2024.10.01
自社の社内情報を未来の“ゴミ”にしないための備え 「情報量が多すぎる」時代がもたらす課題とは?
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坪谷邦生氏(以下、坪谷):では、KPIに行きますね。MBOは哲学で、OKRはそれをインテルが実践した手法でした。じゃあ、KPIは何でしょうか? またイメージしてもらっていいですか。
KPIは「事業成功の鍵を握る指標」です。Keyを直訳すると「鍵」ですね。鍵となるPerformance(性能)のIndicator(指標)のことなんですが、実はいろんな流派があって、人によってKPIを指しているものがけっこうバラバラです。
私も新入社員だった頃は、KPIと言われると「何かの数値目標なんだな」ぐらいに捉えていたのですが、人によってまったく違うことを言ってくるので話が噛み合わないんですよね。「KPIは1個じゃなきゃダメだ」と言う人もいれば、「大量に置け」と言う人もいるし、「KGIがあるんだから売上目標はKPIじゃない」と言われたりもして、すごく混乱したんですよ。
いろいろ調べたんですが、実は調べても答えがなくて。財務省が出している『KPIについての論点の整理』という資料の中でも「多様であり多義的である」と言っているんですね。つまり、今のところ明確な定義はないのです。
ただ、私がコンサルとしていろんな企業に関わらせていただいた中で、この2つを押さえておくとだいたいうまくいく、ということをお伝えしたいと思います。
それがBSC(バランスドスコアカード)流のKPIと、リクルート流のKPIの2つの流派です。だいたいどっちか寄りなので、この2つを押さえておくと混乱なくKPIを捉えやすいんじゃないかなと思っています。
坪谷:BSC流のKPIは、飛行機のコクピットの計器・メーターみたいなものですね。大量にブワーっとメーターが並んでいて、事業の責任者がそれを見ながら運転していくのがバランスドスコア流のKPIで、20個から35個と大量に設定するところが多いです。
あらゆる経営指標が入っていて、売上や利益とかの最終結果も含まれます。経営者が、経営判断に必要な数字を表示するのがBSC流のKPIです。
一方で右側です。今日は(スピーカーに)リクルートの方が3人もいるのでおもしろいんですが、リクルート流のKPI。
最近、この本(『最高の結果を出すKPIマネジメント』)を見られた方も多いんじゃないですかね。ベストセラーになっているんですが、中尾隆一郎さんという私の先輩が書かれた本です。
中尾さんはKPIは「交差点の信号」だと言っています。「赤だから止まる」「青だから進んでいい」「黄色だから気をつけろ」と、進んでいいのか・止まるべきなのかが、全員ひと目でわかるもの。
リクルート流KPIは1個だけです。「2つ以上あるものはKPIではない」と、中尾さんは言い切っています。鍵となる先行指標なので、売上や利益などの最終結果は含まないとしています。結果目標に到達するための先行指標として、信号を立てるのがリクルート流のKPIです。
バランスドスコアカード(BSC)のKPIの例も書いてきたのですが、今日は広瀬さんがいらっしゃるので、具体のところはお任せしてここは飛ばします。
坪谷:あなたの会社の目標管理はうまくいっていますか? どうでしょう。(個別には)聞きませんが、頭に思い浮かべてみてください。
書籍を執筆するために調査したのですが、「うまくいっている」方は24パーセントで、「うまくいっていない」が27パーセントでした。
24パーセントと27パーセントの方、どちらにも「なんでそう思うんですか?」と聞きました。理由を出しますが、うまくいっている人の理由がこちらです。見える化された環境と、上司の適切な支援のもと目標に集中しているので、うまくいっているという状況のようです。
左側に要素を整理していますが、色が濃いところがたくさん出た意見で、薄いところがあまり出ていない意見です。成果や仕事、目標、支援、フィードバック、などについてのコメントが多く出ていました。
また追跡、集計が容易でいつでも確認できるなど、「見える化」が進んでいるというのもうまくいっている人たちの理由でした。
おもしろかったのは一番下で、評価や報酬に関して言及している人がいなかった。うまくいっているという人は、評価や報酬の話をしないとわかりました。
一方でうまくいかない理由を見てみましょう。形骸化した仕組みと不明瞭な状況の中、上司と評価に不信感をもち、表面的な低い目標を掲げているというのが読み取れました。
成果について話をしている人がいなかった。アシスト、支援の仕方について話をしている人もいなかった。でも、上司への不信感や文句はかなり多かったです。悲しいですね。
評価や報酬について、「評価基準が曖昧で不公平感がある」のような、評価に対する言及もとても多かったです。目標を達成率で評価されてしまうから、低い目標をあえて立てていると明言されている方も多かったですね。
これが、うまくいっていない人の特徴ですね。このあたり、みなさんとこの後じっくり話したいところです。
坪谷:最後の質問です。目標管理がうまくいっていない話をしてきましたけど、目指すべき理想はどんな状態でしょう。ちょっと考えを巡らせてみてもらっていいですか?
これは五十嵐英憲さんという方が書いた『目標管理の本質』という本に書かれている内容です。私がリクルートマネジメントソリューションズでコンサルタントになったばかりの時に、「まずこれで勉強しなさい」と上司に渡された本です。
当時、目標管理について考える人にとっての教科書がこれでした。パナソニックやキリンビールなどの管理職の人たちを相手に、目標管理をインストールし続けてきたのが五十嵐先生です。五十嵐先生の主張は、2000年頃から変わっていませんが、今読まれても現代の皆さんが感じている課題がそのまま書かれていて驚かれると思います。
当時、私が読んで「まさにこれだ!」と思った図がこの4象限です。縦軸が「業績向上の重視」、横軸が「人間性尊重の重視」。
業績向上を重視しているけれども人間性を尊重しないというのが、左上の「ノルマ管理型」。おそらくこれが、多くの企業が陥る目標管理の失敗です。「業績向上の仕組みだ」という誤解、先ほどのツールとしてのMBOという誤解ですよね。
急成長期やバブル期は、高い目標を掲げて「そこに行け」でも実際に伸びるのでいいんですよ。ただ、成長期以外には機能せず、低成長期には疲弊組織になっていきます。やれどもやれども絶対に達成しないノルマを抱えて、人間性を尊重されないまま追い続けると疲弊組織になるのは当たり前です。
その反省からか、最近よく見るのは右下の「人間性偏重型」。人間性は尊重するが、業績を重視しない状態ですね。
坪谷:「ノルマ管理型」に陥っている会社に対して、管理職研修をするわけです。「メンバーの意見を聞くこと」「傾聴が大事だ」「心理的安全性だ」と教えられるので、真面目な人ほどこちらに偏るんです。
部下の言うことをただ聞く。自己目標を立てさせて、それを是として進めてしまう。ひたすら傾聴して、知恵創造や挑戦がなくなる。責任が放棄されて、権利のみが主張される“ぬるま湯組織”になっていく。マネジメント逃避の目標管理が「人間性偏重型」です。これが、最近よく見られる失敗ですね。
五十嵐先生は、業績実現と人間性成長の両方を同時実現した右上であるべきだと書いているのですが、これを「葛藤克服型」と命名されたのは、すばらしいと思います。
同時実現って難しいんですよ。そんなに簡単なことじゃないので、絶対に葛藤があるわけです。本来目指すべき目標管理、業績向上と人間性尊重を統合するために生じる葛藤を克服する。葛藤を克服しないと、同時実現はできないですね。
「目標管理、うまくいっていますか?」という話をいろんな企業でさせていただくんですが、だいたい「部署による」「マネージャーによる」という言葉が出てくるんですね。葛藤克服を本気でしようとしている、誰か特定の「個人」が担保しているわけですよ。
メンバーの幸せも業績も、本気で自分が達成しようと思って葛藤に挑んでいるマネージャー・リーダーのいるところはうまくいっているけれども、そうじゃないところはうまくいっていない。
これが「葛藤克服型」ですね。非常に難しいけれども、実はここがマネージャーとして一番やりがいのある領域なんじゃないかなと思っております。
坪谷:左下は、業績向上も見ていないし人間性も尊重していない「形式重視型」。ひょっとしたら、「こんなのありえるのか?」と思われるかもしれないですけど、コンサルをしていると残念ながら多く見られますね。
「形式重視型」は最悪の目標管理です。形式的に行われることのみが目的。冷めた空気が蔓延。余計な仕事が増える。“ゾンビ目標”が量産される。無気力組織になる。これがなぜ起きるのかというと、人事が真面目な時に起こるんですよ。
おそらく経営者は葛藤克服を目指しているので、それを目指して「仕組みを入れたい」と言うわけです。その時に人事部門の人が、手段だけを作ること・型を作ることが目的だと履き違えてしまって、どこかのコンサル会社に頼んだり、ただ何かのツールを入れたりして、パンフレットを刷って説明会をやる。
結局はまったく現場に寄り添っていないため、使えない枠組みを入れてしまし、ただただゾンビ目標が増えていく……。実はそんな実態が、かなり多いのです。
坪谷:ドラッカーの『マネジメント』という本にはこう書いてあります。「組織が必要としているものは、個の強みと責任を全開し、全員のビジョンと活動を共通の目的に向けて方向づけ、チームワークを実現し、個の目標と共同の利益を調和させるマネジメントの原則である」。これはちょっと難しいので、私なりに捉え直すとこんな感じです。
私は「個と組織×主観と客観」で捉えようとしています。主観と客観の4象限を目標設定によって統合・方向づけて、スパイラルアップさせる。全開させることこそが、真のMBOだと考えています。今日は中身まで説明するお時間がないんですが、ご興味があればぜひ本を読んでみてください。
概念だけでは使えないと思うので、目標設定ワークシート「MOK4」というものを作ってみました。こちらは本を読まれていなくてもダウンロードして使えますので、よかったら試してみてください。
個の主観・夢、個の客観・強みを活かして、組織の客観・業績を上げることで、組織の主観・使命が叶っていくというスパイラルを、どう起こして統合していくかというシートになります。
私がお伝えしたかったことはここまでですね。人事とは「人を生かして事をなす」ことだと思っております。まずはあなたが、自分自身を生かすところからはじまります。ということで、ありがとうございました。
加藤:ありがとうございます。
加藤:非常に濃い中身をスピーディに話していただいたので、みなさんもいろいろ聞きたいことがあるとは思うんですが、まずは酒井さん、意見やご質問、感想はありますか?
酒井:私たちの会社は、さっきの1、2、3、4で言うと“5番”の「葛藤型」です。おっしゃるとおり、葛藤克服型としてきちんと成り立ってるところもあれば、成長期においてノルマをきちんと管理しながら進んできた中で、行ったり来たりしてるかなと思ってます。
加藤:葛藤型というのは、一番上だけれども克服はまだしてないという感じですか?
酒井:そうです。私が勝手に作りました(笑)。
加藤:なるほど(笑)。
酒井:私が目標管理において伝えられることがあるとすれば、「何の目標にこだわりますか?」という決めのところと、「決めたものをどういうふうに運用しますか?」というところがセットだと思っています。
当然ながら私たちも、MBOやOKRなど、得手不得手あれど、いろんな方を迎え入れて会話しています。それが会社で根付くかどうかに関して言うと、何の目標にこだわるかや、運用の仕方まで含めて認識合わせができてるかどうかだと思っています。
今回のように体系立ててお聞きすることによって、「自分たちはどこにこだわるのか」ということを、あらためて考えたいと思いました。
加藤:ありがとうございます。
坪谷:その前に、ちょっとだけ今のに被せてもいいですか?
加藤:どうぞどうぞ、もちろん。いくらでも被せてください。
坪谷:ありがとうございます。ドラッカーも、『Measure What Matters』のジョン・ドーアも、「集中(Focus)が一番のポイントだ」と言ってますが、まさに酒井さんがおっしゃったとおり、どこに集中するのかを「指し示す」ことが肝要だなと私も思ってます。
コクピット型のKPIって「指し示す前」だと思うんですよ。「さあ、その中からどれを選びますか?」というのを判断する意思決定者が必要で、決めたあとは指し示して集中しないといけないということが、おそらく論点になるだろうなと思います。
酒井:リクルートにいながらBSCを運用した時にいた人間なので、BSCの話もわかるんです。
BSCって、コクピットとして経営が全体感を捉えるにはとても適してるのですが、それぞれの単位が小さくなればなるほど計測可能なものは何かということがアバウトになっていき、うまくいかないところも出てきます。
ビズリーチに入った当時はBSCを運用してみましたが、中途半端になったこともあったりしたので、ステージや状況によって、何を大事にした上で目標管理をするべきかを決定する必要があるので、おっしゃるとおりどこに集中するのかだと思いますね。
坪谷:ありがとうございます。
坪谷:広瀬さん、すいません。
広瀬:はい、ありがとうございます。いろんな本が出てきたと思うんですが、ぜひ僕が書いた『KPI式PDCA』という本を入れていただければなと思います(笑)。
坪谷:(笑)。
広瀬:リクルート式とBSC、けっこう難しいと思うんですね。たぶんいずれにしても難しいと思うんですけど、KPIの設計はしたほうがいいと思うんですよ。
一般的に「KPIツリー」と言われるものなんですが、KPIツリーを設計して(KPIが)多くなったものが左側だし、この中から1個選んだら右側になる。
みなさんの会社でKPIツリーをバーッと作っていかれて、その中から「右か左か」っていうのはあると思うんですが、ぜひKPIツリーの設計はやっていただきたいなと思います。
宣伝じゃないですけど……その時に、僕の本はたぶん一番簡単だと思います(笑)。このへんの本よりも圧倒的に簡単でわかりやすい本だと思うので、ぜひ参考にしていただければと思います。
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