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仕事はできるが組織を衰退させる人(全5記事)

ある会社では、営業成績1位の人を降格させたケースも “人を辞めさせる社員”がいる職場へのテコ入れ方法

年商300億円超の企業から個人事業主まで、これまで1,200件超の経営改善を行ってきた経営心理士の藤田耕司氏。心の性質を実例に基づいて体系化した「経営心理学」の観点から、「仕事はできるが組織を衰退させる人」というテーマで講演を行いました。組織の雰囲気を乱しかねない「欲求不満型野心家」の人への対応方法や、強い組織を作るためのポイントを解説します。

前回の記事はこちら

「欲求不満型野心家」との関わり方

藤田耕司氏(以下、藤田):じゃあ、M機能を高めていくためにはどうすればいいのか、どのように発揮していけばいいかという基本的な話をしたいと思います。まず、M機能のベースは相手を認める関わりとなります。メンバーを認める関わりを行い、M機能を発揮する。

基本的に欲求不満型野心家の方は、自分が認められたいんです。自分が認められたいので、相手を認めることよりも自分が認められることを優先しがちになって、ついついそういった関わり方やコミュニケーションを取ってしまいがちになる。

そうではなくて、まずはメンバーを認める関わりを行う。相手を認める関わりとしては、まず話を聴く。そして、聴くだけではなくてしっかり共感する。

承認欲求が強い方は(相手の)話が聴けない方が多いんです。自分ばっかり話をしてしまう方がけっこういらっしゃるわけですが、(自分も)そういうことになってないかどうか。しっかりと相手の話を聴く姿勢が大事ですね。

「知っている」を「できている」にすることがポイント

藤田:それから優れた点を褒める、労をねぎらう。労をねぎらうというのは、「よくがんばったね」と努力をねぎらうことですね。そして感謝を伝える。あいさつをする。相手のことを覚える。相手に関心を持つ。相手を気にかける。こういったことが、相手を認める関わりとなります。

ただ、これが大切だということはほとんどの方がわかっておられると思います。ただ、知っていてもできていない人が多い。

こういう関わり方が大事なんていうのはちっちゃい頃から教わっているので、「はいはい、わかっているよ」といった方が多いと思うんですが、「それができていますか?」というとまた話は別なんです。

「知っている」を「できている」にできるかどうかがポイントだということを、ふだんからよくよく意識をしていただければと思います。

こういったコミュニケーションを通じて、メンバーが居心地の良い職場を作っていく。これをご自身が率先をしてやっていくことが、M機能の発揮をしていく上ではポイントになってきます。

評価には直接つながらない「組織市民行動」の重要性

藤田:そして「認める関わり」に加えて、「組織市民行動」が大事になってきます。これ(組織市民行動)は、公式の職務ではなく、評価に直接つながるものではないが、組織の成長に必要な行動で、この行動が業績や生産性に明確に影響することがわかっています。

アメリカの組織心理の学会で、組織市民行動が一時ブームになったんですが、1980年代ぐらいには組織市民行動がアメリカのほうでずいぶんと議論されておりました。

公式の職務ではない、要は「あなたの仕事としてやってください」と言われたものではない。そのために、これをやったところで評価に直接つながるものではない。ただ、組織の成長に必要な行動。

例えば組織市民行動の具体例として、社長や上長を中心とした一体感を醸成するとか、ルールの順守を促し、自ら率先して実践する。直接の部下ではない人にも仕事を教える、育てる。

組織市民行動は生産性に大きな影響を与える

藤田:「直接の部下を育てる」というのは自分の仕事と認識する人も多いかと思いますが、自分の部下ではない人にも仕事を教えて、育てる。これをやったほうが、当然組織の成長につながるわけです。

それから、自分の担当外のことでも「大丈夫?」と言葉をかけ、手伝う。社員同士の親睦を深めるイベントを企画する。ムードメーカーとして組織の雰囲気を明るくする。こういう仕事は公式の職務ではないですが、組織の成長のためには重要な行動です。

この行動の有無が業績や生産性に大きな影響を与えるということが、研究の結果でわかったんです。こういった実践が、M機能を高めることにつながります。

この点、日本では組織市民行動が議論されてこなかったんです。なぜかと言うと、古き良き時代の日本というのは、わざわざ「組織市民行動」なんて言葉を作って議論するまでもなく、こんなことは当たり前にやっていたんです。

ところが欧米式の経営スタイルがどんどん入ってきて、それとともに組織市民行動のような行動がだんだんと薄らいできて、そしてアメリカから「組織市民行動」という言葉が入ってきたわけです。

その言葉を「これは大事だ」といって、あらためて実行しなければという流れになっている。逆輸入のようなかたちになっているわけですが、こういう行動の実践がM機能を高めることにもつながっていきます。

ある看護師の、余命宣告を受けた患者への対応

藤田:組織市民行動に関して、こんな事例をご紹介したいと思います。「ある看護師さんの仕事の仕方」ということで、余命宣告をされた患者さんは自殺願望を持つ人も多い中、希望を与える取り組みにこだわる看護師さん。余命宣告された方に、こんな関わりをしているということなんです。

「あなたは明日も息をしているよ。あさっても息をしているよ。一緒に息をしている日を数えよう。カレンダーにシールを貼っていこう。息をしていることがどれだけすばらしいことかがわかるようになるから」と。こういった関わりを、一人ひとりの患者さんとやっているというんです。

患者さんが亡くなる間際、ものすごく感謝されると。そして患者さんが亡くなった時に「よくぞここまで生き抜きました」と、清々しい気持ちで患者さんを天国に送り出せる関わりをしておられるんですが、これは仕事として義務付けられていることではないんです。

「でも、これが私の生き方だから。患者さんのため、他の看護師のため、病院のために後悔なく仕事ができるから」というかたちで、こういう関わりをやっているというんです。もちろんこういう関わりをすると、時間も手間もかかりますし、別に給料が上がるわけでもない。

「でも、私は仕事の仕方を私はするんだ。なぜならこれが私の生き方だからだ。患者さんに喜んでもらえて、他の看護師の成長のためにもつながっていく。それが病院のためにもなっているんだ。別に評価が上がるわけではないし、給料が上がるわけでもない。それでも私はやる」と決めて、こういう取り組みをしておられる看護師さんがいらっしゃいます。

周囲の人のための行動が、結果的に自分のためになる

藤田:別に「評価が得られるから」「給料が上がるから」といった理由で仕事をしようということだけではなくて、ご自身の人生の満足度を高めるためにも、どういう仕事の仕方をすれば人生の満足度が高まるのかを考える。

そういう仕事の仕方をしたところで評価が上がるわけでもないし、給料が上がるわけでもない。まさに「組織市民行動」なわけです。評価に直接つながるものではないけれども、「組織の成長のためにやったほうがいいよね」というものが、組織市民行動になるわけです。

そういう行動を取ることで、自分の人生を振り返った時に「人の役に立てたな」「社会の役に立てたな」と、人生の意義を形成していくわけです。ですので、結果としては自分のためになっていく。こういう働き方ができていきますと、ご自身のためにも周りのためにも良い働き方になっていきます。

そしてM機能を発揮していくためには、「集団凝集性」を高めることがまた大きなポイントになります。集団凝集性というのは、「構成員が集団にとどまろうとする心理的な力の総量」ですが、平たく言うと「一体感」のような言葉です。この集団凝集性を高めることも、M機能の発揮(のポイント)となってきます。

集団凝集性が高い集団に見られる特徴として、構成員の団結力や協調性が高まる。それからモチベーションを高く維持しやすい。組織への帰属意識が高まり、離職率が下がる。その他にもたくさんの特徴がありますが、集団凝集性を高めるようなリーダーシップを取れる方が、今はなかなか足りないんです。

仕事ができる人はいるが、リーダーがいないという問題

藤田:いろんな経営者の方からも、「先生、仕事ができるやつはいっぱいいるんだ。ところがリーダーがいない」というご相談も多いんです。「じゃあ、どういう人がリーダーと言えるわけですか?」と聞くと、やはり集団凝集性を高めるようなリーダーシップが発揮できるリーダーがいないと言っているケースが多いんです。

要は、みんながこの組織にとどまっていたい。そして、この組織にとどまることによって自分が成長できて、組織の成長に貢献できると。そういう集団凝集性を高めていきますと、当然ながら離職率が下がっていきます。そして、それは採用においても非常に良いPRとなるので有利に働く。

じゃあ、集団凝集性ってどうやって高めていけばいいのかということなんですが、いろんな手法があります。今日は手法のうちの1つをお話ししたいと思いますが、それが「共通の目標を据える」ことなんです。

共通の目標を共有すると、人間は目標の達成に向けて苦楽を共にする相手のことを「仲間」と捉えるようになるんです。ですので、仲間意識を高めていくためには目標を共有して苦楽を共にすればいいんです。

この点、コロナになる前は、企業で運動会が流行っていたんです。運動会を採り入れる会社がけっこうありましたが、なんで採り入れるかというと集団凝集性を高めやすいからなんです。

例えば、チームに分かれて玉入れでも何でもいいんですが、それをやると「勝利」という目標をみんなで共有するわけです。そして、勝利のために走り回って玉を拾って玉を入れる苦楽を共にします。

勝利という目標を達成するとか、あるいは達成はできなかったけれども、その過程で苦楽を共にすることを経験すると、急に仲が深まったりするんです。

集団凝集性は高めるには“共通の目標設定”が有効

藤田:野球でもサッカーでもかまわないんですが、チームのメンバーとして「勝利」という目標のために苦楽を共にするということを経験すると、相手のことを仲間と捉えて仲が深まるんです。その後一杯やりにいけば、もっと仲が深まるわけですけれども。

オフィスで働いている時はよそよそしくて、あんまり仲がいいというわけでもないと。ところが何かスポーツをやると、急に仲が深まったりする。これが人間が持つ習性なんです。

共通の目標を共有して、その達成に向けて苦楽を共にする。ですので、「目標を共有する」というのは、集団凝集性を高める上ではすごく大事なポイントです。

あるニュース番組で、ニュースキャスターの方が国際政治学者の大学の先生をお招きして、海外の情勢についてニュースをやっていたわけですが、その先生に非常におもしろい質問をしたんです。

「先生、アメリカと中国とロシアと北朝鮮の4つの国が手を結ぶことは無理ですかね? どうすればいいですかね?」と質問をしたんですが、その時の国際政治学者の方の答えが秀逸だったんです。

「そうですな。地球外生命体が攻めてこない限り無理でしょうな」と言ったんですね。地球外生命体が攻めてくると、「地球外生命体をやっつける」という共通の目標を共有することになるわけです。

アメリカも北朝鮮も中国もロシアも、「地球の中だけでガチャガチャやっている場合じゃない。みんな一致団結して、地球外生命体に立ち向かわなきゃいかんぞ」というふうになると、一気に手を結ぶと言うんです。これが人間の習性なんです。

言葉のかけ方で部下の動きは変わる

藤田:なので、ただただメンバーとして集まるだけではなくて、そのメンバーが集まった先にある目標をきちんと掲げる。「何のために我々は集まっているんだ」という目標を掲げ、その目標の達成に向けて苦楽を共にする。

そして、実際に達成した時には「達成感」を共有することが大事です。達成感を共有し、例えばその共有の場面で打ち上げをする。達成感というのは、実感が得られるように場を作ることが大事になります。

例えば、一番達成感が実感として得られる瞬間は「乾杯の瞬間」ではなかろうかと思います。「みなさん本当によくやった。すばらしい。乾杯」と、ジョッキとジョッキを合わせる瞬間に、「自分たちは見事達成したんだ」という達成感を感じることができると思います。

達成を実感できる瞬間をちゃんと設けることも大事になってきます。そして達成の瞬間には「なんとかさんは、こういうところでよくがんばってくれた」「なんとかくんはこういうところをよくがんばってくれた」と、達成に向けたプロセスにおいて、各メンバーがどういう貢献をしたかをしっかり褒めるわけです。

その上で、「我々は、他の会社ではやっていないこういったところまでやっている。みなさんはこういうことまでできている。実はこれはすごいことなんだ。我が社にいること、我がチームにいることに対して誇りを持ってほしい」という言葉がけができると、集団凝集性は一気に上がるんです。

私の講座の受講生の方でも、この言葉がけを始めたら部下の動きが変わったという会社が多いんです。

組織を成長させる人の傾向

藤田:打ち上げの時に各メンバーの貢献を褒めて、同業他社にはない自社の優れた点をしっかり列挙して、「我々はこういうところまでできているんだ。そういう点に関しては、みなさんは自信を持っていいと思う。それぐらいの仕事をみんなやっているんだ。我々の会社に属していることに対して誇りを持ってほしい」と。

こういうコミュニケーションを然るべきタイミングで取ることができると、「この会社にいて良かったな」と思えるわけです。集団凝集性を高めるリーダーシップが取れますと、M機能の発揮という意味では強い発揮の仕方になります。

「組織を成長させる人」の傾向をあらためて申し上げると、P機能、M機能の両方を発揮できている人。ですので、P機能だけ発揮して組織の成長に十分貢献していると思うことは危険です。

今は人手不足によって現場が回らない会社が多いです。人に辞められると、募集しても人が採れない。そんな状況で人が辞めると、ただただ人が減っていく。現場が回らない。ですので、人が辞めない職場作りは喫緊の課題となっている会社が多いです。それだけに、M機能の必要性は今後一層高まっていく。

営業成績1位の社員を降格……その理由は?

藤田:例えばある会社では、今までではまずあり得ないことですが営業成績1位の方を降格させました。なぜかと言うと、その人が原因で部下が何人も辞めているんです。

そこの会社は、仕事を取ってきても人が足りないから受けられない状況だったわけですね。そんな状況で、その人が原因で複数の部下が辞めてしまうと、今まで受けられた仕事もさらに受けられなくなっていく。そうなると売上が下がるんですね。

つまりそういう状況においては、いくら営業ができるとはいえ、部下を辞めさせる人は売上を下げる人になるんです。そういうところを判断して、営業成績ナンバーワンの方を降格させた会社がありますが、そんなことをやる時代になってきているんだなと私も感じました。

今まではその会社は、その人が原因で部下が辞めていることを知っているけれども、見て見ぬふりをしてきた。なぜならば、彼の営業成績はすごい。「降格させて彼が怒って辞めちゃったら、うちの会社の売上が減る。そんなことは避けたい」と、見て見ぬふりをしてきたと言うんです。

ところが今は状況が違う。営業で仕事を取ってきたって受けられない。現場の人を辞めさせる。受けられた仕事まで回せなくなっている。「彼は売上を下げる人間なんだ。そういう人間を高く評価することはできない」ということで、降格させたと言うんです。

こういう状況は、人手不足が深刻化するともっと増えていくと思いますので、人が辞めない職場作りができる人は非常に貴重な人材となっていくと思います。

リーダーが育っていない会社は危機的な状況を迎える

藤田:さらに、リーダー不足も多くの企業が抱える課題ですので、P機能とM機能の両機能を高めて、組織を成長させるリーダーを目指す意義は極めて高い。これは、AIや機械にはない人間独自の付加価値となります。

今、「リーダーが足りない。リーダーがいない。だから、いつまで経っても自分は引退できない。後継者がいない」という会社がすごく多いですが、今の社長の平均年齢は60.4歳とかなんです。ですので、一般企業であれば定年退職している歳なんですね。

それが今の日本の社長の平均年齢なんですが、「でも引退できない」と言うんです。なぜかと言うと「リーダーがいない、後継者がいない」と言うんですね。

こんな状況なので、平均年齢がどんどん上がっていきます。そうなった時に、体力の限界で(社長を)引退せざるを得ない。そういう状況を迎える企業が、今後は一斉に増えてくると思います。そうなった中でリーダーが育っていないとなると、会社はかなり危機的な状況を迎えます。

そんな状況にならないように、ぜひみなさんがP機能もM機能も両方を発揮できるようなリーダーになっていただいて、会社の将来性や成長性に大きく寄与していただければと思います。そういった働き方が、みなさんの人生の満足度を高めることにもきっとつながってくるんではなかろうかと思います。

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