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「対話によるマネジメント」で実現する人的資本経営(全2記事)

統合報告書から読み解く、日本と海外の「人的資本開示」の違い 日本企業が備えるべき、必ず来る“地獄”

エール株式会社主催で行われたカンファレンス「『対話によるマネジメント』で実現する人的資本経営」の模様をお届けします。今経営者に最も注目されているキーワードの1つである「人的資本経営」ですが、開示のための数字合わせに意識がむきがちという現状も。従業員を「一人のひと」として扱う、本当の意味での人的資本経営を実現するためには何が必要なのか。本記事では、エール株式会社篠田真貴子氏による本カンファンレス開催の趣旨について、Unipos田中弦氏による講演「国内外の統合報告書を全部読んで分かった人的資本開示の要諦」の2セッションをお届けします。

組織の力になる「聴く」

榎本佳代氏(以下、榎本):エール株式会社取締役篠田真貴子より、開会のご挨拶をさせていただきます。

篠田真貴子氏(以下、篠田):みなさん、こんにちは。エール株式会社取締役の篠田真貴子です。本日はエールカンファレンスにようこそお越しくださいました。本当にありがとうございます。

今回、初めてエールという会社を知ったという方もけっこういらっしゃいますので、まずは私たちの紹介を簡単にさせていただき、今日の開催の趣旨について私からお話しいたします。

私たちエールは主に大企業と契約し、そこで働く人たちに向けて社外から1on1をご提供しています。エールの私たちが「聴く」。働くみなさんが「聴いてもらう」。つまり、じっくり話をする機会があることで、一人ひとりの力を解放し、それを組織の力につなげていくことを目指しています。

1on1で聴く役割の人たちを、私たちは「サポーター」と呼んでいるんですが、現在エールには3,000人います。例えば、みなさんの企業の従業員100人、200人を対象に取り組んでいただくことで、組織開発の支援をさせていただくことをやっています。

実際にご利用いただいているみなさんからは、例えば「管理職の聴く力が上がった」。「自律的な思考や行動が見られるようになった」。あるいは「社員がお互いに話を聴けるようになったので、職場での対話がより盛り上がるようになった」。

さらには、セッションからわかる定量データや定性コメントを分析したレポートをご提供していて、そこからご自身の組織に関して、新しい課題あるいは新しい特徴がわかった。こんな声をいただいております。

旧来のトップダウン型のマネジメントが通用しなくなっている

篠田:さて、「人的資本経営」という言葉がメディアの見出しに多く見られるようになった昨年の夏頃から、大企業の方々からご自身の会社の1on1を強化したい、あるいはテコ入れしたいというお問い合わせがエールにたくさん届くようになりました。従業員エンゲージメントに関する講演依頼も増えました。

お話をうかがうと、要は「旧来のトップダウン型のマネジメントが通用しなくなっている背景がある」ということでした。

ではどこを目指すのか? まずキーワードとして出てくるのは多様性や自律です。さらに従業員を1人の人としてリスペクトすると。これを思想として明確に打ち出されて、「聴く」あるいは「対話」を本当に活用して、組織戦略あるいは人事戦略を具体的に進めていらっしゃると。こういう経営層の方、現場リーダーの方にずいぶんたくさんお会いしました。

実際にうかがった大企業の経営者の方の声を少しご紹介します。ある金融機関の経営者は、「当社には個人の力を活かすという会社のカラーがある。せっかくの若手からの提案を実現しないなんてもったいない」。

ある製造業の経営層の方は、「社員と直接の対話は時間もかかるし、アンケートはどうかという話もあったのですが、私は生の声が聴きたかった」。

さらに別のメーカーの経営層の方は、「社員が安心して変革にチャレンジできる組織にするには、まずは痛みが聞こえる状態を作ることが重要で、とにかく聴けるようにならないといけない」とおっしゃいました。

要は、聴くことからしか対話は始まらないし、聴くことと対話なしに従業員を1人の人として扱う経営は成し得ないということをみなさんおっしゃっているんだと思います。

日本企業にインパクトを与える「対話によるマネジメント」

篠田:これらを総合して、「対話によるマネジメント」が日本のエクセレントカンパニーの中に立ち上がりつつあるんじゃないかと私たちは考えました。そして3つの仮説を立てました。

1つ目は、「対話によるマネジメントを実践しようとしている日本の大企業は少なからず存在する」という仮説です。2つ目は、「そうした企業のリーダーがそれぞれの会社の組織風土や思想をもっと言語化して発信すれば、日本企業の有り様全体に大きなインパクトが出るんじゃないか」という仮説です。

3つ目は、「そのような企業のリーダー同士が志が近いものとして、あらためてネットワークしていただくことで、このインパクトがさらに大きくなるんじゃないか」という仮説です。この3つの仮説が、そのままこのカンファレンスの開催意図になります。

今の人的資本経営をめぐる議論は、ともすると開示のための数字合わせに意識が向きがちに見えます。でも、今回ここに参加されている企業においては、数字合わせではなくて従業員を1人の人として扱う、本当の意味での人的資本経営をすでに実現されつつあるのではないでしょうか?

みなさんの人的資本経営をより進めて深めていただけましたらと思います。そのための刺激やヒントを得ていただき、そして人脈を広げていただいて、場合によっては今後のディスカッションパートナーとなるようなお相手を見つけていただく。本日はそんな機会になれば、主催者としては本望でございます。本日はどうぞよろしくお願いいたします。

(会場拍手)

「感謝」や「称賛」で会社のカルチャーを変革

榎本:続いては、「国内外の統合報告書を全部読んでわかった 人的資本開示の要諦」と題しまして、Unipos株式会社代表取締役社長CEO田中弦さまにご登壇いただきます。田中さま、よろしくお願いいたします。

田中弦氏(以下、田中):よろしくお願いします。Unipos代表の田中と申します。今日はこういったコンテンツでお話しさせていただきたいと思っています。今日、僕は35分間くらいお話しします。どちらかというとネタを提供して、みなさまと一緒にコンテンツを考える会にさせていただきたいと思います。

まずは自己紹介から。上場企業経営者、ベンチャー企業社長、コンサルファームなど様々な経歴です。

今、「Unipos」というサービスをやっています。なぜ僕が人的資本開示とか人的資本経営を研究し出したかというと、「Unipos」を通じていろいろな大きな会社のカルチャー変革をやっていることがきっかけです。

6年くらい前からやり始めたんですが、6年前はカルチャー変革というと、「いや、そんなに変わらなくていいんです」と言われがちでした。でも今やマネジメントのスタイルも変わっているし、若者と意見を交わすのも非常に難しくなっています。なので、「全員でカルチャーを変えないといけないんだ」といったニーズがすごく高まっています。

今日は宣伝をするわけじゃないんですけど、有り体に言うと「みなさん社員の方と本気でちゃんと向き合っていますか?」ということをお話しします。僕は工場など様々な現場に行くんですけど、「みなさん、感謝されたことはありますか?」と問うと、「10年前ですね」「待ってください田中さん、僕は35年前です」と、褒められていない年数競争みたいになってしまうんです。

それくらい、実は感謝や称賛もフィードバックされていないところがあります。これではなかなかカルチャーを変えたり作ったりすることは難しいと思います。その「カルチャーを変える」ことが、僕が今やっていることです。今日はその話は1回置いておきます。

日本と海外の人的資本の開示、経営のスタイルの違い

田中:僕は人的資本に関する日本の統合報告書を957社全部読みました。日本編で150時間かけています。アメリカとヨーロッパを含めて、330社読みました。こっちは100時間かけました。

なぜやったかというと、あまりにおもしろい開示をしている会社もあれば、「いや、ちょっと」という開示をしている会社もあり、非常に差があるからです。でもみなさん、この中から良い事例を探し出して学び取るにはめちゃくちゃ時間がかかりますよね。僕は全部読んで語れるようになりましたので、今日はその一部をご紹介し、みなさんの学習速度を上げたいと思います。

(僕は)1288社、実際に読みました。今、3月末決算の会社が有価証券報告書で次々と開示しています。僕は開示されているのをまた全部見ます。4,000社見ようと思っています。

どのくらい開示ができているかというと、正直残念ながらあまりできていないです。これはどこまでちゃんとステークホルダー、つまり従業員と株主とこれから入ってくる人たちに向き合ってコミュニケーションするかという話だと思います。

日本と海外の人的資本の開示、経営のスタイルは何が違うのか? 実は大きく違います。僕はどっちがいいか悪いかと言っているわけではないです。日本がダメだという気もぜんぜんないですが、違いがけっこうあります。

まず何が違うのかというと、欧米では、1番最初に貧困・人種問題、人権の問題が出てきます。僕はヨーロッパの友達に、なぜかと聞いてみました。そうしたら、第2次世界大戦中に人種問題で大きな悲惨なことがあったと。社会的役割が高い上場企業は、それを解決するのであると(いうことでした)。

それに加えて、「どういう成長戦略であるからこそ、どういう人を抱えていて、どういう人的資産を持っているんだ」と表現しています。そういうかたちなので、ダイバーシティ&インクルージョン(D&I)のほうが優先して書かれています。

必ず来るとわかっている、労働力不足という“地獄”

田中:一方で日本では、人的資本の開示に関しては「日本もこれから社会的課題になってくるだろうな」というものを中心に、背景として書かれているケースが比較的多いです。

もちろん日本にも貧困・人種問題はあり、グローバルの企業の方はそれを書いていらっしゃいますが、内需が大きい国という特性上、社会課題が異なるのでそういう特徴が出ています。

なぜ(スライド)右側のほうがそうなっているのか? 今後何が起こるのかという話をします。「2040年に1,100万人の労働供給が不足する」と言われているんです。これはもう絶対に来る地獄ですよね。出生率をもとにしているので、これが外れることはないわけです。むしろ出生率が下がっていますから、労働力不足は絶対に来ます。

この世界に何が来るかというと、人が確保できなくなる話もそうですし、今まではニーズがあって人を確保していけば、売上が上がる構造だったわけですね。それが、ニーズがあっても人が確保できないので、稼働率が下がって売上が下がるわけです。

日本の就労人口の7,000万人分の1,100万人なので、実はすごくインパクトがあります。特に小売とか介護とか物流とか、「ラストワンマイルは絶対にAIじゃなくて人が必要だよね」という企業に関しては、人的資本経営に取り組んでいかないと、僕は思います。

人的資本開示になると「やったことリスト」になりがち

田中:これまでにおそらく、上場企業経営者の10パーセントくらいの方が、僕のセミナーに来ていらっしゃると思います。日本の人的資本経営の開示の状況とか、その方との対話を繰り返す中で作ったフレームワークがあります。これはぜひ、みなさんの会社の経営会議でお話しする際にガイドラインとして使っていただきたいと思っているんです。

まず要素として5つあります。通常は人的資本経営とか人的資本開示になると、「どういう働き方改革をやりました」とか、「どういう組織風土改革をやりました」とか、「人事制度はこうしました」という、やったことリストになっているケースがほぼほぼです。

ですが、投資をしているはずですから、何か数字が動いているはずですよね。そこがどうなっているのか?

そもそも1番(理想・大義)と2番(理想とのギャップ)を忘れちゃいけないなと思っています。「この会社は一体全体どういうことを目指しているんだっけ? そのためには、どういう人的資本の投資をして解くんだっけ?」という、課題をきっちり言うか言わないかで、印象がまったく変わります。

とにかく「インプットアクション」から入ってしまうと、個別の議論になりやすいんですよね。課題から入っていけば個別の議論にならずに、「この課題に対してはこうやって対処しています」といった、ストーリーになっていくと思います。

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