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好かれる会社、嫌われる会社―大転職時代を勝ち抜く企業の組織戦略とは―(全5記事)

これからのいい会社は、カルチャーの濃い“宗教っぽい”会社 入山章栄氏が説く、社内に「行動規範」を浸透させるには

Unipos株式会社が主催する「Unipos Summit 2023~日本企業・組織の空気を変えろ~」より、「好かれる会社、嫌われる会社 ―大転職時代を勝ち抜く企業の組織戦略とは―」のセッションをお届けします。経営学者であり企業の組織問題にも見識を持つ早稲田大学入山章栄氏、戦略的な人事制度と採用方針を確立するLINE人事の青田努氏、ビジネスパーソンのデータを最も知る一人であるワンキャリア北野唯我氏が登壇し、「これからの人事戦略のあり方」を徹底議論しました。

採用候補者から選ばれるための「わかられやすさ」

北野唯我氏(以下、北野):客観的に見ている立場からして、LINEさんは採用も相当強い印象があるんです。組織文化があることによって、採用に対する利益ってどういうところに感じますか?

青田努氏(以下、青田):そうですね。今の冊子も内部向けじゃなくて、LINE社の場合は全部PDFでサイト上で見れるようになっているんですね。

入山章栄氏(以下、入山):誰でも見れるわけですね。

青田:そうなんですよ。

入山:僕も今「見せてもいいのかな?」と思っていたんですが、ぜんぜんいいんですね。

青田:そのままお渡ししちゃっても大丈夫なくらいです。

入山:そうなんですね。

青田:そうなんです。今後企業が採用していく上で、もっというと採用候補者から選ばれる上で、「わかられやすさ」はすごく大事だと思っています。

北野:「わかられやすさ」。

青田:ちゃんと「わかられる」存在であること。そのためには「言わなくても察してくれよ」じゃなくて、ちゃんと言葉にして伝えて、実践している光景や風景をちゃんと体験してもらう。

入山:つまり、これからLINEに興味を持っていただく方に、「うちはこういう会社だからね」「こういうのが好きな人が来てよ」ということも、外に出てわかりやすく伝えているんですね。

青田:そうなんです。先に宣言してしまうと、そもそも合わない人がそんなに応募してこない。

入山:ソラコムも一緒ですね。

青田:それはお互いにとっていいことかなと思っています。

北野:そうですよね。

組織文化がないと「定着プレミアム」を払わないといけない

入山:逆に北野さんにおうかがいしたいんですが、北野さんもめちゃくちゃいろんな会社をご覧になっているじゃないですか。今の我々の話ってどうですか?

北野:組織文化がないと「定着プレミアム」を払わないといけない、と整理しています。

入山:定着プレミアム?

北野:はい。「定着し続けるために余分にお金を払わないといけない」というのがあるなと思っています。

入山:あ~、わかる。

北野:でも、組織文化がめっちゃしっかりしていたら「定着プレミアム」はない。

入山:ないです、ないです。

北野:だから(その会社に)居続けるし、むしろプラスに感じる。組織文化ってすごくフワッとしている印象があると思うんですが、(組織文化が)ないと、余分に(お金を)めちゃくちゃ払わないといけないというのは、すごくリアルにあるかなと思いますね。

青田:そうですよね。私も今、タレントマネジメント的な活動で社内のいろんな方々にインタビューさせていただいているんです。「なんで今でもLINEで働いているんですか?」というヒアリング項目もあるんですが、「LINE以上におもしろそうな会社があまりなさそうなので」と、おっしゃっていただくこともあります。

入山:じゃあ、青田さん自身もLINEのカルチャーが好きなんですね。

青田:そうですね。私もそうですし、他のLINERもやっぱりそういうふうに言う人が多いです。

入山:カルチャー作りが好きな会社って、「LINER」「Googler」「Amazonian」とか(そういう呼び方が)けっこう好きだよね。

北野:名前をつけますね(笑)。

日本企業の課題は「形式知化」

北野:もう1個聞きたいんですが、さっき「(まずは)行動だ」というお話があったじゃないですか。一方で、言語化との関係についてお二人の中のイメージを聞きたいなと思いました。

入山:僕から言うと、死ぬほど大事です。

北野:大事ですか。

入山:とても大事です。経営学者なので経営学っぽい話をすると、行動規範の習慣化で重要なのは「腹落ち」なんですよ。これを、経営学では「センスメイキング理論」と言います。

やっぱり人間は腹に落ちないと、言葉面だけ、頭だけでやってもしょうがないんです。「自分は本当にこれが好きだな」「共感するな」「腹落ちするな」というものが重要になってくるわけですね。

これからの時代のほうが重要だという話をしているんですが、僕もとても尊敬している、世界に誇る一橋大学の野中郁次郎先生の「知識創造理論」は、「暗黙知と形式知の往復が新しい知を創造する」という考え方なんです。

人間って、そもそも暗黙知のほうが豊かなんですよ。つまり、今この動画を見てくださっているみなさんも、青田さんも北野さんも僕もそうかもしれませんが、それぞれがすばらしい感覚や感性、思いや経験値を持っています。

ただ、人間の言語はたいしたことないので、形式知化があまりされていないんですよね。なので、そのままだと「う~ん」となってしまう。やっぱり人間は言葉にしないと、自分も腹落ちしないし相手も共感させられないんですね。

これも日本企業の課題なんですが、自分の会社の思いや大事にしたい文化を徹底的に考えて、お互いに共感し合って、形式知化する。言葉で紡ぐ作業も(日本企業は)長い間やっていないんですよ。

北野:なるほど。

原液の部分を薄めずに、いかに言葉としてちゃんと届けるか

入山:なのでその意味では、言語化はものすごく大事だと思っています。きっとLINEでも、それを作る時には徹底的に言葉作りにこだわったんじゃないかなと思います。

青田:しました。ちゃんと齟齬なく伝わるかどうか、LINERが聞いてしっくりくる表現になっているかとか、コピーライティングや言葉選びにもすごくこだわりましたね。

もちろん“原液”の部分はすごく大事です。でも、その原液の部分を薄めずに、いかに言葉としてちゃんと届けるかをすごく大切にしています。

入山:これは、特にグローバル企業になってくるとより大変です。基本的に、行動規範って世界で揃えなきゃいけないんですよ。なので、日本語でやっていることが海外の言葉で伝わるのか? という話があるわけですね。なので、ここを揃えていく。

グローバル企業や海外に出ている会社は、「コイツは当面辞めなさそうだな」という重要なキーパーソンを経営幹部に入れて、グローバルチームで(カルチャーを)作ったほうが絶対にいいんです。

お互いに共感しながら、わかり合う言葉で出していかないといけない。だけどお互い共感し合っているなら、別に英語でも日本語でもかまわないし、最悪の場合「図」でもいいんですよ。

北野:なるほど。

入山:ソニーの平井(一夫)さんがすごかったなと思うのが、平井さんってあれだけの改革をされたじゃないですか。あの人はとにかく「ソニーは感動の会社なんだ」と言っていました。

文化以上に文化でありビジョンなんですが、「感動」を押し切ったんですよ。でも、よく考えると「感動」って日本語だから、日本人しかわからないんです。だけどソニーのグローバルミーティングに行くと、後ろにアルファベットで「KANDO」って書いてあるんですよ。

(一同笑)

入山:「KANDO!」とか言っていて(笑)。でも、それをやっているからグローバルチームにも文化ができていくんですよね。

北野:わかりやすいですね。確かに共感されれば、別に言語であろうが、究極は絵であろうが、なんでもいいってことですもんね。

入山:ぜんぜんかまわないですよね。

言語化の部分はアップデートするべきか?

北野:さっき「バージョン2」の話もあったじゃないですか。お話を聞いていて、「言語化」と「行動」という2つがすごく重要な軸なのかなと思ったんですが、言語化の部分はアップデートしていくものなんですか?

変更していくというか、変更するならばどれくらいの期間で変更していくのか、それとも変更しないほうがいいのか。そこらへんはどう思いますか?

青田:大元からころころ変えると、たぶん「なんなの?」という話になると思います。でも、少なくとも3年から5年くらいのスパンでは、ちゃんと見直しをしたほうがいいかなと思っています。

見直した結果として継続であれば、ぜんぜんそれでもいいと思うんですよね。ただ、「やっぱりここをもうちょっと強化しなきゃいけないんじゃないか」と、現場の人や経営陣も思ったりしたら、カルチャーを変更したほうがいい。

例えば某グローバル企業だと、「プロモーションしている人の推薦コメントの中には、最近こういったキーワードが多いよな」「つまり、自社が求めていることではないのか」というのを参考にしながら、アップデートを図る。もしくは増やすこともやっていらっしゃる会社がありますね。

北野:なるほど。(見直すスパンは)3~5年くらいですね。入山さんはどうですか?

入山:青田さんの言うとおり、まず大元は絶対に変えないほうがいいです。逆に、変えるということは真剣に作っていなかったということなんです。

北野:なるほど、確かに。

これからの組織が「宗教化」することは間違いない

入山:だいたい日本の会社って行動規範が重要なんですが、行動規範が神棚に上がっているので、リニューアルしてもいいと思うんですよね。

特に今は変化の時代だから、変化できるような組織を作りたいなら、変化をちゃんと行動に入れるのは絶対に重要です。変化を拒まないとか、失敗してもそれを過度に怒らないことを行動規範に入れていくのは、個人的にはすごく大事だと思っています。

ただ、青田さんがおっしゃるとおりで、やっぱりファインチューニングは必要なんですよね。変に言葉だけズレていると、放っておくと「解釈論」になってくるんです。

北野:確かに(笑)。「これはどういう意味だ?」とか。

入山:そうなんですよ。これはいい意味で言っていて、LINEさんもそうだと思うんですが、これからの組織は「宗教化」することは間違いないんです。なぜかというと、終身雇用はもう終わるので、いろいろな人材が自由に動くようになるからです。

そうすると、比較的優秀な人材はどこに行ってもお金は手に入るから、どちらかというと、お金以上に「この会社のカルチャーやビジョンやパーパスが好きかどうか」「この会社の行動規範が好きかどうか」で(会社に)入るようになるわけです。ある意味、これは宗教と一緒なんですよね。

イーロン・マスクだって“イーロン・マスク教”じゃないですか。ただ問題は、テスラの“イエスキリスト”であるイーロン・マスクは、まだ生きているんですよ。

キリストが生きている間はいいんです。僕はこの前ユーグレナの出雲(充)さんに「ユーグレナはまだ出雲教じゃないか」と言ったんです。ユーグレナさんはまさに行動規範を一段バージョンアップして「脱・出雲」を図ろうとしているわけですよ。

いろいろ仕組みを作ろうとしていることは、すごくいい。なぜかというと、このままだと出雲教になって、出雲さんがすべてになっちゃうし、組織も広がらない。万が一、出雲さんがなんらかのかたちでいなくなったら、組織は終わっちゃうじゃんと。だから、ここでそういう仕組みを作るのは大事です。

これからのいい会社は、全部“宗教”

入山:キリスト教が発展したのって、キリストが亡くなったあとなんです。(亡くなったあとに)何ができたかというと『聖書』ができたんですよ。

北野:確かにそうですね。

入山:つまり『聖書』が「行動規範」なんですよね。別にキリストはこんなこと言っていないかもしれないけど(『聖書』に書かれていることに対して)「なるほど。僕はこういうのが好きだな」と思って共感するから、キリスト教は『聖書』で世界に広まったわけじゃないですか。

宗教はすごく大事だと思いますが。ただ問題は、当たり前ですけど『聖書』ってアップデートしないんですよね。そうすると、解釈論になってきます。「この文面って、今の時代でいうとどういう意味なんだっけ?」と、わからなくなるじゃないですか。だから、カトリックとプロテスタントができるんですよ。

青田:うんうん。

北野:わかりやすい。

入山:社内にカトリックとプロテスタントは作れないじゃないですか。作ったらよくないので、そういう意味でもファインチューニングはめちゃめちゃ重要です。

北野:確かにわかりやすいですね。

青田:だから、カルチャーが濃い会社って「宗教っぽい」と言われちゃいますよね。

入山:間違いないです。

青田:そうですよね。ある意味、それは正しいかなと僕は思っています。

入山:これからのいい会社は、全部“宗教”です。これはめちゃめちゃいい意味で言っているんですよ? ちなみに北野さんは、今までいろんな会社を見ていてどうですか?

北野:宗教という表現が、日本においてはなんとなくネガティブなイメージがあると思うんですが、むしろグローバルだと宗教観や価値観がないということは、「君たちは何教なの?」「お金教なの?」みたいなことになるじゃないですか。

要は「信じるものがお金しかないの?」という話になると思うので、(入山さんの)おっしゃるとおりだと思いますね。

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