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【手放すTALK LIVE#36】「ティール組織が生み出す新規事業の特徴とは」 ゲスト: GOB Incubation Partners株式会社 代表取締役 山口 高弘さん(全5記事)

「意味がある・ない」を判断基準にすることで失うもの 情報を多様に受け取るために必要な「語られる人間性」とは

管理しない組織や上司がいない会社、給料を自分たちで決める会社など、ユニークな進化型組織を調査する「手放す経営ラボラトリー」。同ラボが主催するイベント「手放すTALK LIVE」に、自立分散型での事業開発を支援する、GOB Incubation Partners代表の山口高弘氏氏がゲスト出演。社会活動家の武井浩三氏を相手に、創造性を発揮する仕組みづくりや、「語る」と「語られる」の2つの人間性などを語りました。

創造性を発揮する仕組みづくり

岡田佳奈美氏(以下、岡田):あらためて新規事業と組織作りについて、山口さんは新規事業を意識して自社でどういう組織作りをされているのでしょうか。

山口高弘氏(以下、山口):「ファクト・イズ・キング」で、「ファクトには価値が含まれる」という前提で、誰もがファクトをつかめ、その断面に触れるようにする。流通の過程で、尾ひれがつかない、味付けがされない組織構造にすることで、さっきの武井さんの話でいくと、攻略できるゲームの次の攻略できる的を見つける。

自社にとって新規の事業だから「新規事業だ」ではなく、ピュアに新規な価値を生むためには、事実が事実として流通して、誰もが「俺は俺である」と言える状態が、ゼロから新しい価値を生む組織だと思うので。組織を変えるというよりも事業を作る過程で組織が変わっていくことにチャレンジしています。

どういう組織構造であれば、どんな価値がどう生まれるかをガラス張りにして、参考にしてもらえたらと思ってやっています。給与を自ら決めたり、プロセスも含めて関連した情報を全部公開する。

読む人が読めば、「何やってるの。こんなところでつまずいたの?」と思うけど、それも含めてナレッジとして共有して、プロセスコモンズの資産として公開する意識で、自らを実験台にしている感じですかね。

岡田:給与公開の時は、「そもそもお金とは」みたいなところから話し合ったりしましたものね。

山口:そうなんですよ。「そもそもお金って何ですか?」とか「そもそも役員って何?」「取締役って何なの?」みたいな。そこからやっていかないとできないですよね。取締役って1つのラベルなので、思考のショートカットにはなるんだけど、新しく再構築する時はラベルを剥がさないと作れないし、剥がすために理解しないといけない。

岡田:給与のラベルも剥がしましたよね。給与って一般的に過去に取り組んだ成果への精算みたいな意味合いがあったりしますけど、「この捉え方が本当にいいのか」という話もしましたものね。

山口:そうですね。「社会的価値を生もうとしているのに、自分の会社の中でのパフォーマンスで測って給料を出すのはおかしいでしょ」みたいな話で。社会の中での位置付けを明確にしていかないと投資できないという話ですね。

岡田:今YouTubeのチャットに給与公開の記事を流させていただきましたが、GOBは、外の起業家や事業に投資するのと同じように、メンバーにも投資をするという考え方でやっているんですよね。なので、「給与額」じゃなくて「投資額」みたいな言い方をしたり、そういうところもけっこうこだわって作っていますよね。

山口:そうですね。給与ってある種の攻略ゲームじゃないですか。どうやったら給料が上がるかがわかっているんだったら、給料を上げるようにしか動かないよねという話で。その範囲の中でしかワークしないということは、創造性を失うということになる。

給与テーブルが攻略本みたいなもので、給与って言っちゃうと攻略しかしなくなっちゃうなという。しかも攻略のうまい人が勝っていくというのはもったいないと思ったりもしますね。

「語る」と「語られる」の2つの人間性

武井浩三氏(以下、武井):そうですよね。俺も「どうやったら給料が上がるのか、明確に提示してください」と何度も頼まれたことがあるんですよね。

山口:武井さんにそれを頼むというのも(笑)。

武井:やはり、そういう人は合わないのですぐ辞めていきましたけど。俺はその質問をする人が、ちょっと語弊があるんですけど、かわいそうでかわいそうで。

岡田:かわいそう?

武井:そう。何だろうな、自分というものを持っていないように感じられるというか。俺はそういう人に価値を生み出せないと言うと失礼なんですけど、そういう人と一緒に働きたいとはまったく思わないというか。

そこには人間性というものが何も存在しないというか、「俺はもっとお前という人間を知りたいんだよ」と思っても、その会話ができないというか。なんか、切ない気持ちになりましたね(笑)。

山口:人間性って「語る人間性」と「語られる人間性」があると思うんですけど。「語る人間性」は自ら発信するという話で、(他者から)発信されたものを受信して自らで多様に受け取るのが「語られる人間性」だと思うんです。どう語られたかも人間性の1つで、「どうやったら給与が上がるんでしょうか?」と言うということは、語られる人間性を失うことかなと思って。

会社の中で起きていることや流通している情報を、すべて「給与」という尺度に変換して理解するわけですよね。そうすると、人と関わることに対して「意味がある、意味がない」で考えるとか、「ごみを拾う。意味がない。拾わない」とか、「トイレが汚れている。掃除当番の人がやればいい」みたいな話になっちゃうわけじゃないですか。

サインとして出ていることが語られずに終わっちゃうのが、非常にもったいない感じがしますね。「俺忙しいので、ごみとか拾わないでいいですか?」みたいな話になって、「ごみ、拾いなさいよ」「拾ったら、何かいいことがあるかもしれないよ」などともっと語られたほうがいいのに。

武井:本質的だな。今話を聞いて、子どもに「語られる人間性を身につけなさい」って育てようと思いました。

山口:そうですよね。いろんなファクトが発信されているのに、一義的にしか解釈しないのはもったいない。受信アンテナが1個しかないなんて、もったいないでしょう。

ゴミ拾いに現れる価値基準

武井:いや、本当。金銭的価値基準からずらすためにというわけではないですけど、俺、トイレ掃除とかごみ拾いって、すごく顕著に現れる価値基準だなと思って。ごみを拾うのはなぜかと言ったら、そこにごみが落ちているからであって。

山口:(笑)。そうですね。

武井:これに対して「金を払って解決すればいいじゃないか」という貧相な人間性がすごく嫌で。だから、ダイヤモンドメディアという会社の頃はすごく掃除をどうするかという話し合いをやっていたんですよね。

山口:いやいや、めちゃめちゃ共感しますね。そもそも、「ごみを拾う」ってファクトなんですよね。判断ではなく、ファクトの範ちゅうに含めるべきじゃないですか。有無を言わさずやるべき。

武井:そうなんですよね。でもやはりいろんな人が増えていく中で、ベアーズにアウトソースをするという時期もありましたね。

山口:(笑)。いや、ありますよね、そういう揺れる時期ってね。わかるわかる。

武井:金で解決。でも、うちの子どもたちにすげえいつも言いまくっているのが、「トイレは使う前よりもきれいにして返しましょう」ということ。刷り込もうと思って、家でも外でもとにかく言っているんですね。それだけを覚えていたらいいかなと思って。

山口:いやいや、いいと思います。「早く寝ること。あいさつすること。掃除すること。この3つで子育て終了」と言った人がいるんですけど、あながち簡単じゃないですよね。ずっと向き合わなきゃいけない。

語られる時間や語られる空間をちゃんと持つ

岡田:語る人間性と語られる人間性の切り口は、すごく新鮮でおもしろかったですね。

武井:うん、おもしろい。

岡田:事業を作ったりする人も、語られる人間性が大事なんですかね。

山口:語られる人間性は超重要だと思います。ファクトがシャワーのように放射されていくので。なので、渋谷に行って広告ばっか見ても、あれは全部表象なので、何のファクトも入ってこない。

僕はそういうところにいる時は、「今はファクトじゃなくて、いろんな混ぜこぜの情報が入ってきている時だな」「ちょっとアンテナを下げておかないといけないぞ」と考える。「今はチャネルを閉じておかないといけないところにいるぞ」みたいな。

逆に、語られる時間や語られる空間をちゃんと持っておく必要がある。アウトプットだけじゃなく、語られることも人間性なので、そこの扉を閉じちゃいかんなというか。

岡田:社内でちゃんとファクトが流通できる環境を作るみたいなところですよね。

山口:難しいんですけどね。ファクト、ファクトと言っても、僕の中でファクトは10種類ぐらいあるんですけど。

岡田:10種類(笑)。

山口:ふるいにかけたら、だいたいファクトじゃないことがファクトって言われていますけどね。

岡田:やはり現場に立たされると、ファクトなのか違うのかがよくわからなくなるんですよね。

山口:基本、ファクトじゃないと思ったほうがいいですね。

実際に起きたことや数字で出たもの以外は「誰かの解釈」

武井:DXOだとそれを、「俺にはこう見える」というアイメッセージという言葉に置き換えていますけど。基本的にほとんどの発言がそうですよね。だから実際に起きたこととか、数字で出ているもの以外は誰かの解釈ですよね。

山口:本当にそう思います。「隣のお店は礼儀正しくすることで売上が上がったので、我が社も礼儀正しくしたほうがいいです」。これは完全にファクトじゃないですよね、表面的な事実であって。

「礼儀正しさと店の売上には何の因果関係もないことがわかりました」。これはファクトだと思います。実験でデータを取った結果で言えるのがファクトだと思うんですね。そういう観点でいくとファクトはかなり少ないですね。

武井:なるほど、ありがとうございます。そろそろいいお時間になってきましたか。

山口:いいお時間ですね。

武井:いや、ありがとうございました。おもしろかった。

山口:いくつかキーワードをメモっちゃいました。鍵は本当にはっとしましたね。鍵はやばい。今自分は鍵を持っていないとしゃべれない状態にいるんじゃないかとか、気をつけないといけないですね。

武井:高弘さんのことを知らない人がこれを見たら、「この人、何者だ」ってなりますよね。ちなみに今日、ログミーさんがこれを全文書き起こしで記事化したいとおっしゃってくれていて。

山口:なるほど。

武井:絶対新規事業の話じゃないですよね(笑)。

山口:新規事業の話じゃない感じの雰囲気になっちゃいましたね。

武井:いや、でもすごい。まずは、それぐらい洞察できているかどうかという問いを持ってほしいな。

山口:そうですね。

いい・悪いの判断基準を手放す

武井:佳奈美ちゃん、いい感じに締めていただけますか。

岡田:すごく難しい振り方をされた(笑)。今日はお二人の話の流れに身を任せようと思っていたんですけども、やはりこのお二人だと哲学的なお話に行くんだなというのを感じました。

その中でも、新規事業と組織についての話では、まず新規事業って何なのかという話がありました。GOBは「ちゃんとお金が儲かる」という経済的な価値と、社会の役に立つとか社会課題の解決に貢献できるという倫理的な価値の両立をいかにやっていくかを目指して投資をされていて。

そういう意味は、分散型の組織だったり、いろんなファクトに触れる面を企業として増やすことが、今後の新規事業にもつながっていくと思いますし、大事なんだなと感じました。

でも、ファクトかファクトじゃないかや、判断せずにあるがまま捉えるみたいなところは、やはりどうしてもいい・悪いの基準で判断しがちじゃないですか。そういうのを手放せたらいいなと思いながら聞いていました。

山口:確かに。

岡田:今、アンケートフォームをチャット欄に流していますので、回答いただけたら非常にうれしいです。山口さん、事業開発やこれから起業を目指したい方とかは何か相談に乗っていただけるんでしょうか。

山口:はい。相談に乗るとかはおこがましいので、いろいろと意見交換などをさせていただきたいと思います。

岡田:GOBの投資対象がちょっと変わっているんですよね。普通は法人化してからの投資が多いですが、法人化前の検証のタイミングで、「本当にそれって社会に価値が発揮できるのか」「あなたにとっての価値や、見えている世界、ファクトって何なの?」といった深堀りのサポートも行うのがGOBですので、そういうところに興味のある方はぜひお声掛けいただけたらと思います。

今GOBはDXOのワークショップがひととおり終わり、プロフィットファーストを構築中で、4月ぐらいからDXOのプログラムが社内で稼働する体制になるので、またどこかのタイミングでDXO導入後の組織の変化などをお聞きできたらうれしいです。

ということで、今日お越しいただいたみなさん、ありがとうございました。あらためて、GOBの山口さんと、社会システムデザイナーの武井さんでした。ありがとうございました。

山口:ありがとうございました。

武井:ありがとうございました。

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