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カルチャーを経営のど真ん中に据える方法 風土改革を一歩前に進める実践型ワークショップ(全2記事)

組織風土が“腐っている”会社の6つの症状 日本企業の「現場の主体性」を取り戻すための課題点

Unipos株式会社主催のもと、「組織の土壌である『組織風土』を根本から変えて、組織を劇的に強くする処方箋」をテーマに行われたセミナーより、遠藤功氏による基調講演の模様をお届けします。累計30万部の大ベストセラー『現場力を鍛える』『見える化』の著者であり、元ローランド・ベルガー日本法人会長として名だたる企業の経営に携わってきた遠藤氏から、「現場力」の重要性について解説されました。

日本組織の良さを失わせた「トップダウン型」の経営

遠藤功氏(以下、遠藤):みなさんこんにちは、遠藤です。これから30分という限られた時間ですが、組織風土、カルチャーについて簡単にお話しさせていただきます。

今日は組織風土が経営においてどういう状況、どういう位置を占めているのか、あらためて考えていただければと思います。

一言で言うと、風土改革とは「組織の主体性を取り戻す」ことです。言われて動く、命令されて動く、指示されて動く、という組織がどんどん増えてしまっている中で、働いている社員一人ひとりの主体性を取り戻す動きです。

自分の意思で動く、「これをやりたい」「これをやるべきだ」ということが、どんどん組織の現場からボトムアップで上がってくる。そういう主体性を組織の中でどうやって取り戻していくのか。これが風土改革の究極の目的だと思います。

やはり日本の組織は今ひとつ元気がない、活性化していない。その理由は非常にわかりやすく、トップダウン型の組織になってしまっているからです。

もともと日本組織は現場がしっかりしていて強く、現場の主体性で動いて、組織を変えていった。それが今できなくなっているわけです。いつの間にか本社主導、トップ主導で経営をするようになってしまった。これが日本の組織の良さを失わせていると私は思っています。

組織の主体性をもう一度取り戻すために

いろんな問題は現場で起きています。いろんな新しいビジネスのヒントも、現場にあります。でもその新しいビジネスのヒントを持っている現場がどんどん(意見を)上げてこなかったら、組織が良くなるはずもないし、新しいビジネスチャンスを得られることもないわけです。

いくら立派な社長さんがいたところで、いくら本社の人たちが仕事をしたところで、そこが価値を生み出しているわけではない。価値を生み出しているのは現場なんです。現場に力があるはずなのに、言われないと動かない、指示がないと動かない。そんな現場になってしまったら、日本の企業が復活できるはずがありません。

だから、組織の主体性をもう一度取り戻そう。現場が自分たちで、自分たちの意思で主体的に声を上げて、主体的に提案して、主体的なアイディアを出していく。そういう組織になるために、この風土を変えなくてはいけない、ということが目的であると思ってください。

決して組織の中でみんなが仲良くなるとか、一致団結しましょう、ということが目的ではありません。目的は会社の競争力を取り戻すために、組織の主体性をもう1回高めることです。主体性が発揮できるような組織になることが目的だと、ご理解いただければと思います。

一番の難題は「風土改革」

とはいえ、これは簡単ではありません。私はコンサルタントを30年以上やっていますが、今から思うと、一番難題なのがこの風土改革です。戦略のプロジェクトや、組織体制を変えること、業務改革などは、、場合によってはそれほど難しいことではありません。でも風土改革は、違います。本当に難しいです。

「風土が悪い」「風土を変えろ」と言ったって、「どこからやったらいいの」「何をしたらいいの」と。この手探り感で、みんな悶々としているわけです。風土に問題があることはみんな自覚しているんです。でも何をしたらいいのかよくわからない。

それはなぜかと言うと、「風土」というものの実態がわかっていないからです。言葉さえもごちゃごちゃです。ある人は風土と言ったり、ある人は組織文化と言ったり、今日みたいにカルチャーと言ったり、社風と言ったり、何が正しいんだろうか。言葉の概念、定義もバラバラです。

それで「風土を変えろ」「文化を変えろ」というのでは、何を言っているのかわからない。だから1回立ち止まって、組織風土とか組織文化とは何か整理しましょうということで、今回の本を出版しました。

『「カルチャー」を経営のど真ん中に据える――「現場からの風土改革」で組織を再生させる処方箋』(東洋経済新報社)

整理していく中で、やはり「組織風土」と「組織文化」の違いは明確です。風土が良くないのに組織文化なんか形成できません。まずは組織風土。そして組織風土が健全になったら、その上に組織文化ができてきます。そして組織文化が形成されると、「現場力」という組織能力が高まってきます。

やはりそういう理詰めのアプローチを私たちはちゃんと理解した上で、何をすべきかを考えなければいけないと思います。

組織風土が劣化すると会社は潰れる

なぜそう思ったかというと、もう何年も前から私はいろんな企業の現場に行っていますが、どうも現場に活力がない。私が「現場力が大事だよね」と言っても響かず、動かないんです。

「何か問題があるな」と思ったら、案の定私の古巣である三菱電機で、品質の不正の問題が起きました。みずほ銀行でもシステムのトラブルが相変わらず起きています。最近では日野自動車で品質不正が起きている。日本を代表するような企業で、昔だったら考えられないような品質の不正や不祥事が起きているわけです。

なぜこんな企業に成り下がってしまったのか。三菱電機なんてそんなことをする会社じゃない、極めて真っ当な会社です。でも現場が品質不正に手を染めざるを得ないように追い込まれてしまっているわけです。現場で問題が起きていますが、現場の問題ではないんです。組織の問題なんです。マネジメントの問題なんです。組織風土が傷んでしまうと、そんなことさえ起きてしまう。

今の、漆間社長は「これはもう会社の危急存亡の危機だ。このままいったら三菱電機という会社は潰れるかもしれない」と言うほど、組織風土が傷んでいることを実感しています。みなさんの会社も、もしかしたら他人ごとではないかもしれません。「うちの会社は大丈夫か?」と。

組織風土が劣化すると、会社は潰れます。逆に組織風土が健全だと、会社はどんどん成長できるのです。組織風土は経営の最重要事項だということをあらためて認識をしていただいて、この後のディスカッションを聞いていただければと思います。

組織風土に問題がある会社の6つの症状

今お話ししたとおり、いろいろな会社で最近品質不正・不祥事の問題が起きています。三菱電機、みずほ、日野……。最近でいくとビッグモーターさんで検査不正の問題が大々的に報じられています。こういう会社で不祥事が起きると、第三者委員会が立ち上がって調査報告書が出されます。どの会社の調査報告書にも私は目を通しています。

だいたい弁護士が委員長なんですが、最後に出てくる言葉が「組織風土に問題がある」なんです。結論は全部一緒です。「弁護士さんはこれしか言葉がないの?」「最後はそこに帰結させればいいんじゃないの?」というくらい、同じ言葉が出る。

組織風土に問題があるというのは正しいんです。ただ、組織風土をどうやって変えたらいいかは調査委員会は言ってくれないわけです。組織風土に問題があるとは言うのですが、ではどうしろとは言ってくれない。そこから悶々と「どうしたらいいんだろう」「何を変えたらいいんだろう」と悩むわけです。

(どの企業でも)症状は一緒です。次の症状が少しでも見当たったら、みなさんの会社でも同じようなことが起きるかもしれません。

上意下達、上からの一方的な指示や通達ばかり。下から上にものが言えない、言わない。横の連携が悪く、無関心、あきらめ感が蔓延している。ミドルが疲弊し、チャレンジしない、できない。自責ではなく、他責にする傾向が強い。組織全体にやる気が感じられず、活力に乏しい。

「これ、うちの会社じゃん」と思う人もいるかもしれません(笑)。ということは、先ほど挙げた会社と同じような、不正や不祥事が起きるリスクがあるということです。

現場がファイティングポーズを取らない。戦おうとしないのです。私たちはいろんな企業と競争しているのに、ファイティングポーズを取らないでどうやって勝つのか、ということです。

組織の感情が劣化している。人と同じように組織にも感情があります。その感情がポジティブであれば、みんなやる気が出てきます。でも組織の感情がネガティブだと、言いたいことも言えない、やりたいこともできないという状態になってしまっているわけです。

この組織の感情は厄介です。いくらポジティブな人がいても、ネガティブな組織にいたらネガティブになってしまう。逆に一見ネガティブな人も、ポジティブな組織にいるとポジティブに考えるようになる。この「組織の感情」をなんとか良くしなければいけません。

前向きで、主体的で、「挑戦しようよ」という感情を取り戻さなければいけない。結果として組織の感情が傷んでいると活力がどんどんなくなってしまい、「活力枯渇病」という病気になります。「とりあえずなんかやることをやっておけばいい」「目の前のことをこなしていればいいでしょう」と。その日暮らしばかりになって、新しいことにはチャレンジしなくなってしまいます。

魚も組織も「頭」から腐っていく

どうしてそうなってしまうのか。よく組織は魚に例えられます。魚は頭から腐ると言われています。組織も頭から腐ります。だいたいやはりトップの不適切な言動が起点になっている。例えばパワハラですよね。

これは別に一番上のトップだけではありません。役員や部長といった方のパワハラも起きています。「もうこれだけ問題になったから、パワハラなんか起きていないだろう」と思うかもしれませんが、私が関係するような会社でも今でもパワハラは平気で起きています。

上の方の意識も変わっていないし、行動も変わっていない方がいくらでもいます。そういうことから(組織の崩壊が)始まります。

どこでそのパワハラみたいなものが影響するかというと、だいたい弱いところから腐ります。例えば三菱電機でも、品質不正が起きたところは実は赤字部門だったり、長年競争力が劣化して弱くなったところでした。

儲かっているところでは起きません。儲からないところが、がんばってがんばって、赤字を脱却しようとしたり、コストを下げようとしたりするけれども、どんなにがんばってもなかなか成果が出ない。当然(会社は)投資もしてくれない。経営者も関心もない。経営者から言われるのはとにかく「黒字にしろ」ということだけ。

いろんな問題があっても誰にも相談できず、抱え込んでしまって、どうしようもなく不正に手を染めてしまうです。それは現場の問題なんでしょうか? 弱いところをそのまま放置しておいた経営の責任ではですか? とも言えます。

そして厄介なのは、1ヶ所が腐ると他のところも腐るんです。みかんと一緒です。みかん箱の中に腐ったみかんを1個置くと、全部腐る。組織も同じです。1ヶ所でも弱いところがあったら、組織の中にワーッと蔓延してしまうのです。これがまさに風土の問題になります。

組織の風土を劣化させる幹部の特徴は「ドブにコマ」

先ほどパワハラの話をしましたが、(原因となる問題は)パワハラだけではありません。私は最近、こういう幹部がいたら要注意ですよということで「ドブにコマ」という言葉を使っています。これは別に社長や役員だけではなく部長の方などもそうです。

「ド」は、どなる。パワハラですよね、言語道断です。「ブ」は、ぶれる。意志薄弱。言うことが二転三転して、まったく軸がない。現場から見たら何も信用できません。

「に」は逃げる。決めるべきことを決めない、または先延ばしにしていく。そして「こ」は細かい。マイクロマネジメントをする。任せない。そして一方では「ま」、丸投げする。責任放棄して、「お前にやれと言っただろうが」となってしまう。

こういう上司、みなさんの上にいません(笑)? こういう上司がいたら、組織風土は絶対悪くなります。「どこかは思い当たるでしょ」という感じですよね。ですから、決してパワハラだけではありません。

2つの日本企業の共通の課題

そう考えた時に、やはり組織風土が劣化する幹部の言動は非常に大きいわけです。そう考えると、私は日本の企業の共通の課題が大きく分けて2つあると思っています。

まずはイノベーションです。日本からイノベーションが起きてこない、だから成長できないんです。新しい価値を生み出していくことは、めちゃくちゃ大事です。それからもう1つ、エフィシェンシー。これは個々の効率ではありません。会社全体の効率が低いんです。生産性が低い。

これも高めないことにはどうしようもない。もうこれは日本の企業を復権するための大きな柱です。これは多くの会社が共通だと思います。でも「イノベーションを起こせ」「エフィシェンシーを高めろ」と言ってもどうしようもない。それはなぜかというと、もう1つ問題があって、根本的にカルチャーが傷んでいるからです。

組織風土が劣化しているから、「イノベーションを起こせ」とか「エフィシェンシーを高めろ」と言って高まるはずがありません。ですから、この3つを私たちは視野に入れて経営の改革をしていかなくてはいけない。では組織風土は、あらためて経営の中ではどういうものなのか。

経営はもちろん事業が大事です。事業が太くなって、幹がどんどん大きくなっていくと立派な木になります。事業が大きくなれば、そこに花が咲いたり実がなります。それが利益でありお客さんの満足です。幹だったり、花とか実は外から見えます。でもそこばかりにみんな目がいくわけです。

「事業をなんとかしろ」「利益を上げろ」、こんな掛け声をかけても仕方がありません。木の足元を見なくてはいけません。大事なのは土であり、根っこです。これはなかなか見ないんです。風土、カルチャーというのは土壌、土のことです。この土が傷んでいるのに、土が干からびているのに種を蒔いたって芽が出るはずがありません。

土が干からびていたら根っこがどんどん痩せ細っていくんです。根っこが痩せ細ったら土の栄養分、水分を幹に送れません。幹が太くなるはずがありません。私たちはこの土壌を改良して、根っこをもう1回元気にしなくてはいけない。この土壌のところがカルチャーです。そして根っこのところが現場力です。

この外から見えないところを私たちはもう1回大事にしなくてはいけない。でも、ともすると経営者は事業の話とか利益の話しかしない。そんなものどうでもいいんですよ(笑)。経営者たるものは、そんなものは結果に過ぎないんだ、土が大事なんだ、根っこが大事なんだということをもう1回声高に言うべきだと思います。

組織風土を高める目的は、競争力を高めること

「組織風土を良くしようよ」と言って、「現場が傷んでいるから、まずみんなで仲良くしよう」「みんなで一体感を作ろう」「チームワーク良くしよう」というのは、もちろん大事です。でもそれは目的ではない。組織風土を良くすることが目的ではありません。

私たちはビジネスをやっているわけですから、最も大事なことは競争力を高めることなんです。私は今三菱電機の顧問をやっていろいろな工場を回っています。工場長が勘違いしているのは、やはり「組織風土を変えたって何も変わらないよ」ということです。もちろん組織風土が変わっても何も変わらないです。目的は競争力を高めるためだと。

それぞれの工場が生き延びていくためにはもう1回競争力を高めなくてはいけない。そのための入り口としての組織風土なんです。「組織風土が良くなかったら、競争力を高められるはずもないでしょ」と説明すると、みんな腹落ちして理解してくれます。単に「組織風土だけ良くしよう」ということが目的ではないんです。そこは入り口なんです。

日本企業の競争力の源泉は、私は現場力だと思っています。これは業界に関係ありません。製造業であれ、サービス業であれ、小売業であれ、現場力が高い会社は成長します。収益を上げることができます。ただ、現場力は、組織風土が傷んだままでは絶対に高めることはできません。

そのために、やはり健全で良質な組織風土を取り戻しましょう、ということを私は伝えたいです。

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