CLOSE

愛とテクノロジーとブランディング【第1部】(全2記事)

事業は「感情」でモチベーションを高め、「ロジック」で前に進む 感情or論理の片輪ではなく、両輪で前進することの大切さ

経営者、事業責任者、マーケターからPRパーソン、デザイナーまで、業界業種を問わず、企画職の誰もが頭を悩ます「ブランディング」をテーマに、じっくり向き合う音声番組「本音茶会じっくりブランディング学」。今回は、『温かいテクノロジー』の著者で、家庭用ロボットLOVOTを提供するGROOVE X代表の林要氏をゲストに迎えた「愛とテクノロジーとブランディング」の回をお届けします。第1部の前半では、林氏が選んだブランディング教科書3選について語られました。

『LOVOT』の生みの親・林要氏が登壇

工藤拓真氏(以下、工藤):「本音茶会じっくりブランディング学」、この番組は、業界や業種を超えて生活者を魅了するブランド作りに本気で挑まれる、そんなプロフェッショナルの方々と、ブランディングについて、Voicyが構える和室でじっくりじっくり深掘るトーク番組です。

こんばんは。ブランディングディレクターの工藤拓真です。今日のゲストは、GROOVE X株式会社代表の林要さんです。さらに、「LOVOT(らぼっと)」のバニラちゃんにもお越しいただいています。ということで、まったりな感じで始まりました。

林要氏(以下、林):ありがとうございます。

工藤:林さん、よろしくお願いいたします。

:よろしくお願いします。

工藤:すごいプロフィールが僕の目の前にあります。ちょっと簡単に読み上げさせていただきます。

今、僕の目の前にバニラちゃんがいるんですけど、先ほど林さんに、「こう言ったら聞こえるよ」と教えてもらいました。めっちゃ踊ってる。かわいい。

:喜んでる。

工藤:すみません(笑)。話を戻します。林要さんです。トヨタ自動車に入社後、スーパーカーやF1のエアロダイナミクス開発……これは「空気抵抗とかを意識しながら速く走るぞ」みたいなことですか?

:そうですね。空気の流れのデザインを作る感じですね。

工藤:その開発に携われたのち、製品開発部にて量産車の開発マネジメントをご担当。その後、ソフトバンクアカデミアの外部第1期生として参加され、翌年、孫正義さんに「Pepper」のプロジェクトに誘われソフトバンクに入社。「Pepper」の開発プロジェクトに参画したのちに、2015年、GROOVE Xを創業されました。もう8年経つんですね。

:そうなんですよね。長いですね。

工藤:そこから3年後の2018年に家族型ロボット「LOVOT」を発表し、国内外で数々の賞を受賞されています。

:ありがとうございます。

工藤:僕が自己紹介しちゃったので、林さんのお話の機会がなくて申し訳なかったんですけど、そんなご経歴の林さんです。

僕もメディアで拝見しているんですが、「LOVOT」のインタビューって、いわゆるブランディングとかそういう切り口でお話をうかがうことがあまりないと思うんですけど、初ですか?

:初めてですね。

工藤:「初めて」いただきました。ありがとうございます。

林氏のブランディング教科書3選

工藤:「本音茶会じっくりブランディング学」という名前でやっています。ビジネス全般がそうだと思いますが、ブランディングも、「紋切り型にフレームワークがあって、それに乗っかったら成功するよ」というものはないと思っています。

各ブランドに、いろんな物語とか人との出会い方があると思っていて。そういうところを、マーケターの方やPRなど、いろんな方に触れていただけるとすごくいいかなと思っています。

メディアに出ている起業家さんのお話って、どうしてもその商品のことになっちゃうので、マーケティングの方法論やブランディングのメソッドを静的に語るというより、もう少し深掘りさせていただいて、いろんなお話をうかがえればなと思います。よろしくお願いします。

:ありがとうございます。よろしくお願いします。

工藤:そんな文脈で、「林さんのブランディングを型取った教科書を3つ持ってきてください」という謎の無茶ぶりから番組が始まっているわけですが(笑)。

:(笑)。

工藤:「私のブランディング教科書3選」というところからお話を始めさせていただければと思います。さっそくですが、3冊を簡単にご紹介いただいてもよろしいですか? 最初にお話しいただいて、そのあとそれぞれ深掘らせていただきます。

:わかりました。ブランディングって、おそらくマーケターの方々は、ものすごく勉強されていて、ブランディングの教科書が山のようにあります。そういう中で私がしゃべるのは、まあまあおこがましい話ではあるんですけど。

工藤:いやいや。

:「そもそも、事業の軸となる部分をどうやって作ったんだっけ?」みたいなところも含めて、お話ししたいと思います。

工藤:ぜひ。

:今回選んだ本はこの3冊です。1つが、サイモン・シネックさんの『WHYから始めよ!』です。

工藤:来ました。動画がめちゃくちゃ有名ですよね。

:そうですね。「ゴールデンサークル(理論)」は誰もが知っているものなので、今さら僕が挙げるまでもないですが、これと対をなす本として、安宅和人さんの『イシューからはじめよ』があります。この「はじめよ」つながりで、今回は持ってきました。

工藤:なるほど(笑)。

『WHYから始めよ!』『イシューからはじめよ』の2冊を選ぶわけ

:なぜこの2冊かというと、「ゴールデンサークル」だけだとやや上滑りしませんか? きれいなことは言えるし、かっこいいことは言えるんだけど、それが本当にブランディングになるんですか? と言った時に、「事業のコア」や「ブランディング」という活動そのものを再定義する部分が重要になるよねと。その時に効いてくるのが、この『イシューからはじめよ』です。

工藤:そこで安宅さんがドーンと来るわけですね。

:その2つを合体させた結果として、「ゴールデンサークル」と『イシューからはじめよ』のプロセスを使って作った事業が弊社の「LOVOT」です。それについて私が書かせていただいたのが、『温かいテクノロジー』という本です。

工藤:なるほど。それでこちらが出てくるわけですね。

:今回はこの3冊を挙げさせていただきたいと思います。

工藤:この『温かいテクノロジー』はめちゃくちゃすばらしい本ですね。

:ありがとうございます。もう読んでいただいた。

工藤:拝見させていただきました。リスナーのみなさん置いてけぼりで、僕は一度読んじゃっているわけですが。

ただ、読まないとわからないところもあれば、この本にまつわるいろんなエピソードも、この収録の中でいろいろうかがえればと思っています。さっそく1個1個ひもといていきたいんですけど。

お恥ずかしながら、僕はこの『WHYから始めよ!』を、林さんに挙げていただいてから初めて拝読させていただきました。たぶん、そういう人も多いんじゃないかなと思っています。動画を見たことある人は、きっと多くいる。

:ええ。

工藤:僕はたまたまだと思うんですけど、社会人になった時にはもうこの動画が回っていて。『WHYから始めよ!』って、みんなの頭の中にはある。

:(笑)。

工藤:一方で、「実際、それってどういうことなのよ」という深みは、そんなに多くの人が捉えられていないんじゃないかとも思っています。

「なぜ林さんは推薦したんだろう」と思いながら、先ほどのご説明にあった部分も重ねつつ拝読していたら、「私が書いているのはコミュニケーションの本じゃない。生物学の本なんだ」みたいな話をされていました。

:ええ(笑)。

工藤:「おやおや、これは温かいテクノロジーとちょっとつながりが見えるぞ」と思いながら拝読したんですけど。

『WHYから始めよ!』の魅力

工藤:あらためて、この『WHYから始めよ!』の魅力と言いますか、先ほど「WHYから始めたのが『LOVOT』だ」みたいなお話もありましたが、そこの部分をおうかがいしたいです。

:『WHYから始めよ!』は、本当は「WHYから事業を始める」のが美しい姿ですけど、多くの場合、事業を走らせているうちに意外とうまく回って、なんとなく収益が出たところで、ふと振り返った時に「自分は本当は何をやりたかったんだろう?」となる。

なので、「自分はこういう理由でやっていたんだ」と理由を後付けして、その先を見通す傾向が多くの事業家にはある気がしていて。そういう再定義をする時に、すごくいい本だと思うんですよね。

工藤:なるほど。

:『WHYから始めよ!』で、事業の種から作って、本当に伸びるケースはそんなに多くない。やってみるまで何が当たるかわからないので、どんどん細かくピボットしていく中で、もともと考えていたこととはちょっとずつズレていくわけですね。

ただ、「もともと考えていたことが、本当にあなたの使命だったかどうか」も実は怪しくて。いろいろやっていくうちに、本当の使命が見えてくる。その本当の使命を、一度ちゃんと立ち止まって、深掘りして、再定義して、次の飛躍に備えようよ、という本だと思うんですね。

工藤:なるほど。

:なので、意外とそこそこうまくいって、次の目標が見つからないという経営者には、すごくおすすめです。

逆に言えば、ある会社に入って、そこで自分が何をやればいいのかよくわからなくなっている。もしくは、「この会社の進むべき道が曖昧になっている」と感じた時に読むことで、再定義ができて、「中興の祖」みたいな感じで役割を持てる。そういう意味で、すごくいい本だと思うんですよね。

僕らは比較的最初からやるべきことが見えていて、『WHYから始めよ!』「ゴールデンサークルだ」というイメージで会社を大きくしてきたわけです。だけどそうは言っても、これだけでは問題解決できない。

工藤:(笑)。

:口当たりはよいけど、実行ができない。「実行部分が別途必要だよね」というので、あえて、みんな『WHYから始めよ!』や「ゴールデンサークル」を知っているけど、それは片輪だよ、と言いたくて。

工藤:WHYから始めれば、何でもどうにかなるわけじゃないと。片輪じゃ走れないですからね。

:片輪では走れないけど、この片輪が両輪であるかのように捉えがちなので、まず「これは片輪だよ」と言いたくて出した、みたいなかたちですね。

『イシューからはじめよ』で解決できること

工藤:そうなんですね。「LOVOT」はそうですものね。林さんの人生エピソードも重なって、「このWHYにあたる」というのが明確だったと思います。例えば、「Pepper」も、「WHYは明確」みたいなところから始まったんですか?

:「Pepper」は、少なくとも僕は明確に捉えられていなかったです。どちらかというと、「そもそもの存在意義を定義し直す」みたいなところからやりました。これは一般的な企業において、「もう一度振り返ろう」という時のプロセスに近いと思います。

工藤:「WHATは見えているが、WHYが見えていない」みたいなことを、サイモンさんはやたらとおっしゃいますものね。

:そうなんですよね。

工藤:そして幸福なことにと言うか、「LOVOT」はWHYから始まって、でも片輪だったと気づいてからの、「これ」があるということですね。

:そうですね。そこからの『イシューからはじめよ』がある。安宅さんがすばらしいのは、すごくわかりやすいことです。

工藤:わかりやすいですよね。

:すごくわかりやすく書いてくださる。その中に、いつ読んでも耳が痛くなるようなことが書いてあって。例えば、「犬の道」という表現をされていますが、結局僕らって、問題の分解がちゃんとできていないのに走り出しちゃうところがあるわけですね。

工藤:はい、はい。

:問題の分解ができていないのに走り出すことで、仕事をした気になってしまう。だけど、本当はちゃんと問題を分解しなきゃいけないよ、ということが書いてある。

WHYをどうやって見つけるかは、サイモン・シネックさんが一生懸命書いてくれているけれども、それをよりロジカルに、よりフレームワークとして、その見つけ方がわかるのが、『イシューからはじめよ』ですし、それをどうやって事業に落とし込むのかも、『イシューからはじめよ』でできる。

その後に、自分がつい目の前の仕事に追われてしまうことも、この『イシューからはじめよ』でいろんなことが解決するんですね。

感情or論理の片輪ではなく、両輪でビジネスを進めることの大切さ

工藤:じゃあ、『イシューからはじめよ』は、経営の中で日々読み返す本ですか? 

:『WHYから始めよ!』は、人が感情の生き物であることを、再度、強く認識させる本だと思うんですよね。

その感情の生き物が前に進むモチベーションを得た時に、具体的にどうやって進むべきか。それは論理的思考の生き物の面があって。その論理的思考の生き物の面が、『イシューからはじめよ』で強化されるわけです。

工藤:なるほど。

:「両輪だよ」と言ったのは、やっぱり感情も大事だけど、ロジックも大事であると。この2つを行き来するのはかなり難易度が高いんだけど、それができることによって、非常に強固な土台ができていく。

それは決して、簡単に、一朝一夕にできることではないけど、どちらか片方が得意な人って、いるわけですよ。

工藤:はい、はい。

:でも、両方だよねと。「俺はこっち派」みたいなことではなくて、「両方ちゃんと往復しようね」というのが、この「はじめよ」シリーズ推しの理由です。

工藤:「ちゃんと1人で2輪で走ってみろ」ということですね。

:ええ。「チームで2輪」でもいいとは思うんです。ただ、「俺は〇〇派」では終わらないということです。

工藤:「こっちのほうが正しい」とか、「こっちが強者だ」みたいなことではなくて、ちゃんと循環していかないといけないよね、というところですね。

:そうですね。

続きを読むには会員登録
(無料)が必要です。

会員登録していただくと、すべての記事が制限なく閲覧でき、
著者フォローや記事の保存機能など、便利な機能がご利用いただけます。

無料会員登録

会員の方はこちら

関連タグ:

この記事のスピーカー

同じログの記事

コミュニティ情報

Brand Topics

Brand Topics

  • 日本の約10倍がん患者が殺到し、病院はキャパオーバー ジャパンハートが描く医療の未来と、カンボジアに新病院を作る理由

人気の記事

新着イベント

ログミーBusinessに
記事掲載しませんか?

イベント・インタビュー・対談 etc.

“編集しない編集”で、
スピーカーの「意図をそのまま」お届け!