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中小ベンチャー企業のための「人的資本経営」の本質(全3記事)

中小企業が「人的資本経営」にすぐに手を出してはいけない理由 開示項目に踊らされない“自社ならでは”の経営戦略の立て方 

白潟総合研究所株式会社と株式会社オトバンク共催のイベントの模様をお届けします。テーマは「中小ベンチャー企業のための『人的資本経営』の本質」。「人」を中心とした経営で会社を伸ばすにはどうすればいいのか、特に中小ベンチャー企業で人的資本経営を行っていくためのポイントが解説されました。本記事では、自社独自の「人的資本」の見つけ方について語られました。

「人」中心の経営で会社を伸ばすキモ

石川哲也氏(以下、石川):それ(前段のお話)を踏まえた上で「『人』中心の経営で会社を伸ばすキモとは?」というところでお話しさせていただけたらと思います。これは当然10分で語りきれないところがあるので、超大事な部分だけ押さえていきます。

まず最初、本当に根っこのキモのキモの部分だけ一緒に見ていけたらと思うんですが、「『人』中心の経営で会社を伸ばすキモとは?」。この市場環境と、この資本の特性を踏まえた上で、それでも人中心でいくんだと。白潟総研もそうです。そこには論理性の飛躍したところで「人が好きなので、人中心でやっていく」という我々経営陣の個性があって、だからその意思決定をしてますが。

そうした意思決定した上で、その上で本当のキモって何なんだというところでいくと、どういう「資本」がその会社で価値を発揮するか。これって実は、会社によってぜんぜん違います。だからこそ「模倣が異常に難しい」という特性を得ることができるんですよね。

ここに関しては、他社の真似をするというのは……参考にはどんどんして学んでいくべきですが、自社独自の資本の特性・特徴というのを定義し、押さえて見つけていくという、ここに本当の本当のキモがあります。

それを見つけられない間は、見つけるのを急ぐよりも、じっくり「(自社の特性は)何だ?」って考えていき、どちらかというと気づいたり発見したり、再発見ってイメージですかね。「やっぱここだったんだな」「あ、そうか。ここだったのか」という、気づきを得るというところに向けて探求し続けるのが正解になっていくかと思います。

それを得るまでは、人的資本経営というのはすぐに手を出すべきじゃないというのが我々の結論です。無理に「人的資本、人的資本」と考えるよりも、人的資本は大事にしながら、本当のところの自社にとっての価値が発揮される資本は何なんだろうと。その探求をまずじっくり始めるべきです。

「誰にとって良い会社なのか」を考える

石川:それを考えていく時に、どんな観点から考えていけばいいかというと、1つが自社の戦略の面です。そもそも自社がいる業界特有の特性があります。さらに自社でやっていく業務の特性もあります。その中でどんなふうに他社との違いを出していってるのか。このあたり「などなど」ってありますが、いろんな観点からどういう戦略を描くべきかというところ。

さらに組織の観点。経営チームの特性、特に中小ベンチャー企業は、経営者・経営チームの哲学・思想にものすごく強く影響を受けます。むしろ、そここそが自社の人的資本の根っこになるところだったりするので、ここはじっくり探っていきます。

今いる社員の特性や組織課題。ここに関しては「などなど」の中で自社の採用力とか、企業文化も含めた中で、「自社は今どんな組織なんだろうな」「どんな戦略なんだろうな」というのを考えていきます。

この戦略・組織って当然ですけど、自社の大事にしていきたいこと……存在意義、理念、パーパス、ミッションやビジョンによって、どういう戦略・組織であるべきかが決まってきます。そのあたりを踏まえた上で、自社ではどんな人材を集めるべきなんだろうか。そしてその人材に、資本が価値を生むのは行動なので、どんな行動をしてもらえばいいのかというところを考えていきます。

これを考えて見つかった時に、その人的資本をそっちの方向に経営として動かしていく中で、自社独自の人的資本は確立されていきます。これこそが究極の人的資本の無形資産になります。

さらにもうちょっと考えていきやすいように整理すると、「自社の戦略・組織への深い洞察」ですよね。これを踏まえた上で、どんな人材を集めるのかは、人材採用マターになります。「誰を採用するのか」という以上に、「誰にとって良い会社なのか」というのを考えていきます。

「自社独自の人的資本」を探究する

石川:続いて、どんな行動をとってもらえばいいのっていうのは、人的資本を成長させていく能力開発マターになります。「どんな人材になってほしいのか」、あるいはその人材の方向性や資本の成長を究極的に決定づけるのはミドルマネージャーの質なので、「どんなマネジメントをするのか」というのを考えていき、自社独自の人的資本を作り上げていく。

このあたり含めて人的資本経営の超キモは、「自社独自の人的資本は何なのか?」という。この探求にこそキモがある。見つけられたらそこを徹底的に伸ばしていくことによって、究極の競合優位性、模倣難易度が高い人的資本、資産というのが生まれますよというお話でございます。

ここを押さえた上で、それぞれ採用マターのお話と能力開発マターのお話で、どこを押さえていけばいいのかというのをちょろちょろっとご紹介していくと……採用に関しては「採用の失敗を教育・能力開発で取り返すことはできない」という格言を押さえた上で、「本当に自社に合った人材って誰なのか」という探求を徹底的にしていくべきです。

誰が欲しいかではなく、誰だったら自社で幸せに活躍して働けるのかというのを徹底的に探求し、それを言語化し、共感していくことによって、自然と自社に入るべき人材が入ってくるようになります。

そこを踏まえた上で能力開発マターとして考えていくべきは、結局「どんな行動をしてもらうか」というのがキモになるので。戦略・組織の面から最も重要な「行動」。行動は定量的に測れるので、行動を「指標」として見つけ出し設定していきます。

丸井グループの人的資本開示から見る「指標の設定」

石川:これは金融庁が2023年の1月に、人的資本を含めた開示ですごく良い例をまとめてくれてるんですよ。これを見ていった時に、やはり第1番目に出てくる丸井グループですね。この丸井グループの人的資本の開示に関しては、指標の設定が非常にうまくて。そこをちょっと1個、上場企業の事例としてご紹介させていただきます。

丸井さんはもちろん上場企業なので、きちんといろんな開示項目に沿って開示をしているんですが、その中でも着目すべきは、この「手挙げの文化」という、どれだけ手を挙げて取り組んだかというところの社員の比率です。この行動を取ってます。

さらに「職種異動し、その後成長を実感した割合」も取っています。2012〜2013年ぐらいから、この2つの指標を丸井さんは大事にしています。

それまでの丸井さんにとっては、オペレーション。いかに店舗をしっかり回すかが大事だったんですが、そこから「積極的に自ら考え、一緒に創造・工夫していく社員がものすごく重要だよね」という結論に達したというところで。

そこに合わせて、何の行動の指標がうちの人的資本を考えたときに大事なんだろうかっていうところで、「手挙げの文化」と「職種移動とそこでの成長実感」というのを追い続けています。能力開発の面で、何を指標にするのかがうまい例だと、本当に各界で絶賛されているような事例でございます。1つ事例として見ていただけると、おもしろいんじゃないかなと思います。

社員にしてほしい「行動」を探究・開示する

石川:あとは中小ベンチャー企業の事例で、白潟総研の事例を軽くご紹介させていただくと……うちは外に開示する感じで、誰でも見れるカタチというよりは、社員と求職者に対して開示をしています。

2025年9月末までの中期経営ビジョンがあります。そこを考えた時に、この「3年間、徹底実践する3大決意」というのが、白潟総研の全社員にどう行動してほしいかという3つの指標になっています。

1つ目は「3倍接触」。白潟総研は“ファン社長”(白潟総研のファンの社長)のためだけに存在する会社になろうと決めたので、ファン作りに当たって、ファン社長に対してどれくらい接触できる人材になったかというのは非常に重要な指標です。毎年毎年3倍の接触量を確保できるような行動指標を決めて、その達成率をずっと追ってます。

さらにファン社長のデータに命をかけているので、HubSpotというCRMを使ってますが、そこに向けての「即日入力」と、それを使った「毎日の活用」というのを3大決意として、人的資本のデータ活用というところで置いてます。

さらに「全員がコンサルタントとして白潟総研らしい生き物になろう」というところで、13項目。ここにあるんですが、「コンサルタントという生き物」というこの13項目を達成した社員がどれくらいいるかを、ずっと追っかけてます。この3つがうちにとっての、自社の戦略・組織面から見た時の、最も重要な指標です。

こういうカタチで、人的資本経営は「開示しよう」とか「いろんな項目があるよね」というところに踊らされるというよりは、「本当の本当に自社にとってどんな人材が大事なのか」、そして「その人材にどういう行動してもらえたらいいの」という探求ですね。それを見つけられたら、中期人材育成計画、人的資本計画でもいいと思うんです。

そういった「どういうふうに人的資本を伸ばしていくか」という定量指標を追っていく計画を立てて、それを経営の中核において進めていくというのが、ポイントになるのかなと思います。

すべての企業で大事になる「継続学習していく文化」

石川:以上が最初、第1講座として私からお伝えさせていただきたい人的資本の項目でございました。

上田さんにパスしていくに当たって、最後1個だけ、鉄板と言える指標をお伝えします。

人的資本の特性の4つの中で、やはり一番でかいのは「勝手に成長する」ことだと思うんですね。なので人的資本の1つの指標として「継続学習していく文化」というのは、人的資本を中心に置く以上、すべての企業で大事になる項目になるかと思います。そのあたりを踏まえて上田さんにお話しいただけたらと思います。上田さんすいません、お願いいたします。

上田渉氏(以下、上田):石川さん、どうもありがとうございました。

ではさっそく私のほうからのプレゼンテーションをさせていただきたいと思います。第2講座は「『人的資本』の伸ばし方」でお話ししていければと思います。

オーディオブックを知らない方もいらっしゃると思いますので、オーディオブックも含めた自己紹介をさせていただきます。そのあとに本題に入っていくといった流れでいきたいと思います。

私けっこう早口なんですけれども、ふだんオーディオブックを3倍速で聞いておりまして、非常に早く聞いてしゃべるという癖がついてしまったようで。重要なところではなるべくゆっくりしゃべって、サクッと飛ばしたいところは早口になるかたちで進めていきたいなと思っております。よろしくお願いいたします。

失明してしまった祖父の影響で、「聞く」文化を広げる会社を立ち上げ

上田:最初に簡単に自己紹介になるんですけれども、今から19年ぐらい前にオトバンクという会社を作らせていただき、今までやってきております。大学3年生の時に会社を作りました。

今この「audiobook.jp」というサービスを主に運営しておりまして、日本で最大のオーディオブックのサービスでございまして、今現在300万人弱の会員数がいます。タイトル数も日本で一番多くのビジネス書、日本語書籍のラインナップがあり、日本で一番大きなサービスに成長しております。

なぜ私がオトバンクという会社を創業したのかというと、この写真の祖父の影響です。この写真ではニコニコしてるんですが、実はほとんど目が見えてないんですね。緑内障で失明してしまって、ほとんど見えていないんです。そういった目が不自由な方のために何かできないかなと考えまして、それで大学3年生の時に(会社を立ち上げました)。

最初NPOを立ち上げようと思ったんですが、NPOだと身の回りの方しか助けられないという問題がありました。

「聞く」文化自体を日本に広げることによって、ご家族の高齢者の人とか目が不自由な方とか、そういった方にオーディオブックを聞く文化が届いて、そこからそういった方が本が読めるといったような社会にしたいということで、その「聞く」文化を広げる会社組織というかたちで立ち上げました。

なので本日こういった機会をいただきまして、みなさんとお話しできるのは非常にありがたく感じている次第でございます。

「耳のスキマ時間」を活用するオーディオブック

上田:先ほどから何回か言ってましたけれども、オーディオブックっていったい何かといったところ、まだご存じない方もいらっしゃると思うのでサクッとご案内します。

もともとオーディオブックというのは、耳で本を読める、本を音声で聞けるというサービスでございます。具体的には「耳のスキマ時間」を読書とか学びとかエンターテイメントに変えるサービスとして、現在デザインされております。

実際まだ聞いたことない方もいらっしゃると思うので、ちょっとデモの音源を再生してみたいと思うんですね。最初、ビジネス書から軽く再生してみます。ビジネス書はナレーターが1人で全部朗読をしてるんですが、途中から1.5倍速、2倍速にスピード上げていきたいと思います。ビジネス書を聞く方はけっこう倍速以上で聞いて、時短で読書するという方が多いです。なのでそのあたりを踏まえて再生してみたいと思います。ではいきます。

……1.5倍にします。……2倍にします。……といった感じで、おそらく「2倍でもまあまあ聞けるな」といった印象だったと思うんですね。個人差はあるんですが、だんだんこの早い音声に人間って慣れていく傾向にありまして。最初は等倍だったのがだんだん早くなっていくかたちで、慣れていく方が多いです。

あとは文芸作品とかになると音楽が入ったり、会話シーンはキャラクターごとに声優が分かれたり、演出がされていくようになります。

「耳のスキマ時間」というのはどういった時間かというと、例えば車を運転している時とか。あとはお料理をしてるとか、お掃除をしてるとか、家事をしている時間ですね。あとは寝る前に聞いてる人とか、運動中。ランニング、ウォーキング、通勤途中ですね。そういった時間に聞くという方もいらっしゃったりします。

あとお風呂の中で聞いてる方もいらっしゃって、要は目と手を使ってるけど、耳が空いてる時間。そういうのを耳のスキマ時間って言うんですが、そういう時間に耳で本を読むという方が増えているところでございます。

おかげさまでテレビでもけっこう取り上げられたりして、話題が広がっております。『WBS(ワールドビジネスサテライト)』に出たり、『がっちり!マンデー』で星野リゾートの星野代表が「車の中で1.5倍速で聞いて、良かった本はあとで本を購入して、付箋を貼ったりして読んでますよ」みたいな話があったりとか。

あと『グッド!モーニング』や『ひるおび』では「耳活」というキーワードで出たりとか、『日曜日の初耳学』で林修先生が「読んでますよ」「よく使ってます」という話をしてくれたり、昨年は流行語大賞にノミネートされるまで広がっています。

今年も大阪府柏原市と包括連携協定を結び、テレビ大阪に出たり。フジテレビの『めざまし8』という番組でオーディオブックが取り上げられたりといったかたちで、引き続きオーディオブックがいろいろと話題になっています。

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