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はたらく幸せフォーラム 2023 ー中原淳先生 x 前野隆司先生の対談ー(全4記事)

経営層に「はたらく場の幸せ」を意識・尽力させる提案の仕方 立教・中原教授が語る、生産性のほかに経営者が気にすること

幸せな働き方を研究し実践するコミュニティとして、2021年4月に発足した「はたらく幸せ研究会」。同会と慶應SDMヒューマンラボの共催で行われた「はたらく幸せフォーラム」に、立教大学で人材開発と組織開発を研究する中原淳教授と、ウェルビーイングを研究する慶應義塾大学の前野隆司教授が登壇。学びの再分配の仕組みの必要性や、中原教授の研究の原動力などが語られました。

求められる、学びの再分配の仕組み

司会者:続いては、「(学ぶ人と学ばない人や幸福度の高低で)層が分かれているのはめっちゃわかります。二極化が起こる要因は何なのでしょうか」という質問です。

中原:さっきの「本当に届けなければならないところに届かない」というジレンマが大きい気がします。本当に届けたい人に届けて、その層が全体を底上げしてくれると、今ある層と近くなって良いんだけど。

私の感覚で言うと、本当に届けたい層になかなか届かないで、こっち(もともと幸せに関心の高い人)にばかり届くので二極化するのが、大事なところだと思いますね。これをなんとかするのはけっこうな難問かもしれない。……僕だけに聞かないで(笑)。

(会場笑)

前野:今連想したのは、資本主義は、放っておくとお金の格差が拡大するじゃないですか。上手に稼ぐ人はお金持ちになるし、それがうまくできない人は貧しくなる。だからどうするかというと、一番幸せな北欧は、社会福祉を重視するわけですよ。お金持ちからたくさんお金を取って、貧しい人に福祉をするから、けっこう平等な社会が作れているんですよね。

ということは学びも、すごく学んだ人が得たものを、学べていない人に何かアクションをしないと格差が拡大してしまうということですね。

中原:再分配の仕組みですね。

経営層に「はたらく場の幸せ」を意識・尽力させる提案の仕方

司会者:次の質問です。

「日本において、はたらく場で『幸せ』や『幸福』という言葉が前向きに受け入れられていない感じがします。ウェルビーイングという言葉が徐々に広まって、多少やりやすくなっているように思いますが、経営層や管理職に『企業において幸せを追求する価値』を伝えるために、おすすめのアクションやメッセージがあれば教えてください」。

前野:では、僕から(笑)。僕がいつもやるのは、やはりエビデンスですね。幸せな人はそうではない人と比較して創造性が3倍、生産性が1.3倍、離職率と欠勤率が低く、健康長寿になる。これを伝えても幸せが嫌だと言う人は今まで見たことがないですよ。

聞く耳を持ってくだされば「なるほど、幸せになったほうがいいんだな」となると思うので、まずは啓発活動かなと思っています。以上。

中原:数字で伝える、啓発活動をなさるのも本当にのとおりだなと思いますね。あとは、企業経営者を思い浮かべると、彼らが一番ビビッとくるのは、生産性もあるんですけど、「人が採れなくなりますよ」「そのままでは辞めていきますよ」です。

みなさんの会社はそうじゃないかもしれないけど、「人なんか大丈夫だよ、いなくなったらまた採ればいいんだから」という発想が、けっこう支配的だった時代があったんですよ。でも今出生数が80万人を切り、どんどん労働力人口が少なくなっていく時に、経営者としては人が採れなくなるのが課題として一番デカい。

離職率やその手の数字と絡めて「いい職場を作りましょうよ」とか「いいマネジメントを実現しましょうよ」と言うほうが、私はピンとくるんじゃないかなと思います。

リスキリングは、人事業界の大好きな「言葉遊び大会」

司会者:続いて、「リスキリングという言葉も最近よく聞きますが、幸せにはたらくためのリスキリングのポイントがあれば教えてください」。

中原:リスキリングはいろんな文脈で語られますけど、僕から言わせると、「また言葉遊びが始まりましたね」ですね(笑)。人事業界の大好きな「言葉遊び大会」ですよ。別に、「学び」でいいと思います。

リスキリングにコツなんてなくて、チャレンジすることじゃないですかね。自分の例で話すと、私は今年48歳になるんですが、この年になってくると、かつて自分が学生だった時に学んだ……例えば統計の手法とかが通用しなくなってきているんですよ。

だいたい10年に1回ぐらい、けっこうドカーンと波がくる。自分が学んだ統計の手法がぜんぜん通用しなくなるんですよ。それ(かつて学んだ統計の手法)をやっても論文は載らないんです。今年あたりは、AIも含めてけっこうデカい波がきていて、私自身もいろんな講座に出て学んでいるんですよ(笑)。

正直に言うと、そういう講座に申し込むでしょ。その時は、ちょっと酔っぱらっているついでに申し込むんで「学ばなきゃ」と思うんですけど(笑)。

(会場笑)

前日になると「俺、明日行くの……?」みたいな。「これ、誰が申し込んだ?」みたいな(笑)。で、その日の朝になると「行きたくない」とか言って、「腹痛い」とかカミさんに言いながら「またアンタの病気が始まったよ」と言われるんですよ(笑)。

でも、行ってみたら行ってみたで、意外と楽しいのよ。だからこの「朝、腹痛い」と、前日の「誰が申し込んだ?」を超える勇気だよ。

(会場笑)

僕はこれだと思う。答えたことになりますか?(笑)。

前野:(笑)。僕も「リスキリング」は、「スキル」という言葉が嫌ですね。リスキリングよりも、もっと「人間として成長する」みたいにしないと、なんか心配な気がしますね。で、コツか……。「人間なんだなぁ、おもしろい」と思って今の中原先生の話に聞き入っていたから出てこない(笑)。人間味がありますね(笑)。

(会場笑)

大学教授はなかなかそういうところをさらけ出さないじゃないですか。

中原:いや、めちゃくちゃ嫌ですよ(笑)。

前野:かっこいいですよね(笑)。

個性に応じた働き方

司会者:残り7分になりましたので、もう一度対談に戻していただいて、あらためて「はたらく幸せ」についてお願いします。

前野:人柄の話になったから人柄を掘り下げたくてしょうがなくなってしまった(笑)。

中原:人柄研究会じゃないですから(笑)。

前野:(笑)。でも人柄に応じた働き方は大事ですよ。昔は「明日までにやっとけ」が正義だったけども、間違いじゃないですか。やはりハイリー・センシティブ・パーソンには「大丈夫、大丈夫。できるから」と言ったほうがいいし、「お前らやっとけ!」と言って「やります!」みたいな人もいるので。その個性に応じた働き方が必要になっていると思うんですね。

無理やりつなげたけど、中原先生を完璧な人だと思っていたんですよ。人事の世界ですごくキラキラ輝いていて、おもしろいことをズバズバおっしゃる方だと思っていたら、意外と人間的な面があった。絵が下手という話から始まってね。

(会場笑)

あぁ、下手じゃない。うまいんだけど、成績が2だった。人に言われたら嫌ですよね(笑)。

中原:いやぜんぜん。わりとネタです(笑)。

前野:人柄についての質問がある人? ネタがないか(笑)。最後に良い質問のある人は?

(会場挙手)

参加者C:ご両親はどんな方で、どんなことを学ばれたか、伝えられたと受け取っていらっしゃいますでしょうか。

中原:両親は2人とも高校を卒業して電話の会社に入った、すごく真面目な人だと思います。私は両親が好きです。これは最初に言っておきますけど、関係もぜんぜんいいです。ただ「淳ちゃんは普通でいいから、北海道にずっといなさい、旭川にいなさい」とずっと言われ続けたわけ。

それがきっかけになって「俺は出てやる!」みたいに飛び出したので、今になってみるとすごく感謝しているけど、その当時は「ずっと俺を北海道にいさせるのか」みたいな感じで、中二病にかかっていた気がします。何が言いたいのかよくわからなくなりましたけど(笑)、そういう環境で私は育ち、今は感謝しています。以上です(笑)。

中原教授の研究の原動力

前野:親が良かれと思って言うことに、子どもが反発するのはありますよね。僕も親になって、息子が法学部に入ったので「弁護士になるといいよ」と言ったら「弁護士には絶対にならない」って(笑)。言わなきゃよかったな(笑)。

中原:何の話になっているかもうわからないですけど、子どもは、親が説教臭を出した瞬間に耳を塞ぐ術を持っていると思います。本当に大変ですよ(笑)。先生、ちなみにここで見ていると先生と僕って、髪型似てますよね。

前野:似てますね。

中原:なんでこんなに被っているんですかね……そんなことはどうでもいい(笑)。ウェルビーイングの話です。

前野:(笑)。大学教員の中でも二人がちょっと外れている側だからじゃないですか。ここ(教室)で一方通行の授業はやらないでしょう。

中原:やったことないです。

前野:僕もやらないですね。

(会場挙手)

あ、質問がきました。

参加者D:中原先生はずっと「大人の学び」を研究されていらっしゃると認識していますが、「大人の学び」や「はたらく幸せ」をもっともっと研究していこうという、一番の原動力はどんなところにありますか?

中原:すごく端的に言うと「学ばない人が多い」。みなさんは違うと思いますが、社会人になると、学びを止めてしまう人がすごく多い。それがリスクになったり、ウェルビーイングの低さにつながってしまうからだと私は思います。

「社会人」は、たぶん英語にならない。なぜそう思うかというと、私が昔ボストンに留学していた時に「社会人大学院」を英語で訳そうとしたんですね。「何言ってんの? バカじゃないの」と(笑)。つまり「社会人が通う大学院は、ただの大学院でしょ」と言われる。

日本で社会人というと、感覚的には「もう学び終えた人」で「はたらく人」というイメージになるけど、向こうで言うと違うわけですよ。別にビジネスパーソンだって大学院に通いますし、辞めて学び直す人だってぜんぜんいるんです。研究の原動力はこれを変えたいからで、それはおそらく日本のためになると思っている。以上です。

「学び」は幸せにとって一番大事なこと

前野:いい質問がきたところで、僕から最後の質問をしようといます。「今後、何をしたいですか?」。要するに、学ばない人をもっと学ぶ世の中にしたいのはわかったんですけど、これから教員人生、その後も100歳まで生きるとしたら、どういうことを目指して生きていくかを聞いて終わりたい。

中原:私はこの3年、立教の教職員のみなさんと、人材開発・組織開発のプロフェッショナルを育成する大学院を立ち上げるチャレンジをしました。おかげさまで比較的多くの方々に来ていただいている。でも、その大学院を立ち上げた時から教職員で、常に思っているビジョンがあって。

この大学院、LDCと言うんですけど、LDCを出た学生が10年後に、本を書いて著者になったり、コンサルタントになったり、人事の責任者になったり、たぶん大学の教員にもなる。

自分に残されたのはあと十何年だと思いますが、次の学びを作る人をどんどん作っていくのが私の仕事かなと思います。これで無事終了という感じで、やっていきたいなと思っています(笑)。答えになっていますか?

前野:もちろんなっています。僕と一緒だなと思いながら聞いていました。学びは、幸せにとって一番大事なことです。だから幸せの観点から見ても、学ぶ人になって、それが利他的、人のためになるといいですね。まさにそれをおっしゃっていた。

だから、中原先生は幸せな人だということですね。幸せの条件を満たしている答えですね。より良い世界を作るためには教育が重要です。1人でやっていても広がらないですけど、どんどん広がっていくことを想像すると「よし、みんながんばれよ」みたいな感じになりますよね。非常に共感しました。今日はどうもありがとうございました。

中原:ありがとうございました。

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