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カルチャーを経営のど真ん中に据える方法 風土改革を一歩前に進める実践型ワークショップ(全2記事)

「言われたことをこなす」現場で、競争力は手に入らない 現場が主役で経営が支援する「逆ピラミッド」の組織風土

Unipos株式会社主催のもと、「組織の土壌である『組織風土』を根本から変えて、組織を劇的に強くする処方箋」をテーマに行われたセミナーより、遠藤功氏による基調講演の模様をお届けします。累計30万部の大ベストセラー『現場力を鍛える』『見える化』の著者であり、元ローランド・ベルガー日本法人会長として名だたる企業の経営に携わってきた遠藤氏から、日本企業が競争力を高めるために必要な「現場力」について解説されました。

組織風土が傷んでいると、組織能力は高められない

遠藤功氏(以下、遠藤):現場力の重要性を、私はもう20年来言ってきました。2004年に出した『現場力を鍛える』という本で「日本の企業の競争力の源泉は現場力だ」「これが世界に通用する日本の競争力の源だ」と言いました。

そして『現場論』という本も書きました。「現場というのはこういうところなんだよ」「こういう役割を担っているんだよ」と、現場力の重要性をずっと言ってきました。そして、3年前の日経ビジネスの特集で『さびつく現場力』というものが組まれました。

私のところにも何度も取材に来ました。「遠藤さんはずっと現場力、現場力と言っているけど、日本の企業の現場力は本当に大丈夫なんですか?」と。「『日本の企業はリーダーは大したことないけど、現場がしっかりしている。だから大丈夫だ』とずっと言っていたけど、どうもそう見えませんよ」と日経ビジネスからも指摘されました。

彼らの指摘はそのまま本当になってしまいました。それからいろいろな品質不正の問題とか、不祥事が出始めている。まさにそのさびつく現場力というものが、やはり手をそこで止めることはできなかったというのが現状です。

そして私は、現場力というのは2つの意味があるとあらためて感じました。今まで私は組織能力(ケイパビリティ)としての現場力ということをずっと重視してきました。卓越した実行能力、それが競争優位になって模倣困難性になるんだと。それは今でも変わりません。

でも、その組織能力だけで考えても無理だなと。実は組織能力の前の段階で日本の企業は相当傷んでいる。そうすると、組織風土(カルチャー)としての現場力というものを考えないと、企業運営の基盤がそもそも崩れてしまっている。ここが傷ついているのに組織能力を高めろと言ったって無理ではないか、ということを考え始めました。

「現場力」の2つの意味

現場力は、この2つの意味があるんだということをあらためて感じています。なぜ現場力が大事か、これは別に日本の企業だけではありません。世界の経営のトレンドとして、今は実行の時代だと言われているわけです。卓越した実行能力を持つ会社のみが生き残るんだと。

戦略1割、実行9割という言葉が盛んに言われています。実行できる会社しか生き残っていかないんだと。戦略というのは真似をされます。非常に模倣されやすいです。ですから、今多くの業界で起きているのが戦略の同一化です。戦略が同一化するとどこの会社が勝つかと言うと、実行能力が高い会社です。これが今の経営のトレンドです。

では誰が実行しているのか。社長ではありません。本社でもありません。現場です。だからこの実行の当事者である現場の力を取り戻さなくてはいけない、というのが、今現場力が大事だという理由であります。

では現場力とは何か。現場という言葉と力という言葉を合体させた言葉です。私が20年前に使い始めました。

現場とは何か。これは業界によって違います。物を作っている現場、物を売っている現場、サービスを提供している現場、いろんな現場があります。やっている業務も違います。たった1つ共通点があります。それは現場は問題だらけだということです。良い業績を上げている現場だから問題が起きていないかと言うと、そんなことはありません。

例えばトヨタの現場だって必ず問題は起きています。問題があるかないかではなく、問題は必ず起きるんです。ポイントは何かと言うと、問題解決力という力があるかどうかです。いくら問題が起きても、問題を解決する力があれば自分たちでどんどん良くできます。

でも問題を解決する力がなかったら、現場に問題がどんどん蓄積されて、やがて現場は回らなくなります。ですからトヨタでは自分たちで自ら問題を解決する、現場力を高めていく、具体的な問題解決の取り組みのことを「カイゼン」というわけです。まさにトヨタは改善力、改善文化を作ってきて世界一になりました。

「業務遂行型」の現場と「問題解決型」の現場

そう考えると、現場は2つのタイプに分かれます。1つは「業務遂行型」の現場です。言われたこと、決められたことを真面目にやる、でもそれ以上のことはやりません。言われたこと、当たり前のことしかやらない。こういう現場は平凡な現場です。こういう現場だと日本の企業はたぶん勝っていけません。

ですから、私たちは業務遂行型の現場ではなく、「問題解決型」の現場にしなくてはいけない。いろんな問題を現場が主体的に解決していく。言われなくても自分たちで問題解決にチャレンジしていく。こういう現場でなければ競争力は手に入りません。こういう現場こそが非凡な現場であって、そうでなくてはいけません。

主体性を取り戻す「現場の三角形」の考え方

でも冒頭に言ったとおり、主体的に動かない、言われないと動かない、指示がないと動かない、この状態で競争力が上がるはずがありません。この逆ピラミッドの三角形が、まさに実行の三角形、「現場力の三角形」と言います。組織というのは、実行の際にはこの逆ピラミッドが大事です。現場が一番上に来てここが主役なんだと。

そして本社、本部、経営陣はそれをサポートする存在なんだという考え方をもう1回組織の中に取り戻す。現場こそが競争力のエンジンなのだから、現場が主体的に動いていくということです。そのためには健全な組織風土、そしてそれぞれの会社の独自の組織文化、これが必要になってきます。

ではそういう組織に変えるためにどうしたらいいのか、先ほどは頭が腐ると言いましたが、変わり方も一緒です。頭から変わらなくてはいけない。まずはトップが範を示すということが大事です。経営のトップ、それから幹部の方々が、まずは範を示す。先ほど心理的安全性という話もありました。まずそこで、上の方が範を示す。

一方で、弱いところから腐ると言いました。逆に弱いところを放置しないということです。赤字部門とか競争がなくなったところを、放置しないでテコ入れをするのか、別の手段を考えるのか、それも経営の仕事です。そして、悪いところはどんどん横に広がると言いました。逆に良いところをどんどん伸ばして広げていこうよと。

働く環境が社員の在り方を決め、社員も働く環境を変えることができる

こういうことによって、まず風土を変えていく必要があります。では風土とは何か? ちょっとあらためて考えたいと思います。

一般的な風土というと、人が住む環境のことを言います。2つ写真を示しました。左側はハワイです。右側が砂漠です。みなさんどっちに住みたいですか? と言えば当然みなさんハワイに住みたいわけです。

なぜですか? 気候が良い、人が良い。多くの人が「暖かくて、穏やかで、すごく良い人多そう」と言います。ハワイにいる人が本当にそうなんだろうか? ハワイの気候がそうさせているんです。右側もそうです。砂漠にはすごく水が少ないです。だから水のためには命もかけます。好戦的です。一見怖いですよね。

でも、最初からそんな人なんですか? そうではありません。砂漠という気候がそういうふうに変えるんです。つまり、風土というのは自然環境が人間のあり方を決めています。これについては人間は受身です。だから自分たちは変えることができません。風土が、自然が人間を決めるんです。

この考え方をそのまま企業に当てはめると、「組織風土なんか変えられないじゃないか」と思うかもしれません。でも私は組織風土はちょっと違うと思います。組織風土とは、働く環境と社員のあり方です。

もちろん、働く環境が社員のあり方を決める部分もあります。でも一方で、社員が働く環境を変えることもできる。この双方向性があるのが組織です。ということは、組織を健全な風土にするためには、やはり自分たちで良い環境にしていくということが大事です。ですから、私は社員が働く環境を主体的に変えることが大事なんだと思います。

競争力の土台は「自由闊達な組織風土」

風土改革も現場からやっていくということを提案しています。組織を変えるには、この3つのピラミッドで考えていただきたいなと思っています。ベースにくるのは自由闊達な組織風土です。これは会社や業界は関係なく、それぞれの会社共通です。

自由に何でもモノが言える、主体的に社員が動く、チームワークがいい、そこには会社は関係ありません。まずは自由闊達な組織風土をきちんと担保しましょう。そしてその上にそれぞれの会社独自の組織文化を作っていきましょう。自分たちの歴史、自分たちのDNAに基づいたそれぞれの組織文化があるはずです。それを乗っけていきましょう。

それが実は一番上の組織能力、現場能力に結びついていきます。組織風土、組織文化、組織能力というのは3つ合うことで初めて大きな競争力になっていきます。これを現場から変えていきましょう。現場から積み上げていきましょう。そしてこの3つが高まった時に、それは持続的な競争優位になっていくんです。

当然時間がかかります。そんな一気には変わりません。でも足元のところから変えていくこと、粘り強く変えていくことによって他の会社にはない新しいカルチャーが手に入ります。なにより大切なのは、組織の主体性を取り戻すことです。社員一人ひとりが主体的に挑戦する組織文化を作りましょう。

そして、そのための前提条件として、健全で良質な組織風土をみんなの手で作りましょう。心理的安全性を担保する、コミュニケーションの密度を高める、そしてみんなでコーチングする。こういうことを、ちゃんとできた上で、健全な組織風土の中でカルチャーを作っていっていただきたいなと思っています。

挑戦しなければ未来はない、挑戦しなければ人生はおもしろくない

NTNFという言葉を最近いろいろなところで使っています。No Try No Failure、こんな言葉は日本の企業で盛んに聞かれます。挑戦しなければ失敗もない。挑戦して評価にX(バツ)がつくと、どこかにとばされる。だから何もやらない人が一番得をするという言葉です。

日本の企業はこれでいいんでしょうか、といっていい程、やはりこのNo Try No Failureの会社が増えている。でも本当のNTNFはNo Try No Futureだと思います。挑戦しなければ未来はない。やはりそういう競争の原点にもう1回立ち返らなくてはいけない。

個人に関して言えば、No Try No Funです。要は挑戦しなければ面白くない。ですから、同じNTNFという言葉ですけども、No Try No FailureではなくてNo Try No Future、No Try No Funという言葉で組織を活性化していく必要があるだろうと思っています。

みなさんのお手元に、この本の骨子をまとめた冊子をお配りしています。300ページを超えた本をまとめた「虎の巻」です。三菱電機で1,500冊ぐらい配り、これをもとに上の人間からワークショップをしています。

この中に今お伝えした、組織風土、組織文化、組織能力という3つの階層があります。一番下の組織風土から積み上げていく。「風土なくして文化なし、文化なくして能力なし」ということを説明しています。

そして次に、健全で良質な組織風土を醸成するための5か条ということで5つのポイントを説明しています。これは第1の巻です。第2の巻は、積極果敢に挑戦する組織文化を形成するための5か条、5つのポイントです。

そして次が第3の巻、圧倒的な実行につながる組織能力を構築するための5か条です。トータルすると15の項目があります。この15を全部クリアすると、みなさま方の会社は圧倒的な競争力を手に入れることができます。そんな簡単ではありません(笑)。でも、これをやればいいんです。

時間はかかるかもしれません。5年かかるかもしれません。10年かかるかもしれません。でも、これをやればみなさんの組織は最強になるはずです。10ページ程の「虎の巻」ですが、、これはみなさんの会社を変えるかもしれないと見ていただいて、どこから始めるのかということをぜひ考えていただければと思います。

ご清聴ありがとうございました。

(会場拍手)

『「カルチャー」を経営のど真ん中に据える――「現場からの風土改革」で組織を再生させる処方箋』(東洋経済新報社)

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