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パーセプション 市場をつくる新発想(全6記事)

ミドリムシで注目されたユーグレナ社が“ミドリムシ訴求”を封印したわけ 「認知」と「認識」のズレを逆手に取ったブランド戦略

日本マーケティング協会で行われた『パーセプション 市場をつくる新発想』刊行記念イベントの模様をお届けします。PRストラテジストの本田哲也氏が、認知が高くても売れない時代に必要な「パーセプション(認識)」について説いた本書。後半のパネルディスカッションでは、吉野家CMO田中氏、ユーグレナ執行役員の工藤氏とともに「パーセプション」の重要性について語りました。本記事では、ユーグレナ社のマスターブランド戦略について語られました。

ユーグレナのイメージを聞くと、「なにもない」がトップだった

本田哲也氏(以下、本田):工藤さんはいかがですか? 今の田中さんの話もありましたけども、ユーグレナさんもいろいろとされてきてると思いますけど。

工藤萌氏(以下、工藤):そうですね。いろんな課題がいっぱいあって、いろいろやっています。今まさにチャレンジ中で、パーセプションの統一管理に取り組んでるんですね。

ブランドの話ももちろんありますが、今けっこう注力してるのがマスターブランド戦略です。コーポレートのブランディングと、私が担当してるヘルスケア事業のブランディングをどうつなげていくか。

どういうことを考えたかシェアしますと、ユーグレナはできて15年ぐらいの会社ですが、企業認知は50パーセントぐらいあります。でも、そのうち事業や商品の認知は、その半分以下になっちゃうんですよ。

私がした調査では、一般的な企業では企業を知ってたら商品・サービスの認知がだいたい企業認知とセットでされていくので、70パーセントぐらいが平均だったんです。でもそれが、うちは50パーセント以下。

理由は明快で、「ユーグレナって聞いてなんと思いますか?」と聞くと、ミドリムシとかいろいろありますが事業が多岐にわたっていてて、バイオ燃料、ヘルスケア、最近農業関連事業とかもやっていまし、ソーシャルビジネスとか、幅広い特殊な事業展開をしているので「ちょっとなにしてるかわかんない、でもなんかベンチャーだね」みたいな感じかなと思います。

それはそれで事業戦略で良しとする部分もありつつ、ヘルスケアを担当する私にとって課題でありチャンスだなと思ったのは、各事業がそれぞれプレイしていて部分最適化されていて、共通の資産である「ユーグレナ社」というブランドがあるにもかかわらず、その共通資産を活かさずに、0スタートでの戦いになっていること。

それで予算が足りない足りないとなっているのはすごくもったいないし、特にtoCで戦ってるヘルスケアはそこがすごくもったいないし、チャンスだなと思ったんですよ。実際調査した時にユーグレナのイメージを聞くと、「なにもない」がトップで、ちょっと衝撃的でした(笑)。

本田:それは厳しい結果ですね(笑)。

導き出した自分たちの強みは「技術力」と「サステナビリティ」

工藤:次に高い項目は、「ベンチャーである」だったんですね。「ベンチャーである、って会社の形態じゃん」みたいな(笑)。印象ではなく形態の話で、ベンチャー企業は死ぬほどあるし、パーセプションとしてはSo what? じゃないですか。

本田:そうですね。

工藤:そこから自分たちの強みの棚卸しをしたり、ロイヤルユーザーの理解とか、購入者と非購入者のギャップ分析などをしていって、いろんな視点で見た時に、すごく簡単に言うと私たちは「バイオテクノロジー」、すなわち「技術力」と「サステナビリティ」。その2つの会社であると認識されると、コアファンが増えるという方程式を導きだしたんですね。

特段私たちが向き合っているヘルスケアのお客さまって、LTVがすごく高いんです。どんどんスイッチするというよりは、1回使っていただくとロイヤルになってくださるので、強固な関係性になれるんです。その理由は、商品として非常に機能が高いのは前提なんですけど、その上で技術力に裏打ちされる信頼とか。

そこにサステナビリティの取り組みに対する共感がセットになると、ロイヤル化されるという、顧客構造化がされるのがわかってきました。なので「ベンチャーである」というパーセプション。

本田:(笑)。

工藤:「技術力でサステナビリティを実現する会社」というコーポレートブランディングをしていって、そこで出しているヘルスケアをマスターブランド戦略としてとる。この一体感を強固にするのを、今まさにチャレンジしていっています。

「ミドリムシ」という名前は封印

工藤:ありがたいことに、今バイオ燃料のニュースですごく多く露出させてもらっていて。本当に広告もしてないんですけども、先日も政府専用機に搭載されたニュースがあったり、けっこう実績も積めてきています。今後ももっと増えていく予定なんですね。

ジャイアントキリングじゃないですけど、燃料業界でベンチャーが大きく市場構造を変えようとする姿勢って、露出がすごくとれるところもあるので。ほかの事業ともつながっていけるような戦略をとっているのが、今のところになります。

本田:なるほどね。でも今の話をうかがうと、方程式が見いだされて、すべきことまで確実に到達してる感じがしますし、そうなるためのいろんなコミュニケーションを含めた打ち手をこれから実装していくフェーズのイメージなんですかね。

工藤:そうなんです。

本田:でも「ベンチャーである」っていうのはなんか(笑)。

工藤:(笑)。ちょっと悲しいですよね。

本田:個人的には、もっとユーグレナさんって、ある種の認識を伴いながら知名度が上がった印象だったので。でも調査するとそんなもんでしたか。

工藤:そうですよね。

もうちょっと具体的なことを聞いてくと、最近「ユーグレナ」という名称に統一してるんですけど、少し前は「ミドリムシ」と言ってたので、肉の代替のコオロギとか、新しい植物性タンパクとかでグルーピングされちゃったり。「いやいや、虫じゃなくて私たち藻なんですけど」とか(笑)。

本田:(笑)。

工藤:いろいろ勘違いを起こすので、もうミドリムシという名前は封印させていただいて、学名のユーグレナに統一してたりします。

本田:ミドリムシ訴求は確かに少なくなったかもしれないですね、今言われて気づきました。

工藤:そうなんです。

本当に得たいパーセプションは何か?という視点

工藤:いいか悪いか、ムシだからこそ注目を浴びて、PRに投資しなくても話題になったと思うんですけど、それによって「気持ち悪い」と思う人が出てくるようになって。そこはけっこう悩みました。ミドリムシのままのほうが、「ムシが体にいいなんて」という文脈で露出するんですけど。それって、得たいパーセプションじゃないんです。

本田:まさにという感じですね。結局、さっきの話で言うとニュースバリューとして何を打ちだしたら露出が増えるか、ある種PR会社が大事に考えがちなところで、広報の担当者もそうかもしれない。

露出を最大化するとか、もっと生っぽく言うとより番組に出たり記事を獲得できるという観点に立つと、たぶんその話って「ミドリムシを打ちだしましょう」ってなるんですよね。

工藤:そう。

本田:ただ、それで露出が増えたところで、それで得るパーセプションはなんなの? という本質的な議論になると、さっきの「気持ち悪いと思うかもしれない」というのはめちゃめちゃわかりやすい話です。

ピラミッドで言う上の行動変容にいくことまで考えると、そのミドリムシ関連の露出はいらないのではないか。それが正しかったかどうかは私が判断すべき立場じゃないですけど、でもそういう発想で決めたのは正しいんじゃないかなって思いました。

工藤:今のところは良かったんじゃないかと思っております。

100年企業のパーセプションチェンジの大変さ

本田:なるほど、奥が深いですよ。田中さん、吉野家さんにそういうのはあるんですか? 話題性とか、これはバズるとか。吉野家さんは認知がもう相当ありますが、「でもパーセプション上、それはダメやろ」みたいなのって過去にありました?

田中安人氏(以下、田中):そうですね。今工藤さんの話を聞いて、調査をやられた上で覚悟をされたので、すごく時間がかかってるんだなと思います。そういう意味で言うとちょっと違うかもしれないけど、僕が着任した時に役員会を開いて、「吉野家を俳優に例えたら誰ですか?」って言ったら、「高倉健だ」と答えられたんです。

本田:おお。

田中:当時の吉野家の役員が抱いていたイメージは、紋付きはかまに日本刀を持っていたんですよね。さすがに僕は「菅田将暉になりましょうよ」と言って、ベジタブル丼っていうのを作ったんです。

さっき言いましたように、会社をあげて「ひと・健康・テクノロジー」というビジョンを設計したので、そういう商品を作りました。その時に、「なんてことしてくれたんだ」と。

「俺たちは120年間、お米の上に牛肉しか置いてないのに、野菜を乗せて」って、本当に僕は日本刀で切られそうになったんです。……冗談です。

本田:日本刀で切られる。すごいな。

田中:120周年だったからこそ、パーセプションチェンジはけっこう大変で、社内のリテラシーの問題と認識を変えていくのは時間がかかりましたね。

本田:そうでしょうね。100年以上も、半端ないですね。

社歴の長い企業の敵は、社内の凝り固まったパーセプション

本田:私も幅広くお仕事させていただいていて、100年から下手すると200年近い歴史を持つ企業さんとのお仕事もありますし、ユーグレナさんよりも若い3年前に起業したスタートアップからのご相談もあって、本当に両方見てるとおもしろいんですけども。

でもやっぱり、パーセプションの話は共通していて、それぞれのチャレンジがありますよね。社歴の長い企業は、まず敵が社内にいたりするわけですよね。

田中:はい。

本田:社外のお客さまのこともあるんだけど、やっぱり社内に、凝り固まったパーセプションで動いてしまってるところがあるから。

実はこれをPRで極端に言うと、社内コミュニケーションの施策からまず始めたほうがいいところもあります。そこで新しいパーセプションを少しもみほぐしていって、その上で今度、対外的なパーセプションをどう守りながら変えていくかという議論のフェーズでやってくのは、よくありますね。

田中:はい。僕は自分の会社で組織コンサルをやってるので、組織変革の文脈でこのパーセプションが重要なんです。よく言われるミッション、ビジョン、バリューを設定するんですけど、自分たちのDNAから導いてきたミッションでないと、機能しないんですよね。

もっと言うと、吉野家のような「うまい、はやい、やすい」みたいな。僕はスープストックさんのキーワードがめっちゃ大好きなんです。「世の中の体温を上げる」。すごいキーワードだよね。

本田:いいですね。

田中:スープだから体温につながっていて、アルバイトの人でさえも、その言葉で行動変容できるんですよね。

「パーセプションを明確にメタ認知で把握する」ところがずれてはいけない

田中:これってすごくて。一番重要なのは「メタ認知」で、自分たちが何者であるかという現在地を正確に、パーセプションを明確に把握しないと、絶対失敗するんです。そこから設計して、あるべき姿を設計することになっていく。

僕は本田さんの書籍を読んでいて、僕も組織変革のコンサルをやってますけど、「パーセプションを明確にメタ認知で把握する」ところがずれたら絶対ダメだなって思ったんです。

『パーセプション 市場をつくる新発想』

マーケティングも使えるんだけど、組織の変革、インナーのモチベーションにもけっこう使えるなって思っています。

本田:そうですね。そこはすごくパーセプションを深掘りしていただく話だと思いますよね。

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