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これからの時代に求められるファンベースマーケティングとは?~藤本光正×河合辰信×鈴木賢治×鹿毛康司(全4記事)

「どうしてお客さまって、こんなに『ブラックサンダー』が好きなんですか?」 有楽製菓が大切にする、お客さまに「聞く」スタンス

グロービス経営大学院が主催した「あすか会議2022」。本セッションでは、株式会社栃木ブレックス藤本光正氏、有楽製菓株式会社河合辰信氏、株式会社47PLANNING鈴木賢治氏、株式会社かげこうじ事務所鹿毛康司氏が登壇したセッションの模様をお届けします。「ファンベースマーケティング」をテーマに、これからの時代のファンとの向き合い方について語られました。

ファンマーケティングとファンベースマーケティングの違い

鹿毛:今日、ファンベースマーケティング(がテーマなの)で、僕は「ファンベースマーケティングって何だろうか?」と思って、Google検索したんです(笑)

そうしたら、「ファンマーケティングとファンベースマーケティングは違う」と書いてあって、ほうほうと思って。それを昨日、偉そうにしゃべっていたんですけどね。

ファンマーケティングは、ファンをどこかで餌食にしたマーケティングなんですよ。「この人たちから収穫しよう」という感じです。(一方)ファンベースマーケティングは、ファンのベースで、ファンの視点で、「〇〇ベース」っていうじゃないですか。「ファンベースでマーケティングしている」。だからみなさん、たぶんそういうことなんだよね。

さとなお(佐藤尚之)さんという人が、このファンベースという言葉を使われたんだけど。さとなおさんにも言ったんだけど、(僕は)「ファン」という言葉が、どこかで上から目線じゃないかなと思っていて。だって、下から「ファン」って言ったら、芸能人じゃあるまいし、ファンの人がいるのって、ちょっとおかしくない? 

(僕は)そこにすごく違和感を持っているんだけれども。鈴木さんは、「ファン」っていう言葉に絶対に違和感を持っているよね。

鈴木:難しいですね(笑)。僕たち、「ファン」という言葉には、そんなに違和感を持っていなくて。

鹿毛:それはないんだ。

鈴木:「双方向のファン」だったらいいと思うんですよ。一方的なファンとアーティストではなくて、「お互いがファン」だったらいいと思っています。

一方通行だけではない「ファン&ファン」の考え方

鈴木:我々がすごく大事にしているのは、「ファン&ファン」といって、ファンというのは、まず「自分たちが楽しむ」のファンもあるんですけれども、「お客さまに、また来たくなるようにファンになっていただくこと」「我々もお客さまのファンになること」です。

我々は宿なんですけど、「人に会いに来てもらう宿」を目指しているんですね。なので......「宿とお客さま」の1対1だけじゃなくて、地域にいろいろ行っていただいて、地域の人とコネクションが増えると、線がいっぱい増えるじゃないですか。それによって、「また行きたい宿」ではなくて、「帰ってきたくなるような宿」を目指したい。

そういうかたちで、「ファン&ファン」を大切に、「宿とお客さま」だけの線ではなくて「地域とお客さま」という線をいっぱい作っています。

鹿毛:線が違ってきましたね、確かにね。一方通行の線だけじゃなくて、あちこちに線がいっぱいでき上がったということね。今日のテーマにピッタリのことを言ってくれて、ありがとうございます。

鈴木:はい、がんばりました(笑)。

鹿毛:がんばりましたね。あとで、50円あげます。

鈴木:ありがとうございます(笑)。

(会場笑)

鹿毛:河合さん、今みたいなすばらしい発言を、ちょっとちょうだい。

(会場笑)

河合:マジすか? それ(笑)。今のテーマですか?

鹿毛:何でもいいですよ。

河合:何でもいいんですか!? 嘘でしょう?

(会場笑)

鹿毛:すばらしければ、何でもいいですよ。

河合:じゃあ、2つくらいいいですか?

鹿毛:どうぞ。

「ファン」ではなく「お客さま」で統一

河合:「ファン」という話でいうと、「ファン」という言葉を使うと鹿毛さんに怒られるので、この1~2年くらいは使わないようにしているんです。

もともとそんなには使わないんですけど、使わなくなってあらためて考えてみると、みなさんが人生の中で、「ブラックサンダー」とかお菓子について考えている時間って、ごくごくわずかなんですよね。

買う瞬間とか、お店に入った瞬間くらいで、人生の0.何パーセントとか、0.0何パーセントの時間しか考えていないんですよ。そんな人たちに「ファンですよね」というのも、めちゃめちゃおこがましいというか、「それはさすがにちょっと違うな」とあらためて思って。基本的には「ファン」という言葉を使わずに、社内でも「お客さま」という表現で統一するようにしています。

という話と、「ブラックサンダー」自体が1994年発売で、そこから10年くらいほとんど売れず、2008年に内村航平くんが好物だということで、ボーンっと世の中に跳ねていくんですけど、本当にお客さまの間の口コミとか話題作りみたいなところで育てていただいたブランドです。

そのあと、「どうしてお客さまって、こんなに『ブラックサンダー』が好きなんですか?」と、我々がむしろ研究していたというか、勉強させてもらって今のやり方が生まれたんですね。むしろ教えてもらった側なんですよ。なので立ち位置としては、常にお客さまに対して聞く。「モノづくり」だったり企画作りでは、そのスタンスでずっとやってきているのはあります。

お客さまが言ったとおりの商品は作らない

鹿毛:お客さまに聞くけれども、お客さまが「こういう商品を作ってくれ」とは言わないでしょう?

河合:言いますけど、それは絶対に聞かないようにしています。もう、「絶対に」と言ってもいいと思います。

鹿毛:お客さまの話は聞くし、お客さまに向き合うんだけれども、お客さまが言ったとおりの商品は作らない。

河合:作らないです。絶対に売れないです。

鹿毛:その心は、「売れない」。

河合:絶対に売れないですね。お客さまは言うけど、それが本音とは限らないというか、ほぼ間違いなく本音じゃない。

鹿毛:お客さまは、自分が欲しいものはわからないんだよね。

河合:わからないですね。「何が欲しいですか?」と言うと、たいがい「抹茶」とか「いちご」とか、そういう話が出るんです。「もう、売ってます」という話なんですけど(笑)。

(会場笑)

鹿毛:そうね(笑)。そうなんだよね。

河合:「買ってください」と言うだけです。

消臭力のCMで、東北の人たちから「ありがとう」の声

鹿毛:僕も前職......まだずっとやっているけど......。あっ、「モデレーターは自分の話をしちゃいけない」って、さっき書いてあったんですよ(笑)。

(会場笑)

打ち合わせのところに、「絶対に自分の話はしちゃいけない」って書いてあったけど、そんなの別にいいじゃないですかね? ちょっとくらい(笑)。

(会場笑)

ファンベースマーケティングの話、ちょっとだけしてもいい? 僕、震災が起きた2週間後に、ポルトガルのリスボンに行ったんですよ。1755年に津波で6万人、7万人が亡くなった町です。夢の中で見た町です。

企画して、考えて、向こうに行ったらミゲルくんがいて、「ラーラーララー♪」と歌わせて帰ってきて、それ(消臭力のCM)をやったら、ものすごいことが起きちゃって。

僕は数年前からTwitterとかのソーシャルをやっていて、そこでCMを見たお客さまたちが大騒ぎしだしたんだけど、特に東北の人たちから「ありがとう」っていう話が出た。

さっき言った福島県いわきが、「消臭力」の唯一の工場だったんです。そこで商品を作っているんだけど、いわきは工場がつぶれちゃっているわけですよ。それで1ヶ月動かなかった。商品もない。その中で、どうしようかといった時に、「今こそ志を出すんだ」という社長の命もあって、それ(CM)を出した。

その時にお客さまたち、知らない人たちが、ものすごい僕のところにやってきて、「西川貴教さんがモノマネしてますよ」なんてことも言ってきて、西川さんとつながり、みんながつながり、グルっとつながり。

今度は僕が「恩返し」だと思って、西川さんとミゲルくん、島谷ひとみさんという3人で、サプライズでいわきのアリオスに出て行って、みんながまた、「ありがとう」と言った。

「エステー特命宣伝部」との関係性

鹿毛:そうすると、この人たち(つながった人たち)がずっと残っていって、僕はあまり売り込みはしないんだけど、「新商品を出しました」と出すと、「部長、棚に並べておきました」とかね(笑)。

特命宣伝部長の時を知っているから、みんなは俺のことを「部長」って呼ぶんだけど、そういうことをみんながSNSで書いてくれて、自然に動いてくれて......数千人の人たちが「特別会員」みたいになっている。

特別会員(エステー特命宣伝部)といっても何かしているわけじゃないですよ。時々、マスコミさんよりも早く「このタイミングで、CM流します」とか言って、情報を出したりするんだけど(笑)。その時に、誰もそのことをリークしないんですよ。本当にしないんですよ。

この方々が僕を支えてくれる。そしてハッと気がついた。よくマーケティングで「ペルソナ」とかいうじゃないですか。僕にとっては、この数千人がペルソナだってことがわかった。

だから、「ここから拡散しよう」とか「インフルエンスさせよう」とか、そういう「マネタイズのために」だけじゃなくて、本気でこの人たちとちゃんと関係値を作ろうと思った時に、売上は伸びていったというのが、結果論です。

そんなことを、モデレーターのくせしてしゃべってしまいました。ごめんなさい!

(会場笑)

グロービスに行こうと思ったきっかけ

鹿毛:ファンベースマーケティングって、今勝手に言葉が先行しているけど、僕はここのお三方の話って、ファンベースマーケティングそのものだと思っています。手法が、例えばソーシャルに寄ったりイベントになったり、いろいろなことがあると思うんだよね。その上で、聞いていただいたと思うのですが。

ここから僕は、ファンベースマーケティングを超えて、せっかくだからグロービスで勉強してしまった人たちが、「あなた方、グロービスは実際に役に立ちましたか?」と質問したいんだけど、どう(笑)?

(会場笑)

藤本:これ、テーマは大丈夫ですかね(笑)?

鹿毛:大丈夫。

(会場笑)

藤本:じゃあ、私から。グロービスに行こうと思ったきっかけは、本当にリーダーシップのある、初代社長山谷さんがチームを去るとなった時に、私が経営のメンバーに入るタイミングだったからです。

鹿毛:それは始めてから何年くらい?

藤本:5~6年くらいですかね。

鹿毛:なんで勉強しようと思ったの? 怖かった?

藤本:経営する立場になって、今まで自分が担当としてやっていた部分だけではなくて、アカウンティング、ファイナンスを含めて、バランスを取って、全部見ていかなくちゃいけない立場になりました。

その時に、「ほぼ新入社員」みたいなかたちでチームの立ち上げをやってしまったので、あらためて「一歩引いたかたちで、会社全体を見渡せるようにならなくちゃいけないなぁ」という危機感から学び始めたのが、きっかけですね。

自分の中で芽生えた、経営者としての意識

鹿毛:「藤本さんって、どんな人だろう?」って、グロービスの関係者にいっぱい聞いたら、「藤本さん、すごくまじめでいい人だから、鹿毛さん、絶対にいじめないでね」って、いっぱい言われてきました。すごいまじめなのね。

(会場笑)

藤本:ありがとうございます(笑)。

鹿毛:いやいや、俺が言っているんじゃなくて、みんなが言ってる。

河合:でも、昨日の夜いじめてませんでした?

鹿毛:いじめてない(笑)。

(会場笑)

藤本:事前打ち合わせでは、だいぶいじめられたと思っています。

鹿毛:事前打ち合わせ、そんなにしてないよね(笑)。それで、勉強になりました?

藤本:一番は、知識云々よりも、意識ですかね。自分の頭のリソースをどこに割くかとなった時に、ともすると、「売上を伸ばさなくちゃ」とか「売上を伸ばすために、スポンサーとかファンと向き合う時間を増やさなくちゃ」ってなりがちなんですけど、よくよく考えると、従業員とかのモチベーションとか組織のほうにも目を向けなくちゃいけないし。財務面、経理面も含めてですよね。

そのへんのバランスを自分が取らないと、「誰が舵を取るんだっけ?」って話になるので、その頭のリソースをちゃんと分配する意識が自分の中で芽生えたのが、一番大きかったと思います。

鹿毛:立ち上げてずーっとやっている時に、ものすごい時間がないはずなんですよ。その中でよくやりましたね。

藤本:そうですね。そこは逆にマストだなと思って、時間を割いてでもと考えてやっていましたね。

鹿毛:なるほど。とりあえずは、そういうかたちでうまくいったということですね。

経営者の父から言われた「俺は65歳で引退するからな」

鹿毛:河合さんは......グロービスでちゃんと勉強したんですか?

河合:しましたよ(笑)。

鹿毛:しましたか。

河合:しました。何だと思っているんですか(笑)?

(会場笑)

鹿毛:「ブラックサンダー」の社長だと思っています。

河合:(笑)

鹿毛:どう? 勉強して何か変わりました?

河合:変わりましたし、役に立っていると思っています。

鹿毛:何が大きく変わったんでしょうか?

河合:2つあります。1つは、もともと目的として、(僕は)「経営って何?」というのがまったくわからずに、「経営者になる」ということだけ父から言われていました。「俺は65歳で引退するからな」とずっと言われていたので、「それまでに勉強しなきゃいけない。まずい」というのがあって、入りました。

経営のいろいろなお金の話、人の話といったものが、結局最後は決断しなきゃいけない、判断しなきゃいけないんですけど、ベースがないと何もわからない。それが今は、ベースの部分をある程度学ばせていただいたので、あとは自分が学んだ中からいろいろ引き出しを使いながら、決断していくことができるようになった。というのが、1つ役に立っているなと日々感じます。

「会社に入って継ぐ」という感覚がなかった

鹿毛:この話、公開の前に言ってもいいのかどうかわからない。これはカットしてもらったほうがいいかわからないのであとで確認しますが、河合さん、本当は(後を)継ぐ予定じゃなかったんだよね。

河合:そうです。それが2つ目の理由だったりするんですけど。私はもともと兄がいて、私は大学院まで行って卒業して、最初はシスコシステムズというITの会社に入ったんです。だけど、入って1ヶ月目で兄が亡くなって、繰り上がりで私が継がなきゃいけない状況になったんですね。

でも、そこから3年シスコで働いて、後で有楽製菓に入ったんですけど、生まれてこの方、「会社に入って継ぐ」という感覚がなかったので、「俺、なんでこれ継ぐんだろうな。俺でいいのかな?」というのは、ずーっと思っていました。

それをグロービスの中の志系、田久保さんの「企業家リーダーシップ」でいろいろと自分を見つめながら話を聞きながらやっていく中で、「自分しかやれる人がいないし、だったら自分がやるしかないな」と腹を括れたというのは、すごくあります。だから今、やれているというのはあると思っています。

鹿毛:そもそもボーっと生きていたんだもんね。その時はね。

河合:(笑)。

鹿毛:それが、「自分が社長になんなきゃいけない」という大変なことになって、400人近くの長にならなきゃいけないという、とんでもない状況で切羽詰まって勉強しだしたんだよね。

河合:そうなんです。本当にボーっと生きていたんですけどね(笑)。

鹿毛:(笑)。そういう河合さん、ステキでございますよ。

「右脳の中に左脳をぶちこむ」

鹿毛:そして鈴木さんは、最近卒業したっていうけど、グロービスはどうだったんですか? ご自分の人生と......。

鈴木:自分も2つあります。1つ目は、グロービスに入って一番学べたのは、いわゆるマーケティングでいう「顧客視点」の部分ですね。

やっぱり社長になって自分が作りたいものを作れるとなると、どうしても独りよがりになっていたなということが、振り返るとすごくあったと思っています。そこに徹底的に向き合わないといけないということが、一番学べたことだと思っています。

2つ目は、自分自身、右脳でずっと生きてきたんですよね。右脳でずっと生きてきて、感覚・直観だけで生きてきたんですけれども、「フレームワーク」という左脳の部分を自分の中にインストールすることによって、右脳と左脳を使い分けるのではなくて、自分の中では右脳の上に左脳を乗せちゃうと、自分の良さが消えることがわかりました。

なので、「右脳の中に左脳をぶちこむ」という。今めっちゃ、右脳の話をしているんですけど(笑)。わけがわからなくて、すみません。ただ、知っていてやらないことと、知らずにやることはぜんぜん違うと思っているので、その部分で自分の中ではすごく勉強になったと思っています。

鹿毛:それ、すごい重要な話でね。右脳って、つまり自分の志だったり、自分が「これだ」と言ったり、自分の当て感だったり、それをまずは信じているわけでしょ?

鈴木:はい。

鹿毛:それを信じていて、そこにフレームワークだとかいろいろなものも、もちろん重要だよね。重要だけど、そこを一応確認するみたいな感じ?

鈴木:そうですね。なんとなくやるのではなくて、「なぜやるのか?」を徹底的に考えるようにはなりましたし、それを例えばフレームワークに当てはめて、それが正解ではないんですけど、確認できるようになったかなと思います。

鹿毛:なるほどね。グロービス、3人は本当にすごく良かったってずっと言い続けられているんですけれども、1つだけあなた方に欠点があります。私のクラス、なんで受けなかったんですか?

(会場笑)

鈴木:ドキッ(笑)。

鹿毛:3人とも受けていない。ということで、ここでディスカッションタイム、(終了の)時間になりました。あと11秒よ。これ、すごいコーディネートじゃないですか?

(会場笑)

たまには褒めてください。

(会場拍手)

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