2024.10.01
自社の社内情報を未来の“ゴミ”にしないための備え 「情報量が多すぎる」時代がもたらす課題とは?
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傳:次に、発信する情報を得る上で一番ハードルが高いのは、経営者じゃないかと思っているんです。
一方で、経営者がミッションとかビジョンとかパーパスとかを発信したり、少なくとも形作る上でリードするのって経営者だと思うんですけど、経営者ほど時間がなかったり、意外と意思疎通が難しかったり、情報共有ができていないという声をよく聞くんですよね。
そういった問題に対してどういった工夫をすればいいかちょっと教えていただきたいんですけども、加藤さんいかがですか?
加藤:そうですね、やはり経営者との距離感も難しいなと思っていて、会社によっては本当に距離ができちゃっているケースもあると思うんです。そういう場合にはやはり大義名分じゃないですけど、経営者の声を聞いて伝える必要がある状況を作って、しっかりアポを取って、声を吸い上げていくことが1つあるのかなと。隙間時間にちょっと捕まえてしまうこともあると思うんですね。
それからもう1つは、メルマガでも社内報でも、ちょっとしたニュースとか読んでほしい内容をまとめて定期的に送ることで、「広報部門がんばっているな」「ちょっと話してみようかな」という気持ちになってもらう。記憶に新しく、思い出してもらいやすい存在になっておく。印象に残ったところで顔を出して経営者の声を聞く、経営者と距離を近づけていくみたいな方法もできるんじゃないかなと思います。
傳:ありがとうございます。沢渡さんはいかがですか?
沢渡:広報がうまく経営と現場の間に立って通訳になるって、すごく大事だと思ういます。社長のメッセージってやはり社長目線なわけですよ。なぜなら立場が違うから。
でも社長が言う大切にすることとか、ビジョン・ミッション・バリューを現場で考えるとどういうことなんだろうって、広報が翻訳者になって各部門に噛み砕いたかたちで伝えられると思うんです。
例えば社内報で特集を組むのも1つですし、あるいは広報の人が振る舞わなくても、そのテーマに関して現場目線、例えば設計部門・開発部門・営業部門、それぞれの立場の言葉で伝えてくれる社外の人を講演者として呼んで代弁してもらう。そこから記事化するとか、社内対話会をやるとかもありですよね。
繰り返しになりますけれど、特に社内広報って社長の代弁者、社会の代弁者なんです。「外から見ると当社の課題はここだよね」「当社への期待はここだよね」「ここはイケているよね」と。
そして社員の代弁者でもある。「社長が言っていること伝わらないな」「いや、現場が見えていないな」というモヤモヤを翻訳して、社長にフィードバックしていく部分もあれば、社員にフィードバックしていく部分もある。「共に一緒に考えていきましょう」と場を作るやり方もあります。
社内・社会・社長の対話を促進する役割を広報には果たしてほしいし、その方法はいくらでもあると思います。
沢渡:もう1つ、特に社長じゃなくて部門長、課長でもいいと思うんですけれど、ニュースレターを書く能力があったほうがいいと思っています。私も、グローバル製薬会社とか日産自動車など、さまざまなグローバルカンパニーに勤めていましたが、グローバルカンパニーの各国の社員で、チームメンバーの求心力が高い人たちが共通してやっていたのが「ニュースレターを書く」なんですよね。
ライティングができる秘書役をつけていた人もいましたけれど、自分の部門長としての思いとか、あるいは今週、例えば「ジャパンでこういうことがあって」「USAのプロジェクトでこういうことがあって」「こういうことはいいことだ」みたいな発信を、部門長自らがしていくんですよね。
だから社内広報って全社だけではなくて、私は部門とかチームとかプロジェクトの経営戦略として、こういったコミュニケーションを高めていくのがすごく大事だなと思いました。
傳:ありがとうございます。確かにそうですよね。やはりどうしても自分ごととして考えなきゃいけない。自分ごとで考えると、ぜんぜん見え方が、景色が変わってくる。それを体現するようなお話しですよね。
沢渡:そうですね。僕はもう「エブリバディ広報」と言っています。エブリバディ広報、エブリバディブランド。もうすべての人が「自社のブランドって何だろう?」「自分のチーム・組織・職種のブランドって何だろう?」ってブランドマネジメントをしてほしいと、「組織変革Lab」で言っていますみんなが広報マインドを持ってほしいですね。
傳:沢渡さんは、広報じゃない方も広報マインドを持ってほしいというお話を最初におっしゃっていましたね。
傳:最後にお2人にうかがいたいんですけど、広報以外の方に広報マインドを持ってもらうにはどうしたらいいのか、けっこう疑問に思う人もいると思うんです。アドバイスをいただきたいんですけど、加藤さんはいかがですか?
加藤:そうですね、広報マインドを持ってもらう。これも難しい課題だなと私はちょっと思ったりもするんですけど、まず社員一人ひとりに「広報ってこんな重要なんだよ」と知ってもらいたいので、例えば「広報ってこんな仕事ですよ」という社内説明会をしてもいいのかなと思うんですよね。
広報の仕事に対して誤解がまだあるので、その誤解をじわじわと解いていきたいなというところがあって。「こんな仕事ですよ」というのを伝える場を作っていく。
それから、仕事を見てもらうような場を作ってもいいなと思ってます。例えば記者説明会の後ろでちょこっと見てもらうとか、広報の制作物とかふだんの活動を見れるような場面を作るとか。
「広報がこんなことをやっているよ」ということがもっと社内で伝わるようになって、「情報発信ってこんなに重要なんだな」「広報部おもしろいな」と思ってもらえるようになると、「自分もちょっと発信してみようかな」という人が出てきたり、広報マインドがその人にじわじわ染みてくるみたいに少しづつ効いてくるんじゃないかなとは思います。
傳:沢渡さん、いかがですか?
沢渡:2つお話しします。今1つ目は加藤さんおっしゃるとおりで、広報だけではなくて、自分たちの本来価値ってなんだろう、自分たちは誰になにをする人たちなんだろうと考える機会を作る。年度末や新年度のキックオフでやってほしいと思います。
私もプロファシリテーターとして携わっている企業で、今名前を出していいところで言うと、ヤマハさんの研究開発部門とマーケティング部門で、2時間×4回、マネージャーも含めたチームメンバーとワークショップをやっています。自分たちの本来価値や、自分の仕事をどう説明していくかという話を、ひたすら回しているんです。
こういうのをやるだけでも、自分たちが社内でどこに接点を作って、どういう人と共感を増やしていったらいいのかというコミュニケーション戦略や行動計画がまったく違ってくるんですね。
社内のその部署の認知度とかプレゼンスも、まるで変わっていきます。広報も広報以外も、自分たちの本来価値はなんだろうと考えるワークをまずやってほしいなと思います。
その中で「伝える力が足りないな」とか「どうも他部署の共感力足りないな」という場合は、加藤さんの本も読んで、共感力をどう高めていくか、あるいは社内発信をどう強化していくかをやればいいと思うんです。
沢渡:2つ目、私は傳さんと一緒に『新時代を生き抜く越境思考』という本も書きましたけれども、やはり越境してさまざまな人と対話をする体験を、今日ここに来ているみなさんだけではなく、仲間と共に増やしていってほしい。
今日ここに来ているみなさんはすばらしくて、こういう場で越境して、さまざまな人の話を聞いて、自分たちの価値を上げていこうとされています。でもみなさんの職場の仲間とか、なるべくさまざまな人が外の人と対話して「自分たちってこう見られているのかな」とか「自分たちって何者なんだろう」と一緒に考えてほしいんです。
自分たちがどうみられているかわからないと、違和感を持たれるような発信をしたり、あるいは悪気なく自分たちのファンを遠ざけてしまうこともあると思うんですね。だから越境を民主化していくことは大事なんです。
まぁ手っ取り早く、肩組んで「組織変革Labに来てくれ」でもいいですけれども、みなさんだけがアンテナが高いのではなくて、仲間、チームの人たちにも外の風に触れて、自分たちがどう見られているかを肌身で感じる体験を増やしてもらう。これをぜひやってほしいなと思います。
傳:ありがとうございます。やはり自部署とかの強みとかを説明するにも、言語化しようとするとなかなかできなかったりしますよね。
沢渡:そうですね。同じずっと会社にいたり、同じ業界にいたり、同じ職種にいたら悪気なく殿さまになっちゃうと思います。
ちょっと裏話をすると、私は日産自動車会社の出身なんですけれども、特に自動車会社の調達部門は社内でもプレゼンスが高くて、悪気なくお取引先にも強気で、偉い人になった気分になってしまって、勘違いする若手がいるんですよね。
私も一時期工場にいたので、先輩とそういう若手を見つけてはよく説教をしていました。結局お取引先も一歩離れればお客さまになるわけで、そのような振る舞いをしていると、自社ファンを遠ざけてしまったり。あるいは人生100年時代、どこにも行けない人になっちゃうと思うんです。
すなわち、最初の加藤さんの話でいうと、フラットにつながってコラボレーションできない人たちになっていってしまう。それは会社組織、あるいは業界としても「こんな偉そうな業界で働いたら、人間として駄目になるんじゃないか」みたいな話になるんです。
人が辞めていく時代ですから、やはりその業界とか会社とか、職種のファンを増やしていく。無駄に遠ざけないことが必要です。そのためには外の空気に触れたり、さまざまな人と対話をする体験を増やしていく。これは組織のリスクを高めない、個人のリスクを高めないためにも大事な行動かなと僕は思います。
傳:ありがとうございます。ちょっと5分オーバーしちゃったんですけど、いったんこれで対談は終了したいと思います。質問がもしあればお寄せいただきたいんですけど、今1つ先ほどのニュースレターの話があって、「やってみたけどなかなか対応ができなくて悩むところです」という悩みの声をお寄せいただいています。
実際にそのニュースレターの中身とか、どうやって出されているのかとかはわからないので、なかなか具体的なアドバイスはできないと思うんですけど、ニュースレターで対話する上で、もしなにか書き方やコンテンツ、頻度など、こういうふうに書くと多少成功率が上がるんじゃないかというアドバイスがあれば、それぞれお願いしたいです。
先ほどと一部重複することもあるかもしれませんけど、加藤さん、まずいかがですか?
加藤:例えばその会社の人が「もう絶対に読みたい」みたいなものにも絞って短くしてしまう。そこからスタートして読む習慣をつけてもらうというのは1ついけるのかなと思っています。短くすると作るほうも実は楽で続けやすいというのがあるんですよね。
すごく気合が入ってがんばってしまうと続けられないとか、「あれ、読まれていない」とか「なんかうまくいかない」ということで挫けやすくなってしまうので、まず気軽にできるところから短くスタートする。そうすると読み手も楽だし習慣になりやすいし、そこでフィードバックをもらって改善もしていきやすいかなと私は思います。
傳:なるほどです。沢渡さん、いかがですか?
沢渡:手短に2つお話しすると、1つ目は、音声にしてしまう。
傳:音声、なるほど。
沢渡:ラジオ配信みたいにしてしまうというのが1つ。テレワーク中でも、皿洗いをしながら聞けたりしますから。2つ目が、そのあとに対話するきっかけを作る。
傳:きっかけというのは、場作りも含めてという感じですかね?
沢渡:そうです。そのニュースレターの文章を読んで感じたこととか、課題だと思うことを話す場を作るとか。
それが重苦しければ、例えば次回の会議で話したい関連ネタをニュースレターで書く。そうするとお互い「わざわざニュースレターを読む」のではなくて、その会議で議論をするための、いわゆる通常業務の延長線上にニュースレターが位置づけられる。こういう導線設計・構造設計も大事かなと思います。
傳:そうですね、わざわざそれを読まなきゃいけないというより、日頃の仕事の延長線上で、ちょっとカジュアル感がある雰囲気で読めるようにするとやりやすくなりますね。
沢渡:そうですね。あともう1ついいですか? コンテンツに「その人らしさがわかるパーツ」を入れてみるとか。
傳:なるほど、そうですね。
沢渡:僕だったら好きなダムの話でもいいんですけれど、やはり人間らしさに共感しますよね。社内報も、その人のちょっとカジュアルな人となりがわかるコンテンツがたいてい1位なんですよね。
傳:確かに。
沢渡:堅苦しいことではなくて、この場だから聞けるその人の本音とかプライベートとか、こういうものがあると既読率も高まると思います。これはもう数字が出ていますね。
傳:なるほど。「会社で」となると、どうしてもみんな硬くなりがちですけど、そこはちょっと緩めて、ある意味やはり自分を出すことが逆に効果が出るという感じですね。
沢渡:みんな人となりには興味があるんですよ、人間だもの。
傳:そうですよね、大事ですね。ありがとうございます。
傳:ほかにご質問ありますかね? 時間ももうそろそろ押しているので、最後に加藤さんと沢渡さんにそれぞれをお一言ずついただいて締めたいと思います。まず加藤さんお願いします。
加藤:今日はみなさん本当にご参加ありがとうございました。今日のお話が、明日からなにかみなさまの生活や仕事にのヒントになっていったら非常にうれしいなと思います。今日見終わったあとに、また書籍のほうも読み返していただくと新たな気づきもあると思います。ありがとうございます。
傳:ありがとうございます。沢渡さん、お願いします。
沢渡:ありがとうございました。あっという間の60分でした。エクスターナル、外向き広報のプロの加藤さんと、インターナルコミュニケーションの専門家の私の、この「越境」が非常に心地よかったです。
さらに今日は広報のみならず、さまざまな部門の方が来られているということで、さまざまな職種の方が広報力を身につけて、突破していく。組織を明るくしていく。そのような行動につなげていただけたらうれしいです。みなさんぜひ2冊の本も読みながら、良いファシリーダーになっていってほしいなと思います。ありがとうございました。
傳:はい、ありがとうございます。ということで加藤さんの『話題にしてもらう技術』、沢渡さんの『話が進む仕切り方』、絶賛発売中なので、ぜひ併せてご覧いただけるとうれしいです。
『話題にしてもらう技術~90.5%の会社が知らないPRのコツ』(技術評論社)
『話が進む仕切り方 ~会議/プロジェクト/イベントを成功させるファシリテーションの道具箱~』(技術評論社)
沢渡:ぜひ社内の教科書として配ってください。残予算で(笑)。
傳:よろしくお願いします。ということで、本日「社内を味方にする仕切り方」、以上で終了とさせていただきます。本日はありがとうございました。
加藤:ありがとうございました。
沢渡:ありがとうございました。景色を変えていきましょう。
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