2024.10.21
お互い疑心暗鬼になりがちな、経営企画と事業部の壁 組織に「分断」が生まれる要因と打開策
「高い=売れない」からの逆転の発想(全1記事)
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藤田浩一氏:みなさんこんにちは。株式会社常陸風月堂 代表取締役 藤田浩一です。私たちは茨城県の北部、日立市にあります。日立製作所の創業地でもある日立です。
私たちの会社は社員2名・パート8名の、経営陣を含めても13人名の、とても小さな和菓子屋です。企業理念は「笑顔の連鎖と循環」、私のポリシーは「とりあえずやってみよう!」です。
「笑顔の連鎖と循環」と言われても「何?」と思われると思います。笑顔の連鎖と循環は、私たちが販売するお菓子・サービスでお客さまを笑顔にする。そこで得た利益を生産者や取引業者に還元をし、笑顔になってもらう。そうすることで、私たち常陸風月堂は世の中に貢献することができる。
私たちに関わってくださる方々が笑顔になってもらうことで、私たちも笑顔になってもらおうと考え、この循環を世界中に広げるために日々がんばっています。
前置きが長くなってしまいましたが、本日みなさんにお話しすることは3つ。「茨城の栗への愛」「1万円の価格設定は社会課題解決方法」「きちんと伝えれば受け入れてもらえる」の3つです。
1つ目、「茨城の栗への愛」。私は今でも鮮明に覚えている、とても幸せな1日がありました。それは3歳の頃、母親・祖母とお出かけをした1日です。
末っ子長男の私にとっては甘えが許されるワクワクした日で、幼い私が何かをするだけで、周りの大好きな人たちが笑顔になってくれました。そんな幸せな1日で、私が「おいしい」と食べていたのが栗です。私は3歳の頃から栗が大好きになりました。
幸いなことに、私が住む茨城県は栗の栽培面積・生産量で日本一の県です。生産量は約3,800トン、全国シェアの約26パーセントを占めています。収穫時期によって品種が変わり、味も変化します。代表的な品種は12品種、細かなものまで含めると20品種まで増えます。地元の栗好きの方々は、品種によって蒸したり、茹でたり、焼いたりと食べ方を変えて楽しんでいます。
また、茨城県は栗に関する歴史も深く、古く、ここに書いてあります「三栗の 那賀に向へる 曝井の 絶えず通はむ そこに妻もが」と、日本最古の歌集『万葉集』にも、この茨城の地での栗の句が詠まれていました。1,000年以上の栗の歴史を持つことも、日本一と言ってもいいと考えています。
「三栗」とあるように、この写真にあるように、1つのイガの中に3つ実がなるのが一般的です。ですが、この1,000年にわたる歴史を覆す栗が茨城県には存在します。その名も「飯沼栗」。この飯沼栗は写真にあるように、1つのイガに1つしか実をつけません。その大きさは500円玉をはるかに上回ります。
そしてもう1つの大きな特徴は、2週間低温熟成をし、栗の甘みを最大限引き出して出荷される点です。この飯沼栗、全国でも10軒の農家さん、飯沼栗組合さんでしか生産できず、その収穫量は年間約40トン、全国の収穫量の0.2パーセントしかありません。また、栗としては初めて政府の地域財産、GI認証を取得。茨城県の誇る、希少価値のとても高いブランド栗です。私はこの栗を食べて大ファンになりました。
そんな大好きな飯沼栗で作った栗蒸し羊羹が「万羊羹」。1本1万円の日本一高級な羊羹です。私たちみたいな和菓子屋が、なぜ1万円という価格にしたのか。それは解決したい2つの課題があったからです。
1つ目は栗農家さんの問題です。農家さんは価格を自ら決めることができません。市場に価格を左右されて、需要と供給のバランスによって価格が決定します。ある年では品質が向上、収穫量も増えているのにかかわらず市場価格が下落し、収入が2,000万円も減った年があったそうです。
「価格が決められず収入が不安定な生活では生活をするだけで精いっぱいで、子どもたちの教育資金まで回すお金がない」と農家さんは嘆いていました。「そんな生活を子どもたちにさせたくない」ともおっしゃっています。
もう1つの課題は、和菓子屋の廃業による減少です。弊社でもこれまではそうでしたが、「和菓子店では高い商品は売れない。値上げをしたらダメ。10円値上げをしたら売れなくなってしまう。お客さまが来なくなってしまう」という呪いにかかっています。
原材料・人件費が高騰をしているのにもかかわらず、適正な価格転嫁をできない。結果、利益を上げるどころか新商品の投資を行うこともできない状況があったりします。栗農家さん、和菓子屋さんともに利益を上げにくい状況では後継者は育たず、将来的にはどちらか一方が廃業してしまうだけで生産することができなくなってしまい、消費者の方をがっかりさせてしまいます。
そこで私は考えました。「高付加価値商品を作り、利益率を高め、その利益で農家さんから市場価格に左右されない定価買い付けをすることで、栗農家さんの生活を助けることができるのではないか」と。利益を確保するためには、高級でも買ってもらう必要があります。
それにはどうしたらいいのか? そこで知り合いのお客さまのニーズを調査しました。身近な人たちのニーズを調査したところ、「茨城県の県産品、洗練されたデザイン、この地にまつわるストーリーが加味された贈答品が欲しい」とのことでした。贈答品の価格帯は5,000円~1万円。
「飯沼栗を使えばこのニーズに応えることができる」と確信をし、そこで味への追求が始まりました。試行錯誤を繰り返していくうちに、栗にわずかに渋皮を残すことで、味に奥行きが出ることを知ります。機械できれいにむいてしまうとできない味です。
弊社の強みは、機械ではできない味を手作りで追求すること。「手で皮をむく方法であれば、飯沼栗の味を最大限引き出すことができる」。そう考え、飯沼栗を一つひとつ手で皮をわずかに残しながら、自社の秘伝の味付けを行い、他にはない飯沼栗の味を最大限引き出すことに成功しました。
そして、贅沢にも11粒を1本の羊羹に使い、栗が壊れないように一つひとつ丁寧に手で作り、飯沼栗のおいしさを最大限引き出した製品を仕上げました。そして完成した商品は、栗の含有量が羊羹の約80パーセント。一般的な栗蒸し羊羹の約倍の含有量の栗蒸し羊羹になりました。
次はデザインです。幸いにも、イベントで知り合ったデザインチームと一緒に桐箱を使用した、洗練されたパッケージデザインの制作ができることになり、そして試行錯誤を繰り返した上、出来上がったのがこちらのパッケージデザインです。販売後のことになるのですが、このパッケージは世界的なパッケージアワードである「Pentawards」にて銀賞を受賞することになります。
プロダクトとしてすべてそろっても、一番困ったのは価格です。販売価格をどうするのか悩んでいました。知り合いの方が、「流通に乗せた場合でも利益が出るように」と提案してくれた価格が1万円。
今まで地元密着の弊社では、流通に乗せた場合の利益換算というのを考えたことがなかったので、この金額にはものすごく躊躇しましたが、最終的にはデザインチームにも背中を押され、1本1万円で販売することを決定。これは今までの私たち小さな和菓子店では考えられないぐらいの大きなチャレンジでした。
販売価格が決まったことで、次はネーミングです。「『万葉集』に詠まれた栗の句」「万(よろず)に栗が入っている」「1万円」。その3つの意味を込めて「万羊羹」と名付けました。1本1万円。日本一高級な万羊羹がなぜ受け入れられたのか。それは、「きちんと伝えれば受け入れてもらえる」ということです。
万羊羹は発売1年で800本の売上を記録。これは小さな和菓子屋には大きな実績です。1万円でも売れた理由には、支援してくれた人たちがいたからです。
まず、県のブランド栗を使用していることで行政が支援をしてくれるようになりました。また、広報の一環で活用したクラウドファンディングで、新しいものに興味を持つ人たちに認知が進みました。
また、CAMPFIREで行ったクラウドファンディングが、台湾のクラウドファンディング会社の目に留まり、台湾のzeczecさんというクラウドファンディング会社でもクラウドファンディングを行うことになりました。この台湾でのクラウドファンディングがきっかけで、今、台湾への輸出の話が進んでいます。
そして、かねてから自分が悩んだ時にいつも相談・壁打ちをしてくれる、中小企業を支援してくれる団体「家業イノベーション・ラボ」の関係者の方々が情報を拡散してくれた結果、メディア掲載をしていただけることにつながります。ツギノジダイさんをはじめ、NewsPicks、経営ペディアさんなど、この2年間で10件以上。この挑戦に対する好意的な記事がお客さまをつないでくれました。
これをきっかけに農家さんと和菓子屋さんが注目され、同じ業界の人たちが少しでも意識を変えることができるのであれば、未来は変わると信じています。私は万羊羹で社会課題を解決し、世界中に万羊羹を届けることで笑顔を生み出していきたいと思います。
ご清聴ありがとうございました。
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