2024.12.19
システムの穴を運用でカバーしようとしてミス多発… バグが大量発生、決算が合わない状態から業務効率化を実現するまで
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水谷健彦氏(以下、水谷):(人事が持つべき「経営的思考」として)わかりやすい事例と、僕自身が体験して語れる事例の2つをしゃべってから進めようと思います。まずリクルートについて話をしたいんですよね。
僕がリクルートにいたのが25歳から28歳で、もう四半世紀前になっていますので、僕が今から語る内容は、今のリクルートさんではない可能性も高いんですけど、当時こうでしたという話で(聞いていただければと思います)。
「組織文化に関する強烈な原体験」と書いていますけど、リクルートはとにかく「自ら機会を創り、機会によって自らを変えよ」という言葉が一番組織を表していました。菅原さん、これ、聞いたことありました?
菅原啓太氏(以下、菅原):聞いたことあります。どこで聞いたんだっけな......たぶん本とかで。
水谷:出ていますね。僕は自分の家の家訓にしているくらいなんですよね(笑)。
菅原:(笑)。
水谷:水谷家の3つの家訓の1つなんですけど、子どもにも「自分で機会を創って、機会によって自らを変えよ」というスタンスで生きてほしいんですよね。僕は25歳の時にこの言葉を知ったんですけど、若いうちに知れてすごく良かったなと思うんです。
なぜかというと、言い訳ができないんですよね。「自ら機会を創れ」と言われているから、機会を創れなかったら自分のせいだし、その「機会によって自らを変えよ」だから、全部自分に返ってくる。ちょっとマゾヒズムなのかなと思いますけど。
菅原:(笑)。
水谷:僕はこの言葉を知っていて良かったと思います。
水谷:リクルートはこれがかなり根幹となって、各論の人事制度に紐づいていました。その中でも例えば、今はもうないんですけど、30歳になると1,000万円ほど退職金が出るという制度があったんですよ。
これ、おもしろいと思うんですよ。まず22~3歳で新卒が入ってきますよね。30歳ってけっこう脂が乗っているところだから、そのタイミングで辞めることを助長するような仕組みって、なかなか会社として入れにくいじゃないですか。
なんですけど、当時のリクルートは30歳の段階で1,000万円出すんです。そうするとそのタイミングで辞めていく人たちがけっこういたんですよ。若干その仕組みに背中を押されているんですが、「キャリアをちゃんと考えて、自分自身がやりたいことがあればそれはチャレンジしなさい」という意思だったりするわけですよね。
年齢に応じてという意味で言うと、当時退職金は38歳頃がピークになって、そのあと下がっていっちゃう仕組みでした。長くいれば増えていくという考え方ではなく、38歳を起点に下がるんですよね。なので「新しい選択をする」ということに対して、背中を押す仕組みとして機能するんです。
菅原:38歳の時に意思決定するのが、一番もらえるという。
水谷:30歳の時からもらえて、しかもけっこうな金額という。これも「自ら機会を創り、機会によって自ら変えよ」という言葉がないと、「辞めてほしいのか」ってちょっと誤解を生む施策になるかもしれません。そういう話じゃなく、機会を創ってチャレンジすることの支援なんですよね。
菅原:この「自ら機会を創り、機会によって自ら変えよ」というコンセプトがあるから、そういう制度が入っているんですよね。
水谷:そうですね。これはまさしく「このコンセプトがあるからこの仕組みだよね」ということの、1つの例だと思います。
水谷:続いて、リンクアンドモチベーションについても話したいんですけど、「世の中の3ヶ月はリンクアンドモチベーションの1年」という考え方があったんですね。だから(世の中が)1年経つと(リンクアンドモチベーションでは)4年分年の時間を取ったという考え方なわけですよ。
菅原:すごいですね。
水谷:すごいですよね。時空を超えているわけですよね。
菅原:4倍速ということですよね(笑)。
水谷:これには「時間は長さじゃなくて濃さだ」という考え方があって、本当は24時間365日という同じ分数なんですけど、濃度は体感的に違うじゃないですか。
僕、大学時代コンビニでアルバイトしてたんですけど。
菅原:奇遇ですね。私もやっていました。
水谷:夜中のコンビニで働いていたんですが、夜中に商品が届くじゃないですか。入れ終わるじゃないですか。それが終わった後の何もすることがない時間って地獄じゃなかったですか?
菅原:朝4時とか5時くらいですよね(笑)。
水谷:そうなんですよ。一応レジに出ていなきゃいけないから出ているんですけど、正直何もすることがない。時計見て「あ、4時だな」と思って。しばらく経って時計見ると4時5分みたいな。「まだ5分しか経っていない」と感じるわけですよね。
一方で、仕事でものすごい忙しい日って、9時から18時が一瞬で過ぎてしまうじゃないですか。「長さではなく濃さ」というのは、そういうことだと思っているんですけど、それを体現するためにこのフレーズがありました。
水谷:そうすると何が起きるかというと、当然3ヶ月に1回評価をします。
菅原:ああ、なるほど。
水谷:当たり前ですよね。3ヶ月が1年だから、極論したらちょっと長いぐらいです。3ヶ月に1回評価があるので、3ヶ月に1回給料が上がりますし、下がることもあります。3ヶ月に1回昇格のチャンスもありますし、3ヶ月に1回年末年始休暇もあるし。
菅原:へえ!
水谷:それは「ピットイン休暇」という名前だったんですけど、1月は正月がありますね。4月だったら4月1日とか、7月だったら7月の頭に、土日と合わせて5連休くらいがあるんですよ。これは年末年始休暇だと言ってやるわけですね。
菅原:計画も3ヶ月単位で、目標も3ヶ月単位で。
水谷:そうです。個人の目標も3ヶ月単位。事業部の目標も3ヶ月単位。当然事業部という意味で言うと1年単位のものもありますけど、すべての管理は四半期でやるんです。なぜならそれが1年だからというコンセプトだったんです。
そのコンセプトでやるので、例えば新入社員が4月に入って来ると、4、5、6で1年経つという概念じゃないですか。その次の7月に、来年入ってくる内定者たちの内定式に(新入社員が)呼ばれるんですよ。そこで「もう君たち先輩だからね」「後輩入ってくるからね」と言われるんです。
菅原:3ヶ月で。
水谷:そうなんですよ。例えばさっき言ったピットイン休暇も、コンセプトの意味がわからないとただの休みでラッキーとなりますし、昇給も3ヶ月と言いましたけど、降給も3ヶ月なので「なんかドライだよね」という捉え方もされるんです。でもそれはそうじゃなくて、濃度を高めるためにこのサイクルなんだとなるので、統一されるわけですよね。
水谷:この手のものが組織として大事だったなと思っていて、今日の経営的視点で言うと、みなさんにこの「組織コンセプト」という考え方をお伝えをしたいなと思っています。
組織コンセプトがすべての人事施策の根幹となる。リンクアンドモチベーションだったら「3ヶ月が1年だよ」ですし、リクルートだったら「自ら機会を創り」という話ですよね。これがまさしく「経営的思考」と思っています。
ディー・エヌ・エーさんも組織コンセプトを語るとすると、こんなかたちになるわけですよね。
菅原:そうですね。組織コンセプトと言われた時になんだろうなと思って、パッと浮かんだのは「永久ベンチャー」というワードです。これ、ディー・エヌ・エー創業した南場が常に言い続けているものです。
やはり今、ディー・エヌ・エーも2,000人を超えて非常に大きな組織体になっているわけですけれども、以前から「どれだけ大きな事業、大きな組織になろうと、ベンチャーとしての気質を失わず、チャレンジをしていく組織でありたい」ということを組織コンセプトとして、永久ベンチャーであろうと標榜しています。
例えば、要素として「挑戦を尊ぶ」だとか「変化に柔軟であろう」「成長に貪欲であろう」「スピーディーであろう」、あと「球の表面積」というのはあとで解説しようと思いますけれども、こういった要素を包含して「永久ベンチャー」を標榜しています。
先ほどもディー・エヌ・エーのご紹介の時にお話したんですけれども、多角的な事業展開をやっているのは、この「永久ベンチャー」の精神による挑戦、多様な人材・組織による挑戦によって、これが成し遂げられているんです。
この「永久ベンチャー」という組織コンセプトがそういう展開を導いていて、一方でその展開が「永久ベンチャー」という組織コンセプトを強化している。こういう関係にあるのかなと思っています。
水谷:この「永久ベンチャー」って、最初からおっしゃってはいなかったと思うんですよね。たぶん2010年くらいかもうちょっと前体と思うのですが、いつ頃からおっしゃっていたのか。
菅原:私がジョインしたのが2009年なんですけど、その頃にはもう言葉としてあったと思いますね。
水谷:とてもいい言葉だなと思いましたね。やはりベンチャー企業が大きくなっていって、いつのまにか「あそこはもうベンチャーじゃないよね」って言われることがあるじゃないですか。どちらかというとベンチャーかどうかは「規模」で表現されていましたね。
規模が拡大しても「我々はマインドとして永久にベンチャーだ」ということだと思うんですけど。この言葉があるからこそ、「こんな仕組みが機能している」とか、逆に仕組みじゃなくても「こういう組織文化が脈々と根付いている」とか、エピソードがあればぜひ聞いてみたいです。
菅原:よくベンチャーかどうかという中で、フラットな組織風土とか風通しのよさといった話があるじゃないですか。ディー・エヌ・エーの場合、この考え方の中でさっきの「球の表面積」という話をするんです。
組織の構造として、大きくなってくるとどうしてもピラミッド型組織に移行していくところが多いと思うんです。でもディー・エヌ・エーは、球体型の組織をイメージしていて、要は上下じゃないんです。
社員の面積の差はあれども、全員が球のどこかの一部分を担って1つの球体を作っているというイメージです。それが「球の表面積」であるという考え方なんですけど。
菅原:上下じゃなく、みんな一人ひとりが球の表面積であるので、大事になるのは例えば考え方として、「誰が言ったか」じゃなくて「何を言ったか」ですよね。あとはDeNA Qualityという我々の行動規範があるんですけど、その中にも「『こと』に向かう」というのがあって、「人に向かう」の対比として使われることが多いですよね。
ピラミッド型の組織だと、例えば上長の顔色をうかがうとか、上役の意見に左右されるとかがあると思うんですけど、そういう「人に向かう」ことを是としない。うちはみんな一人ひとりが球の表面積だからこそ、ちゃんと思ったことは言うんです。
それが我々の行動規範とかにはしっかり反映されていますし、掲げるだけではなく、みんな一人ひとりがちゃんと実践しているんです。
それによって「上司がこう言っているから従うんだ」じゃなくて、「これがおもしろいと思うからやるんだ」というかたちで、みんなが発案もしていくし、挑戦も促される。そういうところがあるのかなと思いました。
水谷:なるほどね。今お話聞いてて思い出したんですけど、リンクアンドモチベーション時代にディー・エヌ・エーさんとお取引があって、僕の部下がプロジェクトミーティングにお邪魔するわけですよ。そこから帰ってきた時に、「水谷さん、ディー・エヌ・エーさんすごいっすわ」という話を言うわけですよ。
菅原:(笑)。
水谷:何がすごいかというと、採用のプロジェクトにマネージャーとメンバーがいるじゃないですか。いろんな議論になる中で、マネージャーが言ったことに対して、新卒2年目くらいの方が「いや、それぜんぜん違うと思います」と異論を唱えるんです。それをマネージャーの方が「ああ、そうか。じゃあちょっともう1回考えよう」と受けて、話が進んでいくんです。
これってまさしく表面積が大きいというか、「こと」に向かっている証明だなと思い出しました。
水谷:そんなようなエピソードがわんさかある感じですか?
菅原:わんさかありますね。だいたい入社して間もない若手に反対意見とか言われたら、(ふつうは)ムッとするかもしれないですけど、うちの会社ではみんなそれを「そうだね」って受け止めます。言うほうも言うほうだし、聞くほうも聞くほうで、両方が嚙み合って初めて成り立つことなんですよね。
水谷:上の立場になってみると、「お前何言ってんの? ふざけるな」と言っちゃう可能性があるじゃないですか。それを「ああ、確かにそうだな」と受け止められて、取り入れられる。この上の立場の人の器の広さ。なぜそれが実現できているのかなと思って。
菅原:もうすでにそうなっているからそうだというのが、まず1個あるんですけど。やはり100人の組織で99人がそうだったら、残りの人も染まると思うんですよね。そういう意味ですでに浸透しきっているからこそ、変な感じにならないなと思うんです。
元はやはり、南場をはじめとする経営陣が、それを体現し続けてきたからだと思うんですよね。
水谷:なるほど。
菅原:今でも私は南場と一緒に仕事をすることがありますけど、違うなと思ったら言うんですよ。その時に(南場も)「ふざけるな」ではなく「そうだね」となります。やはり上から下まで一貫して、努力してやっている。これが秘訣なのかななんて、今パッと思ったことですけども。
水谷:すごくベーシックな話ですけど、そのとおりですよね。何よりそれが大事。
菅原:掲げるだけじゃなくて、それをやってなんぼのところで、ちゃんとみんなやっているのかなとは思いますね。
水谷:南場さんはどうしてそれができていたんですかね? そういう性格なのか。
菅原:そうですね。南場がマッキンゼーでコンサルタントをやってた時に、いろんな企業さんに行く中で見てきたことへのアンチテーゼなのかな、なんて思うんですけどね。
水谷:なるほど。
菅原:会議でしゃべる人が決まっているとか、偉い人が言ったことに対して内心「違う」と思っていても「うん」と言うとか、たぶんいろいろ見てきたんだと思うんです(笑)。それじゃあ会社はいかん、やはり挑戦できないと、と。そういう思いがあったんじゃないかなと思うんですけどね。
水谷:それが脈々と。すでに設立されてから何十年経っていますよね。
菅原:そうですね。20年以上。
水谷:続けていることによって、多くの方々がそうなっていると。
菅原:浸透しているのかなと思います。
水谷:これも「永久ベンチャー」「球の表面積」という概念がないと、「何だ、君は」と振る舞っちゃう管理職が出てきちゃいますもんね。
菅原:そうですね。単に目の前の事業をうまいことやっていこうとなると、そうはならないと思うんです。変な話、上の言ったことにただ従って進むという、それが勝ちパターンのところももしかしたらあるかもしれません。
でもうちはそうじゃない。みんなが意見してまとまらないこともあるんですけど、そうやって意見がぶつかり合う中から、イノベーションとか新しいアイデアとか生まれてくるので、あえて時間掛かってでも、めんどうくさくなってでもそっちのほうを是とするという。
水谷:すばらしいですよね。
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