2024.10.10
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多くの企業において、異なる領域で新しいビジネスの種を見つけ、育てる「新規事業開発」が求められる中、リブ・コンサルティングが開催した「事業開発SUMMIT2023」。今回は、ソニーグループ株式会社の執行役 副社長 CSOの御供俊元氏のセッションの模様をお届けします。創業者の盛田昭夫氏と仕事をした最後の世代である御供氏が、タクシー利用者向けサービス「S.RIDE」を始めた理由や、ボトムアップでの事業開発における経営層の役割などを語りました。
関厳氏(以下、関):続いてケース③ということで、みなさんにも馴染みのある、それこそ今日私も乗ってきましたけど、タクシーアプリ「S.RIDE(エスライド)」ですよね。
こちらの事業はどんな関わり方をされて、どういった部分を考えて展開することを予想した事業なのかを教えていただけますか?
御供俊元氏(以下、御供):始めたのは5~6年前だったと思います。その頃はもう自動走行やモビリティ、モビリティが一部になったスマートシティなどは考えていました。
走行データを早く取得するには、タクシー事業者さんと協力してタクシーの走行データを取るのが一番確実ですし、あとは人流の知見も得られます。
そう考えていくと、モビリティやMaaS、スマートシティなものを、実際に箱を作らなくても我々のセンサーの力を利用すればある程度経験できる。それがもともとの狙いだったんですが、実際にタクシー事業会社さんと一緒に仕事をさせていただくと、我々の知らないこともいっぱいあって、タクシー事業、配車事業は楽しいなと思いまして。
関:はい(笑)。
御供:いかに社会インフラの一部であるタクシー事業を盛り上げていくか。非常に学びが多いですね。
関:先ほどのリモートロボティクスもそうですけど、事業に入っていく中で社会課題の解決という、より貢献できる領域が広がってくるんですね。
御供:そうですね。あとはサイズが小さい会社だと、社長を我々側から出させていただく場合もあります。その時は、意図的に若い人を社長に出しています。スタートアップの方からすると、40代はもう高齢かもしれないけれども、ソニーからすると40代はまだ若手なんです。
40代そこそこで事業会社の社長を経験することによって、いろいろな知見を得られる。人材育成の観点においても、我々にとっては大変役に立っています。
関:まさに「S.RIDE」は車内広告で(橋本洋平)社長がインタビューに答えていますけど、おっしゃるとおりお若いというか。
御供:そうですね。
関:先ほどトップダウンの大きな流れの中で考えていくやり方と、個別に現場から出てくるやり方というお話がありました。「S.RIDE」の車両データや人流データは、VISION-Sのモビリティなどいろいろなものにつながってくるんだなと、ピンと来た方もいる気がするんですけど。
御供:そうですね。例えばこれは配車事業なので、ユーザーであるお客さまは短い時間で安く目的地に着くことが一番なんです。流し:迎車がだいたい7:3で、迎車の人はけっこう行く場所に目的があって、タクシーに乗った時点からエンタテインメントだったりするんですね。
例えば、配車タクシーの中にはジャイアンツタクシーがあったり、ベニュー(会場)と一体化させた移動空間もあったりして、タクシーに乗った時点でスマートフォンで写真を撮ってインスタに上げるなど、そこからが体験になる。
遊園地を持たずに、ロケーションベース・エンタテインメント(自宅以外の特定の場所で提供されるエンタテインメント)のいろいろな知見を得られるので、モビリティは非常に間口が広い、学ぶところは大きいですね。
関:このあたりは、経営層が先々を見て戦略性を持ってこの事業に関わると判断した部分なのでしょうか。
御供:それもありますけど、やりたい人がいたというのもありますね。
関:上からと現場からの組み合わせなんですね。
関:大規模な事業開発では、「外部と組む」「独自でやる」という制限を設けないという話でしたが、やはり強みをしっかりと活用していくことが、1つのキーワードかなと思いました。
例えばソフトウェア産業でITだと、事業の機会があって、入りさえすれば「何かしら追いつくよ」というところもあると思うんです。でも、しっかりと自分たちのコアな部分を見極めてからやるのが大前提ですかね。
御供:僕が関わっている事業開発、事業探索はそうですね。おっしゃるとおり、スピード勝負で行ける領域もありますが、そういうところは参入障壁が低いので、競争になるじゃないですか。そうするとどれだけ早く、どれだけ勝ち抜けるかになる。
我々の強みがその事業に向いていればやりますが、我々が向いていなければそこに無理しては行かないという感じですね。
関:確かに。「スピード勝負でとりあえず」だと、スタートアップやベンチャーが強い。必ずしもソニーさんがそこに勝ち筋を見出す必要はないんじゃないかということですよね。
御供:そこも当然やりますけど、それが1,000億円のビジネスになるかというと、ハードルが高い場合がありますよね。
関:そうですよね。あとは、先ほどのメディカルやロボティクスもそうですし、その先のつながりが非常に大きいかなと思っていて。
事業というと、単体で立ち上げてPLを成り立たせるかどうかを考えがちですけど、その先につなげたり、大きな絵の中で見ることが特徴的だなと。やはり1,000億円と考えると難しいんですね。
御供:そうですよね。事業会社でも例えばEMI(EMI Music Publishing)のポートフォリオを買ったりなどはトップダウンで別ですけれども。
ボトムアップでやる限り、どうしても始めた人間は点で考えざるを得ないので、あるタイミングでいかにピボットしながら、線にして面にしていくかは経営層の仕事かなと思います。
関:なるほど。そこは非常に大きいポイントなので、のちほど組織のところで聞かせていただければと思います。
関:先ほどコアの技術でセンシング(センサー技術)やイメージセンサーのお話が出たと思います。
「自社の強みを活かしましょう」「コア技術をベースに外部連携や事業開発を考えましょう」というのは、よく聞くかもしれません。ただ一番難しいのは「自社のコア技術や強みが何なんだ」だと思うんです。ここに関してはどう特定しているのか。御供さんはもともと知財の専門家なので、ここはいかがでしょうか?
御供:ソニーの祖業はエンタテインメント。ラジオやテレビを作り、映像や画像のデータを取って、いかに美しく再現性を持たせて届けるかというのが祖業です。そこに関わっている技術は77年やっていますので、それなりに強いものは出てきますよね。
センサーはもともとカメラ、古くはCCD(電荷結合素子)と言われていたカムコーダー(レコーダー一体型ビデオカメラ)までさかのぼります。それがデジカメになって、今度はイメージセンサーになってスマホに載ってと、流れの中で我々が蓄積している技術はそれなりに見えてくるので、それを特定していくことだと思うんですよね。
関:なるほど。
御供:大企業が事業開発をする時はだいたい同じパターンです。富士フィルムさんも要は銀塩の科学技術をベースにして、それを強みとして化粧品や医薬品にスケールされているので、同じようなアプローチだと思います。
関:確かに、自社だとなかなか客観視が難しい部分があるので、我々のような外部を使うこともあるでしょうし、今おっしゃっていただいたように脈々と歴史で紡がれてきた強みもあると思います。ただ管轄の領域を持っていることも大きいと思いますが、ちょっとご紹介いただけますか?
御供:自社の技術がどのくらい強いのかを客観的に見るのは、まさに知財の仕事なので僕はやりやすい立場にいると思います。
関:そうですね。
御供:当然自社だけではなく、同じような技術は他社にもある。他社と比較すれば、自社の技術の相関関係をデータとしてある程度は見ることができます。
あと、コーポレートベンチャーキャピタル(CVC)は自社の技術にかかわらず、世の中の流れやトレンドも見ているので、相対評価ができる立場にある。これが事業開発の中に入っているのは、ある意味強みだと思います。
関:事業開発の組織とCVCがうまく連携して動き、御供さんの下でつながっているということですね。ちなみに、自分たちの技術や強みを客観視するのは、どれくらいの数を見たらいいのでしょうか。実際CVCでどれくらいの動きをされていますか。
御供:昔からソニーではだいたい事業会社ごとに、CVCはたくさんありました。でも出資するまではみんな一生懸命やるんですけども、出資すると次のところに行っちゃう。
リーマンショックなどもあって一度畳んで、2016年に「今度は、本社で統合してやりましょう」と始めたのが、ソニーイノベーションファンドです。キャピタリストに与えられているKPIは、ソーシング(出資先候補を探す)してデューデリ(実施すべき注意義務)をして、出資するところだけではない。
そのあとの出資先の育成やイグジットも含めて長い目でKPIを見ており、従来の我々がやっていたCVCとは違い、少し長期目線でやるようになりました。また立ち上げ当初に2つの決まりを作りました。1つは片手で収まる人数でやること。MAX5人。
関:5人!
御供:もう1つはLP(リミテッド・パートナーシップ=ファンドに出資する投資家)はやらず、必ずGP(ゼネラル・パートナー=ファンドの管理運営者)をやること。
これは、自分でソーシングして自分でスタートアップに会って、自分でデューデリする。外部のリソースはアウトソースして使いますけれども、基本的には全部自分でやる。6年間で5,000社を見ました。
関:5人で、5,000社(笑)!
御供:そのあと人数は増えましたけど、イニシャルは5人で始めて、それだけの数を見るとなんとなく感覚がついてくる。
関:6年間で5,000社を見ると、客観的に技術の目利きができるようになるので、みなさんも納得いったんじゃないかなと。年間1,000社近く見ているわけですよね。
それは自社の強みをはじめ、「これだったら他が進んでいる」「ここは組むべきだ」というのもわかる。しかもLPをやらないので、本当に自分たちに情報が集約されてくるんですよね。
御供:そうです。5,000社を見て、今、実際に出資しているのは150社ですから、だいたい3〜4パーセントぐらい。CVCをやる時、一応メジャーなところの出資比率がだいたい何パーセントかを全部チェックしたんです。そうすると5パーセント以下なんですよね。
関:なるほど。絞り込んでいると。
御供:そこが1つのKPIかなと思って、厳しく見ているのもあります。今、僕のファンドは全部で4本あるんですが、1本は環境ファンドで残り3本は通常のファンドです。金額的には大したことはないわけですよ。大きいファンドは我々の10倍くらいあるので。
いいスタートアップほどオーバーサブスクですから、相手の立場に立って、どうしたら「ソニーから出資を受けてもいいかな」と思っていただけるかといろいろ考えました。1つはやはりブランド。自分のスタートアップのキャップテーブルに「ソニー」と入っていると得だというのはあると思うんですよね。
2つ目は、我々は事業領域が広いので、スタートアップから見て我々と組むメリットがありそうだと。3つ目がお金ではないかなと思って。スタートアップがたくさんある中で「ソニーのスタートアップの特徴はこうです」と5秒、10秒で言えないと選んでもらえないじゃないですか。
だから、ソニーのCVCの特徴は「うちにお金を入れさせていただければ、事業連携の可能性が高まります」と。結果的に150社の投資先のうちの約半分は、出資後にソニーとなんらかの事業連携があります。
そうするとより深く技術を見ることができますし、広くサービスを理解することができる。スタートアップに対する貢献もできるし、結果的にそこで学んだ知見が、我々自身のためにもなると思っています。
関:本体の事業開発側の技術の目利きにも跳ね返ってくると。
御供:「3号ファンドまではブランドでできる。4号ファンドをやる時が本当にうまくいっているかどうかの見極めだ」と言われているんですけど。その意味で、今は4号ファンドに挑戦をしており、これが新規事業の1つになるかなと思います。
関:それだけ事業連携をしていると、一緒に大きくしていく一歩を歩むことになりますよね。1粒で二度三度おいしいというか。
もし御供さんが「自分が知財をやっていたのでなんとなくです」だと一番難しいかなと思ったんですけど、少数精鋭でそれだけの数を見て、技術を特定して組織に落ちていくんですね。
御供:そうですね。
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