2024.12.24
「経営陣が見たい数字」が見えない状況からの脱却法 経営課題を解決に導く、オファリングサービスの特長
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本田哲也氏(以下、本田):さあ、活用では最後になる「まもる」。「まもる」といっても2種類ぐらいあるというこで、後でお話ししたいと思います。事例からいきましょう。
まずは大戸屋。まだ記憶に新しいと思います。これは何から守るか。他社、つまり敵から守る。企業対企業の争い、領域でいうとこれはマーケティングというより「危機管理広報」という領域になるかと思います。2020年、コロワイドによるTOB(株式公開買い付け)の話があって、本当によく報道されてました。なんとなくみなさんも流れはご存知かと思いますが、大戸屋さんにとっては危機が降りかかった。
そもそも危機管理広報をやる時の考え方の1つに、実は「パーセプションの対抗軸を作る」というのがあります。後でちょっと話しますけども、大戸屋の強みはこの真ん中にある、「安全性と味のクオリティの両面をきめ細やかに手掛ける」ということです。
創業時が食堂から始まってるっていうこともあって、「手作り」ですね。安心して食べられる食材を使った、できたての家庭料理というところのファンが多いかなと思います。そもそも大戸屋はそういう存在であったということで、情報戦として戦うべき相手がいるわけですね。
何を守るべきだったのか。いろいろ物理的にも守るものがあるんですけども、パーセプションという今日のテーマでいいますと、対抗軸を明確にすることでそれを守るということを、基本的なTOBにおける広報戦略の軸に据えています。簡単にいうと「手作り」ってことですね。
対するコロワイドは「工場」。コロワイドが推進するのはセントラルキッチンですね。セントラルキッチンの是非をここで問いたいわけじゃないんですが、これは物流含め当然効率化されますから、大きなテコ入れの考え方として、強調してたわけです。
ファクトに対して、大戸屋が強調すべきなのは「手作り」というパーセプションだということで、なんとなくセントラルキッチンとの「手作りVS工場」があって、本来のパーセプションを守っていったんです。
広報ですから地味なことも多いですけども、毎日の広報活動を軸にやっていった。TOBですから、メディア戦略ももちろんですけども、個人株主へのアプローチ。確かWBSでしたが、報道番組でもまとめられてました。あとは創業者のビジョン動画を作られたり。
すべて「守るべきパーセプション」を世に訴求するということで、作られておりました。記者会見もこれも記憶に新しいですね。「大戸屋は店内調理やめない!」。本当に記者会見の直前に用意されたと伺ってますけども、メッセージはここに集約されてたわけですね。
TOBは委任状の争奪戦ですから、コミュニケーションだけじゃどうしようもないこともあります。ご存知のとおり、最終的にはコロワイド傘下に入ったわけで、ただ結果的にこの動きによって、大戸屋が手作りということを大事にしている存在である、というパーセプションは強化されたんじゃないかなと思いますよね。
最後の事例になります。「ベビースターラーメン」、これも認知度100パーセントに近いです。みなさんご存知、おやつカンパニーさんです。これはTOBとか敵から守るのではなkく、老舗ブランドが、古くなっていく自分のパーセプションとどう戦うかという話です。
「駄菓子」に対して、若年層に懐かしいという認識はないわけです。私の世代はもう「ベビースター」といえば「昔、駄菓子屋で食べたな」と。今でもたまにいただきますけれども、そういう存在でした。
なぜなら今は駄菓子屋がないからです。今はコンビニとか、もう流通チャネルが全く違う。「駄菓子屋って何?」って、Z世代に聞いてもわからないですね。
「ベビースターラーメン」は発売から60年ぐらい経って、品質、それからキャラクターもちょっと変わってはいますけども、基本的にはあまり変わらない存在としてきているわけです。調査すると、「安い」「子ども向け」「懐かしい」「伝統的」という認識が出てきます。
それは中年以上の顧客層としてはありがたい話なんですが、そこに甘んじていては、人間歳を取っていきますから(いつか限界が来てしまう)。親世代の認識を保ちつつ、新しい子ども世代、10代、20代というところにどうしていくかが、当然ながらマーケティングの課題になっていく。ここが非常に難しい。
吉野家さんも歴史が長いので、後で田中さんにいろいろうかがいたいとは思ってるんですけども、つまりやらなきゃいけないことは2つあるんです。新しいパーセプションをうまく探していかなきゃいけない、ただ守るべきものは守らなきゃいけない。このさじ加減が難しい。
「ベビースターラーメン」の場合は、「昔を思い出す」とか、いい意味での「チープ」「お手軽」「遊び心」というところに言語化できると思います。ここは守りながら、ちょっと現代風なパーセプションを足していくことを、絶妙なバランスでされてきている。
最近またいろんなチャレンジをされておりますが、今日紹介するのはお料理です。実際(ベビースターを使った)レシピ開発をされたり、DELISH KITCHENさんを活用したり、試された方ももしかしたらいらっしゃいますかね。
ベビースターを料理に使うなんて、昔だったら考えられないことなんですけども、明らかに新しい需要とか、新しいパーセプションを生み出す。ただ非常に考えていらっしゃるなと思うのは、「本格的に使えるんだよ」って打ち出したりは絶対しないわけです。
いい意味でチープ、いい意味で遊び心がある。本来持っている「ベビースター」というブランドが持っているパーセプションをうまく守りながら、新しいパーセプションを付け加えているということで、マーケットを維持しながら拡張しています。
時間の関係で1つずつのご紹介になっちゃったんですが、まとめますと、「まもる」という時に危機管理的な話なのか、あるいは老舗ブランドが昔の自分と今の自分との間でコンフリクト起こすことがある。どっちも「まもる」の話なんですね。
大きな考え方でいうと、パーセプションという捉え方としては、対象の敵がある時は「空間軸」で捉える、つまり対抗軸が何かを見出すことが、そのままパーセプションの争いにつながります。それから自分が敵ということは、当然ながら「時間軸」になりますよね。昔の自分と今の自分の争いです。これは時勢も踏まえてどうするかということになっていく。
したがって、あえて5つの要素でいいますと、対象の敵ありだったらコントラストが大事になってくるし、自分自身が敵であるとタイミング、時勢の見立てが大事になってくるということです。
どうでしょう? 比較的今日聞いていらっしゃる方は、右側のような課題を持っている企業さん、あるいはブランドマネージャーさんが多いかもしれませんが、広報的には左も非常に重要なポイントですので、ご参考になればと思います。
さて、時間もちょうどまとめの時間になってきましたので、ちょっとサクサクといきたいと思います。パーセプションって別に新しい言葉じゃないんです。「認識」ですから、流行りのマーケティング単語でもない。ただ個人的に、PR専門家として今だからこそ大事になってることではあると思ってます。
3つの理由で解説したいと思います。メタの時代、社会との接点、長期的なしなやかさという観点です。
「メタ認知」って言葉を聞いたことがあるでしょうか? 認知していることを認知することなんですよね。いきなり禅問答みたいな話になるんですけど、つまり自分はなんであるか、自分たちがなんであるかということを、相手が認識している。その「相手が認識している」ことを、上から見て認知できるか。伝わりますかね、これで(笑)。
我々個人にとっても大事ですよね。これができてないと、主観的すぎる人とか主観的すぎるブランドになります。いろいろ言っているんだけど、周りが見えてない。どうなるかっていうと、それこそ「ダサい」「イタい」というパーセプションになるわけです。
だから特に今の時代はメタ認知が重要だと、ビジネス界で言われていますが、それは「俯瞰して見る力」が大事になってきてるからだと思っています。個人のビジネスパーソンもそうですけども、ブランドなり企業っていう法人格にも、これが非常に重要になってきてる。
それからパーパスの話ですね。これはもう言わずもがな、私自身、『ナラティブカンパニー』という本で説きました。社会的な存在意義をベースにした、社会と共創するような物語が必要である、というのがナラティブの考え方なんですけれども。
じゃあその社会との接点って何かといった時に必要になるのは、パーパスです。自分たちがどういう存在なのか宣言するのがパーパスですけれども、それは相手からどう見られてるかという認識なしに作り得ないと私は思っています。
だから言い方変えると、パーセプションを把握する・理解することは、自分たちと社会の接点を見ることに他ならないわけです。ですから社会との関わりが大事になっていってる文脈において、パーセプションの管理、あるいは戦略が重要になっているんだと思っています。
最後。これは時間軸的な話ですね。当たり前ですけども、明日終わって欲しいブランドはないはずです。できれば長く続いてほしい。
LTV(顧客生涯価値)という考え方があります。最近LTVを非常に重視しているというお話はたくさんうかがいますし、もう20年ぐらいPRの仕事もしておりますが、どちらかというと短期的な刈り取りよりも、中長期的にどうしていくかを掲げるブランド企業が、喜ばしいことに増えた実感があります。
それはいいことなんですけれども、じゃあその長期的なつながりをどう作っていくか。エンゲージメントの考え方ですけど、どういう打ち手を打つべきか、打つべきじゃないか考える時に、私はこの「パーセプションの管理」がそのまま答えになると思ってます。
なぜなら、自分たちのことだけ考えて、10年、20年、30年、ブランド価値をアップデートするのは無理ですね。社会とか生活者からどう見られるか、かつそれは変わるわけです。今回のコロナ禍や戦争、いろんな社会状況で変わったりもするわけだから、やっぱり変わることが前提で定期的に把握しなきゃいけない。
ですからブランド認知度だけをトラッキングしててもしょうがないと思います。「パーセプション」を定点観測することが、結果的にブランド価値をアップデートするということにつながるんではないかと思います。
ちょっと時間がオーバーしたのかな。最後に言いたいことあるので、これでわたしの話を締めますけれども、これはいろいろな私の書籍でもご紹介している「PRのピラミッド」という、グローバルでも使われているシンプルな図です。
パブリシティ、つまり情報が出るというのが一番下だとすると、それによってどういう認識を変えるか、あるいは作るかという今日の話が真ん中なんですね。ただこれ、パーセプションが変わったら成功とか、パーセプションを作ったから成功というわけではないです。
ビジネス、マーケティング、あるいは企業経営ということを考えると、最後は上ですよね。ビヘイビアチェンジ、つまり行動変容が起こらないと意味がないわけです。だからゴールが一番上なんですが、行動変容を起こすためにはどうすればいいかというと、間にあるのが実は認識変容だったり、新しい認識を作るということなんです。
行動を起こす。行動という結果を導き出すためにパーセプションが重要なんだということです。
パーセプションを理解する上で、個人も企業も、ネガティブなパーセプションだとちょっと目を背けたくなりますよね。ただ、これは現実と向き合うことに他ならない。現実と向き合わないと打ち手も打てませんし、独りよがりな打ち手ばっかりやってもしょうがないわけです。
嫌な部分もあるけども、現実と向き合って、それであるべき姿、かつ継続的に変化も伴いながらやっていくことが大事なんじゃないかなと思っています。
一方的にお話ししてしまったんですけれども、Twitterでもいろいろ発信しておりますので、よかったらフォローください。ということで、前半の私の話はここで終わらせていただきたいと思います。
司会者:本田さん、ありがとうございました。
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