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経営者力診断スペシャルトークライブ KX カイシャ・トランスフォーメーション~今、求められる“社員を主語にする経営”とは?~(全5記事)

イノベーションは社内の10%の企画経営人材が行うわけではない 「良質な不」を見つけて、新価値創造ができる会社の特徴

経営者やリーダー向けに、「経営」「マネジメント」をテーマとした各種セミナーを開催する経営者JPのイベントに、「人生の主人公として『100年ライフ』を楽しめる社会へ」をビジョンに掲げるライフシフト・ジャパン株式会社の大野誠一氏、豊田義博氏、そして野田稔氏が登壇。「KX=カイシャ・トランスフォーメーション」をキーワードに、企業が「新価値」を生むために必要なことなどが語られました。

仕事の価値観の変化

井上和幸氏(以下、井上):余談みたいな話で、前々職のベンチャーの時だからわりと古い話になるんですけど。僕、リクルートから飛び出して友人のベンチャーを一緒にやることになって。そこで新卒・中途を採用しながら体制を作っていた時に、某大手自動車メーカーですごくがんばっていた女性の方が入ってきてくれたんですね。

愛情を込めてあえて「こいつ」と言うんですけど、こいつをかわいがっていたんです(笑)。優秀な子で、20代後半ぐらいで入ってくれて、けっこう早めにマネジャー抜擢して、部長ぐらいまで僕がいる時に上げた子です。体育会系でわりとガッツがあるんですよ。

だから逆に、周りのメンバーへの当たりが、……キャラクターはすごく良い子ですけど、仕事の観点になるとえらいハードストロングでして。その会社はわりとリクルート出身者が中心に経営陣をやっていたので、僕とかが「なんでそんなことやるの」「そこまで詰めなくていいじゃん」みたいなことを言うと「何甘いことを言っているんですか、井上さん」とか言われて。

いまだにその子に「仕事とは耐えることですよ」とパキっと言われたのが、頭に残っているんですよね(笑)。そういう価値観があるんだな、みたいな。その自動車メーカーさんのせいかどうかはわからないんですけど、そういう育成をされていた人は大手さんなんかでは多いんだろうなと。ほかでも感じる瞬間は何回かあったんですけど。

大野:昭和時代は「仕事とは辛くて耐えるものだから、お金をもらえるんだよ」みたいな言い方が、けっこう一般的にありましたよね。もうそういう時代ではないのではと思うし、経営をする上での資源も変わってきていると言われているんだけど、意外と変わっていないのかもな、というところだよね。

井上:関連しているかどうかわかりませんが、昔は例えばドライバーをやるのはきつくて大変だけど、その分早く稼いで、例えば創業資金を貯められる。実際そうだったけど、今は大変なのに賃金的にもすごく安くなっている。つい先週ぐらいの記事で書かれていて、感慨深く読んでいました。

大野さんがおっしゃったように、昔はそういう構造が確かに成り立っていたのかもしれないですけど、今はそれ自体が成り立っていないですよね。

新価値創造を「俺の仕事ではない」と言い切る人

野田:今のような図式って、工場で決められたことをしっかりとやることが付加価値の源泉になったような時代は、合理的だったと思うんですよ。わがまま勝手にやられたんじゃ、ラインがうまく動かないですから。決められたことをちゃんとやるのが付加価値の源泉という産業は厳然としてあるし。

でも企業付加価値の源泉って、ITの世界とかになってからは、どちらかというと個人のクリエイティビティに寄るところが大きくなった。もちろん既存の事業も続けてやっているんだけど、それだけでは十分に勝てなくなってきている。そこが難しいと思うんですよね。

既存を全部捨ててしまえるんだったらかまわないけど、既存は既存で今までの我慢の100年みたいなのをやりつつ、でも人間力を発揮しながら想像力と創造力を発揮して何かを作る。まさに両利きの経営、ambidexterityみたいなことを実際にやらないといけないわけじゃないですか。

今「仕事をみんながイメージした時に、両利きの経営の中の「既存の仕事をオペレートする」ところがまだ9割ですよね。仕事といえばまだこれです。

例えばおもしろかったのは、新しい事業を始めるのでプロジェクトマネジメントの仕方や、新しい発想法を学んだりしないといけないので、そういう研修とワークショップを作ったんですよ。それで「みなさん、これをやりましょうよ」と言ったら「この忙しいのにそんなところに出ていられない」と言われたんですよ。

井上:(笑)。

野田:いやいや、ちょっと待ってくださいよと。「じゃあなんで忙しいんですか」と言ったら「それは仕事に決まっているだろう」と言われた。なので「でもね、社長はこれからは新価値創造が主眼だと言っているので、これ仕事ですよね」と言ったらウッと詰まって。で、彼は「でも俺の仕事ではない」と言ったんですよ。

井上:なるほど(笑)。

野田:あぁそうか、と。じゃあこの新価値創造を「俺の仕事だ」と思っている人が何パーセントいるのか、来週までに調べてくれと言って、今、人事に頼んであります。

イノベーションは社内の10%の企画経営人材が行うわけではない

井上:おもしろいですね(笑)。時代は変わっていますから、絶対比率として違うと思うんですけど……例えば企画経営の人材は10パーセントぐらいで、あとはそれをオペレートする人だと一般論でよく言われますけど。その方って「自分は9割のオペレート側でいい」という位置づけを、自分でポジショニングしているんですかね。

野田:たぶんね。でも僕、イノベーションは誰が起こすのかといった時に、今言った10パーセントの企画経営の人材だというのは、大嘘だと思うんですよ。別に技術革新が必要なものではなくて、むしろ社会の中の負をなんとかして解決しようと思って、結果として起きるのがイノベーションですよ。

ということは会社でイノベーションを起こしたいと思ったら、「良質な不」をどう見つけるかです。良質な不を見つけるためには、目の数は多ければ多いほどいい。だから全社員が鵜の目鷹の目で、「どこかに良い不はないか」と探すことが重要。ということは、全社員参加のイノベーションだということになります。

井上:そうですよね。

野田:(テレビドラマ『踊る大捜査線』の)湾岸署の青島刑事だって、「事件は会議室で起こっているんじゃない」って言ったじゃないですか。イノベーションも会議室では起こらない、現場で起こる。だから「私の仕事ではない」とその人が言ったことは、職務放棄だと僕は思っている。

井上:本当にそう思いますね。あとよく新規事業開発系の部署を作った時に、必ずしもそこからは良いものが出てこないのは、野田先生が今おっしゃってくださったところでしょうね。

ちゃんと専任で考え尽くすこと自体に意味がないとまでは思わないんですけど、逆に現場の生々しい不に触れずに何かが生まれてくることもないとは思いますよね。

野田:ない、ない。僕はリクルートでは新規事業担当フェローという仰々しい肩書きをいただいていましたけど、あれは私が新規事業を作るわけではないんですよ。リクルートの中の人たちの新規事業を、私がお手伝いする役割ですから(笑)。

そういうことだと僕は思っているんですよね。全員が新しいことにチャレンジする会社でないと、良いものは生まれてこないと思う。

カイシャ・トランスフォーメーションの鍵は「私」にある

井上:そのお話をうかがって、あらためてあの5つのコンセプトを思い返してみると、すごくつながりますね。

大野:KXの議論でも、「このカイシャ・トランスフォーメーションを誰がやるんだ」という話は、もう散々していて。もちろん経営者の影響は大きいので経営者なのかとか、経営企画の担当者なのか、人事なのかみたいなことを議論したんだけれども、「いや、そうじゃないよね」と。

会社と個人の新しい関係を作るためのトランスフォーメーションなので、KXの行動指針は「私からはじまる、KX」。つまり社員一人ひとりが自分から始めるんだというクレドを掲げています。

私が変われば周りの人が変わって、みんなが変われば会社も変わっていく。で、会社が変われば社会も変わっていく。実はKXは社長とか経営企画とか人事の人がインプットして「よし、うちもKXするぞ」ではなく、この「私」から始めることが大事なんです。

社会的ムーブメントと言っているのは、一人ひとりがKXをし始めることが究極的な目標というか。もしかするとその一人ひとりのうちの1人は新入社員かもしれないし、工場の社員かもしれないし、もしかすると社長かもしれない。

みんながそれに気がついて、みんなでKXが始まると、きっと会社も変わり始める。けっこう抽象度の高い話ではあるんだけど(笑)。「私からはじまる」、みんなが当事者としてこのテーマに取り組むことを、ぜひ広めていきたい。それが僕たちの思いです。

「そうありたい」という願望と実行のギャップ

井上:研究されているみなさんから言うと、「自分たち一人ひとりがまず主体的にどんどん物事を作っていくんだ」みたいな意識の会社はどれくらいある感覚ですか?

豊田:実態は多くないんじゃないですかね。さっき個人のデータで3割はプラスで、でも7割の人たちは……それは会社の比率とイコールではないですけれども、少なくともそれぐらいの比率の会社は、個人が中心だと思っていないのは間違いないでしょうし。会社の数で言ったら、おそらく比率的にはもっと少ない。

井上:そうありたいと思っている経営者の方や人事の方、責任者の方はどのくらいいるんですかね。「そうありたい」人は、もうちょっといる気はするんですけどね。

豊田:頭で「ありたい」と思ってる方は意外とたくさんいる気もしますけど、野田さんどうですか。

野田:サイボウズさんなんか、間違いなくそうでしょ。我々がいろいろと調査研究させていただいた会社さん、ヤッホーブルーイングだとかは経営者も社員も信じているわけですよ。だから、ぜんぜんゼロなんかじゃない。だけど、やり方がわからない人はけっこういっぱいいるでしょうね。

井上:そうかもしれないですね。

野田:まだまだ新しい会社の姿、社員が主語の会社が理解できない。例えば「うちは採用とは言わないぞ」と経営者が宣言するようなことだから、難しいわけですよ。採用と呼ばずに「集いあい」と言うぞ、みたいな話になってしまうわけで(笑)。それはなかなかハードルが高いですよね。

ただね、だんだんそういう会社が当たり前にはなっていくと僕は思っているんです。Googleはけっこうそれに近いことを考えている。もちろん完璧ではないけど、「計画を立てるとか上から浸透させるとか言っているから、会社の成長が阻害されるんだ」とラリー・ペイジも言っていたわけですよね。

なので思想的には浸透しつつある。けど、まだやり方のデファクトスタンダード(事実上の標準)は決まってないし、やろうと思っても第一歩が進めない会社はいっぱいあると思いますね。

現場の主体性を引き出す難しさ

井上:確かに、「やり方がわからない」は思いますね。こういうテーマではないですが、よく僕らもワークショップをやって、経営者の方にQ&Aでいろいろお話をいただいたり、ご相談をいただく中で、よく出るのが……たぶん経営者の方々は、本気で現場のみんなが主体的に動いてほしいと思ったり、どんどん積極的に勉強してほしいとやっている。

そういう場の提供をやってほしい気持ちはあるんですよね。ただ、なかなかやってくれないので「なんでやらないんだ!」となる(笑)。僕自身も、自分でもそんなところがあるような気がするんですけど。……あっ、うちはみんなすごく主体的に動いていますから、経営者JPではそんなことは言いませんけどね(笑)。そういう話はよく出ますね。

野田:それは本当に多いと思います。ここにいらっしゃる方は経営者の方々、もしくはその志向性のある方だと思うのであえて言うと、「みんなにやってもらいたい」と言いながらも、心の底のどこかで信じていなかったり、「本当に任せきって大丈夫か」と思っていたりすると、社員はものすごく敏感に察知するので、結果やらなくなってしまうんですよ。

なのですごく難しいと思うんですよね。だからこそ僕らは、上からでなくて職場からやる癖をつけていこう、と思っていたわけですけどね。

井上:なるほど。いや、これはおもしろいな。

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