2024.10.01
自社の社内情報を未来の“ゴミ”にしないための備え 「情報量が多すぎる」時代がもたらす課題とは?
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荒木博行氏(以下、荒木):みなさま、こんにちは。本セッションのモデレーターを務めます、株式会社学びデザインの荒木博行と申します。本日はどうぞよろしくお願いします。
ここからは「挑戦する風土醸成 日本企業の空気が変わらない理由 ー組織の恐れを越えるポジティブ思考ー」をお送りしてまいります。
私自身は、もともと総合商社の人事部からキャリアをスタートして、それからグロービスという経営大学院で、組織変革や人材育成のお手伝いをしてきました。そして今は独立して、学びデザインという会社でいろんな企業の学びや人材育成のお手伝いをしています。
そういった立場なので、今回のテーマは非常に興味深いというか。いろんな企業に接していると、明らかに空気や風土が違うんですよね。
ただ、風土や文化って見えないものです。今日はお二人のゲストをお迎えしていますが、具体的にどうやって風土や文化を変えていくのか、見えるかたちでみなさんにお届けできればなと思っております。
ということで、ここからは登壇者のみなさまをご紹介させていただきます。株式会社YeeY共同創業者代表取締役、島田由香さんです。どうぞよろしくお願いします。
島田由香氏(以下、島田):よろしくお願いします。今日はすっごく楽しみにしてきまして。何より、この会場の素敵なデザインにかなりテンションが上がっております。
とっても素敵な場所で、いつも言うのですが、ど大好物のネタで、荒木さんと次にご紹介する「てんちょ」と一緒に、すっごく久しぶりに会えてお話しできるので楽しみです。よろしくお願いします。
荒木:よろしくお願いします。それでは、次の方をご紹介させていただきます。株式会社ヤッホーブルーイング代表取締役社長でいらっしゃいます、井手直行さんです。どうぞよろしくお願いします。
井手直行氏(以下、井手):よろしくお願いします。私たちはクラフトビールを作っている会社で、今着ているTシャツ、見えますかね? 「よなよなエール」というクラフトビールが我々の看板ビールなんですが、これを含めていろんなクラフトビールを作っています。
今、クラフトビール(作っている会社は)は日本に600社以上あるんですが、その中でもシェアがダントツでナンバーワンで、ずっと増収を続けている会社なんです。
ただクラフトビールをつくっているビール屋なんですが、良い会社、楽しい会社、みんなが幸せな会社を作るのが夢で、それを追いかけています。「良い会社を作りたいな。みんなが幸せな会社を作りたいな」と言っていたら、だんだんそうなってきました。
由香さんとも、いろんなところで一緒にお仕事する機会があるんですが、ビール屋なのにこういうところにも呼んでいただきました。
井手:私たちの会社はみんなニックネームで呼んでるんです。ニックネーム制なので、私も「てんちょ」と呼ばれてるんですが、今日はたぶん由香さんも「てんちょ」って呼ぶと思います。
インターネットショップの店長を長くやっていたので、うちのファンから「店長」って言われていて。「店長」だと偉そうなので、かわいらしく「てんちょ」という言い方をしております。今日は荒木さんも「てんちょ」と言ってください。よろしくお願いします。
荒木:はい。よろしくお願いします。僕、今日が初対面なんですけど。
井手:初対面。気軽に「てんちょ」と呼んでください。
荒木:(笑)。「てんちょ」と呼ばせていただきます。この後でもお話しになると思いますが、呼び方ってめちゃくちゃ大事ですね。僕も「由香さん」って下の名前で呼ばせていただきます。
島田:はい! もちろん。
荒木:「てんちょ」って良いですね。響きも含めて。
井手:はい。前は社内で「井手さん」と名前で呼ばれていたんですが、そうするとファンの方と会っても「井手さん」とか「井手社長」と言われるんです。
「てんちょ」と名乗るようになってからは、違いますもん。「てんちょ~!」とか言って、ぜんぜん知らないファンがいきなり抱きついてきますもんね(笑)。「井手さん」だと抱きつけないんだけど、「てんちょ」だと距離感が近いっていうのは、呼び名からそうなるんだなってすごく思いますね。
島田:しかもさりげなく言ってるけど、ファンの方ってすごく良いですよね。もちろん私もビール大好きだし、特によなよなエールは大好きです。そのこと自体で、ものすごく世の中を幸せにしてるじゃないですか。よなよなエールファンもそうだし、たぶんてんちょのファンもいっぱいいるんだと思うんですよね。
井手:ありがとうございます(笑)。
荒木:ということで、ここから議論を進めていきたいと思います。最初の問いなんですが、「日本企業」という言葉はちょっとでかいので、ひとくくりにして良いものか? という話はありますが、なかなか「日本企業の空気が変わらない」という話はあると思います。
活力がないとか、笑顔がないとか、「真面目なんだけど……」みたいなところがある。そういうふうに表現されてしまう機会が多いんじゃないかなと思います。
「どうすればいいのか」という解決策の前に、「なんでこういう状況になってしまっているのか」という原因について、お二人からお話を聞いてみたいなと思います。じゃあ、由香さんからいきましょうか。
島田:はい、ありがとうございます。原因はたぶん1個だと思ってるんです。でも、その1個を作るいろんな要素があると思うんですけど、一言で言っちゃうなら「学習性無力感の蔓延」。おそらくこれが、「日本企業は元気がない」とか「挑戦する姿勢が乏しいんじゃないか?」と言われてしまう理由だと思います。
「日本企業は」と言ってひとくくりにするのも違うし、1つの企業の中にも、そうじゃない人やそうじゃない部署もあったりするから、全部がそうなんだとは見ないことも重要です。でも、大々にしてそんなふうに見えてしまうのは、学習性無力感が蔓延しているから。
じゃあ、なんでそれが蔓延するのかと言ったら、3つのことが影響していると思っていて。そのうちの大きな1つは、認めないというか褒めないというか、受け入れないっていうのかな。
例えば、今日の場でこうやって話している時に「うん、うん」って頷いてくれたり、てんちょがにこにこ見ててくれるのってすごくうれしいじゃないですか。これって大事なことだと思うんです。人がしゃべってる時に、真面目な顔で、まったく無表情で、何も反応しない人ってすごく多くないですか?
会議もそうだし、いろんなところでお話しさせていただく機会もありますが、だいたいそうなんですよね。無表情や無反応がそういう空気を作っちゃう。アイデアを出したかったり、「こんなことを考えてるんだけど」「これ試してみたいんだけど」と言った時の周りの反応が冷たすぎるんですよ。
「うん、そうなんだ」「そんなことを考えてるんだ」って、まず1回受け止めれば、その次の言葉がちょっぴり違っていても、言った人は「あ、受け入れてもらえた」と思う。
だけど、最初っから超怖い顔で、眉間にしわを寄せて頷きもせず、「え、それダメ」みたいな反応をされると、学習性無力感が蔓延する。そんなことが、実は大きな理由になってるんじゃないかなと思ってます。
井手:何学習性? なんだっけ。
島田:学習性無力感。
井手:学習性無力感って言うんだ。
島田:はい。ちょっとだけ説明すると、ポジティブ心理学の創始者であるマーティン・セリグマンという博士が名付けた、人のやる気や挑戦する意欲がない状態ですね。
「学習性」だから学んでいくんです。例えば、意見を出しても聞き入れてもらえないし、チャレンジしてもガシャンってやられると、「もう何をやってもだめだ」と無力感を学んでいっちゃう。
井手:なるほど。
島田:人間誰も最初からそうなわけじゃなくて、子どもたちを見ていれば明らかじゃないですか。本当は、いろんなことをやって、いろんなことを試して、痛い思いや熱い思いしながらも、好奇心を持ったものに飛びついていくでしょう。
だけど、何回も何回も「ダメよ」って言われたり、叱られたり、怒られたり、あるいは無視されたりを繰り返すと、やっぱり傷つくし悲しくなっていく。「じゃあ、もう言わなくていいや」って、(言わないほうがいいと)学習しているじゃないですか。それが、学習性無力感というものです。
荒木:一番あるあるなパターンが、「これからはどんどんボトムアップでアイデアを上げてくれ。どんどん取り込んでいくから」と言われて、「そうか」と思ってアイデアをあげてベシャっとやられると、むちゃくちゃ無力感の学習機会になっちゃうんですよね。
「あ、こういう会社?」「こういうことなのか」みたいに、次にまた同じようなことを言っても、笛吹けど踊らず状態になってしまう。
島田:人間の脳って痛みを避ける傾向があるし、やっぱり私たちは傷つくのが嫌なんです。でも逆に、喜びや成功体験、うれしいことを体験することが好きなんですよね。人間って本当にシンプルなものだから、最初の痛い体験を作らないようにしていく。ここをみんなでやったら良いのに、と思います。
荒木:その話にはまた後で戻っていきたいと思うんですが、てんちょは日本企業の空気が変わらない原因について、どんなふうにお考えになっていますか?
井手:今の由香さんの話で言うと「学習性無力感が根本にある」ということですが、その要素のところがめちゃめちゃあると思っていて。
まずは、心理的安全性がないから。「これ、言っても大丈夫か?」「言ったら怒られそうだから黙ってる」「うう、どうしよう」みたいな。心理的安全性がないと、簡単なことすら顔色を見て言おうか言うまいか悩んでしまう。それが1つあると思います。
あとは、失敗を許容しないカルチャーがあると思うんですよね。「やってみろ」と言われて、失敗したら「お前、何やってんだ」「そんなに損害を出して」って言われたら、もうやりたくないじゃないですか。
何か新しいことに挑戦すると失敗は絶対に出てくる。それを繰り返しちゃだめだけど、失敗をすることによって学ぶことができるじゃないですか。だから、同じことを2度3度やるのは良くないけど、失敗と挑戦はセットでしかあり得ないからね。
(失敗と挑戦は)セットなのに、うまくいかないと怒られるし評価も下がる。だから、失敗を許容しないこのカルチャーもダメだと思う。
あとは、やたらルールが多い。事細かくルールがあるから、「これはやっちゃだめ」みたな感じで、だいたいダメなんじゃない? そんなルールがいっぱいあると、ルールを踏んで怒られないために、踏まないようにしようとする。そもそも、もう近くに寄りたくなくなる。
ルールがすごくいっぱいあるのも良くないし、ルールをちょっとでも犯した時に注意されるとか、そんな管理型のカルチャーや制度もダメだと思います。
うちにも就業規則はいろいろありますが、僕が言うのもなんだけど、自分も就業規則をよく覚えてないんだよね。会社だから一応就業規則はあるけど、要は「何を伝えたいか」「何を大事にしてるか」がわかっていたら大丈夫。
1回守れなくても、「うちではこれがダメだからね。次から気をつけようね」というくらいで良い。「心さえわかっていれば、もうそんなの気にしなくていいよ」みたいな話を、ちょうど今日もしてきました。
荒木:なるほど。
井手:他にもいっぱいあるけど、そんなところが、挑戦を阻害したり、言いたいことも言えないところの大きな要因かなと思いましたね。
荒木:野中育次郎先生が「日本企業をダメにした3つの要因」という話をされているのを見たんですが、1つ目がオーバープランニング、過剰計画。2つ目がオーバーアナリシス、過剰分析。3つ目がオーバーコンプライアンス、要するに過剰規制。
すべてにおいて計画しすぎであり、分析しすぎであり、規制しすぎ。だから、ガッチガチになっちゃってるということですよね。そうすると「私たちは会社のコマですか?」みたいな感じになってきちゃう。
島田:人生の中で、まったくそれやってないわ(笑)。
井手:やってない。社長の僕があんまりやってない(笑)。「就業規則よく知らないんだけど」って、僕が言うからね(笑)。
島田:でも、私も人事でそうですよ。もちろん職業として、労働法のものすごく大事なところはポイントとして大事だけど、「何条の何がなんとか」なんて覚えられるわけないし。
さっきてんちょが言ってた「ルールが多い」というのは、すごく思う。これはユニリーバでもすごく大切にしてたことなんですが、ルールよりもPrincipal、原理原則を伝えようとしていました。
「これはダメ、あれはダメ」「こんなことをしたらこうだよ」じゃなくて、「私たちが大事にするのはこういうことなんです」「私たちが作りたい世界はこういうものなんです」ということを、すごく伝えていましたね。
井手:本当にそう思う。
荒木:細目の話というよりは、根源にある「Why」というか、なぜこのルールがあるのかという根源的な部分をしっかり伝える。
島田:そうですよね。だからルールをガチガチに決めるのって、結局は性悪説に立っている考え方のほうが多くなっているからなんじゃないかと思っていて。「人はちゃんと規制したりルールがないとダメなんだ。だからルールを作るんだ」って言うんだとしたら、そこからちょっと違っていると思います。
私は絶対的に性善説なので、人間なのでもちろん失敗もするし間違いも犯すけど、任せてみたり試してみる。なぜなら、絶対に良いことをするからだと思っていて。リーダー、あるいは人事がその視点にいるのかどうかでは、ものすごく大きく違うと思う。
「ダメじゃないか?」って心配するからルールを作って、守っているかをチェックして、ダメだと罰則する。「こんなに守らないならもっとルールを作ろう」ってなるじゃん。だから「『心配』じゃなくて『信頼』しようよ」って言うんですが、これがパラダイムシフトだとずっと言っています。
井手:ちなみに、ちょうど今日うちの会社で話してきたのは、ルールよりもうちょっと上位概念の「会社の理念」みたいなものを、数年前に僕が全部作ったんです。
去年から今年にかけて、うちのスタッフが「この理念、今のうちには合ってないんじゃないですか?」と。「こういう表現よりも、こういうものがうちに合ってるんじゃないですか?」って、僕に逆に提案してきて。
島田:へぇ、素敵~。
井手:「すごいね! こっちのほうが合うよ!」って言いました。だから、ルールみたいなものをスタッフ自ら変えちゃうという話を今日してきました。すごくないっすか?(笑)。
島田:すごいと思う。
井手:ルール自体を「守る」とかじゃなくて、今までをアップデートすると「うちの会社のルール、こっちのほうがいいっすよ」みたいな。
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