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メンバーを成長させるためにリーダーが取るべきアクションとは(全2記事)

結局、「守破離」が最高の指導メソッド サッカー元日本代表監督の岡田武史氏が語る、メンバーの主体性を引き出すコツ

サッカー元日本代表監督で、今治.夢スポーツ代表取締役会長の岡田武史氏。「日本を変える 中小企業リーダーズサミット2023」では、企業で多くの方が悩まれる「人材育成」について語りました。メンバーの主体性を伸ばすための育成方法や、より良いチーム・組織を作るためのマインドセットなど、リーダー層の方々に向けたヒントをお伝えします。

多様性の時代、人材育成で悩む会社が増えている

岡田武史氏:みなさんこんにちは。Sansanの専属コメンテーター、岡田武史でございます。僕もSansanは使っていますけど、よく(講演に)呼ばれるんですよ。

寺田(親弘)さんと同じように教育も始めたので、いろいろ勉強させてもらいに来ております。今日は「人材育成について話せ」と言われて来たつもりでしたが、似たような題(「メンバーを成長させるためにリーダーが取るべきアクションとは」)だから大丈夫ですね。

なんか最近ね、いろんな会社から「人材育成でいろいろ悩みがある」という話を受けるんですよね。そのバックボーンというのは、やはり今パワハラとかが流行ってきて、どう接していいかわからないという人がものすごく増えてきているなと感じます。

まず人材育成の前提として、よく理解しておかなきゃいけないなと僕が思っているのは、人というのはみんな違うんだということ。考え方も背も顔も違うし、そして価値観も違う。ところが日本って学校教育も含めて、「みんな一緒だ」というところからスタートするんですよね。

人それぞれ違う。今でこそ多様性とかいろいろ言われますけど、違う人たちを育てていくんだから当然同じ方法じゃダメ。

100人100通りというのはちょっと言い過ぎかもしれないですけど、その人に合った育て方をしていかなきゃいけない、人材の育成をしていかなきゃいけないと思っています。

「縛り」があるからこそ、自分なりの発想が生まれる

僕らはサッカーのメソッドとして「岡田メソッド」というのを持っていて、そこでは「守破離」と(教えています)。最初は師匠の教えを守って、そしてそれを破って、離れていく。

「めちゃくちゃ古いな」と思っている人、いるでしょう? 封建的で古いと思うかもしれないですけど、それは日本では「守」ばっかり言うから古いとか封建的と思うのであって、「破」と「離」をきちんと定義してやったら、ひょっとしたら最高の指導メソッドなんじゃないかなと僕は思っています。

というのは、「守」が必要な人にはちゃんとティーチングをしなきゃいけない。そして「破」の人にはコーチングでいいだろうし、「離」の人は自由でいいかもしれない。それぞれの成長の段階に合わせた指導をしていく。これがものすごく大事なんじゃないかなと。

ところが一斉に「みんな一緒だ」というところから、「こういう指導法がいい」「こういう育成がいい」と言うけど、人によって違うじゃない。成長の段階によって違うんだと。

守破離ということに一番最初に気がついたのは、我々が選手に主体的に自己判断させなきゃいけない(と思ったからです)。そのためには自由を与えなきゃいけないと(考えて)、僕らは「自由だ、自由だ」と自由を与えてきたんですよね。ところがなかなか主体性が出てこなかった。

そしたら、あれだけ自由奔放にしているスペインに型があって、それを16歳までに教えて、あとは自由にすると言われたんですよ。

「え? 僕たち『型にはめちゃいけない』ということで『自由だ、自由だ』とやってきたのに、なんでスペインには(型があるのか)」と思って聞いたら、16歳までに原則を教えて、あとは自由にするんだと。

日本は「自由だ、自由だ」と自由を与えておいて、高校生の16歳ぐらいから戦術という対応策を教えていたんですね。

「まったく逆だ。そうか。自由の中から驚くような発想とか判断って出ないんじゃないか? 何か縛りがあるからそれを破って、自分の発想が出てくるんじゃないか?」と思い始めたのがきっかけでした。

「3つの質問」で相手の主体性を引き出す

先ほど言ったように、やはり会社でも一緒です。「守」が必要な人にはちゃんと教えてあげなきゃいけない。しかし、「破」でいい人(もいます)。「破」と「離」の差、区別が明確にあるわけじゃないんですけど、「破」でいい人にはコーチングをして、一番大事なことは主体性を引き出すこと。

我々は「何をやっているんだ」と言われるんですけど、今度、FC今治高等学校という学校も始めるんです。そこで今、選手・先生にお願いしていることがあります。それは「3つの質問」と言って、「生徒にこういう対応をしてください」というもの。

1つは「どうしたの?」と聞いてください。そして生徒が「こうこうこうなんです」と言った時に、「じゃあこうしたら?」と言わないでください。「それで君はどうしたいの?」と聞いてください。そして本人が「こうしたい」と言えばいいですけど、言わなかったらいくつかの提案をしてやって、選ばせてください。

そして選んだ時に、「じゃあこうやったらいいね」と言うんじゃなくて、最後に「僕に何か手伝えることはある?」と言ってくれと。こうやって本人が自ら選んで、自ら解決していく主体性を引き出す。そういう教育をしていかなきゃいけないと思っています。

これは会社でも一緒です。「はい、これをやりなさい」と言うのではなくて、「こういう目標を達成するために、いくつかの方法があるよね。どれをやる?」と。

または「新たに自分で考える方法はある?」と。それを選択させて、やっていくという主体性を引き出す方法があります。

この時によく間違えるのが、「ほら、こうやって3つあるよね。どうする?」と言っておいて、自分がやってほしいと思うものと違うのを選んだ時に、「うーん、それもいいけどね。でも……」(と言ってしまうことです)。

「なんだよ、結局これをやらせたかったのかよ」となるのが最悪なんです。ともかく任せてやらせる。これが守破離の「破る」ですね。

人は困難やプレッシャーを受けて成長していく

そして離れていく。これが一番難しいんですよ。離れていくということは自由ですよ。ほっときゃいいと。

ところがほっといて育つか、成長するかと言ったらそうじゃないですよね。人が成長する時はだいたい、何か困難や壁を乗り越えたり、プレッシャーを受けながらも達成していったりというものがあります。

年を取って酒を飲んで昔の話をしたら、「あの時の上司、ひどかったよな。理不尽でな」と(いう話になるでしょう)。「あの時の上司は良かったよね」という話なんか出ないですよ。「ひどかったけど、そのおかげで成長した」という実感を持っているんですよね。人が成長する時というのは、何かそういうものがあるんですよ。

だって重力というプレッシャーがなかったら、骨がぼろぼろになるでしょう? 筋肉をつけようと思ったら、重いものを持たなきゃいけません。

これらを与えず、「フリーで自由に」と言っているとなかなか成長しない。そういう環境を作っていかなきゃいけないのに、今はすぐパワハラって言われるんですよね。

スタジアムの開幕戦直前で従業員にキレた理由

うちが新しいスタジアム(今治里山スタジアム)をつくったんですよ。そこでの開幕戦の2週間前に、集客のマーケティングのグループがミーティングをしていたのを、僕はWebで聞いていたんです。

最近は口を出さないんですけど、そのグループの長が最後に、「開幕まであと2週間ですけど、満員まであと1,300人足りません。みんなでがんばりましょう」と(言ったんです)。

そこでがまんできなくなって口を挟んで、「おい、ちょっと待ってくれ。新しいスタジアムができた開幕戦だろ? どんなことがあっても満員にせないかんの違うんか。うちはもう社員が100人ぐらいいるんだから、1人10枚手で売ったら1,000人来るじゃない。なんとかそうやってマーケティンググループで(かけあって)、全社でやらんか?」と言いました。

そしたら、「わかりました。じゃあ各グループにヒアリングして、全社でやるようにします」「おお、頼むぞ」と。

4日ぐらいして、「それでは、どこどこのグループからヒアリングして」と言い出したので、僕はキレちゃってですね。

「ちょっと待ってくれお前。それだったら俺がやる。俺が全部コントロールしてやるから」(と言いました)。

「なんで会長が頭ごなしにいきなりそんなこと言うんですか?」と言うから、「お前が遅えんだよ。うちはどんだけの大会社だ。この4日に1人が5枚売ったら500人来るんだ。冗談じゃねえ」。これは完全にアウトなんですけどね。

そう言ったらみんな目が点になってですね。全社でわーって売ったら5,700枚(売れました)。(足りなかった枚数を)すごくオーバーして、立ち見がばーって出て最高の開幕戦になったんですね。

その試合の途中に、僕がスタジアムでマーケティングのトップのやつとすれ違ったんですよ。「おいお前、よくやったな」と言ったら、そいつが涙を流しちゃったの。

これで成長するんですけど、リスクはありますよ。一言訴えられたら僕はアウトですからね。みなさん、こういうのはふだん「愛があればいい」と(言うでしょうが)、こんなの愛なんてものじゃ片付かないです。

大事なのは、「ちゃんとお前を見てるよ」と伝えること

ただね、1つ言えるのが、そいつの存在を認めてやっているかどうかなんですよ。サッカーチームもそうなんですけど、要はみんな自分を認めてもらいたいんですよね。

例えば監督と選手。コミュニケーションとか面接とか一応やりますよ。面談とか1on1で話したりもします。しかし一番大事なことは、そいつの存在を認めてやることなんですよ。

例えばコーチが、ウォーミングアップしてストレッチをしている選手のところにざーっと行って、「お前、この前の練習試合のトラップからのシュート、すばらしかったな。あれ、絶対忘れるなよ」と。(そう言うと)顔がぱっと明るくなります。

風呂でも、「お前、そろそろ子どもが小学校行くんだろう? どこ行くんだ?」「どこどこの小学校です」とか。つまり、「俺はお前を1年間で1試合も使わないかもしれないけど、ちゃんとお前を見ているよ。必要としているよ」ということを伝えることなんですね。このちょっとした感情の共有で、存在を認めてやる。

例えば朝会社に入ってきて、ぶすーっと「おはようございます」と言って席へ行くのか。「お、元気? おっす、おはよう」と目を合わせて言うのか。これだけで違うんですね。でも、ここで「今日はきれいだな」と言ったら、今はアウトでセクハラになる。難しいんですけど、そうやって、ちょっとした一言で感情を共有して、「お前をちゃんと見ているよ」と伝える。

そういうことをしていると、訴えられる可能性は少ないかもしれないけど、最終的にハラスメントだと言われてもしょうがない。僕みたいな昭和の人間は、どうしてもそれを(伝えたくなる気持ちを)抑えられないけど、今はなかなかできないですよね。

なぜ日本では、欧米型のマネジメントが難しいのか

人間は、どうしてもプレッシャーというのがないと成長しないんだけど、それがやりづらい。欧米の会社とか、我々プロフェッショナルなサッカークラブは、ある意味簡単なんですよ。なんでかと言ったら、結果のプレッシャーがあるんです。

欧米の会社は、モチベーションを上げて「がんばれ。お前ならできる。いいぞ」と言って、結果が出なかったらクビなんですよ。

この「クビ」というプレッシャーがあるんですが、サッカー選手も一緒なんです。「いいぞお前、がんばれ。お前なら絶対いける」とか言っているけど、ダメだったら翌年は契約しないんですよ。このプレッシャーがあるんですね。

それを今、欧米では心理的安全性と褒めて育てるからって、日本の会社でやったら、日本型は出口のプレッシャーがないわけですよ。そうするとどうなるかと言ったら、みんなぬるま湯の中で、コンフォートゾーンでふらふらふらふらしちゃうんですよね。

じゃあどうすりゃいいんだと言うと、欧米型の出口のプレッシャーを与えるのも必要です。ある意味、結果が出なかったら、何か跳ね返りがくるということ。そういうことも必要ですけど、なかなか日本では難しい。

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