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パーセプション 市場をつくる新発想(全6記事)

ブランドの基本は変えずに「見せ方」を変えるには 新しいニーズが生まれる「パーセプションチェンジ」の5条件

日本マーケティング協会で行われた『パーセプション 市場をつくる新発想』刊行記念イベントの模様をお届けします。前半の講演では、著者でPRストラテジストの本田哲也氏より、認知が高くても売れない時代に必要な「パーセプション(認識)」を形成する5つの要素について、事例を踏まえて解説されました。本記事では2つ目のパーセプションを「かえる」について語られました。

認識を変えることで、新しいニーズが生まれる

本田哲也氏(以下、本田):さて、ちょっと似てるんですけども、今度はパーセプションを「かえる」です。「つくる」というのは、AをBに変えるというより、これまでなかったような認識をイチから作り上げるというニュアンスが強いんです。

「かえる」、つまりパーセプションチェンジというのは、Aという認識をBに変える、あるいは拡張するということで、マーケティングを考えた時に比較的取り組みやすいのはこれだと私は思っています。

これは追ってパネルディスカッションでも話したいと思っているんですけれども、製品そのものは変えない、あるいは機能そのものは変えない、もっと言っちゃうと変えなくていい。ただ認識を変えることで、新しいお客さまに訴求できたり、新しいニーズが生まれる。ここがおもしろいところで、非常にコミュニケーションならではのアプローチなんじゃないかなと思ってます。

また2つほど事例をご紹介します。これは有名な話なので、ご存知の方も多いでしょう。森永の「ラムネ」。パーセプションチェンジないしパーセプションの拡張というと、私もよくこの話をします。

森永さんの「ラムネ」は、認知度85パーセントです。当然ですけど、知らない人はほぼいないわけですよね。45年の歴史を持つ、認知度が高いお菓子である。こういうBtoCブランドは日本に非常に多いですよね。

共通認識はやっぱり「子どものお菓子」です。そりゃそうですよね。基本的には子どものお菓子であるという共通認識でした。

これがちょっとおもしろいことに、最初から戦略があってパーセプションチェンジしていったというよりも、最近そういう事例も増えてきましたが、SNSでの発話とか、企業側、メーカー側で意識していない状況をうまくとらまえるということがあります。これも、「ラムネが二日酔いに効く」という口コミが話題になったことがきっかけでした。

それをきっかけにして、「子どものお菓子」から「大人のパートナー」に変容・拡張した。このパーセプションはだいぶ変わりますよね。

「裏切り」でパーセプションチェンジに成功した、森永のラムネ

「パーセプションギャップ」といいますけども、「子どものお菓子だろう、だから俺には関係ない、私には関係ない。昔は好きだったけど」っていう共通の既存認識に対しての裏切りなんですよね。

PR的になぜ裏切りがいいかっていうと、発話を促すからですね。「おもしろい、へぇ」ということで、SNSとの相性がいいんです。「本当なの?」っていうことがトリガーとなって、具体的なオーガニックな投稿も促すし、誰かに話したくなる。裏を返すとパーセプションギャップが口コミに寄与しているということが、非常に少なくないと思います。

最初はSNSでのバズという現代的なかたちですけれども、そこからメディア報道に広がる動きがあったり。それから結果的にインフルエンサーというか、いわゆるKOL(Key Opinion Leader(キーオピオニオンリーダー):専門性を持った影響力のある人)と呼ばれる立場になりますけれども、本当の医師の方が「ブドウ糖なんだから、二日酔いには効くよね」ってエビデンスベースで解説されたりすることがあって。

メーカーの動きとしては、これはメーカーさんしかできないことで、紆余曲折あったと伺ってますが、最終的には大人用の「大粒ラムネ」を開発・販売をすることで見事に売上が上がったということです。

しつこくリマインドしますけれども、中身の成分や、象徴的なグリーンとレッドのビジュアルアイデンティティは変えてないわけです。むしろいろいろ試行錯誤する中で、変えないほうが良かったということも実は森永さんは学ばれたようです。

したがって、森永のラムネという要素はほとんど変えてないんだけれども、パーセプションが新しく生まれて、変容・拡張したことで売上に貢献しているという、パーセプションチェンジとしてはとてもわかりやすいBtoCマーケティングの例なんじゃないかなと思います。

メルカリのパーセプションチェンジにあった、企業広報の苦労

もう1つ、BtoCというよりもコーポレートとしての事例といいますと、メルカリさんですね。ここでお話しするのは「メルカリ」というサービスというよりも、メルカリという企業の企業広報の領域です。

メルカリも日本で知らない人がいないぐらいですけど、驚くべきことに2017年の時点で認知度がほぼ90パーセント。上場前でたくさん報道されましたからね。恐ろしい勢いでアプリとしての「メルカリ」が広がったこともあって、認知度に寄与してます。したがって、認知に別に苦労してるわけじゃない。

ただ、スタートアップですから、厳しい目を向けられることもあったと思います。CtoCのサービスから批判的に見る傾向もあって、法令を守る意識が低い、自社利益ばっかり追及する、急成長ベンチャーへのやっかみも入ってるとは思います。社会的にこういう認識があるということです。これは変えなきゃいけない。

言語化するとこうなります。どうパーセプションを変えたのかを言語化しているので、これをどっかで打ち立てたり広告にしたりということではないことを言っておきます。

「法令遵守意識の低い、自社利益を追求する会社かな」というパーセプションから、右にあるような「CtoC市場のインフラを作って、信頼されて応援すべき、テクノロジー企業」だと。

今は赤いほうだと思っている方がほとんどだと思うので、パーセプションはもうすでに変わっているわけです。ただ、黒いほうから赤いほうに変えていくのは、企業広報中心で相当なご苦労があったと思います。

いくつかご紹介すると、ファクトとして消費行動に与える調査をやったり、メディアツアーという広報の手法があり、リテラシーを利用することになりますけども、記者のみなさんやジャーナリストを違う国にお連れして実態を見てもらうということで、米国にお連れしたり。

これはちょっと余談ですけど、メルカリ現会長CEOの山田さんや会長の小泉さん含め、非常に広報・PRの重要性を理解されてます。パーセプションを変えていくことがどういう影響を及ぼすか、非常に経営層が理解があったと思います。現場もさることながら、山田さんのメッセージは上場時に広く報道もされました。

広報チームが主導してパーセプションを変えていった。マスコミの論調は今はもう当然ながら「メルカリメルカリ」ってなってますけども、非常に好意的なものに変わっていったということです。

パーセプションを「かえる」5つのポイント

このパーセプションを「かえる」のところがごちゃごちゃしていますが、5つぐらいポイントがあるので触れさせてください。AをBに変えることはビフォーをアフターにするということなので、今の2つの事例であえて左から右を見せてますが、これが重要なんですよね。何をどう変えたいのか。これは必ず言語化しないといけません。

どういうことかというと、「なんとなくイメージ変えたいんだよね、かっこよく」とか、「もっと若い人にウケるようにイメージを変えたいんだよね。若い人が身近に思っているように変えたいんだよね」と、なんとなく言っちゃったり、支援会社にオリエンしちゃったりすると思うんですけど、これはいけません。

(2)にも関係してくるんですけれども、それは主観です。そうじゃなくて、現状の認識がまずどうだとを把握する。それをどういうふうに変えるのか、必ず言語化してビフォーアフターを明確にしないと、手段が打てなくなります。なぜならそのギャップを埋めるのに、どうしたらいいかをまず考えなきゃいけないからですね。

2つ目、客観的かつ具体的に。主観というのはさっき申し上げたように、「もうちょっとクールなイメージに生まれ変わる」とか。これは主観なんですよね。そうじゃなくて、メルカリがわかりやすいですけども、「向こうから今どう見られてるか」を客観的に把握する。

大体ネガティブなパーセプションだったら、心情的には嫌ですけど、でもそれは把握しなきゃいけない。それをどういうふうにあるべき姿に持っていくかという、客観視点で考えなきゃいけないんです。当たり前に聞こえるかもしれませんが、案外これができてないケースが多いんですよね。

芯の部分は変えずに、どう「見せ方」を変えるか

それから3つ目のカテゴリーとプロダクトは、ちょっと違った視点なんですけども、パーセプションチェンジの戦略を考える時に、我々もまず検討するのが「カテゴリーの認識を変えるのか、プロダクトの認識を変えるのか」ということです。

森永の「ラムネ」は、プロダクトの認識を「大人のパートナー」に変えた、あるいは拡張したわけです。今日は時間の関係でご紹介できませんが、カテゴリーのパーセプションを変えるのも立派な戦略になることがあります。

書籍ではバカルディさんを紹介しました。ジンというお酒のカテゴリーのパーセプションを変えた話も出てくるんですけども、自社のブランドのパーセプションというよりも、その所属しているカテゴリーそのもののパーセプションを変えるほうが効果的、効率的かつ有効な場合があるかもしれない。

そうなると、それが戦略になるんですよね。カテゴリーパーセプションを変える。カテゴリーリーダーである場合は、こっちのほうが有効な場合が多いと思います。

『パーセプション 市場をつくる新発想』

それから(4)は、「ラムネ」の話もそうですね。完全変容して、ビフォーを完全に捨てるのか、それとも別に「子どものお菓子」というパーセプションを捨てるわけでなく、持ちながら拡張させるのか。ある種チェンジはしていますけれども、面積でいうと広がってるわけですよね。このへんも考えどころです。

それから最後、ブランドエクイティ。ブランドエクイティとはなんぞやということは、今日はJMAのセミナーですから、みなさんにあらためて語ることではないと思いますが、エクイティ=資産ということなので、やっぱりブランドエクイティは基本的には守るべきものですね。

ブランドエクイティに影響を及ぼすというのは、ブランドマネジメントの根幹に関わることで、パーセプションという話を超えた判断になってくると思います。

基本的なところは変えないほうがいい。ただ、その時代の変化とか、寄り添うべき顧客層の想定とかで、芯の部分は変えずにどう見せ方を変えたらいいかっていうのは、マーケティング戦略そのものかと思います。

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