2024.10.21
お互い疑心暗鬼になりがちな、経営企画と事業部の壁 組織に「分断」が生まれる要因と打開策
【手放すTALK LIVE#35】「規則も命令も上司も責任もない!」 のに業績が伸びるひみつ ゲスト: おふくろさん弁当前社長係 岸浪龍(全6記事)
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坂東孝浩氏(以下、坂東):今日は2023年初めての「手放すTALK LIVE」ということで、「『規則も命令も上司も責任もない!』のに業績が伸びるひみつ」について、おふくろさん弁当の岸浪龍さんを迎えてお送りします。
「手放すTALK LIVE」について先にご説明していきます。「常識や固定観念を手放す」をテーマに、ゲストを招いてお送りするトークイベントです。
手放す経営ラボラトリーは新しい組織や経営スタイルを研究するラボで、2018年に立ち上げました。ティール組織、ホラクラシー、自然経営、自律分散型組織、そういったものをひっくるめて「進化型組織」と言っているんですが、そのリサーチ数は恐らく日本一だろうと思います。
私たちはコミュニティカンパニーということで、今日の岸浪さんのコミュニティとも通じるところがあると思うんですが、コミュニティと会社組織の境目が曖昧な会社作りを試行錯誤し、実験的にやっています。
私たちの存在目的は「ごきげんな人と組織が増えちゃう」で、これに基づいた活動をいくつかしています。具体的には、(スライドの)左上は「DXO」という経営をアップデートするプログラムで、このテキストは無料公開していますので、誰でも無料でゲットできます。
それから、オンラインコミュニティがあります。ここ(スライド)に1,540人と書いてあるんですが、今はFacebookグループの中に1,700人のグループがありまして、オンラインを中心にやっています。
コンテンツもいくつか発信しています。「手放すじぶんラボラトリー」というタケちゃん(武井浩三氏)の経営塾をやっていて、そこからの動画コンテンツで「まともに答えない経営問答」というのをYouTubeで配信しています。それから、由佐美加子さんと「社長! 今日も斬らせていただきます。」という番組もやっています。
坂東:本日のスピーカーです。武井浩三さんは社会システムデザイナーで、この写真は2人で食事しているところなんですよね。
武井浩三氏(以下、武井):先々週くらいに外苑前で。
坂東:けっこう最近ね(笑)。
それから、おふくろさん弁当の前社長係の岸浪龍さんということで、よかったらタケちゃんからどんな方かを簡単に紹介してもらってもいいですか?
武井:はい。岸浪龍さんは三重県鈴鹿市にお住まいで、本も書かれているのでおふくろさん弁当もけっこう知っている方が多いかもしれません。アズワンネットワークというコミュニティでもっと名前が売れているかもしれませんが、150名くらいのコミュニティで自律分散で暮らしています。
緩い大家族みたいなコミュニティを作っていらっしゃって、その中でお金も融通させたり、子育てをみんなでやったり、会社もみんなでやっていたり、畑もやっていて、その畑で作った野菜で仕出し屋さんをやっています。またおもしろいのが、コミュニティのかたちと一緒で、「おふくろさん弁当」というお弁当屋さんが完全に今でいうティール組織なんですよね。
僕は組織論から始まって、今、社会や地域で活動していますが、まさに同じ話なんです。会社の中のマネジメントがどうとか、生産性を上げるための手法の話じゃなくて、僕と龍さんは「人間ってそもそも何なのか」「どういう生き方をしたほうがみんなが幸せになるだろう」という根本が完全に一緒なんですよね。
坂東:なるほど。完全にね。
武井:そうそう。さらにアズワンネットワークは日本で本当に数少ない成功事例というか、貨幣経済を否定せずに貨幣経済もきちんと扱いながら、コミュニティで助け合う仕組みやかたちを20年くらいかけて作ってこられた。本当にすばらしくて、学ぶべきところしかないような方々です。
本とかにまとめると、どちらかと言うといいところばかりが表に出ちゃったりするかもしれないんですが、せっかくのトークライブなので、赤裸々な話をいろいろ聞きたいなと思います。
岸浪龍氏(以下、岸浪):そうですね。
武井:あと、個人的にも龍さんの人生がおもしろすぎる。
岸浪:(笑)。
武井:めちゃくちゃおもしろいから、まずそこからスタートするのがいいんじゃないかなって。
坂東:そこからですね。わかりました。じゃあ、人生からスタートということで、人生についてもう一振りお願いしてもいいですか。
武井:もう一振り?
坂東:おもしろポイントって何ですか?
武井:小学生の頃からとんでもない人生の転換期が訪れている方なので、ぜひそのあたりから。
岸浪:そうですね。小学校6年生までは、普通のサラリーマンの家の子だったんですよ。父親が転勤族で、あっちこっちに転勤しながら小学校も転校したりして暮らしていたんですが、小学校6年生の時に「次のところに引っ越しするぞ」と言われました。
「次はどこに行くのかな。東京へ行ったし、富山にも住んでいたし、福島、仙台、次は福岡とか九州のほうかな」と思っていたら、三重県津市にあるヤマギシ会という謎の組織に(笑)。
坂東:うわっ!
岸浪:小学校6年生で「あれ? ここどこ?」みたいな。
坂東:私も学生の時に関わっていた。
岸浪:そうですか。当時のコミューンと言うのかな。そこに親が入村しました。
坂東:マジっすか。
武井:ヤバいでしょう?
坂東:けっこうヤバいですね。
岸浪:(笑)。「何だこれ?」みたいな。そこに入ったら、「お父さんとお母さんとは一緒に暮らさない」と言うから、「ええ、マジで!?」という感じで(笑)。
坂東:それこそ大家族ですよね。
岸浪:そうそう。子どもだけなんだけどね。子どもの施設というか、寮みたいなところで暮らした。
坂東:農業は自然農法とか無農薬をされているけど、入る時に自分の財産をすべて出して入るという理解です。
岸浪:僕は小学校6年生だからそのへんのことはあまり知らなくて、全財産といっても、たぶん8,000円くらいだったと思う。
坂東:(笑)。マジすか。
岸浪:大人の人はどうだったか知らないですけど。
坂東:なるほど。
岸浪:子どもの家みたいな感じで何百人も同級生がいたから、毎日修学旅行じゃないけど、わりと楽しく暮らしていたんですけどね。そこで小、中、高、大学(に行きました)。めちゃくちゃでっかいコミューンですから、そこの中に高校と大学もあるわけですよ。
岸浪:そこで学んで、学生が終わって23歳くらいで「さあ、どうしようか」となった時に、そこは基本的に1次産業か2次産業しかないわけです。
「1回くらいはスーツを着たいだろう」ということで(笑)。もちろん大人になる時にそこで続けるもいいし、そこから出ていって普通の社会で暮らすのも自由に選べるので、出ていって一旗揚げてやろうと23歳の時に出てきたんですが、そこのコミュニティの中にはお金というものがないわけです。
坂東:中はね。だから、ぜんぜん違う国みたいな感じですよね。日本の中に別の国があるみたいな。
岸浪:もう違う星くらいに思ってもらってもいい。
坂東:星ね(笑)。
岸浪:貨幣経済が存在しないわけです。だから、お金を見たことがない。
坂東:お金を見たことがなかったんですか?
岸浪:最後に見たのが小学校6年生の時かな、というくらい。
坂東:マジっすか。
武井:それが何年くらいですかね。
岸浪:ちょうど1999年か2000年くらいですね。
武井:(笑)。
岸浪:そういう状況で、出てくる時にいくらか手切れ金をもらうわけです。
坂東:出るということはそういうことなんですね。
岸浪:そうそう。
坂東:(コミュニティを出るか残るかの)どっちかなんですね。
岸浪:どっちかなんですよ。「じゃあ、君に手切れ金として20万円をあげよう」と言われて、当時の僕は20万円あったら家が建つだろうと思っていたんですね。
坂東:(笑)。そんな金銭感覚ですか。まさに小学生の感覚じゃないですか。
岸浪:そうそう(笑)。小学生の時に1万円もらったら何でもやれると思ったあの感覚のまんまですから、20万円あったら世界一周とか家を建てたりできるんだろうなと思っていた。
岸浪:23歳ですから、最初に何をやりたいかなと思ったら、やはりまずマイカーだろうと。ブイブイ言わせたいと思って中古車情報誌を開くわけですが、20万円で買える車なんて世の中にはないという現実にそこで気づかされるわけです。
坂東:「お、まずいぞ」みたいな。
岸浪:「まずいぞ。ここで20万円を全部使っちゃったら、もしかしたら暮らしていけないんじゃないか」と思って、予算は一応半分の10万円までにしようと思って、全財産の半分を車に使おうと(思った)。
坂東:でも半分は車に使うんですね(笑)。
岸浪:そうそう(笑)。でも、10万円の車ってあんまりないですよね。「10万円で車は買えないのか」と思った。だけど欲しかったのでいろいろ探して、中古車情報に載っている10万円の車を見つけて買いにいったんですよ。トヨタのセリカというスポーツカーでね。
坂東:超カッコいいやつじゃない。
岸浪:目がパカって開く。
坂東:おお、すごい。ガルウィングみたいな。
岸浪:そうそう。超カッコいいと思って買いにいって、一目惚れして「じゃあこれください」と言った。車屋のおじちゃんはスキンヘッドの強面のおじちゃんだったんですが、そこで「じゃあ18万円だ」と言ったんですよ。
坂東:たけえ。
岸浪:「10万円って書いてあったやん」と思ったんですが、いろいろ保険とか税金とか諸費用(がかかる)。「そんなん知らんし」と思って、でもここで「18万円は払えません」と言ったら海に沈められるんじゃないかと当時は思って、泣く泣く「払います」と言って18万円払って車を買ったんです。
出発したらガソリンがぜんぜん入っていなくて、そこでまた5,000円くらい使って高速を使って三重県のほうまで帰ってきたら、残金は8,000円くらいになっちゃった。
坂東:やばいですね。
岸浪:「俺、東京へ行って今から一旗揚げようと思っているんだけど、8,000円で行けるんかな?」という感じだったんですよね。
ヤマギシ会にいた時に顔見知りだった人ややめた人とかが日本中にいっぱい住んでいるんですが、鈴鹿にも住んでいて、とりあえずはその人のところにご飯を食べさせてもらいにいこうと思って寄ったんです。
「これから龍くんはどうするの?」と言われて、「東京で一旗揚げようと思っていますよ」「お金はあるんか?」「8,000円あります」と言ったら、「8,000円じゃ部屋を借りられないよ」と言われた。
坂東:(笑)。
岸浪:「え、そうなの?」というところから始まり、「まず鈴鹿でみんなでちょっとお金を貸してあげるから、部屋を借りて。みんな仕事もしているから紹介できる仕事もあるし、お金を貯めてから東京へ行きなよ」と言ってくれて、「じゃあ鈴鹿でちょっとお金を貯めてから東京へ行くか」と思った。
それが23歳の時ですが、そこから1回もお金が貯まったことがなく、約23年が経過して今46歳です。
坂東:(笑)。貯まった覚えはないんですね。
岸浪:貯まった覚えはないです。
坂東:東京にも行かずに。
岸浪:東京には、本当に観光くらいでしか行ったことがないです。この間、武井さんとそばを食いに東京に行ったくらいで(笑)。
武井:(笑)。
岸浪:まあ、そんなので鈴鹿でやり始めたんですが、その時に出会った人たちが、昔、ヤマギシ会にいた時に知り合った人たちなんですけど、「ヤマギシ会でやっていてもうまくいかなかったな」というのがあったみたいです。幸せとか、人間が無理なく暮らせる社会を作るということを諦め切れないというのがあった。
坂東:なるほど。それは岸浪さんもそう思っていたんですか?
岸浪:僕はね、正直あんまり思っていなかったです(笑)。
坂東:(笑)。
武井:(笑)。
岸浪:「もういいんじゃない?」という感じだったんですが、でも諦めないで、そこをけっこう真面目にやろうとしている人たちがいた。
坂東:理想を追いかける人たちですよね。
岸浪:そう。「こいつらバカじゃねえの」と思いながら。
坂東:思っていたんですね。
岸浪:うん。でも、みんなにお金を出してもらって部屋を借りてもらったし、仕事も紹介してもらったし、みんな優しくてご飯も食べさせてくれるし、なんとなく付き合っていたんです。
僕はとりあえず何もわからないから、例えばお金のことや経済、法律、契約、全部をまとめて勉強できるのは何かなと思った時に、やはり不動産じゃないかなと思って、不動産屋に就職したんですよね。
不動産屋で3年勉強しようと思って3年働いていたんですが、不動産の世界はわりと騙す・騙されるじゃないですけど、「すげえな、こんな世界があるのか」と思った(笑)。
坂東:すごいカルチャーショックじゃないですか?
岸浪:めちゃめちゃカルチャーショックですよ。
武井:ヤマギシ会の真逆ですよ。
坂東:真逆、真逆(笑)。
岸浪:「お客さんに嘘をつくんだ」みたいな(笑)。最初はめちゃめちゃびっくりしましたよ。
坂東:どの物件を紹介するかで、手数料が変わりますものね。
岸浪:そうそう。「このお客さんだったら絶対にこっちの物件のほうがいいだろう」と思っても、売上がこっちのほうが良かったらその物件を売るんですよね。「これはすごいことをしている。社会ってこうやって回っているのかな」と思った。
坂東:(笑)。だいぶピュアですよね。
岸浪:そうですね。
武井:すごい両極を知ったよね。しかも早いうちに。
岸浪:そう。
岸浪:その不動産屋の社長さんがすごくおもしろくてね。「人生すべて金だ」とはっきり言い切る。
坂東:うわあ、極だ。金がない世界で生きてきたのに「金しかない」と言う。
岸浪:ある日、その社長と一緒に飯を食いに行ったら、「岸浪くん、もし2人が倒れていて、どちらかしか命を救えない。1人は100万円を持っていて『君にこれをあげるよ』と言う。もう1人は何も持っていなかったら、岸浪くんは『100万円をあげるよ』と言った人を必ず助けるだろう?」とその社長が言ったんですよ。
僕はそれを聞いた時に「うーん、どうかな」と思って、「僕だったら、仲がいいほうを助けます」と言ったんです。そうしたら、「お前はバカか」と言われた。
坂東:(笑)。
武井:(笑)。すごいパラダイム。
坂東:すごい教育ですね。
岸浪:そうですね。そんなシチュエーションはなかなかないですが、もしあったら、自分と仲がいいとか、親しいとか、大切に思っているほうにたぶんいくなとその時に思ったんですよね。
坂東:そうか。自分の軸がね。
岸浪:うん。人と本当に親しく仲良く暮らせる、そういう関わりというか、「そこが自分が求めているものじゃないかな」「やっぱりそういうのがやりたいんじゃないかな」というのが不動産屋で3年働きながらだんだん見えてきた。
坂東:なるほど。社長に染まらなかったんですね。
岸浪:そうですね(笑)。めっちゃ楽しんで働いてはいましたけどね。
坂東:すごい社会勉強で、新鮮なことばっかりですよね。
岸浪:もう毎日がめっちゃ楽しかったですよ。
坂東:「金、金」みたいな(笑)。
岸浪:そうそう。毎日本社から今どの営業マンが何件売っているとかのグラフが送られてくるし、ドラマでしか見たことがないような、グラフがびゅーんって天井まであるやつが壁に貼ってある。本当にあるんだと思って(笑)。
坂東:あるんですね。ど真ん中ですね。
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