2024.10.01
自社の社内情報を未来の“ゴミ”にしないための備え 「情報量が多すぎる」時代がもたらす課題とは?
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井上功氏(以下、井上):リクルートマネジメントソリューションズの井上と申します。よろしくお願いいたします。
今回、エンファクトリー社さんのウェビナーでお話をさせていただくという機会を頂戴しました。ありがとうございます。今日はこの話をしたいと思います。「企業にとって越境って何で必要なんですか」。
それから「越境を巡る政府や企業の現状事例」等々も簡単にお話をします。僕が立てた仮説として、越境の領域が10個くらいあります。具体的にどのように越境したらいいんだろうか、という話をしていきます。
最後、越境って何のためにやるんだっけ、越境ってどんなメリット効果があるんだっけ、という話もしていきたいなと思います。よろしくお願いします。
ではまず、「越境とはいったい何ですか?」という話です。今、スライドの右と左を示しています。よく組織の中で「タコ壺化する」という話があります。タコ壺という比喩は、ほとんどいい意味では言っていないと思います。
タコ壺に入ること自体、仕事を学ぶ、習熟をする意味では、とても重要だとは思います。左側は、コミュニティの中に入っている自分。僕もリクルートマネジメントソリューションズというコミュニティに入ってますが、越境は「違うコミュニティに入っていくこと」かなと思っています。
「越境は境界を超えることですよね」と捉えると、越境する機会って実はいっぱいあります。今すぐにできる越境で言うと、僕は「個人内越境」だなと思っていて。
昔の自分でもいいし、今の自分でもいいですし、自分の中で今までのこととか、未来のこととかを想起して掛け算をすることができると、これはもう十分に越境だなと思っています。自分の中での越境活動は、僕がこうやってお話をしたあと、すぐにでもできるかなと思います。
それから現代は越境しやすいですよね。越境の促進が、特にコロナ禍になってからとても増えてるなと思います。ここに挙げましたテレワークとか、ワーケーションとかフリーアドレスとか。
フリーアドレスはもうみなさんの会社の中でも普通になりつつあると思います。昔は〇〇事業部〇〇部〇〇グループとか、1課2課3課とかで、席が決まっていて「おはようございます」「失礼します」みたいに、越境することはほとんどなかったんです。会社の中がフリーアドレスだと普通に越境しますよね。
SNSはもう最たる越境ツールです。最近はボランティア活動なんかもみなさんされていると思います。これも越境しやすい活動です。
あらためて自己紹介なんですが、僕はリクルート、およびリクルートグループの会社に37年間いますが、37年間を振り返ってみた時に、ここに挙げた企業の間とか擬似的業種とか、産官学の越境、個人内越境、そういうものを散々してきたなぁと思います。
越境は一部の人のものではありません。普通の人がどんどん越境できる時代ですし、僕自身もリクルートの中で越境してきました。今日は1月末に出させていただいた本(『CROSS-BORDER キャリアも働き方も「跳び越えれば」うまくいく 越境思考』)をめぐって話をしていきます。
例えば左上、仕事を3〜5年やると、ある程度できるようになるけど突き抜けないとか、今やっている業務は同じことの繰り返しだとか、「待てよ、今この仕事やってるけど、10年後にはどうやらAIが盛り上がって、この仕事必要なくなるかもしれないな」と思うこともあるかもしれません。また、テレワークで出社しなくなったので、別に東京近郊にいる必要ないよねとか。越境にまつわる言葉で言うと、キーワードは「もやもや」かなと思ってます。
僕自身も入社して以来、ずっといろんな観点でもやもやしてきました。もやもやを晴らすには、自律的越境行動がおすすめです。「チャレンジ」というと大げさですけど、今までとは違う行動をすることが、越境の基礎だと思います。この越境がもやもやを突破することにつながると思ってます。
ここまで、越境とは何なのかという話をしました。では、企業にとって越境にどういう価値があるのか。なぜ社員が越境しないといけないのかという話をしていきます。
今見ていただいてる画面が、ドラッカーの企業の機能です。マーケティングとイノベーション。
左は既存事業で右が新規事業と置いてもいいんですが、イノベーション領域に行くには、研究者は「遠くにできるだけ飛びなさい」と言っています。ジェームス・マーチとかオライリーとかタッシュマンが言っている両利きの経営は、「知の探索に行け」「知の探索はできるだけ遠くに行け」と。これ、越境ですね。
シュンペーターはイノベーションの開祖ですが、「慣行の領域の外に行きたまえ」って言ってます。実は「越境したまえ」ということを、みなさん共通で言っているんです。
これはみなさんおなじみの、アンゾフの多角化のマトリクスです。冷静に考えていただいたら、この十字線を越えていけという話なので、これも越境ですよね。多角化をしていくには、境界を超えないといけないのです。
企業は境界を超えるべき。例えば、富士フイルムさん。富士フイルムはコダックとずっと写真フイルムで競ってきた会社ですが、コダックはチャプター11を適用され倒産してしまいました。富士フイルムは今に至るまでものすごい成長をされています。
アンゾフの図でいうと右下の領域。多角化の領域も含めて、新しい市場とか新しい機能商品開発をずっとし続けている、凄まじい越境企業です。
例えばAmazonみたいな会社をイメージしていただくと、1990年代の後半にAmazonができた時、最初は書籍のECサイトの会社でした。今はAWSとかのクラウドの会社になって、実際にリアル百貨店とかスーパーとかも買収している。そういう意味で、ひたすら企業として越境してきた。
富士フイルム。Amazon。みなさんの会社も、越境活動を企業としてしてきたんだなと思います。
今お見せしているスライド左側の真ん中のコンフォートゾーンには「(タコ壺)」と入れました。企業が多角化・越境をしなければいけない時、つまりタコ壺の中にずっといて、企業が越境することが必要な時に、社員がタコ壺の中に入っていていいのか。これはたぶんダメで、ラーニングゾーンに越境しないといけないですよね。
ラーニングゾーンに越境することが何を意味するのかと言うと……アップスキルは既存のお仕事を磨く話なので、これは越境しなくても比較的できます。リスキリングは最近政府が注力しているものです。。それからアンラーニングは、考え方そのものをいったん横に置いて、新たな考え方・価値観を手に入れて学びほぐしをしていくことです。たぶんリスキリングとアンラーニングは、越境なくしてはできないのかなと思っています。
弊社の組織行動研究所が2022年に調べたデータです。直近1ヶ月間を振り返ってみて、社内越境や社外越境で何がどういう影響を及ぼしたかを調査したものなんですが、この「越境のつながり」が、どういうことにインパクトを与えたのかという結果をご覧ください。。
仕事上の成果で言うと、アイデア創出、心理的状態、会社への愛着、会社での孤独感が越境で解消されていくなどの結果につながっています。特に「社外」ですね。社内越境もいろいろあると思うんですけど、社外越境はアイデア創出や自己有用感の源泉になっているようです。。
企業の越境の必要性・個人の越境の必要性を論じましたが、この次に、「越境を巡って政府や企業、また個人はどんな状況に今あるのでしょうか?」ということを示していきたいと思います。
みなさん、「成長戦略実行計画」は読まれていらっしゃると思いますが、令和4年版は「フォローアップ」となっています。令和3年・2年で、これは目次の主要部分を複写してきたんですが、越境に関わる項目、越境に関連する内容のところを赤文字で示しております。
例えば「リカレント」「リスキル」「学びなおし」「新しい働き方」「副業・兼業」などは、ほぼ越境関連項目です。越境はものすごく大事だと政府も言っています。
僕は令和元年の「成長戦略実行計画」を読んだ時に、5ページに書いてあるのは、「組織の中に人を閉じ込めてはいけません」と、実は政府がはっきり言っている、を「越境させるべき」と僕は読み解きました。
そういう意味で言うと、政府の「人材版伊藤レポート」でも「動的人材ポートフォリオ」「リスキル」「副業・兼業」「リモートワーク」など、この手のことって実はみんな越境の関連要素、項目だったりしますよね。伊藤(邦雄)先生のレポートはある種の人的資本経営の教科書・バイブルになりつつありますが、この中でも越境のことについて語られていると僕は理解しました。
これはNEDOの今から2年ぐらい前のレポートです。アフターコロナはどういう世の中になるかが書かれています。6つの項目に分けてこれから変わることが書いてあるんですが、4つ目の「集中型から分散型の社会になる」は非常に越境しやすくなることと言い換えられるかなと思っています。
政府がそういう論を張っているのと同時に、企業の状況を見ると、日本経団連の2022年出の調査では「越境」という言葉こそ使ってないんですけど、「社外への送出」という言葉を使っています。
社外への送出を認める、促進することが今や83.9パーセントです。ものすごく多くの会社が、特に5,000人以上の大きな会社は、社外への送出、すなわち越境を認めようとしている結果になっています。
越境を認めて、どういう効果を期待しているんでしょうか。「うちの会社は働き方改革とか社員に機嫌良く働いてもらうために、越境、社外送出を認めるんだよ」みたいなイメージですね。
下のほうに「イノベーションを促進する」という項目もありますし、そういう意味で言うと、企業側は何かしらの効果・成果を期待しながら、越境や社外送出をどんどん認めようとしていることが見えると思います。
具体的な事例の話を1、2社ぐらいさせていただきます。1つ目が野村證券。野村證券の人材開発の方と議論をしながら、野村證券さんにお断りをした上でこの紙を作っています。野村證券の活動は5〜6年ぐらい前から続いています。野村證券は非常に「イズム」の強い会社です。
その野村證券さんのやり方をずっと守り続けることは特に大事です。しかし「金融業界、直接金融、証券業界が大きく変わりつつある中で、野村イズムだけに頼っていてはダメだよね」と、野村の殻を破る活動を社員に促していくことを野村證券ではしています。ベンチャーに出向したり、異業種の研修に多くの社員を送り込んだりしているのです。
Googleの20パーセントルールも越境と言ってもいいですね。それからNHKのニュースからピックアップしましたが、最近、僕もいろいろ議論をしている三菱商事さんの例です。三菱商事の例を聞いて、商社でこういうことをする時代になったのかと僕はびっくりしました。現業のお仕事に加えて、他の事業部の仕事を15パーセントまでであればやっていいとなっています。これは社内越境だと思います。
こういうことが会社の競争力の強化につながるということを商社が、三菱商事がやり始めている。こういう大きな流れがあります。
ですが、個人はどうなのか。ありていに言うと、「あなたはこのお仕事をやってくださいね」と言われて、「はあ、わかりました」と言って、ある程度できるようになったら、余計をことをやらなくても毎月お給料は振り込まれます。「越境方法、うーん、よくわからないな」「越境する必要ってあるの?」「越境する意思、あんまりないよね」「言われたことをやっとけばいいよね」となってしまいます。
一方で「いや、でも待てよ。世の中は大きく動いているし、このままで自分のキャリアはいいのかな?」みたいなことも考えるわけです。スライドには「もやもや」と書きました。
世の中の変化について何かしら感じながらも、自分の立ち位置や自分の仕事との乖離がもやもやの源泉だなと思っていて、ここを突破していくことが必要なんですけど、個人側は思い切った越境行動、チャレンジがなかなかできない状況は、今もあるんじゃないかなと思っています。
それに対して企業側はメンバーシップ型で「うちの会社にいれば、悪いことにならないからよろしくね」ということではなく、キャリア自律を促していくサポート体制を取っていくべきなんじゃないかなと思います。
こういった例があります。日本人のパスポート所有率ですが、実は日本人は4人に1人しかパスポートを持っていません。日本のパスポートは世界1位、2位を争うぐらい、ビザなしで190ヶ国に行くことができます。
こういうパスポートは世界でも非常に稀です。国家間の越境をどんどん行っても、まったく問題ありません。こういうパスポートを所持できる国にもかかわらず、4人に1人ぐらいしかパスポートを持っていません。これがなかなか越境しにくくなっている理由だと思います。
ここまで述べさせていただいた「越境とは何なのか?」について具体的にお話しします。越境は境界を越えることです。境界を越えることは、個人の中でも、企業の中でも、企業の外でも実は平易にできます。
ここからは、政府が「やるべし」、企業が「サポートするよ」と言っていますけど、個人がなかなかできていない状況を、具体的にどう突破していったらいいのかをお話しします。
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