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仕事はできるが組織を衰退させる人(全5記事)

いくら仕事ができても、自己価値感の低い人は「諸刃の剣」 最悪の場合は会社を潰す、管理職の“間違った選び方”

年商300億円超の企業から個人事業主まで、これまで1,200件超の経営改善を行ってきた経営心理士の藤田耕司氏。心の性質を実例に基づいて体系化した「経営心理学」の観点から、「仕事はできるが組織を衰退させる人」というテーマで講演を行いました。本記事では「自己無価値感」が強い人が組織にもたらす悪影響について解説します。

前回の記事はこちら

会社を潰す社長の特徴

藤田耕司氏(以下、藤田):自己無価値感が強い人というのは、まさに会社を潰している。とにかく感情的になりやすい、人の悪口が多い、そして人の話が聞けない、自分ばっかり喋ろうとする。

会社を潰しているのに贅沢品を買っている。どこにそのお金があるんだと。「そんなお金があるんだったら返済に回せ」と言いたくなるんですが、それでも贅沢品を買おうとする。そして、くよくよ悩み、迷いやすい。(会社を潰す社長には)そういう特徴があると、(企業再生の仕事をしている人が)興奮気味に話をしてくれました。

そういうところが、実は経営やビジネスの成果にもつながってくるんです。ですので、自分のことを認めることができているかどうかが、経営やビジネスの結果にものすごく大きく影響してきます。

こういうところが原因で「欲求不満型野心家」の人が生まれてくる。欲求不満型野心家の特徴を持っている人が、みんながみんな自己無価値感が強いというわけではありませんが、その傾向は高いと思います。

自己無価値感が強い人の傾向の話なんですが、この内容を見た時に、恐らくご覧になった方は「自分にも当てはまる」と思われた方も多いんではなかろうかと思います。ただ、これは言ってみれば「人間臭さ」みたいな話でもあるんです。誰しも少なからず当てはまるところはあると思います。

なので、ちょっとでも当てはまったからといって「自分は自己無価値感が強いのか。自分のことを認めることができてないのか」と思う必要はございません。度合い・程度の問題です。この程度が強い方は、ちょっと要注意かなと思います。

意外にも多い、仕事はできるが組織を衰退させる人

藤田:自己無価値感というのは、要は自分に価値を感じられないことです。そうすると、他のものでその価値を補おうとする。そういった動機からこういった傾向が見受けられるようになるわけですが、この度合いが強いなと思った方は要注意かなと思います。

というところで、欲求不満型野心家が組織にどのような影響を及ぼすかについて話し合ってくださいという、1回目のディスカッションの時間にしたいと思います。

みなさんの職場を振り返っていただいて、あるいは前職でもけっこうですし、お客さまの会社でもけっこうです。おそらくこういうタイプの人を見たことがある方は多いんではないかと思うんですが、その方のことを念頭に思い浮かべながらディスカッションをしていただければと思います。では、始めてください。

(参加者のディスカッションが始まる)

中村智昭氏(以下、中村):お疲れさまです。ありがとうございます。ちょっと入るのが遅れてすみませんでした。

藤田:いえいえ。

中村:直前まで仕事だったもので、駆けつけてきました。いやぁ、本当にすばらしい内容ですね。

藤田:ここからです。

中村:入り口からすごいですね。

藤田:でも意外と盲点というか、仕事ができるけど組織を衰退に導く人ってけっこう多いんですよね。

中村:まさに私の以前の職場の上司がこういうタイプでした(笑)。

藤田:けっこう身近にいらっしゃると思うんですよね。

中村:いますいます。私自身もそういう傾向がありましたからね。

「人間力が高い人」とはどんな人?

中村:「欠乏しているものを数字に変えることで周りを認めさせる」みたいなところって、求めるものが違うんですよね。自分が満たされればもっといいものが出てくるんですが、満たされないと違う方向に行っちゃうというのは、確かにおっしゃる通りです。

藤田:そうですね。なので、まさに「上司道」の中でも重要なテーマではないかなと思います。

中村:おっしゃる通りです。P機能とかは、中国古典で言う「人間の器」ですかね。やはり、器がちっちゃいとこういうことになるんでしょうね。P機能ばかり追っかけちゃう、ということですよね。

藤田:「器を大きくしろ」「人間性を磨け」「人間力を高めろ」とかよく言われますが、具体的にどうすればそれができるのかというところを私は講座で教えているんですよね。要は、議論がすごく抽象的なんですよ。

中村:確かに、抽象度が高くてよくわからないというのはありますね。

藤田:ですよね。「器ってどうやったら大きくなるの?」「そもそも器って何?」という点を、私の主観ではなくて講座の受講生の方にディスカッションしていただいて、結果をチャットに入力してもらうんです。

そのチャットの入力内容を全部記録を取って、ずっと集計しているんですが、統計的に「器」とか「人間力」といったところを明らかにしてきているんです。

中村:すごい。

藤田:なので、私は主観ではなくて統計に基づいてやっているんですが、その内容と心理学の内容を照らしてみるとほぼ一致しているんですね。なので、器って結局こういうことだよねと。

「じゃあ人間力が高い人ってどんな人ですか?」というテーマでディスカッションしてもらっているんですが、そこで出てくる答えとしては、ちゃんと自分の欲求を満たしてくれる人のことを「人間力が高い」と言っているんですね。

その欲求は「マズローの欲求5段階説」から始まりますが、ああいったところにひも付いて当てはめていくと説明がつくんですね。

「誰が言うか」で部下の動きは大きく変わる

藤田:器や人間力を高めていくことによって、言葉が力を持つようになるんですね。部下が言うことを聞くようになる。まさにそれが「影響力」になろうかと思うんですが、そういったかたちで今、影響力について講座の中でお伝えしています。

中村:おっしゃる通りですね。結局、影響力があるか・ないかというところですものね。

藤田:そうですね。「誰が言うか」で部下の動きはぜんぜん変わるので。

「じゃあ影響力ってどうやって発揮すればいいのか? 威圧すればいいのか?」という話じゃなくて、器を大きくするとか人間力を磨くとか、具体的に何をすればいいのかについて体系的にお伝えしているのが私の講座です。今日はその中でも、ちょっと問題となるケースを中心にお話ししています。

中村:まさに、そういう抽象度の高いものが体系化されたり言語化されているわけですよね。

藤田:そうですね。そこが(講座が)非常に好評な理由ですね。

中村:すばらしいですね。これは、日本だけじゃなく世界に広げたいですね。

藤田:ありがとうございます。

(参加者のディスカッションが終わる)

中村:おかえりなさい。

藤田:お疲れさまでした。いかがでしたでしょうか? ディスカッションの中で「あぁ、こういう人いるよね」と話が弾んだペアもあるんではなかろうかと思います。今、私は中村さんとお話をしていたんですが、まさに中村さんの元上司がこういうタイプの方だったということで、こちらはこちらで盛り上がっておりました。

自己無価値感が強い管理職に見られる傾向

藤田:こういった人(欲求不満型野心家)は、けっこう身近にいたりすることがあります。ただ、こういった人が果たして組織の成長に貢献しているのかというと、部分的には貢献していると思いますが、部分的には貢献できてないところもあると思います。

ですので、「組織を成長させる人材とは?」ということを考えた時に、「欲求不満型野心家」になってしまってはいけないわけですね。そうならないためにも、P機能もM機能も両方発揮する働き方が求められるわけです。

「自分のことがなかなか認められていない」という自己無価値感が強いタイプの管理職の傾向として、会社や部下の成長よりも自分の評価を優先する。

そして、自分になびく部下を引き上げようとする。問題が起きた時に責任逃れをしようとする。自分のメリットのために権限を利用する。陰で会社や社長、上司を批判するという傾向が見られます。

逆に自己価値感が強い人は、「自分には価値があるんだ」と、自分のことをしっかり認めることができている。このタイプの管理職の傾向は、上(自己無価値感が強い管理職の傾向)と逆なんですね。

自分の評価よりも会社や部下の成長を優先できる。会社の成長に必要な部下を引き上げようとする。問題が起きた時には逃げずに毅然と対応する。会社の成長のために権限を行使する。そして陰でも会社や社長、上司を批判することはしない。どういうタイプの人が管理職に就くかによって、組織の成長の可能性はまるで変わるわけです。

会社のナンバー2の人選を間違えると会社は潰れる

藤田:自己無価値感が強い人がナンバー2とかに就任すると、本当に会社は潰れます。ナンバー2の人選を誤って、危機的な状況に陥った社長を過去に何人も見てきましたが、ナンバー2の人選は、例えば「一番仕事ができる」「勤続年数が一番長い」とか、そういうことだけで決めちゃいけないんです。

もちろん、そういうところも大事なんですが、それだけで決めてしまうと致命傷になる可能性があるんです。欲求不満型野心家のタイプを見抜けなくてナンバー2に据えた結果、現場がみんなナンバー2になびくようになって、社長がいつの間にやら蚊帳の外に置かれてしまっている事例もたくさんありました。

自己価値感が強い人、自己無価値感が強い人、どういった人が上司になるかによって、部下の成長の度合いや部下のモチベーション、そして離職率、さらに言うと会社の成長性や将来性はずいぶん変わってきます。

この点について、こんな言葉があります。「功あるものには禄を与えよ、徳ある者には地位を与えよ」。

これは『書経』という2600年前の中国の書物に書いてある言葉なんですが、この言葉が言わんとすることは、功ある者、要は成果を残した者には禄を与えよ。つまりお金を与えなさい、徳のある者には地位を与えなさいという意味です。

つまり「人徳のない者には、たとえ実績を残したとしても地位を与えてはならない。それはお金で解決しろ。いくら成果を残したとしても、徳のない者には地位を与えてはならない」と言っているわけです。2600年前からこういった言葉があるということは、2600年間、人間は同じようなことで失敗し続けてきているわけです。

「仕事ができる人は諸刃の剣」

藤田:この点に関して、稲盛(和夫)さんが「人生・仕事の結果に関する方程式」というのをおっしゃっておられるんですが、人生・仕事の結果というのは「熱意×能力×考え方」の掛け算の積数を取るとおっしゃっています。

「熱意」と「能力」というのは、0から100までの値を取る。ところが「考え方」というのは、マイナス100から100までの値を取るとおっしゃっています。つまり熱意と能力が高い人というのは、考え方がプラスなら会社を成長させる人材となりますが、考え方がマイナスなら会社を衰退に導く人材になる。

ですので、熱意・能力がともに100だと100×100で1万です。その1万の人の考え方がマイナスの値を取るか・プラスの値を取るかで、組織にもたらす影響はまるで変わるわけです。

ですので私がよく言うのは、「仕事ができる人は諸刃の剣ですよ。味方にすれば頼もしいけれども、敵に回すとこんな厄介な人間はいない」。

ということで、仕事ができる人の考え方がマイナスの値を取るのか・プラスの値を取るのかが、会社の成長を考える上ではすごく大事なところになります。

欲求不満型野心家で仕事ができる場合は、組織の将来性を考える上ではものすごく重大な論点となります。ですので、値がマイナスとなる人間には然るべき対応が必要です。こういったことも稲盛さんはおっしゃっています。

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