2024.10.01
自社の社内情報を未来の“ゴミ”にしないための備え 「情報量が多すぎる」時代がもたらす課題とは?
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岡田武史氏:そうなった時(選手の自主性を育む上で壁にぶつかっている状況)に何をしなきゃいけないかと言ったら、対話。もう1つは、会社自体を自分ごと化させるということですね。
これは、どっちかじゃなくて両方やらなきゃいけないんですけど、対話というのは例えば、守破離の「破」の人には、先ほど言った3つのような質問をして、「どうしたいの? 何かできることある?」と引き出す。
そして「離」の人には、やはり事実を伝えなきゃいけない。「こういう目標でやってきたけど、これはできてないよね。どうしてだと思う? 何が原因だと思う? どうしたらいいと思う?」というような対話。
「俺はこう感じている。それを今後どうしていったらいい?」という対話を繰り返していかなきゃいけない。
これはけっこうな労力がかかるし、大変なことです。でもガーンというプレッシャー(を外からかけるの)は駄目なので、自分で自分の基準を設けるようなプレッシャーを作っていかなきゃいけない。
もう一方は自分ごと化するということですね。今、ティールだとかホラクラシーが流行ったりしていて、あれは全部自分の会社だと思って、自分ごと化させるように考えることなんですけど。
部門別に、自分がやったことがどれだけ利益につながっているかを見える化していくようなアメーバ経営なんてのもそうですね。
今度、JR九州がアメーバ経営をするとかって出ていました。これはこれで、また縦割りになったりいろいろ問題も起こるんですけど、そういういろんな方法がある中で、自分ごと化するためには何をしなきゃいけないかと。
実は僕も大失敗したんですね。会社を始めて2年か3年目に、当時僕らはスタジアムがなくて、運動公園に2,000人のお客さんに来ていただいていたんですね。ところが屋根もないから、雨が降ると(来てくれるのが)900人とか700人なんですよ。
でも、雨が降っても来てくださったお客さんは、僕はどんなことがあっても逃したくない。試合が終わった瞬間に出口にダッシュしていって、タオルを渡して「また来てください」と言うんですよね。(タオルは)返してもらいますけどね。
ところがうちの社員はのんびり歩いてきよるんですよ。「こいつら何を考えているの? このお客さん、どんなことがあっても逃したくない。なんで俺のこの思いがこいつらにはわからんのやろう?」と。
それから、ファン感謝デーというのがあって、その日にスタンドが片側しかなくて、お客さんが200~300人おられたんですね。
それで「じゃあこれから岡田さん、あいさつしてください」と50〜60メートルぐらい離れているグラウンドの反対側からあいさつをしろと言うんです。
「おい、あの前へ行ってあいさつせないかんのと違うの?」と言ったら、「いや、マイク、スピーカーが届かないんです」って。
「え? それはスピーカーがなくても、俺は地声で向こうでやるよ」と歩いてずっと向こうへ行って、後ろから機材をばーっと持ってきたら届くんですよ。「なんやこれ? 届くやん」と。要はそこまで真剣にお客さまのことが考えられていない。
「何なんだこれは? そうか、俺が全部やっちゃうからだ。『岡田さんがまた営業へ行って、岡田さんがお金を持ってきて、岡田さんが全部やる』。そうか、俺がやっちゃうからこいつらに自分がやっている感がないんだ」と。
そして僕は、「お前ら、後はちょっと自分で考えてやれ」と言って丸投げして、2週間ぐらい会社へ行かなかったんですよ。
それで2週間後ぐらいに会社へ行ったら、みんな机でこうやって頭を抱えてですね。そんなやつらじゃないんですよ? オフィスに綿ぼこりが舞っていて、ゴキブリが走ったんですよ。その瞬間に僕はね、「あ、この会社潰れる」と思った。
(みんなは)いきなり丸投げされて、何をしていいかわからなくなって、「ああ、やばい」と。僕は店へ行って、モップとゴキブリホイホイを買ってきて、「おい、みんな掃除しようぜ」と言って、そこから始めてまた元に戻して、ちょっとずつ組織をフラットにしていって、そして権限を少しずつ委譲していったんですね。
そして、最後の1つが情報公開でした。うちは今は9人のコーチを中国のあるチームに送って、そこの育成を全部見ているんですね。これがものすごく成果が出ているんですけど、向こうの社長からある時、1人のコーチについて「こいつは中国に向いてない。替えてくれ」と言われたんですよ。
僕らにとって、このドル収入というのはものすごく大きくて、うちの売上の20パーセントぐらいを占めているんですよ。だから翌年からの契約もまた継続したい。
そうしたらこの社長の要求を呑んで替えなきゃいけない。でもシーズンの途中に浮いているいいコーチなんかいないから、うちにいるコーチを送らなきゃいけない。しかし、うちにいるコーチは日本での契約になっている。
「どうしたらいいんだ」と幹部4人で会議室で話していて、「あいつに行ってもらいたいけど、あいつを行かせたらなあ」とかって悩んでいた。僕らのオフィスは古民家で、普通の部屋で話していたら、横のコーチ室に全部聞こえていたんですね。
夜、1人のコーチから電話がかかってきて、「岡田さん、聞いてしまいました」と。僕が「行ってほしい」と言っていたやつです。「うちのフィロソフィーを読み直したら、『Our Team』というのがありました。それを考えて自分のチームだと思ったら、これは僕が行くべきだと思います」と。
めっちゃうれしかったんですけど、すぐ飛びついたら軽く思われるじゃないですか。だから「おお、わかった。ちょっと考えさせてくれ」と。
それで、30分ぐらいしたら別のコーチから電話がかかってきて、「岡田さん、誰々が行くって聞きました。岡田さんはあのコーチが来てから、U-15がどれだけ良くなったか知ってますよね。岡田さんは選手のことを考えてますか? 彼を行かせるなら僕が行きます」。
「いやいや、ちょっと待てお前。犠牲心で行かれても困るから。明日午前中、コーチは全員集まってくれ」と。十何人が集まって、「今、うちの財務状況はこうだ。この中で中国の売上はこうなっている。これがなくなるとこれだけ大変になる」と全部説明しました。
「どうしたらいいか考えてくれないか?」と言ったら、みんなで話し合って、最初に行ってほしいと思った(コーチを)、「岡田さん、あいつを送り出します。そしてその穴は僕ら全員で埋めます」と。
もう涙が出そうになっちゃって。やっぱり、そうやってちゃんとトップと同じ情報を持っていないと同じ気持ちになれない。同じ情報を与えて、権限を委譲して、組織をできるだけフラットにしていったら、だんだんと自分ごと化していきました。
そうやって対話を続けながらも自分ごとにしていく。もう今、おそらくこういうやり方しかないでしょう。そのうち僕はパワハラでアウトになるかもしれないですけど、そうしないと(別の)リスクを負わなきゃいけなくなります。
そして、リーダー自身はどうあるべきか。リーダーというのはね、みなさん「リーダーはこうあるべきだ」とかいろいろ言いますけど、状況や環境、組織の成熟度によっていろいろ違います。そして個性によっても違います。100人100通りのリーダー像があると思っています。
いろんなリーダーがいる中で、この前おもしろいことがありました。僕は、最先端の教育をしているという、ある学校法人の評議員をやっていてですね。その評議員会で父兄の方が1人理事に入っておられるんですよ。その父兄の方とものすごい言い争いになっちゃって、「辞めてほしい」とか言い出して。
そしたら理事長がめちゃくちゃ頼りない人で、「ええと、どうしたらいいでしょう? どうしましょう?」。ずっとそう言っているんですよ。
「なんやこのおっさん。お前、もうちょっとちゃんと仕切れよ」とかって思っていて。ところがみんなしーんとして誰もしゃべらないんです。10分間ぐらい誰もしゃべらない。その間理事長が、「誰か何か考えはないですか? どうしたらいいですかね?」とずっと言っているんですよ。
そしたらしびれを切らして、ある1人が「じゃあちょっと言いますけど、僕はこう思います」「じゃあ僕は」と全員がコメントして。みんな何も答えは出てないんだけど、「じゃあもう一回、みんなで考え直してやりましょうよ」と1つになったんです。
これは僕にはできない芸当なんだけど、「え? この人、すげえかもしれない」と。老子の言う、いるかいないかわからないリーダーが、みんな(の力)を引き出すリーダーなのかもしれない。
「そうか、俺も今度やってみようかな。『どうしたらいいでしょう? どうしたらいいでしょう?』って」。でもこれはその人のキャラクターで、(僕には)できないかもしれない。
昔、(フィリップ・)トルシエというフランス人の日本代表の監督がいて、彼がU-20の代表も見ていたんですよ。
アフリカで大会があって、アフリカに行くには予防注射を1ヶ月前からいっぱいしなきゃいけないんですよ。もう大枠の50人ぐらいは予防注射をしておいたんだけど、トルシエが突然、その予防注射をしていないやつを連れていきたいと言ったんです。
「そんなの絶対ダメだ」と言ったら、(トルシエは)「そんなんじゃ俺は戦えないから行かない」と言って、(アフリカには)選手とコーチだけで行っていたんです。
結局トルシエは試合の2日前に来たんですよ。選手たちが「あんなのほっとこうぜ。俺たちでやろうぜ」とやったら、世界2位になっちゃったんですよ。リーダーというのは、そういう意味でものすごく難しいんですけど。
今1つ言えるのは、リーダー像が変わってきたということ。僕らみたいに強引に上からガンガン引っ張っていくリーダーじゃなくて、もっとフラットで双方向なリーダーが増えてきました。例えば日本代表の森保(一)監督、そしてWBCの栗山(英樹)さん。どちらもすばらしい人間性です。
だいたいね、僕もそうなんだけど、こういうスポーツで結果を残す監督って、みんなものすごく癖があるんですよ。一癖も二癖もある。ところがあの2人はあんまりないです。栗山さんなんか、僕は昔から仲がいいんだけど、「こんなに人間が良かったら勝てないかな」と思うぐらい、めちゃくちゃいいやつで。
WBCへ行く前に飯を食っていたら、「岡田さん。僕ね、日ハムの監督の時に岡田さんの言われた言葉を監督室に貼っていたんですよ」「俺、何言ったっけ?」って。
それは俺が、稲盛(和夫)さんから聞いた話だったんですけど、「小善は大悪に似たり。大善は非情に似たり」と。栗山さんはものすごくいい人間だから、それを見て、心を鬼にしてグラウンドへ出ていたんですね。僕なんかそんなの見んでも、ぜんぜんいつでも鬼になっちゃうんですけど。
でも今、そういうリーダー像が出てきました。それはなぜかといったら、今の若い人の価値観、考え方が変わってきたから。給料が4分の1、3分の1になるのにやりがいを求めてうちに優秀な若者が集まってきます。
「え、本当?」っていうような、東大から某メガバンクのニューヨーク支店(にいた人)で超エリートです。
「それがうち? ちょっと待て。ニューヨークと今治、ちょっと格差が大きいぞ、お前。給料は4分の1や。やめておいたほうがいいん違うの?」と。いや、来ちゃうんですよね。こういう時代になってきました。
そういう中でも、やはりリーダーとして最後に押さえなきゃいけないところは、栗山さん、森保監督もちゃんとそのシビアさは持っていました。それはどういうことかと言うと、やはりある意味の強さです。
決断する時、リーダーは誰かの意見を聞いて多数決で決めるわけにもいかない。たった1人で答えがないものを決めなきゃいけない。確率で言えない。論理思考で決められない。それを決めるにはどうするか。直感で決めるんですよね。
直感といっても、何もないところから出てくる直感なんかダメで、考えに考えた中でシナプスがあって出てきた直感。そういう直感が出せるようにするためには何をしなきゃいけないか。
それはどん底の経験です。本当にどうしようもないようなどん底の経験をしてくると、そういう直感が当たるようになってくるんですね。
僕は1998年のワールドカップ予選の前年、カザフスタン戦でいきなり日本代表の監督になりました。最初の監督が日本代表の監督でものすごいプレッシャーでした。
当時41歳で、僕は(自分が)有名になると思っていなかったから、電話帳に(番号を)載せていました。脅迫状や脅迫電話が止まらなくて、家の前は24時間パトカーが回っていました。
「子どもは危険だから学校の送り迎えをするように」と警察から言われて、妻が毎日送り迎えした。
とんでもない状況で戦っていて、そしてイランとの決戦のジョホールバルへ行って、向こうから妻に電話して。「明日もし勝てなかったら、俺は日本に帰れない」と本気で思っていました。
ところがそう言って数時間後、「もういい。明日俺は急に名将になれない。俺ができることは、今持っている力を100パーセント出して命懸けでやる。それでダメだったら、力が足らねえからしょうがない。謝ろう」と思った。
「日本の国民のみなさん、申し訳ございません」と。「でも、これは俺のせいじゃない。絶対俺の責任じゃない。俺を選んだ会長、あいつのせいや」と。そう思った瞬間から完全に開き直って、怖いものがなくなりました。
当時、分子生物学者の村上和雄先生が、「遺伝子にスイッチが入る」ということをよくおっしゃっていました。我々は氷河期や飢饉を乗り越えてきたご先祖さまの強い遺伝子をみんな持っています。でも、こんな便利・快適・安全な社会にいたら、その遺伝子にスイッチが入っていないと。
1つの公園でけが人が出てきたら、全部の遊具が使えなくなる。こんなに守られていて、いつ遺伝子にスイッチを入れるんだ。
そして僕は野外体験教育を始めました。人が与えるのはパワハラになるけど、自然が与える理不尽はパワハラにならない。今、企業研修でもけっこううちに来ています。
そういうことをやっていく中で、いろんな苦労をしていくと、覚悟というのが出てきます。人は誰だって「いい人だ」と言われたいし、好かれたい。でも僕は11人しかピッチに送れない。23人しかワールドカップに連れていけない。
選手もこう考えて、こうやって言ってきます。それを聞きます。でも違うと思ったら、俺は日本代表の監督として全責任を負って、こう考えて、こうやる。
「お前は能力があると思うから、ここへ呼んどる。お前がやってくれたらうれしいけど、どうしてもやってられんというならしょうがない。ものすごく残念だけど、諦めるから出ていってくれ。怒りも何もしない。お前が決めてくれ」と。
この時、肩を抱いて「お前な、頼むから」と、これをやったらチームになりません。そういう覚悟を持つこと。これがやはり必要です。
昨年、大雨の試合でビシャビシャでボールが動かない。「これ、もう0-0で終わるな」と思ったら、終了間際にPKを取ってくれた。「やった! これ、1-0で勝ち逃げだ!」と思ったら、ブラジル人がボールを持っていた。こいつは今シーズン1点も取ってなくてキックが下手なの。
僕は上からベンチに(いる)監督に、「あいつに蹴らせたらダメだ! 誰々に蹴らせろ!」と言った。それで監督が軽く「誰々~」と言ったら、そいつが「ふん」と言って無視して蹴って外したんですよ。
その瞬間、(僕が)壁をぼーんと蹴ったら、こんな穴が空いちゃってね。スタッフがみんなひゅーっと目をそらして逃げていったんですけど。
その時、おそらく監督に覚悟が足りなかった。そういう覚悟が出てきます。そして、最後にリーダーとして一番大事なのは、志高い山に必死で登る姿を見せること。要は私利私欲のない目標。
人が「このおっさんについていこうか」というのは、聖人君子についていくんじゃない。お金持ちについていくんじゃない。頭のいい人についていくんじゃない。私利私欲のない夢に、死に物狂いでチャレンジしている人を見た時についていくものです。そこには「無私」(というものがあります)。
無私というのは「ふん」(という「無視」のこと)じゃなくて、「私が無い」ということが大事です。みんな人にいいと思われたいでしょう。例えばサッカーの監督が、「俺はお前らを信じる。俺が責任を取る」と。そんな当たり前のことを「俺が」という主語で言う人は、あんまり成功しないんですよ。
なんでかと言ったら、その裏に「『この人、男だな』と思われたい」とか「『この人、いい人だな』と思われたい」という、「私」が隠れているんですよ。そうするとうまくいかないんです。選手って、そういうものを感じ取る力があるんですね。
そういう意味で、「私」をなくして死に物狂いでチャレンジする姿が必要です。こうやって言うと、「それはどうしたらいいんでしょう?」とみんな思うでしょう。
でもね、リーダーが失敗しちゃいけない。リーダーは正解でないといけない。そんなことない。みんな失敗しながら成長していくんですよ。だから、自分をさらけ出すことが大事です。
あるパネルディスカッションで、建築家の安藤忠雄先生と一緒になった時、ある大学生が建築の難しい質問をしたんですよ。そうしたら安藤さんは、「わし、それようわからんわ」とおっしゃった。
「めちゃかっこええ」と思ってですね、僕も最近「ようサッカーわからん」と言うようにしているんですけど。
でも、ありのままの姿、そして「エラー&ラーン」。トライ&エラーじゃない、エラー&ラーンをする。つまりリーダーが、自分も夢や目標を持ってワクワクしながらチャレンジしていく。これが一番大事だと思います。ぜひやってみてください。以上、終わります。
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