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新規事業開発に向かない組織の条件(全4記事)

イノベーションが進まないのは「社員のやる気がない」から? 新規事業開発で大事なスピードを“遅らせる組織”の事例

「新規事業に挑戦する皆さまに“本当に”有益な情報を提供する」をテーマに、業界トップクラスの企業担当者をゲストに迎えて開催されるSpreadyの主催イベント。今回は「新規事業開発に向かない組織の条件」と題して、累計3,000社以上の新規事業プロジェクトの支援実績を持つ株式会社Relicの松永正樹氏と一江健一郎氏が登壇。Spready社の代表・佐古雅亮氏のモデレートのもと、日本の大企業がイノベーションを生み出せなくなった理由や、大企業で新規事業開発を「株主へ説明」する際のポイントなどが語られました。

新規事業開発の「スピード」を削ぐ組織の典型的なパターン

松永正樹氏(以下、松永)組織における新規事業開発のマイナスの影響をまとめると、「スピード・自由度・モチベーションがどんどん削られていく」ということだと思います。

卑近なものも含めて、典型的なパターンをお話ししますね。まずは「スピードが削がれる」というもの。新規事業をやる時は、スピードが大事です。社内外含めてどんどんコミュニケーションを取って、勝ち筋を探っていかなきゃいけない。

でも「クラウドサービスが使えません」「Google系のツールは使わないでください」「やりとりは全部メールベースでやってください」「ファイルを社外と共有す時には、必ず上司に確認をとってください」では、なかなか情報を取りに行くスピードが出せない。

次に、ちょっとアイデアのタネができて、実際に予算を使う許可は得られたと。しかし、その予算を執行しようと思うと「じゃあそれは次の部長会で稟議を出してください」と言われてしまう。

これもよくあるパターンとしては、部長会議は来月の15日です。今は20日……みたいな。そうすると、そこまでに1ヶ月あり、稟議が通ったからといって翌日から予算が使えるわけではなくて内部調整とかも必要だから、そこからまた1ヶ月ぐらいかかると。結局起案してから2ヶ月ぐらい予算を使えないということが意外と多いんですね。

そうすると、当然ながらモチベーションはどんどん下がっていく。「新規事業をやれ」と言われたのに、どうしても「できる限り新規事業ができないように会社が仕組んでいる」ように感じられてしまうんですね。

なので、結局誰も新規事業をやらなくなって、もともと「新規事業をやろう」と旗振りした上層部の方々は「うちの社員はやる気がない」みたいになっちゃう。こんな、誰もハッピーじゃない状況がたまに見受けられます。

日本の大企業が新規事業を開発できなくなった理由

佐古雅亮氏(以下、佐古):松永さん、ここまでで少し素朴な疑問というか、セッションテーマを出してもいいですか?

松永:ぜひぜひ。

佐古最初にプロダクトライフサイクルの画像を出していただきましたよね。

そして、変革してきた企業さまの事例がありました。よくよく冷静に考えてみると、今プライム市場に上場しているような、大企業と言われる会社さまたちは、たぶん単一の事業であるわけがないと思うんです。そういう意味で、今まで新規事業を生み出してきた組織体なんですよ。

ただ実際に「直近のイノベーションの事例は何なのか?」というと、未だに富士フイルムさんとかを事例に出しますよね。でも実際に富士フイルムさんが化粧品を出したのって、もう10年以上前だと思うんですよ。僕たちも新規事業の支援に入る時に、特に直近だと「大企業さまで新規事業が生まれない」みたいなテーマがすごくフィーチャーされるんですね。

これってどういう整理をしたらいいんでしょうかね。イノベーションを生み出してきた企業さまが、イノベーションを生み出せない組織運営になってきている。これにはどういう変化があるんでしょうか?

松永:これはいろいろありまして。大企業については、一江の知見にぜひ頼りたいんですけど。1つは富士フイルムとかソニー、任天堂など今回挙げているものは、どちらかというと未だに特殊例なんですね。

全般的に大企業における新規事業はまだあまりやれていないし、うまくいっていないのが基本パターンです。たまたま特異的に出てきたのが富士フイルムの例だったり、最近だとホンダの飛行機だったりします。

背景としては、プライム市場に上場しているような大きな会社であっても、そもそも「新規事業をゼロから立ち上げて、本当に事業にした経験を持っている人」が、社内の上から下まで誰もいないことがあるんですね。これが大きいのかなと。

「新規事業をやらなきゃいけない」ということは、お題目としては当然みんな理解できるんです。でも、具体的に例えば「プロジェクト進めるなら、Slackとかのビジネスチャットツール使ったほうがいいよね」「うん、そうだよね」ってなかなかならない。むしろ「え? なんでメールじゃダメなの?」みたいなやり取りになってしまう。たぶんそれは「やったことがないから」だと個人的には思っています。

競争環境の大きな変化

松永:一江さん、いかがでしょうか。

一江健一郎氏(以下、一江):松永が言うとおりで。日本の企業ってバブルが崩壊したあたりか、もうちょっと前から、ビジネスモデルの変更を伴う新規事業開発をやっている企業は、本当にごく一部だけなんですよね。

たぶんソニーさんとかは、もともと会社として「新しいことをするんだ」という素地があった。でもそれ以外の企業さんって、やっぱりなかなかそれができない。だから結局、今の経営層とかマネジメント層、なんなら社長職にいる人たちも既存事業しかやってきていない。そもそも新規事業って「どういうことが起きて」「どんなことをやらなきゃいけないのか」、さっぱりわからないんです。

それこそ20世紀初頭とか1950年代ぐらいの会社の黎明期には、次々と新しいことに挑戦しなきゃいけなかった。日本市場においてマーケットが成長していたし、人口も増えていたので「とりあえず、やればなんとかなるだろう」と、どんどん新しいものを生み出して、ダメなものはやめていった。今の大手企業さんの事業ポートフォリオはその結果だと思うんですよ。

その時はやれていたのに、今はなぜやれないのか。それは環境がぜんぜん変わっているのと、30年間ずっと既存事業しかやってこなかったマインドや頭だから。それで「今から新しいことをやらなきゃいけない」ということがすごく難しいんだと思います。

佐古:なるほど。その当時は、日本という単位で伸びていたんですよね。戦っている場所そのものが伸びていたと。今はどちらかというと日本は「経済衰退」といった文脈で語られるようになってきて、撤退戦の気配すら漂っている。そんな競争環境の中で、ビジネスをやらなきゃいけない。そういうのも影響がありますよね。

一江:それは間違いなくあると思います。

世界に先駆けて、人口減少と超高齢化が進む日本の可能性

一江:スタートアップやるんだったら、絶対日本よりも中国かアメリカでのほうがやりやすいと思います(笑)。

佐古:そうなんですよ。儲けたいだけだったら、絶対アジアに行きますからね。

松永:それはありますね。マーケットが伸びているところなら、まずは「いかに新しいことをやって、他よりも先にいくか」ですよね。でも全体が縮小していると、空き地がないので「いかに他から取るか」しかやりようがない。

佐古:動画の事業をやっている友人は、最初から中国でやっていましたね。なんでかというと、もうマーケットサイズの桁が1つ2つ違うと。「中国でやれば、めっちゃミスしても市場がめっちゃ伸びるから大丈夫なんだ」と言っていて。それを思い出しながら今聞いていました。

松永:そうですね。そういう意味では、日本で新規事業をやること自体が、もともとゲームの難易度が高い気がします。逆に言うと、今の日本で勝ち筋を見つけられると強いのかもしれない。今、2022年の段階だと、日本は世界の中でも特殊だと言われているじゃないですか。人口が減っていて超高齢化で、みたいな。でもこれは次に、アジアが続くんですよね。

中国も高齢化と言われ始めて、その次にマレーシアとかインド、インドネシアがきて。ヨーロッパも高齢化が進んでいて、その次は南米で。こういう世界統計の予測が出ているんです。だから今のうちに日本がそのやり方を学ぶということは、広い視野では決して黄昏時の悲しい話ばかりではないと思います。

佐古:タイミング的に、それが早くきているので、その中でのイノベーションの起こし方を体系的に会社の中に作っておく。そうすれば、勝っていけるわけですからね。

大企業で新規事業開発を「株主へ説明」する際のポイント

松永:あともう1つ、またプロダクトライフサイクルの話に戻りますが、日本のプライムとかの大きな会社で新規事業を行う時、「株主への説明はどうするんだ」というケースが多いと思うんですね。

オーナー企業で、「株も社長が全部自分で持っています」だったらわりと意思決定しやすいんです。そうじゃない場合、この(スライドの)赤い矢印の「既存事業が傾き始めました。なんとかしないと本当にヤバいです」という時なら株主も新規事業への投資に「OK」と言いやすいんです。

でも本来やるべき、この紺色の矢印の真ん中あたりの「まだ既存事業が伸びています」という時にやると、「なんでそんな、うまくいくかどうかもわからないものに投資するんだ」「そのリソースを既存事業に振り向けたほうがリターンは大きいんじゃないか」という意見が当然出てくる。そこをどう説明していくか。これは大企業ほど、逆にハードルが高くなるかもしれませんね。

佐古:ご質問のカードでも「どうやってステークホルダーに説明していくか」というのは2つ3つありました。

松永:このあたりの話は、やっぱり重要ですよね。

一江:特に「対株主」という話になると、やっぱりトップの問題意識と胆力ですね。「覚悟」と言ってもいいかもしれません。それを、熱意を持ってちゃんと伝えられるかどうか。これが大きいと思います。

例えば「世の中の潮流だから、うちもDXをやらなきゃいけないんです」という説明では納得性が低いですよね(笑)。社長として、トップとして「これを絶対にやるべきで、自分の進退を賭けてでもやる」という覚悟があれば、そこはクリアできると思います。

松永:逆に、そこには裏技はないですね。

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