2024.10.01
自社の社内情報を未来の“ゴミ”にしないための備え 「情報量が多すぎる」時代がもたらす課題とは?
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ーーBtoB企業のファン創りをしていく上では、企業対企業の関係なので、BtoC企業に比べると「1人目のファン」を見つけるのが難しいのではないかと感じています。1人目のファンをどうやって創るか、見つけるか。何かヒントはありますか?
宍戸崇裕氏(以下、宍戸):そうですね。1人目と言うと、BOKURAの場合は2015年に起業したんですが、その前から付き合っていたお客さまたちに「起業します」と言ったら、「起業したら教えてね。仕事を振るから」と言ってくれていた人が何人かいたんです。
世の中的には「だいたいそういう人たちは発注をくれないよ」とよく言われるんですが、僕の場合、実際に発注をくれたんですよね。
「なんで発注をくれたんですか?」と聞いたところ、「前職で付き合っていた時の対応がすごく良かったので」とか、「ただ言いなりになって作業代行として動いていたわけじゃなくて、宍戸さん自身の考え方を教えてくれていたから」とか、人柄の部分を好きになってくれて、発注をくれたんです。
最初のお客さまは、もしかしたら完全にゼロベースじゃなくて、これまでの自分の行動の何かしらに引っ掛かってきた人がファンになっているケースが多いんじゃないかなと思うんです。
例えばBtoB企業が新しいプロダクトを出して、それをプレスリリースで発信した時に、単純にそのプレスリリースを読んで問い合わせしてくれるお客さまもいるかもしれません。でもその人は、プレスリリースを見ただけでファンになったわけではない。
おそらく自分に近い何人かに話を聞いたり、調べたりした上で問い合わせをする、もしくは発注を決めると思うんですよね。となると、その「ファンになる人」の周りに、実は「すでにファンの人」たちが何人かいた可能性がある。
ーーなるほど。
宍戸:なので、先程の「お金は出せないけど高級車が好きな中学生」のような、売上以外で貢献してくれるファンの人たちをいっぱい創っておくことが、最初の1人目の可視化できるファンを創るところにつながるんじゃないかなと思います。
結論「誠実に生きていきましょう」ということですね。むしろそれが本質なんじゃないかなと思います。
ーー確かにそうですね。意外にお客さまに聞いてみると「1人目のファン」の存在が見えてくるかもしれないですね。
宍戸:僕には営業の師匠がいるんですけど、その方はすごくデータを取られていて、発注をくれたお客さまに必ず毎回質問をするらしいんですよ。どういう質問をするかと言うと、発注を決めたタイミングではなく、「『発注をここの会社にしようかな』と心が動いたきっかけって、どれくらいのタイミングなんですか?」と。
ーー「心が動いた」タイミングですね。
宍戸:例えば3社くらいのコンペで、金額を提示した時に発注をくれたとします。そうすると僕らは「費用対効果が良さそうだから発注を決めたんじゃないか」と思うんですけど、実はクライアントさん側の心が動いているのはもっと手前で、「初回商談のタイミングで、実はもう『話しやすくていい人そうだな』と思っていたので、ある程度その時には心が動いていたんです」とか。
企業側が思っているよりも早いタイミングで、相手側の心が動いている可能性が高いんだと聞いたんですよね。なので、もしかしたら自分たちが想像しているところとはぜんぜん違うところで物事が動いている可能性があると思っています。
ーー今お話を聞いていて、ファンの方を1人でも見つけたら、その方に話を聞いてみると、2人目のファン、3人目のファン.......と可視化されていくんじゃないかという気がしました。
宍戸:多くのBtoB企業が、ファンの分析をあまりしてないんです。定量的な分析はしていると思うんですが、個別に話を聞くと本当におもしろくて。好きすぎて、その企業の株主になる人も出てきたり。
ーーすごいですね(笑)。
宍戸:ちゃんとファンの話を聞いたほうがいいと思います。
ーーなるほど。つい「フォロワーが何人増えた」「ファンが何人いる」といった定量面で測りがちですが、それだけではなく「何で好きになってくれたのか」という定性面にフォーカスすると、「自分たちはここを推してもらえている、だったらこうしよう」というヒントが手に入るのかもしれないですね。
宍戸:ファンをピラミッドのかたちで考えた時に、上のほうの人たちはめちゃくちゃコアなファンで、そもそも「利他」なんですよ。自分のメリットは関係ないという人たちもいますし、それに準ずるような、お金も落としてくれるし愛情も知識も持っているけど、推奨まではしないという人もいます。
まだファンになったばっかりで、よくわからないけどなんとなく好きみたいな人もいますし、ぜんぜん興味がない層もいる。そのそれぞれがどんな人たちなのかをちゃんと分けて考える。分けた上で、その人たちごとに対応を変えていくのが一番いいと思います。
ーーありがとうございます。推してくれる人を創ることも大事なんですが、その人に「推し続けて」もらうことも大事だと思います。その上で大切なことは何でしょうか?
宍戸:そうですね。BOKURAには老舗企業のクライアントさんも多いんです。日本は、確か100年以上続いている企業が3万社あると言われています。さらに200年続いている企業さんは1,000社以上あるんですよね。
ーー世界に比べても日本は多いですね。
宍戸:その老舗の企業さんに聞いてだいたい共通しているのが、まず「伝統を守り続けていること」です。昔からの伝統があって、それをちゃんと受け継いでいるから、その伝統にブランド価値が生まれて、それでファンになってくれる人がいる。
もう1個は、「その時代に合わせた革新的なことをやっていること」です。例えば今で言ったらSNSを活用するとか。伝統を守るだけじゃなくて、その時代時代に合わせて何か挑戦をしていくことが、その時代のファンに好かれる理由になるんだと思います。
なので、「推し続けてもらう」には、ずっと同じ伝統を守り続けるだけではダメなんだなと、老舗企業さんを見ていて思います。
宍戸:そういう意味では、ファンが100人いたら100通り、1万人いたら1万通り、1万回のチャレンジをしなきゃいけない。いいものを作り続けるのは、姿勢としては当たり前だと思っていて、その作り続ける過程を、いかにチャレンジしているかという姿を出していくことが大事なんじゃないかなと思っています。
ーー「がんばっているから応援してみようかな」という共感の気持ちは、よくわかります。
宍戸:単純に「完成したモノが良ければそれでいいんだ」という人もいると思うんです。でも、そういう人たちだけではない。「もしかしたら、モノは他社のほうがいいかもしれないけど、ここまでのがんばりをちゃんと見せてくれて、そのがんばりに対して報いたい」とか、「自分のお金が多少なりともその人たちに行き渡るんだったら、そっちのほうがいい」と言って、お金を出してくれる人は、いっぱいいると思うんですね。
なので、その姿をいかに出していくか。誠実に見せていくことが大事なのかなと思います。
ーーファンの方と一緒にサービス改善や商品開発をされている企業さんもいますよね。それも推し続けてもらうためのチャレンジの1つなのかなと思いました。
宍戸:そうですね。そこでいろんな批判が来るわけですよ。「『意見をくれ』と言うから意見を出したのに、その意見に対して対応してくれないじゃないか」という声があったり。
ーーはい(笑)。難しいですよね。
宍戸:でも、それでめげちゃダメだと思っています。すべてに対応できるわけじゃないというのは、言っている側も心の中ではわかっている。なので、「チャレンジの一環なので、ぜひ教えてください。できないことはできないし、できることだったらできる限りやります」という姿勢を出すことが大事だし、情緒的価値だと思うんですね。
ーーそう考えると、企業とファンのコミュニケーションって、「言っていないだけ」のことが多いですね。
宍戸:そうなんですよ(笑)。特にBtoBの企業はビジネスビジネスしているので、ファンに対して自己開示をしていない企業さんが多い。
ちゃんと自己開示をして、「自分たちはこういう未来を目指していて、こういう採用をしていて、事業計画的にこうなんだ」と言ってくれれば言ってくれるほど「その部分だったらBOKURAは助けられます」とか、「ここだったら、BOKURAじゃなくてこっちの会社のほうがいいと思います」と率直に言えると思うんですよね。
そのほうがお互い幸せなんですけど、なかなかそういう文化にはなっていないと思います。
この話はスタートアップ向けになってしまうのですが、いかに「自己開示」をするかは大事だなと思っています。最初に申し上げた通り、BtoBのファン創りの場合は、対象がクライアントだったり外注パートナーだったり、従業員だったり、従業員の家族だったりします。そこにいかに自己開示をしていくかが大事だと思います。
それはもしかしたら、「代表者がどれくらい役員報酬をもらっているのか」かもしれないですし、「事業計画として何年後にこういう状況になっている」「何にお金を使っていこうと思っている」「こういう採用をしようと思っている」とか、「福利厚生はこういうことをみんなで考えていこうと思っているんです」とか。
上場企業さんは出していい情報とそうじゃない情報があるので難しいと思うんですけど、例えばBOKURAは、それぞれのメンバーがいくら給料をもらっているかは開示NGにしているんですけど、それ以外の情報は基本全部出しているんです。
情報を出していくことによって、自分ごと化してくれやすくなるんじゃないかなとも思います。僕が今日一番伝えたいと思っているのは「自己開示」の重要性。それ自体がファン創りの一歩目じゃないかなと思っています。
ーー自己開示をしていくことは、「誠実に生きる」ことにもつながりますね。
宍戸:自己開示って、だいたい8割ぐらいネガティブなんですよ。
ーーそうですよね。言いたくないことがたくさんありますよね(笑)。
宍戸:いいことばかり言おうとしたら、自己開示する頻度がめちゃくちゃ少なくなります。なので、「これは今挑戦中です」とか、「これは挑戦したけどダメでした」とか、「もうちょっとこうなったらうまくいったかもしれない」っていう後悔とか、そういう話ばかりなんですよ。
だけど、それすらもちゃんと出していくことによって、そこに「ファンになってくれる要素」が出てくるかもしれないと思っているんですよね。
なので、「PR TIMES」の失敗リリースみたいなバージョンとかがあったらめっちゃおもしろいなと思いますけど。「5,000万円ぐらい突っ込んでSaaSを作ったけどぜんぜん売れませんでした」みたいなリリースが出てきたら、応援したくなるというか、興味関心がすごく強くなると思うんです。
例えば「業績がすごく伸びました」という時にファンが増えるわけではないんです。その時に増えるのは「勝ち馬に乗りたい」というライトファンなんですよ。
実は挑戦している時、苦境の時にこそ、コアなファンたちは「いずれ上向くだろう」とずっと耐えてくれている。そうして上を向いた時に、「実はこの会社は、このチームは、こういう苦労があって」という話をライトファンに言ってくれるわけです。
そうするとライトファンは「そんな経験があったんですね」と言って、自己開示してくれたファンをリスペクトするんです。コアファンたちはリスペクトされるから、やはり気分がいいわけですよ。これは僕がラーメン屋さんを推奨した話と一緒です。この成功体験を積むから、ファン度がどんどん濃くなっていく。
なので、「いかに挑戦するか」と「挑戦を自己開示していくか」。それを続けていくことで、何かしら物事がうまくいった時に、初めてコアファンが有機的に活動してくれるようになると思います。
ーー失敗体験もあえて自己開示することで、推してもらえるきっかけになるかもしれませんね。「自己開示」という視点は大変参考になりました。改めて宍戸さん、ありがとうございました。
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