2024.10.10
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さまざまな社会課題や未来予想に対して「イノベーション」をキーワードに経営学者・入山章栄氏が多様なジャンルのトップランナーとディスカッションする番組・文化放送「浜松町Innovation Culture Cafe」。今回は、テレビ東京を退職し、ビジネス動画メディア『Re:HacQ』を立ち上げた映像ディレクターの高橋弘樹氏と、プロ野球選手からビジネスコーチに転身した高森勇旗氏をゲストに迎えた放送回の模様をお届けします。事業や投資で退く判断をすべきタイミングや、個人的な思い入れが強い社長を退かせる方法などが語られました。
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入山:ここからは「ビジネスの退(ひ)く力」というテーマでお話をしていこうと思います。「退く」とは、引っ張るの引くではなくて、引退するの「退(たい)」ですね。
先週はどちらかというと、個人の退く力についていろいろお話をうかがったのですが、今週はもう少し大きな単位で、チームとか組織とか企業の退く力について。
まずは高森さんからおうかがいしたいのですが、例えば、事業や投資でどういう時に退いたほうがいいと判断をされますか?
高森:社長の個人的な思いが入りすぎている時ですね。ビジョンに引っ張られているほうの思い入れだったら、まだ、たちがいいんですけど、自分の劣等感とかに引っ張られている思い入れは、かなり危ない。
入山:なるほど。そういうことがあるんですね。
高森:社長にも、劣等感や承認欲求がもちろんありますよね。なんなら経営者のほうがかなりそれが強かったりします。
「こういう事業を成功させることで周りから認められたい」という思いで新規事業を始めてしまったら、これはかなりまずいですよね。そこに振り回される社員の方々がとても辛いし、成功するまで社長はそれをやろうとする。
しかも個人的な、ちょっとこじれた感情が入ってしまっているので、かなり客観性を失うんですよね。そうすると、マーケットも見えなくなって、どんどんドツボにハマっていくパターンがあります。
入山:ちなみに、そういう時はどう社長を説得するんですか?
高森:僕は説得ができないことがなんとなくわかってきたので、早めに失敗してもらうために、失敗を加速させるほうに持っていきます。だから、どんどん突っ込んでもらって、どんどん早く失敗してもらおうとする。
入山:すごいな。
高森:諦めがつく頃になった時に、ようやく耳を傾けるようになるじゃないですか。思いっきり熱中していて、「ここしかない。ビジネス界で名を上げるんだ」という時に、「社長、このビジネスはうまくいきません」と言っても、「しゃらくせえ」となってしまうので。「社長、どんどん行きましょう。もっと行きましょう」と、突っ込ませまくります。
入山:すごいな。
田ケ原:なかなかないアプローチですよね(笑)。
入山:半沢直樹みたいな話だな(笑)。高橋さん、いかがですか?
高橋:本当に芯を食っているなと思いました。僕は経営コンサルの経験はあまりないですけど、組織として退く力は、基本的にはなくてもいいのではないかと思っています。
組織の経営者とマネージャーは違うんですけど、基本的には、マネージャーレイヤーだったら、退かずに最後まで猪突猛進で組織を率いて突っ込んでいって、無理な時は誰かが殺せばいいと思うんですけど、殺すのがやっぱり社長だと思うんですよね。
入山:なるほど。
高橋:それくらい真剣にやっていない組織には、たぶん人がついてこないですよね。マネージャーレイヤーだったら、その組織は、その人に懸けているわけですよね。「何があってもこれを成功させるんだ」くらいの猪突猛進がないと、たぶん誰もついてこない。だけど、それを殺す人がいないと失敗する。マネージャーレイヤーだったら、それですね。
社長がどうかといった時には、僕も高森さんの言っているとおりだと思います。退くような人だったら社長になっていないですよね。人の言うことを聞かないから社長になっている。退く力なんて、もともとないんですよ。誰が社長を殺すかですよね。
入山:なるほど。普通の会社は社長を殺す人がいないからね。株主かガバナンスですよね。
高橋:そうですね。それかコンサルですけど、ちゃんと殺す人さえいれば、退く力は必要なし、が僕の考えですね。
入山:おもしろい。高森さん、いかがですか?
高森:基本的に経営者にはブレーキの能力がないですよね。だからそれが上場企業であったら、取締役会とか社外取締役みたいな人がブレーキを踏めると思うんですけど。
昨今話題になっている車の整備会社の方も、プライベートカンパニーなのでガバナンスはないですよね。プライベートカンパニーだから何をやってもいいわけではないんですけど、ブレーキ機能を担うのが、1つの上場企業の使命でもあると思うんです。
退く力を考える時に、社長の個人的なこじれた感情が入っている事業は、退くに退けなくなって、悲惨なところに行くことは大いにあり得ると思いますね。
入山:組織には特に退く力はないし、退くくらいのものだったら本気でやっていないということですね。
高橋:安易に退ける人は、社長になっていない気がしますね。どうだろう......撤退の仕方がうまい人はいるのかな。
高森:孫(正義)さんとかは......。
入山:そうですね。孫正義さんは自分で自分のことを「撤退の名人」だとおっしゃっていると、よく言うじゃないですか。
高森:拡大のスピードよりも撤退のスピードで経営者の力を見られると、孫さんが言っていますよね。
高橋:それができるのは孫さんくらいじゃないですかね。
(一同笑)
田ケ原:そうですよね。
高森:孫さんは、すごくリアリズムの人だと思うんですよね。だから、もちろんバーンと志高くすごいビジョンを掲げるんだけれども、実際に経営でやっていることは、ものすごいリアリズムなので、「儲からない」となった瞬間に、ガッと一気に退く。
個人的な思い入れというよりは、かなり距離を置いて対象物を見ている感じですね。
入山:孫さん論を話すわけではないですけど、孫さんは投資家ですよね。
高橋:投資家と事業を牽引していくのは、確かに違うかもしれないですね。
入山:違いますものね。
高森:ぜんぜん違いますね。バランスは大事ですけどね。やっぱりアクセルとブレーキをちゃんと両方持つのが、企業においては大事です。
入山:殺す時の見切りのポイントは何ですかね?
高橋:センスでしかないと思うんですよね。(織田)信長って、よくわからないタイミングで家臣を殺したり、追放したり、社会的に抹殺したりしましたけど、センスなんでしょうね。たぶん組織とか事業を潰す時は、ロジックを超越する部分もあると思いますね。
入山:わかります。
高森:普通に考えると、企業を経営していく資本主義のシステムの中で、いつやめるかというと、資金が持つまでだと思うんですよね。
ところが、ミラクルが起こるじゃないですか。急に融資がバーンと決まったり、繰り延べできたり、資金調達できたり、みたいなところは、僕はやっぱり経営者の熱意だと思うんですよ。
この熱意が、「これをやれば儲かるんじゃないか」いうところから来ると、ほとんどうまくいかない。「こういうのは世の中にあったほうがいい。これがあったらかっこいいよね。こういうのイケてるよね。これをどうにかして作りたい。儲かるかどうかはあとで考えよう」と。
それを作り上げたあとに、「これってどうやって儲けるの?」という順番だとうまくいくんですけど、「これをやったら儲かるよね」から行くと、結局熱量が、儲かるか儲からないか、くらいしかない。
「これをどうしても成し遂げたい、作り上げたい」という熱が感じられないと、人もお金もついてこなくなるのがだいたいのパターンかなと思います。
高橋:興味深いので、そこの見極めの方法を高森さんに聞きたいんですけど。
今、熱意の正体について話していましたけど、先ほど劣等感とか虚栄心みたいなものに引っ張られるのは危険だとおっしゃっていました。でも、僕は逆に劣等感とかが熱意の根源になっているパターンも見受けるんですよ。
入山:そうですね。
高森:ありますよ。
高橋:いい劣等感と、ヤバい方向を向く時の見極めとか、差は何ですかね?
高森:「これが線引きです」という明確なものは、もしかしたらあるのかもしれません。僕もまだ言語にはできていないですけど、「経営者の目」ではないですかね。話して目を見ていれば、だいたいわかるじゃないですか。というのも変ですけど(笑)。
高橋:それはセンスみたいなものかな。
高森:本当のことを言っているのか、嘘を言っているのか。
入山:ちなみに、高橋さんがテレビ東京にいらっしゃった時に、『Re:HacK』とか、『日経テレ東大学』を始められた時のマインドは、初めはどんな感じだったんですか?
高橋:『日経テレ東大学』は遊びみたいなものでした。
入山:あまり、グーっという感じではなかった?
高橋:でも、やり始めたらグーっとなって、本当に全身全霊を懸けてやる感じですよね。
入山:あまり邪念とかではやっていない感じですかね。
高橋:やっぱり邪念は常にありますよ。僕も経営者向きなんじゃないかと思っているのは、背も低いですし、コンプレックスも人並みにあります。先週言いましたが、大学受験も失敗していますし、人よりのし上がろうとか、仕事の結果でモテる確率に確変を起こそうと思っています。
(一同笑)
高橋:コンプレックスは人並みに持っているので邪念はありますよね。
入山:なるほど。タガエミちゃん、お二人に何かありますか?
田ケ原:「投資と捉えることにどれだけ力を注げるか」みたいなところもあるじゃないですか。ちょっと言いにくいですけど、大きく見せているから資金調達はできたんですけど、中がぐちゃぐちゃというか。
サービスはいいし、代表も思いがあるんですけど、まさしくおっしゃっていたように、熱量が虚栄心のほうに向いている方が多いですよね。
入山:そういう方が、スタートアップ業界にいると。
田ケ原:その中で言うと、例えば生き延びるための資金は見えているけど、マーケティングのために予算をこのくらい使えば回収できるだろう、みたいな見立てがあるじゃないですか。ただ、ケツが見えているので、初期投資の額が小さくなってしまいがちというか。
「改善していこう」みたいになると思うんですけど、大きく行くところと、アクセルを踏みとどまるところの見極め方って、どんなところが大事だと思われますか?
高森:マーケティング費用を、どう効果的にバジェット(予算)の中で使っていくかは、まさにマーケターの腕の見せどころといえば見せどころだと思うんですよね。
ただ基本的には、マーケティングの力で、話題先行型でバッとマスを取って、あとでそこに課金していくのはあまり好きではないんですよね。わりと本質的ではないと感じます。だから、マーケティングの力でなんとかしようというよりは、まずは実際に足元のPL(損益計算書)で儲かっている状態を作るところですかね。
デカいオフィスも立派なオフィスも借りない。マンションの一室でいい。「まずは月次PLを黒にするところから始めてください」と、僕はベンチャーの方によく言います。
田ケ原:逆にそれができないと、それこそ退き時ではないかと。
高森:そうですね。それができた上で、仮にマーケティングで3,000万円くらいミスしても、どうせ月次が黒字だから大丈夫。これくらい地に足がついていると、マーケティングは大概うまくいきます。
入山:高橋さんはいかがですか?
高橋:高森さんにけっこう賛成です。株式会社tonariも、『Re:HacQ』というチャンネルをやっていて、登録者が40万人いると申し上げたんですけど、1個決めていることがあって。
とりあえず、「マーケにお金を使わない」を徹底しています。YouTubeをやっている『NewsPicks』も『PIVOT』も、かなり広告を打っている。表示されると、チャンネル登録者数の増加が早くなるんですよ。だけど、『Re:HacQ』は絶対に広告を打たない。
入山:確かに『Re:HacQ』の広告は見ない。
高橋:地に足をつけて事業をするのが大事だと思って、広告は絶対に出さないと決めています。結局、マーケって、成長の先食いだと思うんですよね。
でも、僕がやっている事業がメディアで、人に知られやすい職業だからなのはあります。
入山:もともと話題だしね。
高橋:そうですね。そのズルはあるんですけど、足元を固める意味では高森さんの考えにけっこう賛成ですね。
入山:タガエミちゃんはどう?
田ケ原:確かに、それはそうですよね。
入山:でも、どうしてもスタートアップはマーケティングを考えてしまうよね。
田ケ原:そうですね。いろんな経営者さんを見ていると、そういう悩みをお持ちになっているイメージがあります。
高森:タクシー広告を前面にバーンと出して、うまくいっているように見えるじゃないですか。
その会社の、実際のPLやBS(賃借対照表)を見に行ってほしいんですよね。とんでもない博打をしていますから。しかも資金調達をしているとはいえ、人のお金でよくできるなという感覚ですよね。
田ケ原:そうですよね。
入山:でも資金調達すると、やってしまうんだよな。
田ケ原:そうですよね。
高橋:株主が早めの結果を求めますからね。そういう場合は、マーケティングして成長を早めようとする目的をちょっと考えたほうがいいですよね。ペーペーとしては、そう思います。
例えば、1年以内に市場をここまで取らないと追随が来るとか。ちゃんと戦略を立てた上で、「ここまでにこうシェアをとろう」みたいなのがあればいいですけどね。
入山:今日お二人の話を聞いて、なるほどなと思ったことがありました。日本のレガシー企業というか大手・中堅の会社のいろんな投資とかを見ていて、「退くのが下手だな」と思ったりすることもあったんですけど。
お二人から見ると、退くことを考えないくらい突っ込んでいる会社が、日本のレガシー企業だと少ない、みたいなイメージってありますか?
高橋:僕は逆だと思います。いいか悪いかで言うとよくないですし、オンエアしてもいいですが、発言としては不適切ですけど、やっぱり東芝は美しいなとすら思いますよね。
途中でいろいろ考え直すタイミングがあったと思うんです。けれど、東芝のこだわっている事業とか、「粉飾決算してまでやるんかい」みたいなところはありつつですけど、そこまで突き進んだんだなと。最後、崩壊していくのを花火のように眺めたいですよね。
だから、日本の企業が勇気を持って何かに突っ込んでいなかったかというと、そんなことはないと思うんですよ。
入山:なるほど。
高橋:突っ込んでいたんでしょうね。その結果、東芝は失敗してしまった(笑)。
入山:殺す人がいなかったんですか?
高橋:ひとつはガバナンスです。うまく殺す人がいなかったのが、けっこう大きな問題かなと思うんですね。
入山:高森さんはどうですか?
高森:企業が成長したり衰退したりしていく流れは、10年では見られないですよね。もちろん50年でも見られないかもしれない。
日本のレガシーといわれる企業は、なかなかアグレッシブに投資をしないと見られています。しかし、これが100年経った時に、「日本の企業のやり方が成功だったね」となるかもしれないし、「日本の経済は、やっぱりそのまま泥船に乗って沈んでいったね」となるかもしれないし、わからないですよね。
だから、今この状況においてはそう見えるけど、今この状況で判断するのは、いろんなものが時期尚早という感じがしますよね。
入山:けっこう長い時間軸で捉えられるんですね。
高森:長い時間軸というよりは、「一義的にものを見ないように」とは、すごく心がけていますよね。
入山:なるほどね。
高森:「日本は終わった」みたいなことをすごく言われるんですけれども、世界中いろいろ行っていると、日本のすばらしさはめちゃめちゃ感じるわけですよね。
これだけ貧富の格差がない国はない。これだけ社会保障が安定していて、清潔な国はない。よその国はこれだけ賃金が高い、その代わりに物価もめっちゃ高いと。どこの国に3ドルで牛丼が食える国があるんだと思いますね。
入山:今日のテーマである「退く力」の見極めの時に、僕も1個のレベルだけで物事を見がちだけど、そうではなく、例えば思いきり俯瞰して見ることが、けっこう重要になってくるわけですね。
高森:そうですね。そうすると、冷静にものを見られるようになると思いますね。
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