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ゆるい職場への対処法 〜叱れない上司、増えていませんか?〜(全3記事)

上司は部下に「配慮」はするが「遠慮」はしない 若手が離職する“ゆるい職場”からの脱却法

ワーク・ライフ・バランスの推進や、職場の心理的安全性が高まる一方で、副作用として「部下を叱れない上司」と「権利主張型の部下」が増え、いわゆる“ゆるい職場”になってしまったという声も上がっています。そこで今回は、「元祖イクボス」として講演や研修、現場でのコンサルティングを行っている川島高之氏が、職場改善のヒントを解説します。

課長・部長クラスの“悲痛な叫び”

川島高之氏(以下、川島):冒頭の説明でもありましたように、「『ゆるい』から離職する若手」が増えているので、やはりイクボスのような上司が必要です。

人間って成長したいんですが、みなさんもどうでしょうか。早く帰れるけどのんべんだらりとしているとか、なんかボワンとして終わっちゃったとか、おもしろくないですよね。

人間は前に進んでいるし、困難もある。でも達成感もあるし、チャレンジできる。昨日より自分が高まっている。こういうことで、幸せになり充実するわけでね。ゆるいから離職する若手を減らすためにも、やはりイクボスのような上司が必要です。

上司がイクボスだと業績はいいです。一人ひとりの能力が高まりますし、仕事への成果も高まります。採用がプラスになる、コミュニケーションが活性化されるなど、組織力も強化されます。メンタル不全、あるいは離職率も減ります。こういった理由で、組織の業績も良いということです。

その中でイクボスの講演をやったり、あるいは全国でダイバーシティに関するいろんなイベントに出ていると、去年ぐらいからこういう言葉が多く聞こえてきました。

きれいごとがいっぱいありますよね。はっきり言ってきれいごとです。きれいごとというか、単なる言葉ですね。もう、こういうのはいいと。現場って、そんな生易しいもんでもないんだよ。

人はそんなに合理的に動かないし、あるいは権利主張型が増えている。でも、部下を叱れない。「どうすればいいのか?」という、課長、部長、役員の特に課長や部長クラスの悲痛な叫びがすごく耳に入ってきています。

今日の参加者は、人事部でダイバー系の方が多いんじゃないかなと思います。現場は疲弊しています。課長、部長さんたちは、この言葉はもういいんです。

上司として意識してきた5つのこと

川島:まだまだ浸透させなきゃいけないものもありますが、具体的にどうしたらいいかという経験値・経験談をしっかりと伝えられる、あるいは学べるような機会が必要だと思います。

私自身は、大きく分けて5つを意識をしてやってきました。1個1個に細かく分けると何個もあります。仮に5個から10個ずつあったとしても、30個も40個も意識してきたことがあるということですね。同時には無理ですよ。

ただ振り返って数えてみると、30とか40ぐらい、もっと言えば50ぐらいあったかな? という感じです。それをまとめて整備整頓したのが、これから説明する大きく分けて5つの内容です。

繰り返しです。同時にできる話でもないし、全部できている話でもないです。あくまでも意識してきたことを整理整頓したら、何十個になったということですね。私はスポーツが好きで、野球やゴルフが特に好きなんですが、例えばゴルフ1つとっても大きく分けて5つぐらい意識しています。

頭をどうするとか、膝をどうするとか、手首の角度どうするかまで含めて、1個1個細かく分けると何十個にもなります。スポーツをやっている方は、意識するとそうだと思います。ピアノ、美術、歌、すべてそうですよね。実はたくさんあるんです。

一番大事なことは「部下力」の向上

川島:何が言いたいかというと、イクボス的な上司になるとか、ダイバーシティな組織にするとか、ワークライフバランスの可能な職場にするとか、女性活躍を増やしながら男性育休を増やしながら組織の成果も出すためには、管理職が何十個も意識しなきゃいけないということです。

つまり課長、部長、役員、社長が、何十個も意識してできるできないも含めて、トライ&エラーをして、初めてこれらの言葉が実現できるということですね。魔法の杖はないです。MBAの教科書を読んだって無理です。あんなのは机上の空論ですから。

何十個もトライ&エラーしながら、意識しながらやっていくことが求められる。これをぜひみなさん職場に持ち帰って広げる。あるいは広げるためにどうするかを考えていただければと思います。

時間の関係で、大きく分けて5つを簡単に整理します。まず、大きな1つ目。働き方改革や組織の生産性を高めるには、部下のやる気などを向上させる必要があります。

よく、「働き方改革」「生産性向上」というと、職場の無駄を減らすとか、ICTとDX化を進めるというところに目が行きがちですね。もちろんそれも大事ですよ。でも一番大事なのは、部下たちのやる気、一人ひとりのやる気を高めることですよね。

やる気が高まった部下たちが多い組織は、業績が上がりますし、生産性が高まりますからね。10時間掛かっていたのを7時間で、10日掛かっていたのを7日でできるようになりますからね。でも、成果は今までどおり「10」ある。

そりゃそうですよね。タラタラやっている選手がいるチームなんて、いくら大谷翔平を揃えたって勝てないですよね。やる気のある選手をいかに集めるか、あるいは選手たちのやる気をいかに高めるか。むしろ後者のほうが大事です。

上司は部下の「成長の伴走者」になる

川島:部下たちのやる気を高めるためには、上から目線の管理職ではなく、横から目線の支援職とか、部下が10人いたら一人ひとりのオーダーメイドで支援していくとか、そんなことが必要になってきます。

より具体的に言うと、それぞれの部下一人ひとり、大切な私生活が異なるということを、できる限り把握して配慮するということです。

配慮にもいろんな配慮がありますよね。声掛けだけでもいいんです。そのためにはいつも雑談して、上司も自己開示する。部下が相談しやすい雰囲気作りも大事です。

部下の仕事は「三方良し」を目指します。組織としてやるべきこと、部下の得意なこと、そして部下がやりたいこと、この三方良しの仕事を一緒になって探し続けるのも上司の役割です。

そして出ました。今日の1つの大きなキーワード「成長」。「今やっている仕事を部下ががんばったら、こうなる」と、将来と結びつけてあげる。

将来像を持っている部下がいたら、逆算して短中長期で何をやればいいか、どんな経験をすればいいかを一緒になって考え、そして機会を与え、チャレンジをあと押ししてあげる。

「今の職場は成長する機会、成長する場なんだ」と、いかに部下たちが認識できるようにするか、あるいはそれをサポートする上司になるかはとても大事です。上司次第ですからね。

部下を褒める時の注意点

川島:やるべきことを明確に定めてあげるのも大事かなと思います。働き方改革、ダイバーシティ、ワークライフバランスのキーワードは、働く時間が短かろうが長かろうが、自宅で仕事しようがオフィスで仕事しようが、やること・決めたことをやった人に対しては、高く評価するということです。

逆に、「いくら長く働いていたからといって、決めたことをやっていない人はあんまり評価できないよ」という、ここにも厳しさをある程度出す必要がありますね。もちろん、評価できるような具体的な内容といっても、全部定量化しろと言っているわけではないです。定量化できないものもいっぱいあります。

でも、定性を具体化、抽象的なことを具体化することはできますよね。ということで、やはりやることをやったら評価する。やらなかったら「残念だね。△だったよ」と明確に伝えてあげる。あるいはそういう評価することも、ある意味厳しさの1つです。

そして、部下に仕事をどんどん任せることも大事ですね。上司がやっていた仕事を部下に任せたり、やり方は部下に任せる。決定権をどんどん部下に渡していくということです。それによって上司のマネジメントの時間が増えますし、部下はやる気が出ますし、成長します。

任せるためには「明確に指示」、そして冒頭にも出ました「フィードバック」が大事です。よく「褒めて育てる」と言いますよね。私はそれを聞くと、いつも「どうだろうな。3割しか当たっていないな」と反応しています。

だって、褒めるべきじゃない時に褒めたら、むしろ逆効果ですよね。部下のやる気が下がっちゃう可能性があるとかね。

ありきたりに、いわゆる「褒めるバブル」になっちゃうのでぜんぜん効果がなかったり、もっと言えば、そんなことまで「すごかったね」なんて言われると、「バカにされている」と思っちゃいます。

成長を記録するための「部下ノート」

川島:「褒める」はフィードバックのごく一部ですからね。褒めるべきことをやったら「褒める」というフィードバックをする。

逆に叱るべきことだったら、「叱る」というフィードバックをする。結果について、あるいはプロセスについて。これもできる限り、事実、あるいは第三者の意見を添えてフィードバックすることが好ましいです。

「俺は君のやり方、あんまり気に食わないよ」と言うよりも、「お客さまがこうおっしゃっていたよ」「結果として7割しかできていないよね」とか、そういうことでフィードバックをする。

そういうファクト、あるいはサードパーティーズオピニオンをつけた上で叱った場合は、部下はそんなことで「パワハラだ」と言ったりしないですよ。一般的には、感情で言うからパワハラになっちゃうわけです。

いろんなことを言いましたが、部下と接する時に重要なのが「部下のことを知る」ということで、私は部下ノートを作っていましたね。

1人1ページ、「こんなことをやっていた」と記入しておく。

上司は「脱イエスマン」の覚悟をする

川島:大きな2つ目が「上司の覚悟」。部下に厳しくする、厳しさをしっかりと示すということは、上司は自分自身も厳しくしなきゃいけないですよね。

上司として一番厳しくするべきところは「脱イエスマン」だと思います。課長だったら部長、部長だったら役員、役員だったら社長。社内の大ボスからの指示命令でイエスマンはダメですよ。言うべきことは押し返すんですよと。

お客さんに対してもそうで、部下を安売りしないということです。部下を守るんですよ。部下に厳しく言うんだったら、自分も厳しさを持ちましょうよ。上に対して行き過ぎたことはノーと言うということです。

逆に部下に対しては、やらなくていいことをどんどん決めてあげる。これも、厳しさがないと決められないですよね。過去の慣習に流されるとか、継続することって一番楽ですからね。

特にローテーションのある大企業だったら、「自分がいる3年間はこのまま波風立てずに放っておこう。どうせ3年したら他の部署に異動するんだ」みたいな。無責任になれば、無駄なこともただ流して終わらせちゃいます。

そこで厳しさを持って、止めるべきことを止める。減らすべきことを減らすと、ズバッとできるかどうか。これもやはり上司に求められます。

上司には、逃げない覚悟も必要ですね。基軸を持つとか、現場から逃げないとか、決断する。

決断からは逃げたくなっちゃいますよね。やはり、自分にも厳しくなる。このへんもイクボスの基本中の基本です。

時には厳しさを見せることも大切

川島:そして今日も何度か触れていますが、必要なら部下に叱る・厳しく言う。やらない人・言えない人は、どうしても「部下から嫌われたくない」「パワハラで訴えられたくない」という気持ちになります。

それは痛いほどわかるんですけど、だからと言って叱ったり、厳しくしたりできなかったら、どうなっちゃいますか? 組織も部下もどんどん弱体化しますよね。やはり、言うべきことを言う。

パワハラにならない(スライドの)「かりてきたねこ」とかね。「厳しさOKの上司」がどういう上司か、私もいろんなところでアンケートをとりました。「厳しくしたいけど、どういう場合がいい?」と、率直に部下に聞きました。

「厳しさを見せたい、示したいんだけど、でもパワハラとかは嫌だから。どういうことだったらみんなはいいと思う?」と、よく社員にアンケートを取った覚えがあります。

それからさっき申し上げました、「部下力の向上」とか「上司の覚悟」とか、このへんをやっている限りにおいては、嫌われるとかパワハラで訴えられるリスクはあまり少ないかなと思います。厳しさを持ち合わせた部下の成長支援。そんな上司になろうよと言っています。

ということは、逆に言えば、さっき「断捨離」と言いました。断捨離すべきことはどんどんしていく必要がありますね。時間を生み出さなきゃいけないんですから。

ムダな会議は“断捨離”する

川島:その中で特に断捨離すべきものが、まず会議ですよね。大泥棒なので「時間泥棒」と呼んでいます。

ダメ会議、10のチェック。いろんな企業でこれを見せていますけど、「川島さん、なんでうちの職場のことを知っているんですか? 大半は当てはまっていますよ」という会社も時々あります。「最近、会議を減らした」と言ったって、オンライン会議も含めますから、これに当てはまるような会議はどんどん減らしていく。

あるいは回数、時間、人数なんかをどんどん減らして生産性の高い会議にする。あとは資料作成ですね。大企業や歴史のある会社だと、特に職場内での資料が分厚くなっていませんか? こういうことも、どんどん減らしてあげないと。

部下は成長したいんです。厳しく言ってほしいんです。だけど、こんなことのために厳しくは言われたくないんですよ。

例えば、役員が社長に何かの説明をします。説明時間は15分間です。そのためにQ&Aと補足資料で30ページ資料を作りました。そんなことのために部下は時間を使いたくないし、その内容の「てにをは」を変えるので厳しくなんか言われたら、パワハラでもあるし、辞めちゃいます。

そういうところへの厳しさは必要ないんです。社内の資料なんて、どんどん止めるべきだと思います。こんなことに厳しさを出す必要もないし、むしろこういうことは止めていくべきだと思います。

1個上げて戻され、1個上げて戻され、1個上げてまた元に戻っちゃったなんてこと、よくありますよね。資料とか、あるいはA案、B案、C案が出て、またA案に戻されたみたいな。こういうことも、どんどん止めるんです。

一緒になって話すことも、ゆるい職場から脱却する大きな重要な考え方です。他にもありますが、時間泥棒をいかに減らすかは、とても大事なことかなと思います。

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