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「成果」で人を評価する:パフォーマンス研究で再訪する成果主義(全4記事)

1990年台後半の「成果主義」ブームがコロナ禍で再燃 専門家が解説する、時代で変わった仕事の「成果」の定義

ビジネスリサーチラボ主催のセミナーより、職場での「成果主義」をテーマに、ビジネスリサーチラボ 代表取締役の伊達洋駆氏、フェローの黒住嶺氏が登壇した回の模様をお届けします。「成果」とは何を指すのか、「成果」で人を評価することは可能なのか、学術的研究の視点を踏まえながら解説されました。本記事では、今改めて「成果」が注目されている背景について語られました。

改めて考える「成果主義」とは

伊達洋駆氏(以下、伊達):それでは定刻になりましたので、本日のセミナーを始めます。今回は「『成果』で人を評価する:パフォーマンス研究で再訪する成果主義」と題して、1時間にわたってお届けします。

では最初に私からイントロダクションさせてください。まずは自己紹介ですね。株式会社ビジネスリサーチラボ代表取締役の伊達と申します。私はもともと神戸大学大学院経営学研究科で、研究者としてのキャリアを歩んでいました。その途中でビジネスリサーチラボという会社を立ち上げて、現在に至っています。

ビジネスリサーチラボという会社なんですが、研究知見を活用してデータ分析のサービスを提供しています。主な活動領域は人事領域ですね。例えば企業人事向けに組織サーベイや社内データ分析といったサービスを提供しています。あとはHR事業者向けにも、組織サーベイとかアセスメントの開発支援を行ったり、サービス開発に際したコンサルティングを行ったりしています。

私自身、いくつか本も出させていただいています。今年は『60分でわかる!心理的安全性 超入門』という本を、5月の末に出させていただきました。わりと幅広いテーマで情報発信を行っています。それでは、さっそく中身に入っていきたいと思います。

1990年代後半にブームとなった「成果主義」の学術的3要件

伊達:「成果」とは何を指すのか? 「成果」を評価することは可能なのか? どう進めればいいのか。「成果」を評価する際に何に気をつければいいのかというテーマで、本日は1時間お届けしていきます。今日は私1人でずっと話すわけではありません。ビジネスリサーチラボ フェローの黒住も後ほど登壇します。2名体制で本日のセミナーは進めます。

本日ですが、大きく4つのパートに分けて進んでいきます。まず私からのイントロ。そのあとに黒住からの講演。そして私の講演。さらには質疑応答という4つのパートです。質疑応答の時間を設けているので、後ほどまとめて回答したいと思います。

ぜひさらに聞いてみたいこと、疑問に思ったこと、ふだん悩んでいること、素朴な感想でもけっこうですので、気軽にQ&A機能を用いて書き込んでください。こんなことを聞いていいのかなと気にせずに、どんどん書き込んでいただければと思います。

今回のテーマが「成果とその評価」ということなんですが、おそらく人事の領域で「成果とその評価」と言われた時に、一番最初に頭に浮かんでくるのが「成果主義」だと思うんですね。ですので「成果主義」の話から始めたいと思います。

成果主義をリアルタイムで経験した方もいらっしゃるかもしれないんですが、成果主義というのは学術的には、3つの要件があると言われています。

例えば、成果に基づいて賃金を決定する。長期的な成果よりも短期的な成果に重きを置く。さらには労働者間で賃金の差をつける。こういった考え方を持つ諸制度を「成果主義」と呼んでいます。

「成果主義」は1990年代の後半に、非常に多くの企業が導入を進めていった背景があります。成果主義ブームとも言われました。ただ、みなさんご存じかもしれないんですが、2000年代中盤くらいから、「成果主義」は果たしてどうなのかといった批判が増えていきました。

成果主義がうまくいかなかった理由

伊達:現在どうなっているのかというと、成果主義は「うまくいったね」と考えている方は、たぶんそんなに多くはないんじゃないかなと思います。うまくいかなかった理由については、いろんな人がいろんな理由を挙げています。

例えば、賃金の抑制を目的にしたがゆえに、労働者の働きがいが低下したといった理由が挙げられたり、実際に労働者に対して調査を取ってみると、「成果主義」が人事側の思惑とは少し違って、コスト削減やリストラの手段として認識されてしまっているといった、調査結果もあります。

他にもいろんな理由が挙げられているんですが、その中の1つに客観的な成果を評価するのが難しかった点があります。みなさんの仕事はどうでしょうか。成果ってうまく定義できるでしょうか。客観的な基準って定義できるでしょうか。なかなか難しいという方もいらっしゃるかもしれません。

まさに本日はそこに挑みたいと思っています。成果とは何だろうか? そして成果を評価するにはどうしたらいいんだろうかという、非常に難しい問題に挑んでいこうと思います。

そういった背景もありますので、世の中で何か答えが出ている問いではないんですね。なので、今回も答えを提供するようなセミナーというよりは、成果とは何だろうか、どう評価すればいいんだろうかということを、考えるためのヒントを提供できるような時間にできればと思います。

コロナ禍で再び出てきた「成果」重視の考え方

伊達:またご了承いただきたいのですが、本日賃金の問題に対して触れることはありません。賃金は横に置いて議論したいと思います。もちろん賃金の問題が重要な論点であることは理解しています。ただ、そこまで含めてしまうと、話が複雑になり過ぎてしまうので、本日は少し横に置いて議論をしたいと思います。

「成果主義がうまくいかなかった」というお話をさせていただいたんですが、そんな中で、なぜあらためて成果をテーマに挙げているのかということですが、コロナ禍の影響が大きいんですね。コロナ禍でテレワークが普及しました。テレワークが普及すると、お互いの働きぶりを直接見ることができなくなったんですね。じゃあ成果で評価したほうがいいんじゃないかという話が、再び出てくるようになりました。

また、今年取られた調査を見ていくと、昇進を決めるにあたって、年齢や勤続年数よりも、成果や能力を重視すべきだと。ちょっと成果と能力というのはだいぶ人事制度上は違うかとは思うんですが、ただ成果を重視すべきと思っている人が、7割くらいいる。

そういう背景の中で、じゃあ成果って何なのかと考える意義は、一定程度あるかなと考えて、本日セミナーのテーマとして設定させていただきました。では、私からのイントロダクションは以上で終了としまして、黒住にバトンタッチをしたいと思います。では黒住さん、お願いします。

黒住嶺氏(以下、黒住):よろしくお願いします。では、伊達さんからバトンを引き継ぎまして、私から「『成果』はどう捉えるか-パフォーマンス研究による『基準』の紹介-」と題して、発表いたします。

はじめに、簡単に自己紹介させていただきます。あらためまして、黒住嶺と申します。株式会社ビジネスリサーチラボ、フェローを担当しておりまして、こうしたセミナーとかレビューというところで活躍しております。

私の基本的なモットーが、“誰しも”が抱える悩みの解決です。もともと心理学の出身なんですけれども、心理学では、よりケアの必要な方に対する研究が、盛んにおこなわれています。しかし誰しもが日常を送る中で抱えるような問題に関しては、なかなかまだフォローとか、介入しようとするアプローチが少ないのかなと思っております。そういったところに学術研究からアプローチするということをモットーに、こうした場で活躍をしています。

1990年代の「成果」とは「アウトプット」

黒住:さっそくですが、本日のテーマはこのようになっております。大きく分けますと、成果の「基準」に関わる学術研究を紹介するということで、3つのテーマを紹介していこうと思います。先ほど伊達さんから「成果主義」のお話がありましたが、それをどのような視点で見ていけばいいのかという研究を、紹介をしていくような感じで進めていこうと思います。

まずはじめに、パフォーマンス研究の起こりというところで話を始めてまいります。主に1990年代の成果とは、何を指していたかというと、主に「アウトプット」による判断が含まれていたと言えます。いきなり(スライドの)1枚目なんですけど、かなり肝心なポイントだったりしますね。「アウトプット」による判断を行っていたのが、1990年代の特徴だったと。

例えば「職務遂行能力」という研究がございます。この概念、定義は、「特定の期間に特定の行動で生み出された結果」と示されておりまして、例えば今であれば営業の売上成績、実績とか、SNSで広告とか打った時のSNS投稿のフォロワーが増えたとか、ビュワーへのリーチができたかなどが挙げられます。こうしたアウトプット、つまり、成果の中でも、特に実績的なところが含まれていたというのが、1990年代までの最初の成果でした。

「制御できない要素」によるアウトプットの限界

黒住:ただ、こうしたアウトプットでの判断には限界がある、というところが指摘されました。限界とは、「制御できない要素」が含まれているという点でした。この「制御できない要素」というのは、従業員の方にとってどうしようもない要因が含まれてしまうという点ですね。

例えば、こうした例があります。同じ製品の販売を担当する、従業員AさんとBさんがいたとします。どちらも同じものを売っているんですけれども、物価が変動してAさんのほうでは物価が上昇したので、買い控えが起きてしまって、売上につながらなくなってしまった。

一方でBさんのほうは、物価が下がってきたので、ちょっと余裕が出てきて売上が上がった。同じ時代を生きている2人で、この変動が同時に起きることはあまりないと思いますけども、同じ会社の中で従業員の方が、同じような物を売っている中で、時代を比べるとすればこういったことが起きうるかなというところですね。

こうしたことを考えると、同じ結果というのはもちろん会社員の営業としては大事なんだけれども、一方でそこで評価してしまう、また成果としてしまうと、お互いに不公平な評価になってしまうことがありうる、ということですね。こうしたところが、アウトプットの限界ということで指摘されていました。

そうした限界点を受けて、アウトプット代替案を示そうということが、研究の中でも盛んに取り上げられてきました。

企業が「パフォーマンス」に注目するメリット

黒住:そのテーマというのが本日の中心的な部分ですね。「パフォーマンス」という概念になります。この「パフォーマンス」の概要なんですけれども、組織に雇われた従業員が行うことという、少し広い概念にはなるんですが、ほとんど「行動」と同義と指摘されています。

特徴は、制御可能な要因に限定しているところです。アウトプットでは、制御できない部分が含まれているというのにに対して、こちらは制御できる部分に閉じるというところですね。

こちらの図で見ていただくとわかりやすいかなと思うんですが、「パフォーマンス」というのは、従業員が自らできる行動です。対して、その結果がアウトプットです。つまり、パフォーマンスは、結果のちょっと手前の部分ですね。すべて従業員が完結する、示すことに閉じようというかたちで、「パフォーマンス」というものがアウトプットの代わりとして、起きてきた基準ということになります。

こうした「パフォーマンス」に注目する意義なんですけれども、理論的には「介入」が可能となるというところが1つあるかなと思います。必ずしも介入の効果が出るかというところとは別ですが、少なくとも理論的に見ると、介入ができるようになることが1つあるかなと思います。

図として表してみたんですけども、「パフォーマンス」に注目するということは、従業員のパフォーマンス、つまり本人が起こす行動ということになりますので、すべて本人にとってコントロール可能というところに注目することになります。

こういうことを考えると、会社から従業員のパフォーマンスを高めていこうという何らかの施策を打った時に、それを受けて、例えば従業員が工夫をすることで、うまくいったかいかないかを、検証することが可能になります。

もし仮にこれがアウトプットを成果としてしまった場合には、本人がコントロール可能ではない部分も含まれてしまうので、会社の施策に必ずしも効果があったのか、きちんと検証できるかというとそうではない。こうしたことを考えると、従業員本人が制御可能な要因である、「パフォーマンス」に注目するのは、企業側にもメリットがあると言えると思います。

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