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ティールと識学はまったくの別物? 水と油と思われがちな2つの理論を徹底検証!(全4記事)

指揮命令系統がなくても機能し、前進する「枠組み」は作れる リーダーを置かず、現場チームで結果を高め合う組織デザイン

株式会社識学が主催した経営者向けに特化したオンラインイベントに、『ティール組織』の解説者で、東京工業大学特任准教授の嘉村賢州氏が登壇。『とにかく仕組み化』の著者で、同社代表の安藤広大氏と、ティールと識学という2つの理論について徹底検証しました。今回は、ティールにおけるルール構築の仕方などが語られました。

前回の記事はこちら

「階層構造を壊したらティール」ではない

司会者:次のテーマ「中間のリーダーがいない組織は可能なのか?」というところに入ってまいります。

先ほど「ヒエラルキー」という言葉も出ておりましたが、ここが肝かと思います。まず嘉村さまからお話しいただいてもよろしいでしょうか?

嘉村:ここがかなり誤解の温床であり、「そりゃうまくいかないよ」とよく突っ込まれるところでもあるんですけども。基本的に中間のリーダーはいないです。ただ、そこで階層構造を壊したらティールかというと、そんな簡単ではないですよという話になるんです。

なぜなら、組織は幅広い視野を持つ役割と、現場で専門的に働く役割の両方があって機能するのであって。例えば子どもたちのサッカーゲームを見ていると、ボールに集中して全員がボールに集まってしまうと絶対負けるわけですよね。やはりフォーメーションを組んだり、幅広い視野を持ってやらないといけないのです。

それを知らずに「階層構造をなくすのがティール組織だ」といって、今までマネージャーをやっていた人をクビにするとか、あるいは「立場はみんな一緒だぞ」という感じでやっても、それは崩壊します。実際そういうふうにして崩壊しているケースが多かったりするんですね。

じゃあ幅広い視野と専門的な役割をどう作っていくかというところで、今までのヒエラルキーでは管理職というやり方なんですね。要は「命令権限と結果責任を持つ人を置く」というやり方をすると、上からするとものすごく安定的にマネジメントできると。

管理職に対しては、「結果さえ出してくれれば、給料は増えるし出世できますよ」という感じで、安定した構造を生んできたかたちです。

ティール組織では、そこに命令権限と結果責任を持たせないんですね。要は「優秀な人は出世する」とか「上に行けばようやく自由になれるよ」という発想がまったくなくて、そもそも人は初めから上下関係なく自由だと。

ただ、幅広い視野を持ってやる時に、Aさんが幅広い視野の役割、Bさんが専門と分ける時もあれば、8:2ルールといって、幅広い視野をタスクフォースで構築していくやり方をすることもあります。

幅広い視野の仕事と現場の仕事が機能する仕組みを両方とも作って運用していくのが、基本的なティールのスタイルと思っていただければと思います。

指揮命令系統がなくても回る仕組みは作れる

安藤:幅広い視野を持った人たちは、現場の人たちへの指揮命令権限はないんですか?

嘉村:ないです。いろいろなやり方があるんですけど、わかりやすいのは「心の強い社内コンサルタント」みたいなイメージです。今って、上司の指示に対する拒否権とかがあったりするわけですね。そうした時に、主役はチームです。

Aチーム・Bチーム・Cチームという現場チームがある時に、あるチームは社内コンサルタントをちゃんと使えているから結果が出ていました。ある人は社内コンサルタントを使えていないから結果が出ませんでした、という数値が全部見える化されて出ていたら、それが企業にひもづく場合とひもづかない場合もあると思いますが、成績が悪かったら自分たちで内省するわけですよ。

その時、「あのチームは社内コンサルタントをちゃんと頼っているからうまくいっているぞ」となったら自分たちも社内コンサルタントを使いますよね。そうやって情報の透明性を高めて、使う権利があるとしておくと、結果が高まっていくという。

そして社内コンサルタントは、いろんな現場チームから求められたら自分の評価が上がるとしておけば、完全に指揮命令系統じゃなくても回る仕組みを作っているんです。

安藤:なるほど。でも、その枠組みを作る人は頂点にいるわけですね?

嘉村:その枠組みを作る時に、組織デザインのやり方も、頂点がデザインすることもあれば、それ自体もタスクフォースで構築する場合もあります。

あるいは、ティールのモデルは法律と一緒で、社長も含めて同じ憲法、日本国憲法みたいな同じルールに従って組織作りをやる組織もあれば、そもそもチームごとにルールを変化させていくやり方でやっている組織もあるので、全体設計はいろんなパターンがあると思っていただければ。

いつまで経っても決まらない「グリーン組織の罠」

安藤:そのルールを変える時ってどういうプロセスを経るんですか?

嘉村:ルールを変える時というのは?

安藤:僕らは「とにかく頂点を1つにしてください」と言っていまして。別に現場の意見を聞くなというわけではなく、現場は現場からの提案をどんどんしてもらったらいいと言っています。

ただし、不確実な未来を迎える時に、どっちが正しいかわからないことって数多くあるわけじゃないですか。その時に頂点が1つであれば、最後は組織として決まりますよね。どれだけぶつかっても頂点が1つなら、最後にその人が決めてしまえば組織は前に進むんです。

でも、頂点がない組織って、ひたすらに話し合いばかりが生まれるんじゃないかなというのがすごく疑問だったんですけど。

嘉村:話し合いがひたすらに行われるのは、わりと「グリーン組織の罠」なんですよ。グリーン組織は、多様性と合意形成をすごく大事にしているんですね。そうすると、いつまで経っても決まらないことになります。

安藤:決まらないですよね。

嘉村:ティールに関してはわりと2パターンで、集合的プロセスや対話を大事にしていろいろな意見交換をするけども、最後はリーダーが宣言させるという組織もあります。

安藤:やっぱりありますよね。

結論を下すリーダーを置かずに結果を高め合うチーム作り

嘉村:もう1つがビュートゾルフ(看護師を中心に質の高い在宅ケアサービスを提供するオランダ発のコミュニティーケアモデル)です。例えば田舎の訪問看護と都会の訪問看護ってぜんぜん違うわけですね。

田舎は自動車を使うため1つのオフィスに集まるのは向いていないが、都会は1つのオフィスに集まったほうがいいだろう。あるいは、田舎は日報が合っているかもしれないけど、都会は週報のほうが合っているかもしれないという感じで。

このようにルール・プロセスが一律ではあまり機能しないかもしれない時に何をするかというと、まずマネージャーと現場チームで、ワークコンパスといって「常に進化するチームであろう」とか「利用者さんの幸せを第一優先にしよう」とか「組織内の多様な意見を交えて意思決定するようにしよう」とか。そういう合意しやすい抽象的なものを作るプロセスがあるんです。

その後、その抽象的なものを基に、現場が「もっと具体的な日報を書く」とか「評価の面談はこういうふうにする」とか、あるいは「こういうシートに入れてチェックしてやりましょう」というルール・プロセスを作って運用すると。

安藤:なるほど。

嘉村:そして、抽象的にみんなで考えたものに対して、それらがルール・プロセスとして機能したのかどうかを半年とか1年に1回振り返る。

あるいはチームを越えて共有会や勉強会をすることで、「あいつのチームのルールはめちゃめちゃいいから、すごく機能して生産性が上がったぞ」などと学び合いながら、「俺のチームはもっと違うルールを発明してやるぞ」とやるチームもあって。

このように現場でのいろんなルール・プロセスの実験を担保したり、業界など対象によっての違いを実験できるようなやり方もあります。

ティールで時間を要するのはルール構築

安藤:要はリーダーが決めちゃうパターンと、全員で抽象化したものに対してルールを決めていくパターンの2つに分かれるということですか?

嘉村:そうです。いずれも、グリーン組織にある「合意形成に延々とかかるという罠にはまらないように」というのは共通しています。

安藤:でも、その抽象的なテーマは誰が決めるんですか?

嘉村:ゆるやかなマネージャーみたいな責任者がいるんですけど、その責任とは決まることに対する責任ですね。それを話し合うのは現場チームという感じです。

安藤:僕らは「中間のリーダーがいない組織は可能なのか?」というと、やはり厳しいと言っています。なぜかと言うと、世の中の環境変化がある中で、話し合いの場合はそこで単純に時間がかかりすぎるし、トップが決めなきゃいけないとなると、組織が大きくなればなるほどトップの意思決定を待つ時間がロスタイムになる。

なので、中間のリーダーがしっかり機能して、中間のリーダーに与えられた責任の範囲内で意思決定できるようにする。一定数を超えると間に中間管理職を置かないと組織が機能しないと僕は考えている感じですかね。

嘉村:その志はよくわかります。

安藤:だから、ティールは本当に難易度が高いですよね。ルールについて、決める人がほぼいない状況の中で進めていくことは難易度が高いですよね。

嘉村:そうですね。ビジネスのスピードにはティールも追いつけるのでぜんぜん劣らないのですが、ルール構築のスピードという意味では時間がかかるところはあるかなと思いますね。

司会者:「中間のリーダーがいない組織は可能なのか?」というテーマについては、まさしく対極のポジションからお話しいただくことなったかと思います。ただ、組織においてそういった機能は必要であり、それをどのようなかたちで担っていくかが1つの争点だったのかなと感じています。

安藤:ルールを決める機能ということね。

司会者:はい、おっしゃる通りです。

嘉村:ルール・プロセスを明確にするとか、それを進化させていくことは、組織活動では必要なんですけど、特にティールサイドはそれすら全部なしみたいな感じで思われているところがあったりするので(笑)、それはちょっと残念だと思っています。

安藤:そうですね。組織で動かしていく以上は、全体にしっかりとルールがないと動かないというところは、実はティールにもしっかりあるということですね。

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