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新規事業開発に向かない組織の条件(全4記事)

事業創出には「理解ある上司」という“偶然”が要る現状 運次第ではなく、新規事業を起こせる組織にする方法

「新規事業に挑戦する皆さまに“本当に”有益な情報を提供する」をテーマに、業界トップクラスの企業担当者をゲストに迎えて開催されるSpreadyの主催イベント。今回は「新規事業開発に向かない組織の条件」と題して、累計3,000社以上の新規事業プロジェクトの支援実績を持つ株式会社Relicの松永正樹氏と一江健一郎氏が登壇。Spready社の代表・佐古雅亮氏のモデレートのもと、関係者全員の「目線を合わせる」ための取り組みや、「とりあえずマーケットに出す」ことで得られるものなどが語られました。

新規事業を起こせる組織にするためのポイント

松永正樹氏(以下、松永):組織における新規事業開発にはさまざまな問題がありますけど、じゃあ理想はどんなかたちなのか。これはわりと現場レベルの話ですが、着想を得て事業アイデアを作ったら、それを机上の空論として鉛筆を舐め舐めしていてもやっぱりうまくいかないんですよね。

実際にそのアイデアを何らかのかたちにしてみて、顧客と想定した人に当ててみて、その時の反応をデータとしてちゃんと計測・学習する。だいたいの場合は「違ったね」となるので、またアイデアを練り直すと。「このサイクルをいかにスピーディにまわすか」ということが大事。これが現場レベルでの必須要件です。

逆に、組織の側からするとこのサイクルをスピーディにまわしやすい組織をどう作ってあげるかがポイントになります。そうすれば、それだけで新規事業開発がうまくいく確率が上げられるわけで。

じゃあどんな組織開発が必要なのか。「意識の変革」「組織の変革」「育成プロセスの変革」を挙げましたが、どれか1個やればいいということではありません。ハード面・ソフト面、両方が必要です。ただ(スライドの)図の右側にある「文化」や「価値観」は、直接いじることは当然できないし、時間もかかります。

ですので、最初に着手すべきなのは図の左側、「組織構図」とか「制度」です。新規事業開発で求められる行動や考え方を、現場の人たちがやりやすいものにしていく。例えばKGI・KPIを設定する時も、「売上がいくらだ」というより、もっと行動面にフォーカスした評価制度を作っていく。

人は環境に適応するので、先に環境を変えてしまうんです。「失敗しても決してマイナスではないし、むしろチャレンジしたほうが高評価である」という評価制度になれば、人はどんどんチャレンジするようになります。人がそこに適応してくると、文化や価値観も自然と変化していくんですね。

そのうち成功事例が出てくると、それがさらに一気に空気を変えます。「私もああいうふうになりたい」「俺もああいうふうにやりたい」という人が出てくる。それがどんどん出てくれば、今度は制度をそれに合わせて拡大したり、調整したりする。このように、グルグルいい流れを作っていくのが組織開発としての理想だと思います。そのための第一歩はやっぱり、制度とか組織構造をいじることですね。

組織で立ち上がった新規事業に見られる「たまたまの連鎖」

松永:今日ご参加の方の中にもたくさんいらっしゃると思いますが、これには組織の中で上の決定権をお持ちの方々、リーダーの方々の参画が不可欠なんです。逆によくあるのが、現場の人たちがすごく思いを持ってやっているんだけど、どうしても組織や制度がネックになること。我々もご支援しながら「ここ、どうにかなりませんかね?」と言うんですが、「いやぁ、人事は……」となるんですね。

一江健一郎氏(以下、一江):(笑)。

松永:一江が苦笑しています(笑)。思い出がありますから。

一江:いろいろとありますね(笑)。

佐古雅亮氏(以下、佐古):私も思い出がありますね(笑)。

一江:やっぱり「人事制度は聖域だ」みたいな考え方があるんですよね。その上で、人事の人がそこに問題意識を持っているかというと、その権限すらも与えられていなくて。さらに、そこを考えるスキルがある人もいないと。特に大企業では、こういうことがかなりあります。

特にDXの文脈でかなり多かったですね。「『我が社のDX人材の理想像』に対して、人事が何も考えていない」みたいなこともありました。

松永:そうなると、やっぱり現場が孤立するんですよね。孤立しながらも、たまたま理解ある上司に恵まれて、その上司が陰に陽に保護をすると。その人がたまたま役員ともつながりがあったからうまく守りきれて、プロジェクトの芽が出たという。よく美談のように語られるパターンですが、逆に言うとこのように本当に、たまたまが連鎖したケースじゃないとなかなかうまくいかないのが現状です。

先ほどの佐古さんの問いに戻りますが、「なぜ組織的な、『面』としての新規事業というストーリーがあまり出ないんだろう」というのは、そういうことだと思うんですよ。どこかで「たまたまの連鎖」が切れると形になっていかない。

佐古:そうですね。「出島戦略」を扱うテーマでもよく出てくるんですけど、出島を作ったとしても人事権だけは切れていないとか、めちゃめちゃありますからね。とにかく「テーマはスピード」になってくると思うので、採用権とか雇用形態とか、いくつか切り出してスピードを阻害しないようにするべきで。(だから、スライド)左上にある「組織構造」とか「制度」は、確実に手を入れないといけないテーマだと思います。

関係者全員の「目線を合わせる」ための取り組み

松永:ここが1丁目1番地なのに、一番最後まで触れられないところになっちゃっている。出島と呼ばれる新規事業開発特命チームみたいなのが作られたりするんですが、結果としてさっき話したようなケースになったり。

特命チームがあります。予算もついています。でも、その予算を執行するにあたっては「江戸におうかがいを立てないといけません」みたいな。出島なんだけど、かえってスピードが落ちているケースもある。だから、1個だけどっかで聞いたようなキーワードを取り入れるよりは、やっぱり組織全体として「新規事業開発って、どう進めるんだっけ」という姿勢で臨む。

どんな人が新規事業開発に向いているのかを精査して、その人を正しく評価する。だから「新規事業開発をやるなら、こういうことをしなきゃいけないよね」「これじゃダメだよね」と、ちゃんと評価する仕組みを作っておかないといけない。ここまでが教科書的なお話です。

でも、「とはいえ」というところがあるので。これはご紹介で恐縮ですが、Relicでは「合宿やりましょう」と言っています。「Krumaza(クルマザ)」というプログラムを展開しておりまして。

経営者の方が新規事業開発に想いを持っているとします。そして現場のメンバー、例えば新規事業開発室の人や実際に新規事業開発をやっているチームの人も、想いを持っていると。どっちも想いを持っているんだけど、うまく噛み合っていないケースが多いんですね。

だったら我々が1泊2日の合宿の場を用意するので、一緒に話しましょうと。車座になって、フラットに「なぜうちは新規事業をやらなきゃいけないのか」とか「やるとしたらどういうかたちでやるのか」「新規事業開発って、そもそもどう進めるものなのか」みたいなことを1泊2日でずっと話をして。フィードバックをしたり、リラックスした時間も含め、一緒にご飯を食べながらコミュニケーションをする。

終わった時には関係者全員の目線が「こうだよね」と決まっている。具体的にはこれからだけど、方向感とか目線の高さは揃っていて。やっぱり最後は「人と人」みたいなことが当然必要なんですね。これが1つ。

「とりあえずマーケットに出す」ことで得られるもの

これもRelicの別サービスで恐縮ですがご紹介させてください。

実際に新規事業の筋の良いものを丁寧に検証して、乾坤一擲「これをやりましょう」というのも当然大事だと思います。でも、筋がまだわからないながらも、とりあえずマーケットに出せそうなら出してみる。そして営業・マーケティングの力を駆使しつつ、まずは成果を出す。成果が出てしまえば、今度はそれが組織を変えるんですね。そういったところのお手伝いもしております。

「〇〇というプロジェクトが立ち上がりました」「この間ローンチして、こういうニュースになりました」「売上何億いきました」というのが、社内イントラに乗ると一気に空気が変わるんです。「そういうことをやるのも大事ですよ」というご紹介ですね。

(スライドに)書いてあるように、戦略や設計は必要です。それを除外して力技だけでなんとかしようとしても、絶対持続性がないので。一方で、結果を出して勢いと自信をつけることも、やっぱりすごく大事です。「どっちがいいか」という話ではなく、両方必要なんですね。

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