになっています。
この傾向の背景には、持続的な学びの文化が十分に浸透していない、または企業が労働者に対して、学びの環境や機会を十分に提供していないと受け取れます。人への投資をしなければ、その文化も形成されないのかもしれません。
しかし先ほどのお話のように、時代とともに変わるビジネス環境の中で競争力を維持するためには、終身学習と持続的なスキルアップが欠かせません。
中塚:2022年8月7日の日経新聞に、企業の業績と組織の成長環境に関する興味深い記事がありましたので、ここでご紹介したいと思います。その内容は、2017年から2021年の5年間の売上高の伸びと、8個のスコアとの連動性で検証した内容のデータです。
この8個のスコアのうち、最も業績に関連性があった項目が「人材の長期育成」と「20代の成長環境」でした。さらに、株価に関しては「20代の成長環境」が1番でした。このことから、生産性を向上させるには成長環境の構築が重要だと言えそうです。
そして日本では、競争力を高めるため、相対的に企業価値を高めるためにも、成長環境、能力開発の環境を整えていくことは、1つ抜きに出る重要なキーと言えるかもしれません。
さらに日本生産性総合研究センターの調査によりますと、「生産性」と「人材投資」の関係性は、直接的ではないんですが、こういった感じで間接的に大きく相関することを明らかにしてます。
人材開発への投資は、自己効力感、企業理念の浸透、そして次世代のリーダー候補を自覚させるのに有効であり、その結果としてチームワークや創造性、主体的行動、プロアクティブ行動へとつながり、生産性が高まると分析をされております。
ですから、直接ではないんですが、中長的な視点での影響力として、能力開発への投資が会社の利益とつながっていきます。
中塚:これらの背景をまとめますと、組織の持続的な成長の根底には、スキル開発、能力開発があると言えます。能力開発の土台を整えることで、アップスキル、リスキリングの環境を従業員に容易に提供できるようになります。
リスキリングなんですが、新卒採用よりもはるかにコストが低く、海外の金融業界では従業員1人当たり約900万円の節約になるとも言われています。これらの取り組みは、ワークエンゲージメントや従業員エンゲージメントに影響を与え、主体的行動を生み、生産性の向上へとつながります。
従業員エンゲージメントは生産性だけでなく、利益率、退職率、顧客満足度、株価との相関性があり、企業の価値を向上させます。
さらに会社のブランディング(力)が高まり、競争力の向上はもちろん、求職者から求められる環境として人材の求心力も高まり、ステークホルダーにも良い影響を与えることができます。これらが能力開発の重要な背景となります。本日はこれらの土台となる能力開発について、その環境をどのように整えていけば良いのかに焦点を当てていければと思います。
中塚:能力開発の環境を構築するにあたり大切なことは、能力(SKILL)だけに頼るのではなく、偏ることなくその能力を獲得する意義、意思、個人のWILLにも目を向けることが非常に大切です。
Intelの創業者アンディ・グローブの言葉によりますと、人が仕事をしていない時の理由は2つあると言っています。
単にやろうとしないのか、あるいはそれができないのかのいずれかです。だからできるようになっても、やろうとしなければ生産性は高まりませんから。能力開発の環境を構築するにあたり、WILL面も非常に大切な要素と言えます。
この「WILL」は、つまり意思ですね。これは、従業員が仕事をするため・遂行するための、動機、意欲、モチベーションを指します。具体的には仕事への情熱、組織、ミッションやビジョンに対するコミットメント、自らの役割や責任を理解し受け入れる姿勢などが含まれます。
次に「SKILL」は、すなわち能力です。これは職務遂行に必要な技能や知識を指します。具体的な技術やツールの使用方法、それを利用するための各種スキル、または特定の職務に関連する知識などが含まれております。
そして能力開発の効果を最大化するためには、このWILLとSKILLの両方を総合的に考慮することが不可欠です。これらの要素は、個人の仕事への取り組み方と、組織全体の生産性を向上させる基盤を形成します。
特に、新しい役割や環境に配属された際の、従業員の能力開発の取り組みが非常に効果的です。新たなところに配属された時期、多くの社員はWILL、すなわち仕事に対する意思やモチベーションが、希望をもって高い状態にあると言えます。
中塚:一方でSKILL、すなわち必要な技能や知識はまだ十分でないことが多いです。(スライド)黄色の枠になるんですが、熱意や意欲は十分にあるものの、具体的なスキルや知識が不足している状況を示しています。このギャップを埋めるためには、適切なトレーニングや指導が必要になります。
技能が長期間向上しない場合、はじめの高いモチベーションがどんどん失われる可能性がありまして、結果として仕事の効率や生産性が低下します。
能力開発や適切な環境が提供されてない場合は技能の向上は見込めず、実際の仕事を進める中でさらに意識も失われてしまうと考えられます。(スライド)左下の灰色枠が、その状況を示しております。
一方でセンスの良い社員であれば、一部では自ら能力を向上させることができますが、当初よりも意思が失われ、結果として会社の文化を壊しかねない、悪い模範になってしまう可能性もあります。右下の水色枠は、能力が高いものの意思が低い状態を示しております。
一度このような状況に陥りますと、技能と意思の両方を同時に向上させることは困難になります。だからこそ能力開発期間において、右上の赤枠の状況、すなわちWILLをさらに強固なものとして、同時にSKILLを高める能力開発の環境を構築することが重要になります。
このアプローチにより、組織内での高いモチベーションを維持するリーダー候補や、キーパーソンとしてのポテンシャルを高めることができます。そして彼らの成長とキャリアの展開をサポートすることで、組織の将来を担保することができるのではないかと考えております。
このようにWILLとSKILLのバランスを見極めながら、それぞれに対する適切な施策を実行することが、組織の持続的な成長と個人の成長を促進するカギとなります。
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