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心に従うリーダーシップ〜ビジネス成功の鍵は禅にあり〜(全4記事)

人間が一番強いのは「どっちに転んでもいい」と思っている時 ビジネス×禅の立場から見る「執着」への向き合い方

坐禅や瞑想、マインドフルネスを実践するビジネスリーダーが増えている今。本イベントでは一見矛盾するようにも思える禅とビジネスの深い関係について、臨済宗大徳寺派願修寺住職の岩山宗應氏と、株式会社シマーズ代表取締役の島津清彦氏が語ります。禅や仏教を正しく理解し坐禅を継続することが、ビジネスの成功につながる理由とは。本記事では、今の瞬間に集中することの大切さについてお話しします。

前回の記事はこちら

ビジネスと禅や仏教が融合していく時代

島津清彦氏(以下、島津):一般的に言うと、ビジネスと禅や仏教ってちょっと相容れないというか、今までの社会では別物みたいな感じで捉えられることがけっこうあったと思うんですよね。

でも今、どんどんAIだなんだっていう中で、そういう領域の方でかなり禅とか仏教に興味を持って深く学ばれる方が、本当に私の周りでも増えてきています。ビジネスリーダーや経営者の方もそうですし、一般の方もすごく増えてきてる中で、その垣根がなくなってきて、融合していくなと(思います)。

実はそれで今日、レオさんをゲストに、あえてこの「ビジネス成功の鍵は禅にあり」っていうサブタイトルをつけてですね。禅とか仏教はすなわち心の科学でもあるわけです。心に従っていく結果、禅や仏教に導かれるのは、私の中で確信としてはあったんですけれども。

私は半分僧侶、半分ビジネス側なんですけど、レオさんは現役の住職をされている中で経営をしていろんな新しい取り組みをされているので、まさに逆側から(聞いていこうと)。今日は聞いていただいているみなさんにとって少しでもヒントになればと。今のお話の中で私もまたすごく刺激とアイデアをいただきました。本当にありがとうございます。

日本では昔から禅と経営は密接につながっていた

島津:さっそくなんですけど、チャットにご質問をいただいているので、私がそれをキャッチアップしてお聞きしたいんですけども、まずEmiriさんからですね。チャットを書いていただいてありがとうございます。

岩山宗應氏(以下、岩山):ありがとうございます。

島津:「これまでのいわゆるビジネスリーダーと言われている人と、禅とかマインドフルネスを実践しているリーダーって何が違うんですか」というご質問をいただいています。レオさん的にはそこを実践しているビジネスリーダーとしていないリーダーの違いはどんなところにあると思われますか?

岩山:そうですね、もともと今までのリーダーとこれからのリーダーって、人間の本質はあまり変わっていないんじゃないかなと私は思います。だから今までの人たちが駄目で、座禅をしているリーダーがいいということはまったく思っておりません。

たぶん今までのリーダーも、特にもう極めきっている方々や成功を収めている方は必ず自分の哲学とか信仰を持っていたはずなので。座禅がやはり一般的に普及しているから、我々みたいなリーダーじゃない人たちも「あぁ、こういう世界があるんだな」と理解できるんじゃないかな。

もともと20年前、30年前からけっこう多くの経営者が座禅に取り組んでいたり、お寺さんにも来ているのを私はいっぱい見てきているので。特に私はドイツから来ていますから、日本ではこの禅と経営はもともと密接につながっているように見えます。

島津:なるほど。

岩山:今だけじゃなくて、もともと経営者だけじゃなくて、例えばお相撲さんの大鵬関がうちの修行道場に来たりとか。

島津:へぇ。

岩山:ですから海外目線からしてみれば、もともと日本は(禅や仏教と)非常につながっているんですよ。強いて言えば、今は禅がさらに一般化しているからこそ、誰でもとっつきやすいんじゃないかなと思いますし、それは良いことだと思います。良いものはやはり普及されることになって、さらに良いものが増えると思うので。

ドイツやフランスの大企業と日本企業の文化の差

島津:ありがとうございます。それをもうちょっと掘らせていただくと、それこそレオさんも中学生の頃から座禅されたりしていましたけども、経営ってけっこう大変じゃないですか。

ビジネスのリーダーの方も、やはりいろんなご苦労があると思うんですよね。そういう時に「禅が土台にあって良かったな」と思ったことってあります? あえて振り返ってみた時に、禅が自分の土台にあったからこそ、今(ビジネスが)伸びている実感というか。

岩山:和を重んじるところは、私はけっこう気に入っていますね。心理的安全性と言ってもいいと思いますし、調和とか和合を我々修行道場も非常に重んじるんです。実は仕事をしている最中に、我々僧侶、雲水(修行僧の呼称)は必ず10時と15時に全員でお茶を飲むんです。

島津:茶礼(禅宗における飲茶の礼法のこと)ですね。

岩山:茶礼をとるんですけど、これは上の方から一番下の方までみんなで毎日やるんですよ。新米なんかはもうやることがいっぱいあるので、「茶礼なんか取っている場合じゃないよ」と思うんですけど。「いや、そういうのは絶対に大事だから茶礼はしっかりとるべきだ」とやはり先輩に怒られましたね。

それでだんだん3年目、4年目と修行道場で上になってくると、なんで大事なのかがわかってくるんですね。やはり一緒にお茶を飲むことやお菓子を食べることによって和合が作られてくるんですね。

これはもう完全に修行道場の文化なんですけど、やはり禅を取り入れられている経営者の方々は、そういう共同体という感じがすごく強いです。それに相反して、やはりドイツとかフランスの巨大な会社は、和合というよりは人間をツールとして見ることが多いです。

島津:なるほど。道具としてしか見ない。だから効率が低いと平気で入れ替えるみたいな。

岩山:入れ替えとかは、やはり合理的と和合的な文化の差があるんじゃないかと私は感じますね。

あまり認識されていない、日本の本来の経営スタイルの良さ

島津:ありがとうございます。日本はアメリカのビジネススタイルとか経営にけっこう影響を受けていて、アメリカ自体がかなり世界に影響を与えてきたと思うんですけども。日本の本来の経営の良さを、もっとちゃんとみんなが自信を持って認識したほうがいいんじゃないかと実は思っていまして。

なんて言ったって世界で最も歴史のある会社は日本に存在するんですね。創業から1400年以上続いている金剛組さんという会社があって。だからサステナブルとかSDGsは、もちろん(世の中に)伝えていくワードやツールとしては大事なのかもしれませんけど。

「実はもっと日本にすばらしい文化とか機能とか仕組みがあるんだよ」「それこそ我々が目を覚まさなきゃいけないな」と思ったりしています。今ちょうどふだん考えていたことがレオさんのお話とすごく合致したんです。

岩山:そうですね。決して衰えることはないと本当に思います。日本にずっといますとニュースとかでみんなの士気がちょっと下がっている感じがするんですけど、これは海外に行くと「なんだ、ぜんぜん悪くないじゃん」ってなるんですよ。ずっといるとわからないんですよね。

島津:すごくそれを感じますよね。先ほど和合とか調和というワードがありましたが、お茶タイムが毎午前10時とか午後3時にあることで、雑談したり顔色を見たり、困っていることがないかという、コミュニケーションの場として運営上すごく有効だということですよね。

岩山:そうですね。コミュニケーションも生じますし、あとは各々の体調がどうかというのは一目瞭然でわかりますね。

島津:そうですよね。

お茶の飲み方1つでも、日常生活や人となりがわかる

岩山:はい。やはりお茶の飲み方1つでも、ぜんぜん落ち着いていない人や、本当に心穏やかな方もいれば、もう次のことしか考えていない人もいます。だから日常生活をどう送っているかがその一瞬でわかるんですよ。

そんなことを言ったら、みんなすごく固くなってしまうかもしれないんですけど、ただやはり雲水、修行道場に長くいる側からしてみると、このお茶を飲む時にとにかくすべてが出る。

「ここは手を差し伸べてあげるべきだ」とか「ここはやっぱりもうちょっと誘導してあげなくちゃいけない」とか「彼はこういう好き嫌いがあるんだ」とか。「『選んでいいよ』と言ったら、この人は必ずこれを選ぶ」とか「この人はすぐ譲ってくれるよね」とか「この人はちょっと濃いめに作るよね」とか、もう全部出るんですよ。

1年間新入社員さんと一緒に過ごしても何もわからないんですよ。でも、1年間一緒に仕事をして、なおかつ1日に1回か2回この茶礼をすることによって、すごく関係が深くなります。だからちょっと脱線しましたけど、そうやって和合は生まれるんじゃないですかね。

島津:いや、脱線していないです。これはすごく大事なことで、本当に1日に1回〜2回ちゃんと一緒にお茶を飲んだりご飯を食べることで、本当によくわかるんですよね。

私も今は独立して小さな組織ですけど、前の会社は600人とか1,000人とかなので。ランチ会を順番に行って、今日が10人、明日も10人と言ってパートさんも含めて毎日お弁当を買ってですね。

岩山:すごいですね(笑)。

島津:夜の部と昼の部とあって、基本的には全社員と1対5とか1対10で、もちろん一部社外の方ともお弁当を食べながら雑談して、顔色を見て調子はどうかとやっていました。まさにそれが結果的にメンバーの状態をより改善することにつながると思っていたので、同じ質問をいっぱいしちゃいましたけど、すみません。

岩山:いえいえ(笑)。

「どっちに転んでもいい」と思った人間が一番強い

島津:あとは千葉さんからご質問をいただいています。「武術の指導、格闘技の指導を行っています。武術の指導は禅に重なり興味を持ちました。心地よくなることを大切にしていますが、格闘技の指導はそれを大切にしていると少し難しい部分を感じます。どういう方針が良いか考えながらしています」。

今格闘技の指導をされている立場で、禅との関わりで難しさを感じているので、なにかアドバイスがあればということで。

岩山:格闘技ですね。すみません、もう本当に簡単なことなんですけど、やはり目の前のことに集中して、自覚することですよね。今の瞬間をどれだけ深く生きて、自覚できるかはけっこう大事ですかね。今の瞬間を深く生きるためには、この瞬間に深く留まらなくちゃいけないんですね。

そして深くこの瞬間に留まるためには、深い呼吸が必要なんですよ。じゃあ深い呼吸のために何が必要なのかというと、(背筋を伸ばして)この姿勢が必要なんですよ。だから格闘技も書家さんでも絵師さんでも経営者さんでもそうです。

自分が今この宇宙の地球という球体の上にいるところまで自覚がいくのか。それとも明日の晩御飯のことが気になるのか。そういうことによって自分がつながっていることに気づいたり、無限な力が内から湧き出でくると思うんですね。

なのですみません、これは格闘技には通用しないかもしれないんですけど、どういう状態の人間が一番強いかというと、「どっちに転んでもいい」と思った時だと私は思うんですね。私は今まで「これが絶対に必要だ」と思った時にはだいたい失敗しています。

島津:(笑)。現場で営業マンが目標を決めて「達成したい」と思えば思うほど失敗するんですよね。

岩山:そうそう(笑)。もう今島津さんがおっしゃったように執着です。格闘家だったらやはり勝つことが一番大事かもしれないんですけど、同時にそれに執着しないことも大事だと思うんですね。

島津:そうですよね。これはまさに禅ですよね。

岩山:その状態を作ることができれば。というのも自分は騙せないから、ごまかして作れないんですよ。勝ちへの強烈な執着と、それを捨てることを瞬間的に同時に自分の中で持つことができれば、強くなるんじゃないですかね。すみません(笑)。完全に持論です。

ビジネスと禅に共通する「いかに今に集中するか」

島津:でも僕はまったく同感ですよね。格闘技とか武道とか武術でいうと、1つは『弓と禅』という本がけっこう売れているのと一緒で。

実は私の今日主催させていただいた「禅メソッドアカデミー」という7ヶ月間ガチンコで禅の修行をする中で、78歳の弓道5段の方が入ってこられたんです。今までずっと弓道を極めてきたけど、やはり最後は禅との融合だということで禅を学ばれたんですね。弓道って、立禅と言って立ったままするんですね。

弓道の教えでは、弓から手を「離す」というんじゃなくて「離れ」と言うんですって。要は自分で狙って打つんじゃなくて、自然と的と一体になる瞬間を待って、勝手に手が離れる。

岩山:それは興味深い。

島津:だから言い方がそもそも、手を離すじゃなくて離れ、離れが来るまで待つんですね。私はそれで弓道の本をいろいろ読んだんですけど、まさに今おっしゃっていた当たるとか当たらないという境地や頭で考えるんじゃなくて、「来たな」という的と一体になった時に自然と手が離れるんだそうです。

岩山:いやこれは興味深い(笑)。そういうことだと思います。それをどんなふうに取り入れるかですね。日々のトレーニング、格闘技のジムだったら「じゃあどうしようか」とか。島津さんがたぶんそこはプロなので。

島津:もう1つお伝えしたいのが、今日はもしかしたら初めて禅に興味を持って参加していただいていると思うんですけど、実は禅の非常にコアな要素の1つとして、「いかに今に集中するか」というものがあります。

先ほどレオさんがおっしゃったように、今を自覚して深く行くと、結局周りとつながってくる。宇宙とか地球とか自然とつながっていく。そのためには、実は「今の呼吸」がすごく大事で、これはまさに禅の教えなんですよね。だからビジネスとか経営とか若手の指導も、「ちゃんと向き合って今に集中しているか」(なんです)。

「あぁ、明日になったらどうなっちゃうんだろう」とか、「昨日こんなことをやっちゃった」と、手がまったく動かなくなって思考が暴れて止まっちゃうことって誰でもあると思うんですけど。今レオさんがおっしゃったように、「今にいかに集中するか」の大切さをあらためて感じることができました。ありがとうございます。

岩山:ありがとうございます。

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