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脱! 名ばかり管理職! 管理職が陥る13のジレンマ(全4記事)

雑談はできても、肝心な“業務の情報共有”はされないまま 管理職が陥りがちな「ジレンマ」からの脱却法

大企業・中小企業合わせて、新人以外の層に教育を施している企業は全国で22パーセントというデータが出ています。管理職が育たない理由はどこにあるのか、原因や改善策について、株式会社PDCAの学校 代表取締役の浅井隆志氏が解説します。本記事では、管理職が抱えている「ジレンマ」の正体を明かします。

管理職の役割は“2つのマネジメント”

浅井隆志氏:管理職の仕事をもう少しお話しさせていただきますと、管理職の役割は「業務マネジメント」「人マネジメント」の2方向があります。

リーダーシップやマネジメントを勉強されている方は、非常にご理解いただいていると思いますが、例えば業績の管理、職場づくり、制度作り、売上進捗とか、成果の管理をしていく「管理」の色合いが強い業務マネジメント。

もう1つは、社員ができるようになるように指導する、社員が成長できるように仕事を割り振っていく、モチベーションを与えていくとか、「理念教育」や「態度教育」と言われている、極めて個人のモチベーションの能力・成長に寄与していくマネジメント。この2つがあります。

私は46歳なんですが、私たち世代はとにかく業績が非常に重要でした。なので評価制度も、「どういう行動をとっているか」なんていうのは評価項目にもなかったですし、ただただ純粋に、単純に、成果のみでジャッジをするという背景もあったわけですね。

当然ながらマネジメントも、業務マネジメントメインになってしまっている。今の管理職は悪いというよりは、今までの日本企業がそれで成り立っていたという背景もあるわけですね。

管理職が感じている「13のジレンマ」

管理職が現場でどういうジレンマを味わうのか、実際に私たちPDCAの学校はいろんなアンケートをとったり、僕が管理職の方とお話して感じていることを、「13のジレンマ」という定型の理論・理屈に乗せて少し解説をしていきたいなと思います。

理論・理屈でお話をするというよりは、僕が現場で受け取っている管理職のメッセージを合わせて・乗っけて、理論という1つの雛型でみなさんにお伝えしていきたいなと思っています。

まずは「思考のジレンマ」。「上っ面症候群」は、自分の業務をこなすプレッシャーや、成果を追う行動が多忙を極める中、どうすれば物事の理解を深めることができるのか。みなさんの会社の評価制度を今一度振り返っていただきたいんですが、管理職の方の評価はどうなっておりますでしょうか?

僕はこのあたりも非常に大事だと思っておりまして、評価ですべては解決できると思ってないです。ただ、管理職の評価の蓋を開けてみたら、数字・成果の評価の比重があまりにも大きい会社さんが多いんですね。

こういう中で「指導しろ」「育成しろ」と言ったところで、「結局、それをやったところで自分はどうなるの?」となってしまって、管理職というポジションで仕事をするのが、どうしても上っ面になってしまうということです。

上から降ってきた数字を、とにかく部下に振り分ける

「計画の落とし穴」は、単月目標のクリアや予算達成にフォーカスしがちな状況下で、どうやって未来を見据えて戦略的に計画を立てられるようになるのか。すみません、理屈の話をさせていただくと、正直、中小企業の実態には合わないのは重々承知でお話をします。

まず、事業部長は事業戦略を考えます。部長はそれぞれのセクションに合わせて戦略を落とし込み、課長もそれぞれのチームに落とし込んでと、「事業部の戦略を落とし込んでいく」という役割ポジションがあるわけですね。

それぞれの管理職は戦略・戦術を担当していきますので、それをどうやって達成していくのかを考えて作っていく必要があります。ですが中小企業の実態は、上から降ってきた数字をとにかく部下に割り振って、うまくいってるのか・いってないのか、いってなかったらはっぱをかける、みたいな感じなんですよ。

大事なことは、「組織全体としてこの数字が実現可能かどうか」という検証も、もちろん再考する必要がありますし、それが実現不可能であれば別の手を考えていかなければいけないわけですよね。

ただ、「今ある手のうちで、なんとか数字を作っていく」「現状維持のまま数字を作って成果を上げていく」というところにしか思考がいかないんですね。

本来だったら、「土台が無理だな」という数字であれば、他の打ち手、他の商材、他の売り先、他の市場を探していかなければいけないんですよね。これは管理職が担う部分ではありますが、実際は「数字が降ってきて、それをどうこなすか」ということをしがちになってしまう。

細かい数字だけを追いかけても全体最適は測れない

あとは「分析の迷宮」というところで、KPIマネジメントが広がりつつあります。すでにみなさんもKPIマネジメントをご存知だと思いますが、念のため解説をさせていただきますと、「KGI」と「KPI」があります。

KGIは「Key Goal Indicator」、KPIは「Key Performance Indicator」です。例えて言うなら、KGIは42.195キロのフルマラソンを3時間で走ります。

ではKPIは何かというと、10キロの通過タイム、20キロの通過タイム、30キロの通過タイムを定めておけば、ペースが速いか・遅いかが効果測定できるので、そこでまた新たな手を受けるよねというものです。

これを全体的な仕事の流れや業務フロー・営業フローに落とし込んで、どこがウィークポイントかを探して、対策・立案を講じていきましょうというのがKPIマネジメントです。

簡単に言うと、業務の可視化・見える化に数値を置いていって、行動改善をしていきましょうという考え方です。

KPIマネジメントは非常に大事だなと思っておりますが、あまり細かいところの数字だけ追っかけていっても、全体的な最適化が測れないんですよ。

企業に必要なのは「未来志向の課題解決思考」

難しく言ってしまいましたが、先日ご相談いただいた企業さまの事例をお話しさせていただきます。(従業員数)500名ぐらいの企業で、インサイドセールスと、最終的にお客さまと商談をする部隊とがバラバラで、営業フローを分割している。

問題は何かというと、例えばインサイドセールスを簡単に言うと、コールセンターとかを活用しながらアポを取るような仕事ですよね。

「今はここの数字はいいんだけれども、こっちの成約率が悪い」といった時に考えなければいけないのは、「成約率が悪ければどうやって成約率を上げるのか」という観点と、「そもそものアポの取り方やターゲット、次につなげていくトスアップの仕方の問題もあるよね」という全体最適で考えていかないと、物事はなかなかうまくいかなかったりするわけです。「ここだけ直せばいい」っていう話じゃないですよね。

例えば、僕がちょっと老けてシミが増えてきて、「じゃあシミを取るか」と言っていても、おでこの後退が進んでいたら(シミを取ったところで見た目が)けっこう老けているじゃん、みたいな。だから、全体的にどうなのかも考えなければいけない。

もちろん局所的に分析することは重要なんですが、深みにハマっちゃうパターンもあるよねということです。ここが、KPIマネジメントの弊害と言われているところかなと思います。

目の前の売上や業務だけにとどまらず、未来志向の課題解決思考が非常に大事です。ぜひこれを会社の制度で変えていただきたいんですね。

「言われた数字だけやってればいい」を回避するために

部長の役割・責務は何か、課長の責務は何か。みなさんの会社では、明確に決まっておりますでしょうか? 事業戦略を考えるのは誰ですか? 社長のみですか?

社長の方針をまんま受け止めて実行していくだけの役割なのか、実行して達成していくための施策・対策を考えるのが部長の役割なのかを決めておかないと、「言われた数字だけやってればいいでしょ」という状況になってしまいます。

職務・職域の設定、もしくは評価においてそういう項目を明確にしておく。明確にしておいても、もちろん本人に認知させる必要もあります。例えば、僕がビジネスを考える時は基本的に、「売り物」「売り先」「売り方」の3つ(がポイント)だと思っているんですね。どこかを改善していく、もしくは合わせ技で改善していく。

ビジネスの展開を考えると、「売り物」「売り先」「売り方」の3つのポイントが大事だと思います。

そもそもの今の3つのままでいいのか、他の手はないのか、他の売り先はないのか、他の商材もしくはアップセルやクロスセルのほうがいいんじゃないか? という意見は、どこのポジションで言うべきなのかを伝えておかないと、「自分は言わなくていい」という状況になってしまいます。

ここはやはり、職責や職務設定や評価制度にきちんと盛り込んで認識をさせる。もしくは四半期に1度、課長や部長が主体になって、次の戦略・戦術を考える会議体などを支援していくのが、極めて現実的なやり方かなと思っております。

会社が手放しで何も発信しないで、「うちの課長の部課長陣は、数字はやるんだけど会社を見ないよ」みたいなご相談をよく社長からいただきます。「それは社長が言ってないからでしょ」って、僕は本音でそう思っています。

属人化された情報を可視化するための施策

「現場との関わりの難題」は、現場から離れがちになる傾向がある中で、どうすれば現場の情報や部下の情報を途切れなく入手することができるのか。

現場の関わりというよりは、自分の仕事に専念してしまってコミュニケーション不足になったり、簡単に言うと放置プレーになっちゃっている。現場が部下の状況が理解できていないというのが、実情として一番あるかと思います。

「権限委譲の板挟み」は、情報の多くが属人的で可視化されておらず、管理職だからこそキャッチできる情報を、いかにメンバーに下ろすことができるのかということですね。「情報の多くは属人的」というのは一般社員もそうですし、管理職の方もそうです。

属人的なノウハウや情報は「暗黙知」と言われます。暗黙の中で、自分の中で培われる知識ですよね。チームで力を上げていくために、これをどうやって「形式知」、いわゆるオフィシャルなものにしてくるのかというと、コミュニケーション施策しかないです。

「数字測定のミステリー」ということで、定量的な効果測定ができない場合、定性的なことについてどのようにマネジメントをすれば良いのか。営業社員だったら、効果測定は売上で見ればいいから非常に簡単ですよね。

それから製造業の生産であれば、生産率、欠品率、不良品の率とかで見て取れますが、すべての業務が定量的にできるかというと、なかなか難しい。もちろん、定性的なことを定量的に持っていくテクニックはありますが、どこまでいっても定性的なものも残ってしまう。

ツールを導入したのに、コミュニケーションが活性化しない……

このあたりの温度感をどう整えていくのかということで、だいたい定性的なものを評価する時は、最近では360度評価とか、自己採点・上司の評価・第三者評価の点数の平均点を取るとか、いろんな工夫の仕方があるかなと思います。こういう問題は、コミュニケーションの問題だと思っております。

コロナ禍において、コミュニケーションツールを導入した企業さまがものすごく増えてるんですが、「コミュニケーションが活性化した」という企業さまはぜんぜん増えていないんです。おかしいですね。

「コミュニケーションツールを導入してデジタル化を図ることや、会議やミーティングのあり方の見直し」というところで、コミュニケーションツールは非常に大事ではあると思いますが、そもそもコミュニケーションを取る重要性の認識がないと、どんなにいいツールを導入したところで、結局使うのは人間です。

人間の意識やスキル、知識を変えていかないと、ツールは「仏像を掘って魂宿らず」みたいな状態になってしまうと思っております。

これを機械的にやっていくのであれば、「毎週何曜日の何時から何時で、上下間のコミュニケーションをやってください」とか。それぞれの暗黙知を形式化していく。横軸の情報共有ですね。

「こうやったらうまくいったよ」「こうやったらうまくいかなかったよ」という情報共有を、日頃のコミュニケーションで測っていくのか。(日頃のコミュニケーションではなく)会議やミーティングでやっていくのが、機械的な作り方かなと思います。

雑談はできていても、業務で必要な情報が共有されない

よく、「コミュニケーションどうですか?」と聞くと、「うちはコミュニケーションがすごくよく取れてます」と。蓋を開けてみますと、雑談的なコミュニケーションは取れているんですが、業務上で必要な暗黙知の共有はぜんぜんできてない企業さまがほとんどです。

なので、必要な情報が交換できていることがコミュニケーションの活性化であって、なかよしこよしで「よく飲みに行ってます」と、「コミュニケーションが取れている」というのは、また別軸の話だと思っております。コミュニケーション施策をどうするのか、考えていただきたいと思います。

次に「人間のジレンマ」です。「秩序の謎」は、マネジメント活動そのものが、業務の例外的要素がある中で、部下に対してはどのように秩序をもたらすことができるのか。これはもう本当に難しいですね。管理職の仕事は、例外活動そのものであるという考え方があります。

例外の対比にありますのが、いわゆる「提携業務」と言われているもので、日々のルーティンでこなせるような仕事。ただ、管理職の方はいろんなトラブルやクレームがあったり、「このままじゃ数字がいかないから、次の手を打たなきゃいけないよね」という、定型じゃなく例外的な要素・業務が非常に増えます。

タスクも難易度が高まったり、不確実性の高いお仕事であればあるほど、もちろん例外的要素がすごく増える。だから当然、例外的要素が多い会社さんは、管理統制する範囲を大きくできないということになってきます。

なんでもかんでもルール化すればいいわけではない

部下も含めて、みんながみんな定型業務、例えば一番わかりやすいところであれば、コールセンターはさほど例外的な業務ではないですよね。なので、スーパーバイザーと言われるマネジメント側の1人が、100人くらいのオペレーターを見ることが現実問題可能になってくるわけです。

これが、無形商材の商材の営業やBtoB営業、しかも商材を集めてお客さまによってカスタマイズして提案していくと、ものすごく例外的なことが増えてくるので、管理統制する範囲は狭まってきて、持っても部下3人ぐらいじゃないと目が届かない。こういう状況になってくるわけです。

ただ、組織を作っていくということであれば、基本を守らせていくとか、イレギュラー対応させてはいけないというのは基本なんですが、そもそも管理職はイレギュラー対応ばかりやっている中で、「基本に忠実にせよ」という説得力をどう持たせるのかが難しくなってくる。

「コントロールのパラドックス」というのは、自分の上司が新たなルールなどを押しつけてきた時に、管理職はどうやって統制された無秩序を維持できるのか。この管理職は中間管理職で、板挟み状態になってくるわけですよね。

ある程度柔らかくしているからこそうまくいく部分があるのに、「今度はこれがルールだ」とか言われると、「手間が増えるな」となんだと現場がギャーギャー騒ぐわけじゃないですか。実は、ある程度無秩序だからこそ統制されたいい状況もあるわけですね。

これはちょっと注釈がありまして、チームの状況によって管理を徹底したほうがいいフェーズと、ある程度は手放しで「個人でやり方を考えてやっていいよ」と授けてあげるフェーズで変わってくるんですね。

なので、なんでもかんでもルールやマニュアルを整備すればいいということではなくて、しっかり上役の方と合意形成することが重要かなと思います。

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