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投資家が考える選ばれる会社の条件(全3記事)

投資家は、企業のホームページで“意外なポイント”を見ている ESGで変わりゆく、これからの時代に「選ばれる会社」の条件

ハウスコム株式会社が主催した「HOUSECOM DX Conference」。デジタル化が進んだ2030年はどのような社会になっているのか、そしてどのようなビジネスが求められるのか。業界で活躍するゲストが議論し、DX推進の知見を共有します。今回は「投資家が考える選ばれる会社の条件」のセッションの模様をお届けします。「会社」と「投資家」の関係性も大きく変わっている今、投資家が企業に求めることは何か、これからの新しい会社経営のルールや原理原則を探ります。

企業HPの「社長の挨拶」でチェックするポイント

市川祐子氏(以下、市川):経営者の方は、説明会での自分の振る舞いを気にされます。それは当然なんですが、それ以外のホームページなどは「よきにはからえ」という感じの方が多いんですね。

個人投資家も機関投資家も、まずホームページを見ます。それなのに、ホームページの先にある証券会社での見え方、四季報での見え方、SNS上の見え方などをあまり気にされない(経営者の)方が多い。だから、「そこが投資家とのインターフェイスなんですよ」とよく申し上げています。

藤野英人氏(以下、藤野):もうちょっと手の内を明かしてしまいますが、私は「社長の挨拶」の主語をよく見ているんですね。

市川:(笑)。

藤野:「私」「私たち」「当社」「弊社」とか、いろいろある。でも中には、主語がないものもあります。主語がなくても文章って書けるんですよね。誰が何を言っているのかわからない文章ってけっこうあるんですよ。

あとは「当社」「弊社」「当行」が多いんですよ。本当は社長が個人として話しているので、「私」とか「私たち」になるはずなんです。でも意外と、「当社」「弊社」と言うケースがけっこうある。

暇だと思われるかもしれませんけど、実は「私・私たち」と「当社・弊社・当行」と「主語なし」で5年、10年、15年の株価を調べているんです。株価が上がるのは、圧倒的に「私・私たち」ですね。どういう言葉・ワーディングを使っているかということは、やはり重要です。

無意識のうちに主語が「当社」「弊社」になっている

藤野:というのも、(社長自ら挨拶文を書かずに)「お前、書いておけ」とした時に、さすがに社長室の人が「私」「私たち」という言葉では書きにくいから、無意識に「当社」「弊社」としてしまう。そういうことも多いので、特にコンプラ上も問題なく、コンプラチェックにももちろん引っかからずヒューッと出てくるんですよ。

でもよく考えたら、自分の会社の社長が挨拶しているのにですよ、僕がいきなり「当社も元気ですよ」とか言ったら、おかしいですよね(笑)。だから、実はそういう部分もちゃんと見ているかどうか。

他には、例えば「うちの会社は欧米型資本主義と違って、人財の『財』は財産の『財』と書いています。材料の『材』じゃないんです」みたいなことが書いてあると。

「ああ、いい人だな」と思って、実際に会社のホームページやアニュアルレポートを見てみると、パイプの写真ばかりで、あとは写真素材サイトから買ってきたようなイケメンの外国人さんと握手している写真があったり(笑)。

(一同笑)

藤野:「社員の写真、1枚もない」状態ですね。「結局、嘘じゃん。材料だと思っているのはあなたですね」みたいなこと、けっこうありますよね。僕は以前ゴールドマン・サックスで働いていて、今でもそうなんですが、あそこのアニュアルレポートは社員の写真がたくさん載っていますね。

「人」や「組織」に注目する機関投資家が増加

藤野:リーマン・ブラザーズは破綻してしまいましたが、実はリーマンでは、社員の写真がほとんどなかったんです。それが大きな原因ではないにしろ、やはりそういう部分に本質的なものが現れる。「会社が何を考えているのか」というのは、意外といろんな場所に現れるんですね。

社員の写真を何枚載せるとか、社長の挨拶が「私・私たち」なのか「当社・弊社」なのかは自由です。でも、自由記載事項こそすごく大事だと思いましたね。そこに会社のカルチャーや本質、本音が出てくるんですよ。

森戸裕一氏(以下、森戸):なるほど。今の話は非常にハッとさせられますよね。

市川:そうですね。藤野さんは先駆者ですけど、最近の機関投資家は人や組織を非常に見るようになってきています。「人的資本経営」という言葉が今年はすごく盛り上がっていて、今までそんなことを聞いてきたことがない投資家からも「人材についてどういう取り組みをしていますか?」と質問されることが増えてきています。

先ほど打ち合わせで藤野さんが、「属人的な「『余人をもって代えがたい』というのは、良くないよね」とおっしゃっていました。確かに「人に投資しつつも人に依存しない。『暗黙知』を『形式知』にするような仕組み作りを行っていますか?」という質問も出てくるようになっているんですね。

まさにそれが、カルチャーや組織において非常に重要なものなんです。価値創造において、それが非常に重要な点だと認識されるようになったというところが、変わってきている点ですね。

森戸:なるほど。

ESGを取り巻く環境が激変

森戸:そろそろ時間も押してきていますので、次のテーマ(「ESGを取り巻く環境」)ですね。SDGs、ESGなど、いろいろと取り巻く環境が変わっています。そこにどう取り組んでいくのか? という話も、テーマとしてよく取り上げられていますよね。

要するに「どう見られるか」「どう見せるか」という文脈で、「ESGはやらなきゃいけない」「考えなきゃいけないよね」「2030年までにSDGsのバッジぐらい付けとかなきゃね」「何かマークを付けないとね」と言われる経営者の方々もいると思います。ESGやSDGsを「取り巻く環境」と書いていますけど、藤野さんはそのあたりをどう捉えていますか?

藤野:私は、経済産業省の「健康経営」というものを8年前に立ち上げたメンバーなんです。最初に健康経営という言葉を聞いた時、とてもいかがわしい感じがしました。「健康」も「経営」も普通の言葉なのに、合わせるといかがわしくなる感じがあって。

8年前に経産省で「健康経営は誰の仕事だと思いますか?」というアンケートをとりました。その時に「社長の仕事である」と答えた人は、(全体の)3~5パーセントだった気がします。今、同じ質問をすると、7~8割の人が「健康経営にコミットするのは社長の仕事だ」と答えています。

健康経営は1つの象徴的なものだと思いますが、やはり(人々の意識が)激変したんですね。「会社というものは、社員の健康にコミットしなければいけない」と思う人が増えたし、「そもそも健康であることはステキである」と。

ESGもそうですが、それがコストなのか・投資なのかということですよね。コストだったらなるべく小さくしたほうがいいし、効率的にしたほうがいい。でも投資であれば、むしろ効率だけじゃなくて、より追加投資をしたほうが付加価値が出ることになるわけです。

だから、ESGを取り巻く環境がコストなのか・投資なのかという時に、「これは将来に対する投資なんだ」という概念が広がってきた。ここが、質的にずいぶんと違うことだと思います。

森戸:なるほど。

ESGに「やらされ感」がある経営者も

森戸:市川さんはいかがですか? 書籍も『ESG投資で激変! 2030年 会社員の未来』というタイトルですよね。

市川:ありがとうございます。ESGは企業が担うことであり、それを投資家が評価するものなんですね。だからSDGsのような「人類全体が取り組むべき目標」とは少し違うんです。そうなるとG(ガバナンス)が入っているのがポイントで、企業が発展するために必要なE(環境)とS(社会)ということなんです。

この中で、10年以内ぐらいの中期的な企業価値に一番効くと証明されているのが「S」で、特に従業員なんですね。「長期的に価値を作るのは人だから」ということで注目されていて、それで(私の本も)『会社員の未来』というタイトルになったのですが、長期投資家の意見が大きくなったということなんだと思います。

Eは何かというと、「長期に儲けようと思うなら、長期に社会が安定しないといけない」ということですね。つまり、長期に地球環境も安定していないといけないよということなので、この本では「ESGは経済合理性があることなんですよ」と書いています。

ところが、先程の花王さんみたいなトップクラスは別として、半分くらいの経営者さんは「善行を強要されている気がする」と思っている。やらされ感が強いんですね。

そうではなくて、「まず長期的な価値に効くものから始めましょう。そして、その次に長期的な企業のリスクを減らすものをやりましょう」と言うと、急に動き始めることがあります。実際にこの本を渡して変わった社長さんもいます。少し宣伝になりましたけれど(笑)。

でも、「経済合理性なんだ」ということをわかってもらうと、だいぶ変わってきます。トップランナーの方々は、もうそれに向かって邁進していて、ESG投資も増えています。

キーワードになるのは「ウェルビーイング」

市川:もう1つ、最近変わったところというと、2020年ぐらいからESGを評価に使われる(企業の)時価総額の大きさが急に下がってきています。

今までは東証一部とかプライムの企業だけだったのが、2年ぐらい前からマザーズ、現在のグロース市場ぐらいに下がってきて、今年になってからは、スタートアップにもESGというように変わってきた。そこが大きな変化だと思います。

森戸:なるほど。

藤野:某楽天さんも、「だいぶホワイトになった」と先ほどチラっとうかがいました(笑)。

市川:そうなんですよ。私の1冊目の本には「相当残業をしていた」とか書いているんですが、今はぜんぜんそんなことなくて。だいぶホワイトになった上に、外国人従業員も増えて、多様性が増えたのもあると思いますが、「ウェルビーイング」をものすごくキーワードにしています。

また、グリーントランスフォーメーション(GX)にもめちゃくちゃコミットしているんですよ。それはやはり、三木谷(浩史)さんが「グリーンはビジネスでしょ」と思ったからなんでしょうね。

森戸:なるほど。

投資家は企業のどんなところを見ているのか

森戸:今、視聴者の方から「『パーパス経営やESG、DXに本気で取り組んでいる企業かどうか』という観点で投資家の方は見ているのでしょうか?」というご質問をいただきました。

市川:そうですね。実はものすごく見ています。面談では聞かないけど、ホームページはすごくチェックしているところがポイントです。

森戸:あはは(笑)。なるほど。

藤野:具体的な事実で話をしますね。投資家にもいろんな投資家がいます。特に、ウクライナでの戦争からいろんなことが激変しました。最近はマーケットが不調だったこともあるので、だいたいの資産カテゴリーにおいて解約が多いんですね。

ところが、全体では減っているのに、ESGとかSDGs関連の投資ではまだポジティブなんですね。プラスなんです。そもそも投資カテゴリーの中で、SDGsやESGに関してお金が増えているということは、追加で投資をされているということなんですね。具体的に、「この1年間でさらにESGにお金が付いている」というファクトがあるんです。

そういう面で見れば、実際にESGアナリストとかSDGsアナリストがいて、社内でポジティブに探しているところもある。あるいは、バックグラウンドチェックで探している会社もある。

だから「この会社に投資をしたい」と言っても、SDGs・ESGチェックで「この会社はSDGsがダメだから投資しないほうがいいよ」とか、「投資したとしても半分くらいにしてくれ」みたいなことが起きているんです。

なので本当にこの分野は、「表面上は聞かれなくても、非常に影響力が高まっている」ということはご理解いただいたほうがいいと思います。

森戸:なるほど。

ESGとDXが、企業や従業員の働き方を変える

森戸:残り(時間)が3分ほどになってきました。今日はESG、DX、SDGsなど、いろんなかたちでお話を聞いてきました。まずは、お一人1分くらいで今日感じられたことを視聴者の方々に共有いただければと思います。田村さんからよろしいですか?

田村穂氏(以下、田村):今日はありがとうございました。胸がいっぱいになりました(笑)。

(一同笑)

田村:「ホームページが大事だ」という、思いもよらない答えがきたのでびっくりしました。正直に言って、ESGの経営はなんとなく上から下りてきた感じはしていました。

ただ、僕も今年からいろいろ勉強させていただいていて、「いやいや。従業員の働き方にもつながっていくよね」「時代の変化にどうやって対応しておこうか」というように、投資家さんの指標というよりは、我々会社の成長の指標になっていくのかなと思っています。

ですからしつこいですけど、ホームページをもう1回見ながら、いろいろやっていきたいと思います(笑)。ありがとうございました。

(一同笑)

森戸:ありがとうございます。では市川さん、お願いします。

市川:藤野さんのお話を聞いて、今は定性的だと思われているような情報が、投資には非常に重要なんだなと思いました。ハッシュタグを付けたりして、なんとかして数字になっていないESG情報をAIで投資に活かそうとしているところもあるらしいんですね。だから、また違うところにDXがあるんじゃないかなと思いました。

それから、働く人の働き方が、ESGとDXで変わるんじゃないかというのをあらためて今日は感じました。

森戸:ありがとうございます。

まじめに楽しく働けば、それが評価される社会になる

森戸:では最後に藤野さん、お願いします。

藤野:とても大事なことだと思うんだけど、絶対に世の中は良くなっているんです。20年前とか30年前は長期労働が大事で、「身体を壊しても働け」と言われていた。セクハラ・パワハラも当たり前だったわけです。

今はそういうことができないし、さらに環境にとってダメなこともできないですよね。それを「苦しい社会になった」と思うのか、「生きやすい社会になった」と思うのかで、実はこれからの20年、どちら側の人なのか決まってきます。

要は僕ら一人ひとりが、根本的にまじめに楽しく、人をいじめたりしないでのびのびと働いたら、結果的にそれが評価される社会になると。そこに向かっているんだと思うんですよ。

なので、「より良い社会、より良い国、より良い会社、より良い消費者になっていくんだ」「そういう良い国になっていくんだ」「その度に、良いほうに賭けるんだ」ということを考えれば、決して難しいことでもなく怖いことでもなく、未来についてポジティブに考えられるんじゃないかなと思います。

森戸:ありがとうございます。それではお時間がきましたので、本セッション「投資家が考える選ばれる会社の条件」は終了したいと思います。ご視聴いただきましたみなさま、ありがとうございます。

藤野:どうもありがとうございました。

市川:ありがとうございました。

(会場拍手)

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