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BtoB企業がユーザーに「推し」てもらうには(全2記事)

ユーザーの“推し”になるのが上手な企業の2つの共通点 ファンを「売上への貢献度」だけで測ってはいけない理由

モノやサービスに溢れている時代、選ばれる企業になるためには、企業やサービス・商品を「推し」てくれる、熱量の高いファンを獲得することが重要です。そこで今回は、「神対応であふれる社会に」をミッションに、SNSを中心としたファンマーケティング支援事業を展開する株式会社BOKURA代表取締役社長・宍戸崇裕氏にインタビューを行いました。BtoB企業にも「ファン創り」が必要と語る宍戸氏。その背景をうかがいしました。

BtoB企業も「ファン創り」が求められる今

ーー今回のテーマは、BtoB企業に向けた「推し」のエネルギーの使い方についてです。2021年頃から「推し活」という言葉が浸透してきましたが、アイドルやキャラクターだけではなく、中には企業やブランドが「推し」であるというファンの方もいらっしゃいます。

そこで今回、ファンマーケティングの専門家である宍戸様に、どうしたらユーザーに推してもらえるような企業になれるのか、そのポイントをおうかがいしたいと思います。まず率直に、このテーマを最初にご覧になった時の印象はいかがでしたか?

宍戸崇裕氏(以下、宍戸):まず所感として「こういうテーマが取り上げられることがすごくうれしいな」と思いました。とはいえ、ファン創りがうまくできているBtoB企業はまだあまりないと思っているんですね。BOKURAからすると、むしろ今は挑戦している最中です。

>株式会社BOKURA

ーーわかりました。今まさにどういう取り組みを行っているのか、ぜひお話をお聞かせいただきたいのですが、ビジネスの視点に置き換えてみると、やはり生活者に近いBtoC企業のほうが、自社の「ファン」を創れるイメージがあります。

逆にBtoB企業はあまりファンマーケティングをやってこなかったと思うのですが、BtoB企業もファン創りは必要なのでしょうか? 

宍戸:今の時代、あまり差別化ができなくなってきている。お菓子にしてもタイヤにしても、すごく大きな「この企業じゃないと」という差別化は難しいと思うんですね。そうなると、プロダクトやサービス以外の部分でファンになってもらう必要があると思っています。

BtoBとBtoCの違いは「ファン」になってもらう対象

ーーBtoBとBtoCとでは、ファン創りに何か違いはあるのでしょうか。

宍戸:そもそもBtoCの企業さんとBtoBの企業さんだと、ファンマーケティングをやっていく、ファン創りをしていくという「ファン」の対象が違うんだと思うんです。

BtoCの企業さん、例えばお菓子メーカーだったら、お菓子を買って食べてくれる人を「ファン」にしなきゃいけないんですが、BtoBの場合はどこからお金がもらえるかと言ったら、取引先だったりとか。あとはパートナー企業さん、外注企業さんかもしれませんし、従業員かもしれないし、従業員の家族の協力がないと会社が運営できないようなこともあるんじゃないかなと思っています。

ファンになってもらう対象が違うだけの話で、やることはあまり変わらないんじゃないかなとは思っていますね。

ーーBtoBは企業と企業という関係性なので、ファンになってもらうのが難しい印象がありますが、今おっしゃっていただいたように、施策としてもあまり違いはないんでしょうか?

宍戸:施策の具体的なToDoは違うと思うんですけど、結局はBtoCであろうがBtoBであろうが、「対象に興味関心を持ってもらって好きになってもらう」ことだと思うんです。

例えば「社長がメディアによく出るけどかっこいいよね」とか、「描いている未来の姿がすごくすてきだよね」とか、「あの会社で働いている人は、すごく気持ちがいいよね」とか。

(顧客が商品やサービスを利用した時に得られる、感情や精神的な価値である)「情緒的価値」にも、比較的ファンになりやすい要素があるんだろうなと思っています。その企業自体が今までどういうことをやってきたのかという過去、今やっていること、未来という時系列でも、興味関心が持てるポイントは増えているんじゃないかなと思っています。

ーーなるほど。プロダクトそのものだけではなく、企業の歴史や経営者のストーリー、最近は「パーパス」という言葉で語られるような、どんな未来を描いているかという姿勢。そこに「推し」ポイントがあるということですね。

これからは「情緒的価値」を打ち出すことが必要な時代になる

ーーBtoB企業であれば、求職者に「一緒に仕事をしたい」と思ってもらえるかどうかも観点としてありますよね。

宍戸:そうですね。BOKURAの場合、クライアントさんは比較的大きい企業が多いんですけど、逆にBOKURAが発注をする先の会社さんは、大きい会社さんもありますし、そうじゃない会社さんもあります。

企業規模にかかわらず、やはり担当者さんがすごく気持ちのいい方かどうかで、相手の対応も変わってくるんじゃないかなと思います。ビジネスなので(どんな相手でも対応を)変えちゃいけないと思うんですけど、でも心理的にはそういうことがある。

特に日本人って裏側が好きじゃないですか。その人が今までどういう経歴で働いてきて、「こんな苦労をしながらも、今はこんな状況で働いているんだな」とか、「この経験があったから、今はこういう仕事のスタイルでやっていらっしゃるんだな」ってわかると、協力してあげたくなる人は特に多いんじゃないかなと思います。

ーー確かに(笑)。やはり人と人同士、気持ち良く仕事ができると、だんだんその会社ごと好きになりますよね。

宍戸:「ファンになる要素」をいくつかに分解した時に、その要素の1個だけではなく、複数の要素が満たされていることが、長いことファンで居続けてもらう1つの方法なんだろうと思っているんですよね。

なので情緒的価値を出したり、ブランドとして自分のパーパス、未来の姿をちゃんと打ち出していくことが、これからは必要な時代になってくるのかなと思います。

「推し」てもらうポイントは複数持つこと

ーーBtoB企業がファンになってもらう要素、つまり「推し」てもらうための要素には、他に何がありますか?

宍戸:例えば「価格が安い」ことですね。

ーーわかりやすいですね。

宍戸:単純に安い。ただし安かろう・悪かろうではなく、「安い上に品質がいいよね」「サービスが優れているよね」というのが、ファンになる1つのきっかけだと思います。

ーーやはり複数の要素を推してもらうことが大事ですね。

宍戸:そうです。安さだけで売っていたら、もっと安くていいところが出たらそっちに行ってしまうと思います。例えばパーパスでも「こういう未来を描いているんです」と言っている企業があった時に、他の企業でも同じような未来を描いていて、そっちの企業のほうが規模が大きくて実現できそうだなと思ったら、そっちにファンは行ってしまう。差別化できるポイントが1つしかないと難しいと思います。

ーーでも、例えば「便利だな」「使いやすいな」「対応がいいな」ということで好印象を持ってもらえても、より熱狂的に応援してもらえるような「推し」の段階にいくのはまだハードルが高い気がします。どうすればこのハードルを乗り越えられるのか、方法は何かあるんでしょうか?

宍戸:これはまさに冒頭でお伝えしたように、明確な答えがあるものでもなく、今ちょうどチャレンジしているところです。でも僕は「鶏と卵」なのかなと思っていて。

めっちゃ好きだから、そのブランドに対してもっといろいろ知りたくなるという知識欲が出てくるのか。もしくはいろいろ知ることによって、熱量が高まっていくのか。

(きっかけとしては)どっちもあるかなと思っているんですけど、どっちにしても「推す」くらい熱量が高い、愛情を持っているレベルというのは、そのブランドについての知識をけっこう持っている状態だと思っています。

売上に貢献することだけが「推している」のではない

宍戸:今までは、多くの企業さんが「ファンマーケティング」という名称で、多くのユーザーさんを売上で判断していたと思うんですよ。ロイヤルカスタマーという意味合いで、ファンをある程度「どれぐらいお金を落としてくれたか」で段階分けして、対応を変えていたんじゃないかなと思います。

でも「お金」だけじゃなくて、いかに自分たちについての「知識」を持っていてくれるのか。知識を得ると人は他人に教えたくなったりするので、結果「推奨」につながっていきやすいんじゃないかなと思うんです。

売上に貢献することだけが「推している」のではなく、ブランドを愛してくれているとか、ブランドについての知識をいっぱい持ってくれているとか、ブランドをいっぱい推奨してくれている。ファンのその行為が他の誰かに喜ばれた時に、「推す」こと自体に感動を覚えるんだと思うんですよね。

例えば僕は、めっちゃ好きなラーメン屋さんに20年ぐらい通っているんです。たぶん今までで200万円〜300万円ぐらいお金をつぎ込んでいるわけですよ。

ーー常連さんとしても相当ですね(笑)。

宍戸:はい。友だちや親しい人に「おいしいラーメン屋さんを教えてよ」って言われたら、だいたいそこに連れていくわけですよ。僕はその時点で「推奨」をしているわけです。

長いこと通っているし、めっちゃお金を落としているから、すごく知識もあるわけですね。だから、「なんでそこがいいの?」って言われた時には、「こういうポイントとか、こういうポイントとか、こういうポイントがいいんだよ」と教えられる。

その結果、友だちがそこでラーメンを食べて「おいしかった」と言ってくれたら、僕はすごくうれしいわけです。

ーーそうですね。

宍戸:うれしい経験をしたから、また同じ体験をしたくて、誰かにまた「どこかおいしいラーメン屋さんに連れていってよ」って言われたら、またそこに連れていくわけですね。

自分が持っている熱量を人に伝えて、人が喜んでくれたという成功体験の一連があると、さらに推していくという循環になるんじゃないかなと思っています。

「売上で貢献できないファン」も認定することの重要性

ーーなるほど、ありがとうございます。BOKURAさんは「ファン」の定義として、「知識」と「売上」と「推奨」と、そして「愛」を挙げていますが、まさにこの4つのサイクルですね。

宍戸:そうです。売上ってすごく大事だと思うんですけど、BOKURAのメンバーの中から、企業やブランドによっては「売上で貢献できないファン」もいるんじゃないかという話が上がったことがあって。

例えば高級車がある。買えるお金を持っていない中学生がいる。その中学生をその高級車のブランドは「ファン」として認定するかと言ったら、今はあまりしていないんじゃないかと思うんですね。

でもその中学生は、その高級車のことをめっちゃかっこいいと思っているし、熱量も高いし、他の高級車と何が違うかという知識もめっちゃ持っている。そうすると、もしかしたら自分の親や親戚のおじさんに「あの車、めっちゃかっこいいよ」と言ってくれているかもしれないですね。

ーーそうですね。「推奨」を勝手にしてくれているかもしれない。

宍戸:そう。売上には貢献していないかもしれないけど、愛とか知識とか推奨というところではすごく貢献をしている可能性があって。だけど「売上がないからこの人はファンじゃないよね」としてしまうのは、すごくもったいないなと思うんです。

「売上」だけでなく、さらに「愛」「知識」「推奨」という4つの観点で、ファンをちゃんと認定していくことができたらおもしろいんじゃないかということで、取り組んでいます。

「ファンを創りやすい企業」の2つの特徴

ーー宍戸さんの観点から見て、BtoB企業とファンが上手に付き合っていく上で大事なことや、実際に上手に付き合っている企業の事例があれば教えていただきたいです。いかがですか?

宍戸:BtoBという観点では、まだそんなに事例はないとは思います。でもBtoCであろうがBtoBであろうが、ファンを創りやすい企業さんの特徴は主に2つあります。

1つは、意思決定が早い。ファン創りはファンの感情に合わせた行動を取らなきゃいけないので、要は担当から係長に上がって、部長に上がって事業部長に上がって、社長決裁というルートで意思決定がすごく遅いと、タイミングを逃してしまう可能性が高いんですよね。

例えば、「この企業、めっちゃいいことをやってくれたんだよね」という発信をしている方がいた時に、5分後に返答が来るのと、1週間後に「ありがとうございます」と言われるのはぜんぜん違うと思います。

ーーそうですね。気持ちが冷めているかもしれないです。

宍戸:これは極端な話かもしれないですけど、「この書き方だとリスクがあるよね。ちょっと何パターンか考えてみてよ」と言って時間がかかることがけっこうあるんですよね。ということで、「意思決定のスピード」が1つあるかなと思っています。

もう1つは、いかに誠実に取り組めるか。感情に合わせた動きができるかどうか。中にはテンプレートを作って、それで対応しようという会社さんもあるわけですよ。

「Aパターンで来た時にはこれを返そう。Bパターンの時はこれを返そう」「多少文言を変えようね」くらいはあるかもしれないんですが、基本BOKURAでは、毎日のように「1万人のファンがいたら、1万通りのファンサービスをしよう」という話をしています。

人によってぜんぜん違うと思うんですよね。「ありがとう」なのか「ありがとうございます」と言ったほうがいいのか。「サンキュー」かもしれないし、「ありがとう」という言葉を使わずにありがとうを伝えたほうがいいかもしれないし、場合によっては何も言わないほうがいいかもしれない。

柔軟に動けるかどうか。それを「誠実さ」と言ってもいいかもしれません。意思決定の速さとこの2つが、うまくいくかどうかの条件だと感じますね。

オンラインでやるだけで差別化が図れてしまう「神対応」

ーーSNSの「中の人」が今の2つに当てはまっている企業は、やはりファンの方とのコミュニケーションが上手くとれていますよね。

宍戸:特にSNS上でユーザーに対して企業が語りかけにいくと、ユーザーがびっくりしてくれるんです。うれしく感じてくれる方が多いんですね。BOKURAがこの事業を始めた8年前からそうだったんですけど、実は今でもそうなんですよ。

つまり2015年にも喜んでくれていて、2023年の段階でもまだ喜んでくれるわけですね。なんで喜んでくれるかと言うと、そういうことを他社さんがあまりやってないんです。レアケースがずっと8年間続いているわけです。

「ありがとうございます」と、オフラインでは言うのにオンラインではやらない企業さんがすごく多いので、オンラインでやるだけで差別化が図れちゃう。これはある意味、僕の悔しさもあるんですけど、ファンマーケティングがそこまでまだ浸透し切っていないというのもあるんじゃないかなと思いますね。

その人にいかに神対応するかという観点で言うと、オンラインも必要かもしれない。もしくはオフラインでもっと神対応が必要かもしれない。そういったことが最終的には「推し活」とか「推し事」につながっていく可能性が高いと思っています。

ーーありがとうございます。

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