2024.10.21
お互い疑心暗鬼になりがちな、経営企画と事業部の壁 組織に「分断」が生まれる要因と打開策
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御立尚資氏(以下、御立):この熱気がうれしいですね。3年ぶりのあすか会議ということで、今日はこの炎天下の中京都でもっと熱くなる(2022年7月時点)、この話をしていただいております。
新しい技術ができて、新しい経済成長が始まろうとしていたところにパンデミックが世界を襲った。「この世の中はどうなるんだろう?」とみんなが考えている時に戦争が起こり、その戦争が世の中のパラダイムを変えた。
これは今の話ではなく、ルネッサンスの話ですね。マルコ・ポーロが中国まで行ったのが13世紀。航海技術、羅針盤といったものが生まれて、経済が急にグローバル化して、貿易と金融で儲ける人が出てきた。そこにペストがやってきて、人口の3分の1が亡くなった地域もあった。
オスマントルコがビザンツ帝国(東ローマ帝国)、コンスタンティノープルのあたりを陥落させて、ヨーロッパの一番東側にあった大国は消滅した。その時、東ローマ帝国にあったギリシャの知恵、絵画、彫刻の技術、哲学、数学は全部イタリアにやってきたんですね。
実はそれでルネッサンスが起こり、ミケランジェロ(・ブオナローティ)が出て、(サンドロ・)ボッティチェッリが出た。
メディチ家(フィレンツェの名家)の人たちは「もう1回ギリシャの勉強をしよう」と、アカデミア・プラトニカ(プラトン学院)を使って、自分たちの祖先がやったことを勉強したんですね。結果的には、我々が生きている近代につながるルネッサンスが起こりました。
さて。デジタル、そして新しいデータを使った経済がだんだん起こり始めている段階だと思っていますが、そこへパンデミックがやってきました。
「さあ、どうなるんだろう?」と思っていたら、ウクライナの問題が起こった。今後、ルネッサンスのような大きい変化が起こるのかどうかを、ここにいらっしゃるすばらしいパネリストのみなさんと一緒に議論をしていきたいと思います。
御立:今、我々がルネッサンスを振り返ってみると、「古典を復活させる時代だったよね」と言うんですよね。ダ・ヴィンチとか、みんないろんなことを総合的にやっていた。建築も、絵画も、彫刻もできる。実はダ・ヴィンチは、軍事技術までやっていたんです。振り返ってみると、いろんな個別なものをもう1回統合した時代だったんですね。
今日あすか会議にいらっしゃっているみなさんは、この新しい時代の中で、ビジネスや経済、社会、行政、政治など、いろんなところでリーダーになろうとされる方々です。
自分でいろんなセッションに参加されること、あるいは新聞だのメディアだのSNSなどで得た情報をどう総合して、ルネッサンスに匹敵するポストコロナを作っていくか。この「総合」をお考えいただくためのセッションでもあると思っています。
今日の各パネリストのみなさんには、今起こっていること、それからこの後どうなるんだろうかという、非常にストレートな質問をさせていただきます。それがいったいどんな意味を持っているのかを、2つ目に議論させていただきます。
意味だけではなくて、一回りした後にみなさんそれぞれが語っていることが被さって、重なり合って、影響し合って、世の中がどうなっていくのか。
その時の本当の問いは、ここにいらっしゃるみなさん一人ひとりが「世の中をどう作っていきたい」という意志を持つのか、そのスタートポイントになるセッションにできればなと思っています。
最初にみんなが聞きたいことからいきましょう。神保さんから聞きます。ウクライナとロシアの戦争はいつまで続きますか? 領土の取り合い、エンドゲームはどうなるんでしょうか。
神保謙氏(以下、神保):これはまさに世界の人々が問いかけている課題です。けれども、この戦争が終わる時期を「ここだ」とみなすことは、まだ難しいと思います。
戦争の終結にはいくつかパターンがあるんですが、1つ目は(どちらかの国が)圧倒的に勝ってしまう。どちらかがギブアップするまでやることです。
2つ目は交渉による妥協が成立する場合です。互いが利益を得る(極端に不利にならない)かたちで、妥結を生んでおあいこにする。3番目は、戦い疲れてこれ以上ないところまでいって、戦争を終わりにすることです。。
御立:嫌になってしまう、と。
神保:そうです。
御立:厭戦(えんせん)気分が広がる。
神保:このどれもが、すぐに実現するとは思えないんですよね。今、ウクライナが一生懸命戦って、東部ドンバスで激戦が続いていますが、どこで蹴りをつけられるか。ウクライナが戦闘を停止することは、侵略によってロシアが引いた国境を認めることにつながってしまうわけですね。
御立:そうですね。
神保:2月24日まで(の侵攻前)に戻したかったら、ドンバスから押し返して、そこで決着をつけないといけない。でも、それがすごく難しいのが今の現状だと思います。
御立:当面続く可能性が極めて高いと。
神保:ゼレンスキー大統領は、「少なくとも年内(2022年)まで続く」と言っています。でも、その「年内」という根拠は見出しにくいと私は思っています。
御立:特に一方的に勝つことがないとすると、先ほどの2番目や3番目のように、2年とか3年かかる蓋然性が高い。
神保:そうですね。どこで国際的な決着をつけるかにかかっているんですが、少なくとも、ルハンスク州とドネツク州という2つの州からロシア軍を追い出すのは、10万人規模の装甲部隊を国境まで押し返すということですから、今の兵装ではとても無理です。
基本的には、市街戦でロシアの進出をようやく止めることができる戦力と、それを押し返す戦力はまったく質が違うわけですね。だから目標を「押し返す」ところに定めると、本当に数年かかるかもしれないです。
御立:これを前提にすべきだと。1つだけ追加の質問をさせていただくと、そうは言ってもロシアは全力を使っていないですよね。
いろいろと失敗したと言われていますが、(ロシアは)核や化学兵器は持っている。無人兵器も実はまだ使っていないものもある。やる気になれば、宇宙からもいろんなことができる。その非対称的な力の中でとりあえずやるとすると、押し返すのが限界だと考えていいですか。
神保:そうですね。今回の戦争はたくさんの誤算があって、おそらく「ウクライナは簡単に降伏するんじゃないか」とプーチンは誤算し、私のような研究者も誤算がありました。電撃作戦でキエフに迫り、1週間で決着させるという目論見は実現しなかったのですね。
それから、この甘い見通しで始めた戦争は、陸・空軍の統合作戦がぜんぜんできていないし、航空優勢が取れない。そして、そのロジスティックスも含めてぜんぜんうまくいかない。だから北部の戦いでは、ロシア軍にとっては極めて恥ずかしい戦闘をしてしまった。
それを立て直すために今は東部に入ったんですが、今のロシアの目標は、まさにドンバス地方において新しい国境を獲得して、そこで2つの自治州を成立させて勝利宣言すること。それを阻止しようとしているのが、ウクライナの戦いです。
ゼレンスキー大統領が「(ルハンスク州の主要都市である)セベロドネツクがこの戦争の帰趨(きすう)を決する最大の戦いになる」と言ったのは、ルハンスク州全土にわたる制圧をさせないという意味だと思いますね。
御立:島田さんにはオフレコで聞きたいこともいっぱいあるんですが、島田さんから手が挙がったので、今日はいろんなかたちでお話を聞きたいと思います。G1サミット、あすか会議の関係でお知り合いになりました。データと情報で世の中がどう変わっていくかについての大専門家でいらっしゃいます。
株主総会を終えて(東芝の)社長として選任されています。当然、運も含めていろいろな流れがあるんですが、データや情報のあり方が世の中を変える時代の中で、なるべくして社長に選任されたと思います。今の戦争と情報について、まず一言いただければと思います。
島田太郎氏(以下、島田):そうですね。その前に、今の神保さんの話に質問をしたくて手を挙げてしまったんです。
御立:質問ですね。いいですよ。
島田:せっかくですから地政学に詳しい方にお聞きしたいです。ロシアとウクライナの戦争がどうなるのか。
クリミア半島の併合の時はいつ終わるのかが重要だったんですが、ロシア対NATOの戦争になってしまっている点で、地政学上、前回の戦争と決定的に意味合いが違っている。今回はこれがどこまでエスカレートするのか、せっかくなので聞きたいなと思います。
神保:今回、ロシアのウクライナ侵攻を抑止することには完全に失敗したわけですよね。その理由は、普通に考えるとウクライナはNATO(北大西洋条約機構)の加盟国ではなかったこと。つまり、NATOは条約義務をもってウクライナを防衛する必要はないんです。
でも、条約がなかったとしても、アメリカやNATOは軍事介入をした歴史があります。例えば、コソボ、リビア、イラク、クウェート。全部条約とは関係ないかたちで国際介入をしたわけです。「米国が介入するかもしれない」とロシアに思わせれば、もしかすると(侵攻を)止められたかもしれない。
だけどアメリカは早期の段階から「(ウクライナに)地上軍を送りません」と言って、ロシアの戦略計算をかなり簡単にしてしまったんだと思うんですね。それでさっき言ったみたいに、誤算もあって「短期的な決戦で勝てるかもしれない」と思った。
それがどこまでNATOに波及するかが大きな問題ですが、おそらくNATOに対する手出しは相当ハードルが高いと思います。
ロシアは西側のリヴィウは攻撃したけど、国境を越えてポーランドに攻撃はしていないですよね。NATOの武器がどんどん入ってきて、もちろん供給ルートである線路の攻撃はしたんですが、武器弾薬を運搬している車両にさえロシアは攻撃していない。
そのぐらいNATOは非常に大きな存在だからこそ、スウェーデンとフィンランドはいち早くNATOに加盟したかったんだと思います。したがって、ロシアがもし戦線を拡大するなら、ロシアの意図的な拡大ではないと私は考えています。
むしろ「もう負ける」「これ以上はだめだ」という時に、最終的に戦術核を使うとか、あるいは化学兵器を使って戦線を打開する可能性のために拡大することがあると思います。けれども、今のところ自発的な拡大の可能性はかなり低いのではないかと思っています。
御立:ロシアにとっても大きなリスクだと考えている可能性が高い、ということですね。
神保:そう思います。
御立:このウクライナの問題はいろんなことを惹起(じゃっき)しています。先ほど堀さんからもありましたが、そもそもこの戦争が起こる前からパンデミックのリカバリーの中で、ロジスティックの問題、サプライチェーンの問題、それから何よりもアメリカでは人手不足の問題など、いろんなことが掛け算になってインフレの傾向が起こり始めていた。
これは良い悪いの話ではないので、差別的に取られてはいけないんですが、先週もシリコンバレーの友だちと話をしていたら「エントリーレベル(初級レベル)のセクレタリー(秘書)のジョブポストを出した。いくらだと思う? 年収が20万ドルだ。2,600万円で応募が来ない。あきらかにおかしい」と。
したがって今、アメリカの金融界のトップやジェイミー・ダイモンなど、いろんな方が「リセッション(景気後退)が来るぞ」と言っているんです。「あれは景気後退が来てほしいと思っている可能性が高いと思ったほうがいいよ」と。「調整しないと、とてもじゃないけども回らないんだ」と言う人もいるそうです。
しかもここにウクライナの問題、実際にはエネルギーと食料の問題など、これからいろんなところにいろんな波及があります。波及する問題については、あとでみなさんからいろいろなかたちでお話をうかがっていきたいと思います。
御立:武田さん、アメリカは8パーセントのインフレ率なのに、日本はエネルギーが上がっても、それから食料を入れても2パーセント(2022年7月現在)とかじゃないですか。まず、世界のインフレは続くのか。日本はインフレになる可能性があるのかという端的な質問に対しては、どうお答えいただけますか?
武田洋子氏(以下、武田):ありがとうございます。2つのご質問に対してお答えする前に、まずは今のインフレがどうして起きているのかを見ていく必要があると思います。
1つはお話にありましたとおり、ウクライナの問題。エネルギーあるいは食料価格の値上げにつながっているのは、みなさまご案内のとおりです。しかし事態はより深刻で、需要と供給の両方がインフレを起こす背景があると思っています。
1つは、パンデミックから需要が急回復したこと。それによって、供給が滞っている間にどんどん需要が増えていくものですから、これは通常のプロセスとしてディマンドプル、つまり需要が……。
御立:調整だと。
武田:そうですね。需要が急回復することによるインフレであれば、おそらく一時的に収まるのが答えになると思います。
2つ目は、供給サイドで何が起きているか。これはウクライナだけではなく、今日の話題でもある国際的な潮流変化も影響を及ぼしていると、私は見ています。
具体的には3つあると思っています。1つはグリーンインフレーションですね。カーボンニュートラルに必要な資源、あるいは再エネに必要な資源。「再エネにすれば、海外から依存しなくても良くなるのではないか」とご覧になっている方もいらっしゃるかもしれませんが、それは違います。
再エネに移る、あるいは自動車がガソリンからEVに移るとしても、必要な資源が変わる。そしてその資源は海外に引き続き依存していて、その量は意外と多いというあたりが、世界的にも新たな資源の需要の増加にもつながっていると思います。
カーボンニュートラルに向けて世界が動く流れは、おそらく止まるどころか加速すると思うんです。これまで既存のエネルギーに頼っていたセクターが動きだす中で、既存のエネルギーに対する投資が抑制されますから、これもカーボンニュートラルの流れのもとでの供給減につながるわけですね。
つまり、新たな資源の需要増と既存資源の投資減によって、結果的にグリーンインフレーションが起きているのが1つ目です。
武田:2つ目は、経済安全保障もこれから影響してくるのではないかと思っています。これまでグローバリゼーションの中で、効率性を重視して、企業は最適なサプライチェーンを築いてきました。
しかしこれからは、効率性だけではない、経済安全保障にも配慮したサプライチェーンがより重要になってくる。そうすると、必ずしも企業にとっての最適解が「コストが一番低いかどうか」ではなくなってくる可能性があります。
それから3つ目は、先ほどおっしゃられた労働市場の問題です。特にアメリカではコロナで早期退職する方々が増えて、大退職時代とも言われているぐらいです。足元は若干戻ってはきているんですが、それでも前の水準にまでは戻っていない。したがって、先ほどのセクレタリーの話にもなっているのだと思います。
そもそも日本は労働力人口が減少する中で、これから労働供給が減っていく局面です。つまり世界で捉えた時に、需要の一時的な急増についてはFRB(連邦準備理事会)がものすごい勢いで利上げをやっていますから、先ほど「むしろ景気の減速を待っている」という話もありましたが、おそらくこれからディマンドプルによる物価の上昇は収まってきます。
一方で、供給ショックの物価の押し上げ(コストプッシュインフレ)については、今申し上げた3つが比較的構造的な要因で、すぐには解決しないだろうと(予想されます)。少なくとも過渡期はあるでしょうから、世界で見れば少し長引くのではないかと。
御立:少し長くというのは、何年ぐらいのイメージですか?
武田:8パーセントのインフレ率から下がってくるという意味では、2022年の後半、2023年にかけてだと思います。
御立:ディマンドサイドのほうが収まってくる。あるいは金利でコントロールできる。
武田:ただ、じゃあ急に世界のインフレ率が前の2パーセント以下に戻るかというと、当面数年単位でなかなか見通せないのではないかと見ています。
じゃあ、2つ目の質問の日本はどうなのかというと、残念ながらディマンドプルによる物価の押し上げがほぼありません。
御立:ないですね。
武田:日本のインフレは8割がコストプッシュ(生産コストの上昇)です。したがってディマンドが弱い中では、直ちに日本が世界の8パーセントのインフレにはならないです。ただし、構造要因については世界共通で日本も避けられない要因なので、そこをどう見ていくかが課題だと思います。
御立:ありがとうございます。
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