2024.12.19
システムの穴を運用でカバーしようとしてミス多発… バグが大量発生、決算が合わない状態から業務効率化を実現するまで
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篠田真貴子氏:ここで「きく」とは何かということをあらためて確認します。「きく」というのは、大きく2種類あるんですね。「with judgement=聞く」の聞き方は、ある人が「子どもの頃から英語を学ばせるべきですよね!」と意見を言った時に、聞き手が「そうですよね」あるいは「そうですかね」というように、自分の考えに照らして、半ば無意識に反応が頭の中であり、表情とか相槌に表れるものです。
一方、「without judgement=聴く」は、判断を留保すべき聴き方です。「子どもには小さい頃から英語を学ばせるべきですよね!」と言った時に、「そういうお考えなんですね。そう思った背景を教えてください」と、もしかすると子どもの英語教育に関してぜんぜん違う考えを持っているかもしれないけど、「なるほど」といっぺん受け取る。あるいはもうちょっと背景を理解したいと関心を向ける。こういう聴き方です。
どっちがいい悪いではなく、どちらも場面によって使いわけたいという意図で2つご紹介しました。
ただ、一生懸命に聞く時に我々が自然にやりやすいのは「with judgement」で、相当意識したり、そもそもこういう聴き方があると知らないとやれないのが「without judgement」です。
ですので、ここから先はこの黄色い「without judgement」ができるとどういうことがあるのか。あるいはハラスメントとどうつながるのかを、ご紹介していきます。
『THINK AGAIN 発想を変える、思い込みを手放す』というおもしろい本があります。著者は組織心理学の第一任者のアダム・グラントという方です。
この本の中で「motivational interviewing(動機面談)」というものが紹介されています。この面談手法は、実は行動科学の分野で最も強いエビデンスに支えられた手法で、1,000を超える対照試験がなされていて、その論文の4分の3で統計的にこれは意味がある、人は変わるということを言っているんですね。
例えば、予防接種を忌避する、要はお子さんに予防接種を打たせない若い母親に対して、医師が45分ほどインタビューする事例があるんです。
インタビューではぜんぜん説得とかはしないで、普通にそのお母さんに「予防接種についてどうお考えですか?」と尋ねます。(お母さんが)「嫌です」とおっしゃると、どういう背景なのかとか、どんな思いなのかをただ聴いて、なるほどと。最後に「私は医師で、予防接種に関しては少しお母さんとは違う考えを持っているのですが、聴いてもらえますか?」と言って5分ぐらい話すんです。
そして最後に、「このように私の考えはお母さんとは少し違うんだけれども、お母さんが予防接種をどうするのか、どっちにお決めになってもそれはお子さんの幸せと健康を願ってのご判断だということがよくわかったので、尊重します」と言って、帰すんです。そうすると、かなり高い確率で予防接種を打たせに来るんです。
人ってこういうものなんですよね。「聴く」って、こういうことを起こすんです。説得じゃないんです。
これを別の角度で、何が起きているのかを説明してみます。これは安宅和人さんが「人が認知をする・知覚をするとはどういうことなのか」をモデル化したものです。
これは5年前の記事なんですけど、この記事が出たあとに出版された『シン・ニホン』の中でも触れられています。
私たちは感覚的にいっぱいインプットを受けているんですけど、自分の中で「この対象は大事」というのを受け取って、それをいろいろ組み合わせてつなぎ込んで認知が生まれて、そしてそれが判断や行動につながるということをおっしゃっているんですね。
この「イミ理解」とか「つなぎ込み」はどうやって起きるかをさらに考えると、基本一人ひとりの過去のさまざまな経験の蓄積が、その意味の取り方をかたち作っていて、反応になるんです。
当然、過去のさまざまな体験はみんな違います。ですから、この真ん中のOSをかたち作る「価値観」も「信念」も「セルフイメージ」もみんな違うので、同じ状況においても気がつくことが違ったり反応が違ったりするわけです。
私たちはさまざまな経験をして、それを振り返って「あ、こういう意味だったな」と概念化して、実践につなぐ。これを半ば無意識に、経験を通して学びながらやっています。
ですから、ハラスメントを起こしてしまう方も過去の経験に基づいて、なんらかの意味を取ったからそういう行動を繰り返すわけだし、ハラスメントを受けた側の人は別の価値観の基でこれをぐるぐる回しているんですよね。
例えば同じ場所に行って、同じものを見たり経験しても感じ方とか意味が違ったりします。先ほどの安宅さんの説明にもありましたが、さまざまな強さの刺激を受けた時に、実際にそれについて意識にのぼらせて気がつくものと、意識にのぼらないものがあります。
例えば昨日、どこかお家以外で訪れた部屋を1個思い出していただきたいんです。壁紙はありましたか? ほとんどの方が覚えていないと思うんですね。絶対に見ているけど覚えていない「意識にのぼらないゾーン」です。でも、今私が「壁紙はどうでしたか?」と聴いたら一生懸命思い出すじゃないですか。
中には、「いや、壁紙じゃなくてペンキが塗ってあったな」と思い出される方もいます。これが新たな気づきなんですよね。
こうやって人に聴かれることで、今まで無意識に避けていたり反応しなかったものに気がつけて、これが新たな学びになって経験や判断が変わっていくということが、聴かれることを通して起きているんだと思います。
みんながちゃんと聴かれるようになったら、例えばハラスメントをしがちな構造に陥ってしまっている方々も、だんだん自分の意識や感度が変わって、相手の表情とかに気を向けられるようになると思っています。聴けるようになったらいいんですよね。
けれども、「聴く」スキルの習得にはご自身の「聴かれた」体験が必須なんです。ここがなかなか一般的なハラスメント研修だけだと、かなり丁寧にやってもカバーしきれないところなのではないかと思います。
これは櫻井(将)さんが何度も講演で使うスライドで、私は聴き手としてこれが大好きなのでお借りしてきました(笑)。櫻井さんがエジプト旅行に行ったらこの「コシャリ」というものがおいしかったんだそうです。
日本に帰ってきて調べてみたらレシピもあるし、材料も普通にスーパーで売っているものばかりだから、ぜひ今日の夕食に作ってみてくださいと。私はたぶんこの話を本人から最低15回ぐらいは聴いていますが、一度も作ろうと思ったことがないです。
なぜかと言うと、食べたことがないから。そもそも興味が湧かないし、仮に興味が湧いたとして作っても、本物を食べたことがないから(味が)それでいいのかわからないんですよね。それで不安に思って、「これはおいしいのかな? これなのかな?」と思って食べていたら、本来はおいしいはずのものもなかなかおいしく感じられない。
これは「聴く」も一緒なんですよね。「料理を作る」というスキルを習得しても、まず「それを食べたことがある」という経験なしには我々は作ろうとも思わないし、作っても正解かわからない。
同じように「聴く」ということに関してもまず「聴かれた」経験がないと、聴けるようにならない。聴けるようになって初めて、前半でお示しした右の世界のコミュニケーションが少しできるようになる。
パワハラと言うとどうしてもパワーのある方がない方に向けての話になりますが、(聴けるようになれば)より新しい世代である、パワーのない方と目線を合わせたコミュニケーションができるようになる。まず「聴かれた」体験が必要なんじゃないかというのが、ここでお示ししたかったところです。
いわゆるハラスメント研修というのは非常に有効で大事だと思うのですが、それに加えてコミュニケーションのあり方を実地で変えていく必要があるんじゃないかと考えております。
実際にそれを、全社一丸となって取り組まれたトヨタモビリティパーツのみなさんのお話をこのあとでうかがってまいります。実際に実地で変えていくってどういうことなの? というのを、うかがっていこうと思います。まずはここまで聴いてくださってありがとうございました。
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