2024.10.10
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阿部誠氏:ここまでは心理学の話になるわけですが、透明のコーラはできたんだけど、消費者が受け付けてくれない。じゃあ、実際にビジネスではどうすれば受け入れてもらえたのか? ということですね。
革新的新製品「Crystal Pepsi」に対する消費者の製品評価・受容可能性を高めるために、マーケターとして、ビジネスマンとして、2つのことが考えられます。
1つは「どのカテゴリーで売り出すべきか」。「Crystal Pepsi」は、恐らくコーラとして売らないほうが良かったんじゃないか。例えば「セブンアップ」「スプライト」といった透明な炭酸飲料と競合させるとか、そもそもカテゴリーの選択の問題を誤ったのではないかということがあります。
もう1つ、先ほど逆U字型というものがありましたが、適度な不一致の時には情報処理の量が一番高くなる。つまり人間というのは、それを同化して調節しようと、非常に活発に頭が動くわけです。
だから、透明なコーラを「極端な不一致」から「適度な不一致」に動かすことができれば、消費者はそれを理解して、少なくとも頭の中ではその商品を覚えて、もしかしたらそのうち何人かは実際に買ってくれるかもしれない。
じゃあ、どうすれば「完全な不一致」を「適度な不一致」に変えることができるのか。ここでのキーワードは、「イネーブラ」というものを使うことです。
これも最近の心理学で出てきた言葉なんですが、恐らく日本語で言うと「意味付け」。直訳しちゃうと「救済要因」となってわからないので、「意味付け」というふうに考えていただければよろしいと思います。
まだちょっとわかりづらいと思うので、具体例を示しますね。先ほどの結合推論に基づくと、人間は事象の因果・相関関係について、既存の頭の中にあるスキーマでの同化と調節を通じて、意味的ネットワークを新たに作り出す活動を日々行っています。
その結果、例えば「天然水」と聞いたら「ピュアで透明だ」と、ある程度思いつく。「段ボール」と言うと「リサイクルができる」とか、「羽根がない扇風機」なんかを考えると「安全だろう」とか。
こういうものは、今までの人間の経験から頭の中にスキーマがあります。したがって、多くの人が持っている既存のスキーマを使うことによって、「極端な不一致」を「適度な不一致」に動かすことができます。
今の話をまとめてみましょう。革新的な機能・特徴が、既存カテゴリーにおいて非典型的な場合。つまり、既存の「コーラ」というカテゴリーにおいて「透明な色」が非典型的な場合には、完全な不一致というものが起きてしまいます。
革新的な機能・特徴に関連する意味付け(イネーブラ)を提示することで、結合推論によって同化・調節が起きて、新たな意味的連想、スキーマが頭の中に構築される。そのためには、適度な不一致で頭の活動が活発になる必要があります。
そして、その革新的な機能や特徴は「既存カテゴリーの一部に付随することが適切である」というイメージが生まれる。
つまり、黒いコーラが普通なんだけど、サブカテゴリーで「透明なコーラもアリだよね」となることで、透明でも「コーラ」というカテゴリーの中に入って、「Crystal Pepsi」がそれほど不一致でないという心象が構築されます。
今のメカニズムを、もうちょっとわかりやすく図解で示してみましょう。既存のカテゴリーがあって、革新的機能や特徴があります。これはカテゴリーとはまったく一致しないので離れています。
先ほどの「Crystal Pepsi」の例で言うと、カテゴリーは「コーラ」、革新的特徴は「透明」という色。この2つは完全に不一致です。しかしそこに、革新的特徴に関係する意味付け(イネーブラ)を持ってくる。
例えば「天然水」というのは、多くの人が頭の中で「透明」と関連付けているので、「この『Crystal Pepsi』は天然水から作られているんだ」というふうに言う。そうすると、先ほどはカテゴリーと革新的特徴が完全に不一致だったんですが、「カテゴリー一貫性」がもたらされて「透明なコーラもアリだよね」となります。
この意味付け(イネーブラ)をもう1回クリアにまとめてみると、こういうことになります。「他方の属性の存在を意味的に肯定する属性」というのは、例えば「透明」という属性に対して「天然水でできているコーラだからOKだよね」となることで、「天然水」が意味付けになる。これが、カテゴリー典型性に大きな影響をもたらします。
そしてこれはスキーマが変わると言うよりも、「透明なコーラもあるんだよね」というサブカテゴリー化を引き起こす。消費者の頭の中に、一部のコーラを「天然水でできていれば透明でもおかしくないんだよ」ということが、スキーマとして植え付けられます。
実はこれを実験で研究したものがあります。これは『Journal of Consumer Research(消費者研究)』の2018年に出た論文で、Noseworthyというイギリスの研究者たちの実証研究です。
ここではコーヒーを題材にしています。「ビタミン入りのコーヒー」というのが革新的新製品ですが、ビタミンがコーヒーに入っていると完全に不一致になるわけですね。
このグラフは縦が評価(Evaluation)です。白いバーグラフは、左から普通の黒のコーヒー、緑のコーヒー、赤のコーヒー。黒いバーグラフは、左からビタミンが入った黒のコーヒー、ビタミンが緑の入ったコーヒー、ビタミンが入った赤のコーヒーです。
黒いコーヒーで、普通のコーヒーとビタミン入りのコーヒーを評価してもらった場合、やはり「完全な不一致」になり、ビタミン入りのコーヒーの評価は非常に低くなってしまう。このボックスチャートによると、統計的に有意に低くなることがわかりました。
しかし、「ビタミンがコーヒーに入っている」という革新的機能の意味付けを与えることによって、「適度な不一致」に動かすことができる。その時に使った意味付けが、グリーンやレッドといった「色」になります。
やはりビタミンと言うと「野菜」ということで、緑や赤といった色が付いているコーヒーであれば、ビタミンが入っていても完全に不一致じゃなく、適度に不一致なんですね。
ビタミン入りのコーヒーと言うと若干違和感はあるけれども、「緑とか赤だったらそういうコーヒーもあるのかな。でも僕は買わないよ」と言う人もいるかもしれません。
実際に、被験者たちに評価をさせた結果はこうなっています。ビタミンが入っている場合、普通の(黒の)コーヒーよりも緑のコーヒーの評価が非常に高かった。赤の場合も、やはりビタミン入りのコーヒーのほうが、普通のコーヒーよりも評価は高かった。
赤と緑を比べると、緑のほうがより評価が高かった。スキーマの中では、「緑」というのは「赤」よりもビタミンにより強く関連付いているために、評価が高まったと考えられます。
したがって、革新的新製品、つまり完全に不一致な製品を適度な不一致に動かして、スキーマ一致理論に基づいて情報処理の量を非常に活性化させることによって、その商品を買う人、選択する人も増えてくると考えられます。
今紹介したビタミン入りのコーヒーの場合、イネーブラは何だったかというと「色」です。つまり「ビタミン」と「緑」という色が、スキーマで強く結び付いている。
紫じゃダメで、黄色でもダメなんです。「緑」と「ビタミン」がスキーマで非常に結び付いているので、それをイネーブラとして用いることによって、ビタミン入りのコーヒーが適度に不一致になり評価が高まります。
「Crystal Pepsi」の場合はどうかと言うと、「透明なコーラ」は完全に不一致ですね。この時のイネーブラは何か、覚えていますか? 「材料」です。
つまり、「透明」と非常に結び付きの高い材料である、ピュアな天然水といったものを持ち出すことによって、透明なコーラが適度な不一致になり、情報処理量は活発化して、その商品を覚える人や選択する人が増えるだろうということになります。
「リサイクル可能なスマートフォン」も最近一部でやられていますが、ケースからすべてリサイクルできると言うと、完全に不一致な製品です。「そんなスマートフォン、本当に耐久性があるの?」というイメージになってしまいますよね。
この場合は、適度な不一致にするにはどういうイネーブラを使えばいいと思いますか? ちょっと考えてみましょう。
(「リサイクル可能なスマートフォン」のイネーブラは)「触感」です。これは1つの例ですが、プラスチックでできているんだけども、スマートフォンの触感が段ボール感があって、ちょっとケバケバしてザラザラしている。
こういったケースになっていれば、「このスマートフォンはリサイクルできる」と言ってもそれほど違和感がないので、適度な不一致になると考えられると思います。
それでは、今日のお話をちょっと考えてみましょう。ディスカッションということで、「完全に不一致な製品のイネーブラは、どういうものを使えばいいんでしょう?」です。実際のマーケティングの宿題なんかに出すのは、おもしろいかもしれませんね。
1つ目は「羽根のない扇風機」。ダイソンという会社が数年前に羽根のない扇風機を出したわけですが、「非常に扇風機なのに羽根がない。どうやって風が出てくるのか?」と、完全に不一致なわけです。扇風機に対して、これを適度な不一致にさせるにはどのようなイネーブラが良いと思うでしょうか。
いくつか考えられますが、便益としては「安全」というのが1つです。「羽根がないのは安全」というのは、既存のスキーマで比較的強く結び付いているので、この扇風機でそれを強く訴求することによって、完全に不一致が適度な不一致になり、羽根のない扇風機に対する消費者の受容性が高まります。
あるいはもう1つの便益として「デザイン」も考えられるでしょうね。「羽根がないのは非常におしゃれである」「革新的である」ということを強く訴求することによって、適度な不一致に変わる可能性があります。
2つ目の例が「温もりのあるロボット」。生暖かいASIMOくんを考えてみましょう。「オーバーヒートしているんじゃないか」と、完全に不一致だと考えちゃうかもしれません。それを適度な不一致にするには、どのようなイネーブラ(意味付け)を持ち出せば良いでしょうか。
1つの例としては「外観」ですね。温かいロボットなので、機械ではなくてぬいぐるみのように毛が生えていたり、服を着ていたり、あるいは人間のようなデザインにすることで、ロボットが温かくても適度な不一致になり、受容性が高まることが考えられます。
3番目の例が「防犯カメラ付きエアコン」。「エアコンに防犯カメラなんて要らないよ」と、完全な不一致の傾向を出しやすいものですが、どのようなイネーブラを使えばより消費者に受け入れられやすくなるでしょうか。
1つは「機能」。スマホで遠隔操作をして、防犯カメラを見ることができることを関連付ければ、エアコンに防犯カメラが付いていてもおかしくないんじゃないか。
すでに今でも、エアコンをスマホで遠隔操作できる機種はかなり増えてきております。自宅に帰る1時間前にエアコンを付けて、部屋を暖かくしておくことができるわけですが、だったら自宅の留守番中にペットがどうしているか、セキュリティがどうなっているかをスマホで見ることも当然になる。つまり、適度な不一致になります。
最後はずいぶん昔の例ですが「持ち出せるステレオ」。1970年代の中頃に出た、ソニーのウォークマンですね。当時は非常に画期的というか、完全に不一致でした。
ステレオというのは家具のようなものだったわけですが、この場合はどういう意味付けを使えば、消費者のウォークマンへの受容性がより高まるでしょうか。
1つは、やはり「機能」ですね。臨場感のある高音質、つまりステレオは音質が非常に高いのでヘッドフォンを使いますが、それを強く訴求することによって「ステレオでも、ヘッドフォンを使えば持ち出せるんだ」と、適度な不一致になって消費者の受容性が高まる。実際にそれでソニーのウォークマンは爆発的にヒットしました。
「緑の珈琲がアリで無色のコーラがダメな理由」ということで、イネーブラを賢く使えば完全に不一致な製品に対する消費者の受容性が高まるんだよ、というお話をいたしました。
もし興味があるようでしたら、こちらの書籍をご覧ください。本日はどうもありがとうございました。
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