2024.10.01
自社の社内情報を未来の“ゴミ”にしないための備え 「情報量が多すぎる」時代がもたらす課題とは?
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多くの企業において、異なる領域で新しいビジネスの種を見つけ、育てる「新規事業開発」が求められる中、リブ・コンサルティングが開催した「事業開発SUMMIT2023」。今回は、ソニーグループ株式会社の執行役 副社長 CSOの御供俊元氏のセッションの模様をお届けします。創業者の盛田昭夫氏と仕事をした最後の世代である御供氏が、事業開発のリスク対策や、現場から事業が生まれる風土を継続するための取り組みなどを語りました。
関厳氏(以下、関):ここまで事業開発の事業を作っていく側面をうかがってきましたが、ここからは組織という観点で、継続する組織カルチャーについてうかがいたいと思います。
大企業で新規事業の担当に任命され、うまくいかないと「次のチャンスがない」「キャリアがどうなるかわからない」と言われていて、あまり積極的にチャレンジできないという声も聞きます。
一方で経営側も、やってもやってもうまくいかず、意見が出てこなくなったり、なかなか任せられなくなったりする。そんな中、ソニーさんでは成功と失敗の中であれだけいろいろなものが出てくる。これは事業開発のカルチャーが継続されているからだと思うんですよね。
何か意識されていることがあるのか。もしくは、リクルートさんなどでは有名ですけど、新規事業コンテストみたいな制度があるのか。経営として気をつけていることをご紹介いただけますか。
御供俊元氏(以下、御供):制度もあります。2014年に「Seed Acceleration Program(SAP)」)を作って、ボトムアップで社員から事業アイデアを提案してもらい、実際にPoCの伴走をしながら事業にしていくことを始め、今もやっています。
関:そういう制度もあると。
御供:もう10年近くやっています。今は「Sony Startup Acceleration Program」と名称を変え「SSAP」と呼んでいるんですけれども、「SAP2.0」とも言っています。「1.0」はソニー向け、「2.0」はノウハウができたので事業として他社さんや大学など、外に対して提供しています。
また、本社で抱える事業開発には失敗がつきものなので、バジェットは規律を持って説明できる範囲にしています。
「失敗はしましたが、こういった学びがありました。これを持って今回はこういうかたちでピボットして使います」と、なんらかの経験値としてフィードバックできる範囲の予算感でやっていくと。
関:なるほど。
御供:大企業であれスタートアップであれ、同じ志のある企業とJV(ジョイントベンチャー)を組むのは、けっこう理に適っていてリスクも分散できます。
あと僕ら経営層の仕事としては、ボトムアップを起点にしたアイデアを、いかにつないで線にして面にするか。先ほどのようにモビリティで配車事業もやっていますが、エンタテインメントのベニューのオペレーションもやっています。
ベニューのエンタテインメントを掛け合わせることで、バーチャルのロケーションベース・エンタテインメントを作っていくと、事業規模が拡大してくる。つまり点と点をどうやってつなげていくかが、我々の仕事になります。
関:今、いくつかポイントがあったと思うんです。まず各自がやる時には失敗を覚悟で、規律のあるバジェットを組む。失敗した時にはCFOへの説明を、ご本人たちというよりも……?
御供:それは僕の仕事ですね。「ごめんなさい」と言うんですけど(笑)どんな場合でも7割本命で、3割はハイリスクじゃないですかね。ハイリスクのところをいかにうまくマネージしていくかは、別にソニーだけではなく、どんな事業をやっていても同じだと思うんですよね。
そこの規律の持ち方と振り返りの仕方、ピボットの考え方、ゲートの持ち方。それをどうやってイグジットするかなど、JVを含めて伴走していくのが、若い人たちの提案をさらに後押しする力になると思います。
関:ちゃんと説明されて、会社として失敗からの資産が残るかたちを作ることで、次の挑戦が生まれやすくなるんですね。
御供:そうですね。だからまったく知らないところには行きません。例えば今、スポーツ領域の事業探索をやっていますが、なぜかと言うと、音楽事業と非常に似ているんですよ。
コンサートかゲーム(試合)かの違いだけで、ベニューがあって入場料を払う。そこに行くとマーチャントがあって物販があって、ゲームであれコンサートであれ放映権がついてきて、タレントであれアスリートであれ、人がいて、基本は同じなので、新しい事業としてどうやって入っていけるかなと。
強みはどこで、足りない部分はどこか。足りない部分がわかると、この人たちと一緒にやったらどうなるかというアイデアも湧きやすくなりますよね。
関:確かに。1個1個の事業をつなげていく絵があると、失敗した時もよりつながっていきやすくなるんですね。
御供:そうですね。例えば今年の1月頭に人工衛星を打ち上げたんです。
「ロケットを1発上げて、なんの意味があるの?」と思うわけですよ。だけど上げたい人は上げたいわけで。
関:(笑)。
御供:上げさせてあげないといけないんですけど、ロケットにはうちのカメラがついていて、衛星の角度を自由に調整しながら写真を撮るという、まったくお金の臭いがしないプロジェクトなんです(笑)。
でもそれをどうやって点でつないで、線にしていくかを考えておかないと、最初からできないじゃないですか。
関:ちなみに1個1個の事業を線にして、大きな絵での結びつきをひらめく方、思い浮かべる方は、役職や部署だとどこにいらっしゃるんですか?
御供:それはどこかにまとまっているわけでないので、そういう人たちを探し出すのも1つのノウハウです。よく会社では「ポリネーター」と言っています。
関:ポリネーター?
御供:要はミツバチみたいに花から花へ花粉を移していく。
関:なるほど(笑)。
御供:そういう人をいかに見つけて、コミュニティを作ることかが大事だと思います。
関:ソニーさんの場合、おそらく大きなものも小さなものもやられているので、事業ポートフォリオを変える時は売却や統合もあるかもしれませんが、そのあたりも注意して、増えるだけにならないようにマネジメントされていますか?
御供:それはそうですよね。やはり会社である以上、いかにリスクを分散したり、うまくいかなかった時にいかにそれを回収するかが大事ですから、常に考えています。例えば2013年にTriporous(トリポーラス)というもみ殻を活用した脱臭剤(炭)みたいなものが出来ました。
電池・バッテリー事業をやっている頃に、電池の負極材として、いろいろなものを試したんですね。それこそコーヒーの出し殻なども試して、そのうちの1つが籾殻だったんです。
籾殻は産業廃棄物だし「わりといいじゃん」と思って試したんですが、負極材としてはぜんぜん鳴かず飛ばずでした。でも、籾殻って大きさの異なる穴がたくさん開いているので、脱臭剤として非常に性能がいいということが後からわかって。それで脱臭剤の事業を小さく始めたんです。
ある程度特許を取って、けっこう優秀な賞もいただいたんです。でもうまくいくかはわからない。最悪畳む時にその特許を売って、回収した金額がTriporousの事業にかかった金額より高けりゃいいわけですよね。
関:はい。
御供:そこらへんはいろいろ考えます。
関:やはり知財というところもあって、いろいろ浮かんでくるわけですね(笑)。
御供:転んでもタダでは起きないのは大事なので。
関:1個1個の部分の説明責任と、転んでもタダでは起きないところがあるんですね。
関:現場が事業を点で作った時に、経営側が点から線にするタイミングやより大きな絵を描くために、日常的に注意していることはありますか?
御供:それは妄想することです。
関:妄想(笑)。妄想って本当に妄想ですよね?
御供:妄想です。例えば宇宙から写真が撮れる人工衛星を打ち上げちゃったわけなんですが、これからどうするの? という時に、低軌道の衛星なので大気の薄さとかも見えるんですよ。そうすると地球は本当にはかないものだと実感できるので、SDGs的に学校の教材に使ってもらったり。
くわえて宇宙から撮ったデータとモビリティの車から取ったデータ、aiboなど家の中から取ったデータを全部組み合わせたら、どんな世界観ができるのかとかね。そういう妄想はするわけですよ。
関:すごいですね。
御供:その妄想の中から、なんとなく価値が出そうなものや、やってみたらおもしろそうなものが出てくる。リスクがある場合や自分じゃやりきれないものは、スタートアップ150社の中から一緒にやってくれるところやJVを組んでくれるところを探す。
人工衛星の場合も、投資しているスタートアップの1社と一緒にやっています。人工衛星を上げて地球の地上局と交信しないといけないんですが、うちの不都合でうまくつながらなかった時には、川崎重工さんにお願いをして、川崎重工さんがお持ちの岐阜の地上局を使わせていただいたり、あるものはすべて使う。
関:なるほど(笑)。つなぎあわせていくわけですね。大きな絵からマーケットやトレンドと結びつけていって、ちゃんとビジネスとしてかたちにしていく。
先ほど「妄想」というパワーワードが出ましたけど、事業開発に関わる方はみなさん、やっている感じなんですか? 妄想する時間を作るんですか?
御供:いや、でも妄想好きな人は多いですよね。スタートアップの人も妄想する人は多いですよね?
関:確かにそうですよね。本当に妄想というか、たまにホラーに聞こえるぐらいのほうがいいというのがありますよね。
御供:有名な話で、PlayStationⓇ2を出した時、当時、久夛良木(健)さんが『マトリックス』が大好きで、『マトリックス』の世界をリアルに実現してみたい」と言ったのが、30年前なんですよ。
関:30年前。
御供:今、PlayStationⓇ5で(『マトリックス』の世界が)実現できていますから、やはり妄想する力は大事なわけです。それは30年前であれ今であれ、スタートアップの方々であれ、やってらっしゃると思います。
関:御供さんをはじめ妄想する方がいろいろなところにいらっしゃって、1個1個の事業をくっつけていく。
御供:そうですね。でも楽しいですよ。
関:まさか御供さんの立場から「妄想するのが大事です」というお言葉が出ると思わなかったので(笑)、みなさんも推奨されているわけですね。
現場から事業が生まれる風土は、会社が大きくなればなるほど難しいかと思います。要は部隊を選定して、「事業アイデアを出せ」とならないと出てこない。一方で出てくる会社は一定ある。そのあたりは昔から続いていることなのか。そういったカルチャーなのか。もし思うところがあればご紹介いただけますか?
御供:やはりスタートアップと広く付き合うのは大事だと思います。なのでCVCをやって、事業開発の人間を絡ませることには意味がある。新鮮な目で見ないと組織は硬直します。出資先や、お話をさせていただいている多くのスタートアップの方々からの学びは非常に大きいですね。
関:ふだん触れている方は思考パターンが似てくるので、新規事業とCVCが密につながっているのは大きいですね。
御供:時間はなくなっちゃいましたけど、その意味で今一番楽しいのは、アフリカ。
関:アフリカですか(笑)? 最後にアフリカの話を聞きたいんですけど、30秒だけいいですか?
御供:スケールさせるためには新しい地域に行かなきゃいけないわけです。すでにあるものをスケールさせるのもありますけど、新規の領域ならではの新しいコンテンツを作ることもあるわけです。そういう意味では新興地域は大変おもしろいです。
関:今日は最終セッションということで、大規模な事業開発について聞かせていただきました。
現場と上からの両面が組み合わさって、点を線にして面にしていく両者の関わりや、継続していくカルチャー、妄想を推奨されていることなど。それらのDNAを引き継ぎ続けるため、スタートアップの会社さんの流れを一定残しているところがすごく大きいのかなと思いました。
この5年でピンの事業としてどう立ち上げるかという第1ステージが終わったとすると、第2ステージがもう来ているのかなと思っています。今日のお話でより大きなところに向かうためには、経営層の「つないでいく」責任やパワーはすごく大きいと思いました。
よろしければ、最後に一言メッセージをいただけますでしょうか。
御供:いろいろな方がこのフォーラムに参加され、スタートアップの方もたくさんいらっしゃるのではないかと思いますが、我々も77年目のスタートアップでございますので、よろしくお願いいたします。
関:本日は最終セッション「ソニー流事業開発と企業進化の興亡史」ということで、御供さんに来ていただきました。ありがとうございました。
御供:どうもありがとうございました。
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