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異端の経営者が渡すバトンはAIへ? 全産業でリストラ対象拡大(全4記事)

AIの普及によって「むしろ大企業が弱っちくなる」 DMM亀山会長らが考える、AIに奪われる仕事・残る仕事

「次世代の、起爆剤に。」をミッションに掲げる日本最大級のスタートアップカンファレンスIVS(インフィニティ・ベンチャーズ・サミット)。2023年は京都で開催されました。本セッションでは「異端の経営者が渡すバトンはAIへ? 全産業でリストラ対象拡大」をテーマに、小笠原治氏、亀山敬司氏、寺田航平氏、三宅卓氏の4名が登壇しました。本記事では、加速するAIの流れに対して、経営者としての本音を明かしました。

当たり前だと思っていたことが、地方では重宝されることも

亀山敬司氏(以下、亀山):実際にDMMから、ITがわかる社員を地方の市役所とかに出したりしているわけ。

うちの社員が地方に行くとけっこう喜ばれるわけよ。「あんちゃん、来てくれてありがとう。うちはこれでFAXを使わんで済むわ」「Slack? なんじゃそれ」とか言われながら改善して、けっこう重宝されているわけ。

俺たちからすると当たり前のことが、まだまだ(地方へ行くと)受け皿があるんだよね。それがうちら的にはまだありがたくて、俺たちの中で一軍まで行かなくてもとりあえず二軍に行けば、ほかへ行ったら一軍になれるからね。

だから、みんなにはとりあえずITとAIの勉強をやっとけと。ここではこんな話を熱くしゃべっているけど、ほかのリアルなところに行ってごらん。ぶっちゃけ、こんなことは言っていないからね。

小笠原治氏(以下、小笠原):確かに、言っていない(笑)。

亀山:ほかはこんな危機感がないんだよね、ですよね、三宅さん。いろんな大きいところに行くでしょ?

三宅卓氏(以下、三宅):いや、本当に危機感がないですよね。

「人と人が寄り添うところ」に人間の仕事がある

小笠原:ちなみに三宅さんのところは、今は何人ぐらい従業員がおられるんでしたっけ?

三宅:今、1,200人。

小笠原:1,200人。これが100人で回るようになっちゃったら、残りの1,000人には何をしていただきましょう。

寺田航平氏(以下、寺田):またぶっこんでいますよ。

亀山:またそんな、上場会社の社長にそんなことを聞いちゃダメじゃない(笑)。オフレコで、どうぞ(笑)。

小笠原:(残された社員が)何をしてくれたらうれしいですか?

三宅:いわゆるマッチングとか、プレデューデリやバリエーションとか、そういうテクニカルなことはAIに置き換えられるんですよ。ただやはりマッチングしても、実際に会社を譲渡する気持ちにならないとダメで。

それを口説くとか、あるいは買い手に対して経営戦略を説明して「なるほどね。じゃあ、これでいこか」といって投資の意欲を持ってもらうのは、まだまだ人間の仕事なので。

小笠原:やっぱり、人と人が寄り添うところに人間の仕事がある。

三宅:寄り添うところ。スケールが大きくなればなるほど、AIで効率よく高速回転できればできるほど商談が増えていくので、そういったメンバーをより多く入れていくんですね。

今はそういうメンバーが400人ですが、(AIによって商談が増えると)それが800人必要になってくるので、そっちへどんどんシフトしていくかなと思っていますね。

世界的に見て、AIに対して前向きな日本

亀山:確かにここ数年を見ると、AI導入は逆に人が増える可能性があるかもしれない。なぜかというと、「AIプラス人」になると、けっこう人手がいるのよ。

例えて言えば、昔は「コンピューターが増えたら紙が減る」とか言っていたじゃない。でも、実はその中間時期は紙を山ほど刷っていた。役員が「紙で持ってこい」とか言うわけよ。そうしたら逆にデータが多い分、コピー紙が山ほど増えて、手間も増えたことがあったんだけど、一時的にそういうフェーズは来るんだよね。

小笠原:確かに。この2、3年の動向で判断しないほうがいいことはいっぱいありますよね。この2、3年は1回どっちかに振るけど、それは反対に振るための助走だった、みたいなことがむちゃくちゃありそうですね。

亀山:そうね。もしかしたら、雇用問題が大きくなったらいきなり法律を変えたりするかもね。日本は今、世界的にもAIにかなり前向きじゃない。でも、よく考えて前向きなのか、あまり考えないで前向きなのか、決めた人の考えががわからないんだよね。

「いや、このやばさはそんな比じゃないよ」という話を理解して進めているのか、「なんとなく前は乗り遅れたし、『Winny』を潰しちゃったし、ちょっと反省してやっとこか。AIオッケーにしちゃおう!」と言っているのかはわからない。

そうだった時に、数年後に見て「これはやばい」となったら、一気にあれもこれも禁止だという可能性もないわけじゃないんだよね。

三宅:「乗り遅れたから」というのはすごく感じますね。

亀山:うん。だからどっちかと言うと、このやばさみたいなのはあまり考えていないんじゃない? たぶん、思っている以上に社会変化がすごいと思うんだよね。

ビジネスモデルの定義づけを真剣に考える必要がある

寺田:逆に言うと、テクノロジーの優位性も発揮できなくなっちゃうリスクがけっこう高いかなと思っていて。

結局今のITベンチャーなんて、テクノロジーの優位性で売っている。もちろんサービスによるけど、バックエンド側がChatGPTみたいなものに食われていっちゃうと、結局はデータを馬鹿みたいに持っている会社が強くて。

そこが簡単に・シンプルにエンジニアを作って、データを食わせながら最終的にアウトプットを吐き出すようなサービス構築をすることが、今までと比べるとハードルが一気に下がる。

そういうことを考えた時に、例えばSaaSみたいに共通項の中でサービス提供するものは、裏側のテクノロジーを変えていくことである程度生き残れる可能性はあるけど、構築型のサービスは半分くらい役に立たなくなっちゃう。

そこを見据えた上で、ビジネスモデルをどこに定義づけするかは、たぶんベンチャーのみなさんはすごく真剣に考えないとやばいんじゃないかなと思っています。

小笠原:昨日Twitterで、「PayPayが流通10兆円超えたから使うのやめました」「汗をかかずに儲けるシステムに小さく抵抗します。PayPayを使わないようにします」という店舗のツイートがプチバズりしてたんです。ただPayPayって、10兆円の取引があっても200億円以上の赤字じゃないですか。

現場も営業もめっちゃ大変じゃないですか。でも、一部の方からは汗をかかずに儲けているように見えているんですよね。特にAIなんかを使って利益が出ていると、もっとそういう人が生まれる気もするんですよ。

止められない時代の流れは「学ぶ」しかない

亀山:もちろんそこに対する揺り返しは来るし、非難的な話も来るし、PayPayもしばらく経ったら汗をかかなくなるかもしれないし、心情的なもので言えば炎上しやすい案件だったかもしれない。

だけど基本的に、あまり考えていようが考えていまいが、俺は日本政府の今の方針は正しいと思っていて。この流れに逆らえるだけのパワーがありますか? という話なんだよね。

俺も昔は地方のビデオレンタル屋だったから、インターネットが来てほしくなかったわけよ。でも、時代の流れに逆らえないと思って「やるしかない」と思ってやったんだけど、じゃあこのAIを止められますか?

みんな「AIを止める」とか言っているけど、イタリアが止めてもフランスがやると言ったら、やはりイタリアも「やろうか」ってなるし、アメリカも中国もなんだかんだ「人類の危機」とか言っている人も、裏側ではやっているわけよ。

だから、止められなかったら学ぶしかない。敵か味方かは関係ないんだよね。止められないものは学ばないとしょうがない。

小笠原:そうですね。

AIに対して、危機感を持ちすぎないことも大事

小笠原:特に日本の場合は、一定の規模感で同じ法律でいけるんですけど、ヨーロッパになるとEUという括りもあったりしますから、言われるように1つの方向に向かうのが難しい国が多い中で、日本はわりとがんばりやすい。

例えば、AIの学習の時の著作権の考え方と、作る時の著作権の考え方も分けて考えられる国はめずらしかったりもするので、日本はけっこういろいろ試しやすい国ではありますよね。

寺田:ただ、どのみち今のLLMは必ず規制がかかってきますので、たぶん最終的にはデータベースそのものを抱えることができなくなってくると思うんですよね、明らかに今、そういう方向性に行っているので。

そうすると結局、LLM自身がツール化されて提供する。すなわち、分散化されていく。解析の部分の能力まで含めて持っているSaaS型になるのか、さすがにSDKになるのかはわからないけど、結果的に言えば、そこをツールとして使い倒していきながら、裏側のデータ量での勝負がすべての分かれ道になってしまうので。

単純に「AIを活用しよう」みたいな領域の中でも、LLMは過度な期待を持ちすぎないほうがいいというか。ある一定までちゃんと会話できるエンジンはできるけど、別に未来が予測できるわけじゃないし。

一方で、使い倒せば効果は出せるけど、いわゆるフロントで使う顧客とのコミュニケーションエンジンみたいな、使い方はベースになるけど経営決定をするようなところまで伸びるかというと、むしろ強化学習が進んだとしても一定以上は残ってくるのかなと思います。

(AIは)3、4割の効率化に過ぎないという意味では、逆の意味で危機感を持ちすぎないことも大事というのもあります。

AIに置き換わっていく業務とは

三宅:今おっしゃったように、我々使う側からしたら、データをどれだけ蓄積できるか、有効なデータをどれだけ自分たちが優位性を持って蓄積できるかが勝負の分かれ目になる。テクノロジーとかツールは、みんな使えるわけなので。

私もコンピューターをやっている時によく言いましたけど、ゴミをインプットしたらゴミがアウトプットされるわけです。どれだけ良質なデータベースを構築できるかがすごく大事なので、これから3年後、5年後、10年後を見据えたデータベース構造をどう構築していくかは、すごく神経を使いますね。

小笠原:僕は、そこの感覚がちょっとだけ寺田さんと違っているかもしれなくて。今のAIはアテンションモデルと言われるもので、言葉を確率的にする仕組み自体がすごく人間に近い感覚はあって。意思決定・判断をしたかのように振る舞える可能性も感じているんですが、あまりそうはならなさそうに思われますか?

寺田:ざっくり言うと、事業決定として「AかBかどちらか決めてください」みたいな領域、いわゆる一般管理職の人たちは意外と置き換わっていくような気がするんですよね。

でも、それも全体の3、4割で、マネジメント職がある仕事のうちの3割とかの業務がツールに置き換わっていくという感覚だと思います。

AIで作業が高速化され、業務効率性が上がる

寺田:(ポイントは)2つあって。1つは、人間って脳の構造がすさまじいので、AIとの会話に慣れると、今度は慣れた会話がデフォルトで機械っぽく聞こえてくる。もちろん、超絶いたちごっこということはあるんですが。

だから、どうでもいいコミュニケーションのベースは全部置き換わっていくんですけど、最終的な決断を求められる・判断をするというところで言うと、一個一個のルーチンがものすごく高速化されていくと思います。

例えば、サイトのABテストを実際にやろうよといった時に、「LP高速回転しよう」というのが、「アプリを10個作ってみて回転させようよ」みたいな世界観にどんどん変わっていったり。

アプリの種類は10個全部違って、「回しながら一番良いのに収束していこう」みたいなことはあるんだけど、最後の判断のところはどうしても(人間の仕事として)残ると思います。だから逆に言うと、ポジションがそこまで大きくなくなることはないのかなと。ただ、業務効率性が上がる。

あと、新人とかは本当に仕事がないだろうから、そいつらにはどんどん新しいものを作らせるようなところで仕事をさせる。

亀山さんのところなんかは新しいメンバーにどんどんいろんなことをやらせていますけど、それに近いオペレーションをしている会社でないと、むしろ人も採れなくなってくる気がしますね。

大企業ほどAIの影響を受けやすい

亀山:今の話をわかりやすく言えば、「大手がやばいよ」というさっきの話とつながるんだよね。結局のところ、未来を読んでという話は経営的な判断なので、まだここはAIはちょっと苦手なわけよ。苦手というか、「AIは未来を読めるか?」という話なので。

だけど俺が「こうでこうで、それを文章でまとめておいてくれ」というと、AIはまとめの仕事はけっこううまいわけよ。大企業って、この部分の仕事がやたら多い。

つまり、伝達するとか、まとめて誰かに伝えやすくする。俺が言うよりも「100人、1,000人の人間に伝えるために、こういうふうにまとめました」みたいな(仕事はAIが得意)。ということは、その部分のポジション自体がなくなる。

わかりやすく言うと、Zoomを各企業に入れた時に、仕事していないやつがいきなりわかりやすくなったという話がよくあるじゃない。「ぜんぜん何もやっていないじゃない」「会社に来ていただけなんだ」みたいな。

先ほどの話で言うと、スタートアップ自体はそれほど雇用も抱えていないから、あまり(AIの影響は)大きくなくて。むしろ大企業が弱っちくなるんだよね。

亀山氏が強く感じている「危機感」

亀山:じゃあ(大企業が)弱っちくなるからどうなのか。俺は逆の立場で彼らの気持ちもわかるんだよね。つまり、「じゃあこの社員たちの雇用はどうするんですか?」という話になるから、仕事をやらない人間でも過去の貢献がありますから、窓際にでも置いとかざるを得ないと。

スタートアップは人材の資産も持っていないけど負債も持っていないんだよね。でも基本的に企業は、その人間の過去も含めて、その人間たちの生活を見なきゃいけないという考え方がまずはあるわけよ。

だから、10人か100人かで(会社を)やっている人はむしろ気楽なのよ。大きいところはすごい苦悩していると思うんだ。苦悩しているか、自分だけは助かればいいわと思っているか、どっちかなんだけど(笑)。

小笠原:苦悩しているところには、まだあまり出会っていないですね。

亀山:だから、「苦悩しろよ!」という感じなんだよね。

小笠原:正直、身近な経営者で数千人雇っている中では、亀山さんが一番危機感を持っている気がします。シンプルに怖いんですよね。

亀山:いやいや本当に。俺もちょっと熱くなってしゃべっているけど、「周りがぜんぜん考えていないんじゃない?」というぐらい怖い。

現場の社員に“学ぶ機会”を与える重要性

小笠原:実は、うちの大学の理事長から大学のDXの話をもらった時に同じことを言われたんですよ。

「これからAIが来るんでしょ? 怖いですよね」と言われて、だったらDXをやろうかなと思って「担当します」って言ったんですけど、なかなか危機感を持っている経営者はぜんぜんいなくて。亀山さんから見ると「なんで?」って感じなんですかね。

亀山:本当にね。でも、それは言っても始まらないからさ。別に俺は経団連でしゃべるわけじゃないんだからさ。

小笠原:そうですね。

亀山:だからせめて、ここにいるIT系の経営者が危機感を持ってほしい。その部分が国庫を支えていくわけよ。滅びるところは滅びるしかしょうがないんだよね。

じゃあ「日本の」という話になると、自分たちがそういったことを踏まえた上で生産性を上げて、どんどん企業が大きくなっていって、勝手に周りが滅びるのを見ながらやっていくか。

または、その人材を大企業とかに送り込んであげる。「送り込んであげる」ってのは偉そうだけど、そういうふうになるかな。

「AIはまだまだ」と思い込みたい人が多い

亀山:たぶん、今のメンバーで先端について来れるやつはそこで会社を発展させるよ。ついて来れないやつも、ほかのリアル企業に行ってもそれなりに貢献するんだよね。

だから、ここにいる経営者はとりあえず「現場のやつらにとにかく勉強させてやれよ」「機会を与えてやれよ」みたいなイメージなのかな。みんなも社員が何人かいるでしょ? だからそれは、なんとかしなきゃやばいよっていう話。

小笠原:そうですね。「AIはまだまだ」って思いたい人がたくさんいるなというのも、実感としてあるんです。

寺田さんみたいにロジカルに「こうだよね」じゃなくて、単純にChatGPTを触ってみて、(ChatGPTが)「わかりません」と言って答えられないから、「AIはこんなもんだな」と言う人がいると思います。

ただあれは、「わかりません」って答えろと言われているか、確率論として「わかりません」と答えているだけなので、「君なら答えられるはずだ」って繰り返すと違う答えを出してきますからね。まだまだそこで(ChatGPTの回答は)終わりじゃないけど、バイアスをかけたがる人がすごく多いなと思っています。

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