2024.10.01
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前野隆司氏:この後小森谷さんと天外さんが話されるかもしれませんが、『ティール組織』に書かれた組織論があるじゃないですか。ピラミッド状のオレンジ組織やアンバー組織という合理的な組織から、家族的なグリーン組織、そしてティール組織へと、人類は進歩しているとフレデリック・ラルーさんは言います。
人類は、本当に進歩しているのでしょうか。昔はグリーンやティールのやり方ができていたのではないでしょうか。もともと狩猟採集時代は、みんな「よし、ウサギ捕ってこい。自分でやってみな」みたいな。動物と近い生活ですから、自由でした。
鳥や魚やトカゲが自由に生きてるのを見ていると、これはレッド型(衝動型)なのか、調和的なティール型としてみんなで力を合わせて生きているのか、区別が難しいのではないかと思うわけです。
つまり、農耕を始めたから、「よし、家族で力を合わせなきゃいけないぞ」と。考えるグリーン型社会が出てきた。さらに、産業革命っていうのをしちゃったから、「もっとピラミッド型にすると合理的な組織だ」と、レッドやアンバー(軍隊)といういう組織論が出てきたのではないか。
つまり、ラルーは、人間の組織がレッド、アンバーからグリーン、ティールへ進化してきたと言っていますけど、これって進化したんじゃなくて、「昔を思い出している」ってことなんじゃないかと思うんですよね。
個人の(幸福度についての)図も持ってきました。幸せと年齢のグラフを書くと、若いうちは幸せなんですよ。40~50代が一番不幸せで。50代を超えるとまた幸せになっていくんです。
ということは、人生のグラフを見ると、もともと幸せだったところが1回不幸せになって、また幸せに戻ってくる。『老年的超越』といって、90歳から100歳の人は極めて幸せだという研究結果もあるんです。
トーンスタムというスウェーデンの先生が、東洋思想も勉強して、老荘思想とか仏教の思想も調べた結果、どうも「悟り」みたいな幸せな境地が高齢者にあるんだ、なんてことを言っています。
この人生と、人類がやってきたことは、似てませんか? 人類は、現代的な価値観から言うと未熟だった狩猟採集生活から、ちょっと成長して農耕生活に、そして現代社会に至った。今が一番進んでいるように思う。しかしこれは「若気の至り」であって、それに気づくのが人生半ばのあたりなんだと思うんです。
現代人の一部はもっと仏教を勉強しようと思っていると思いますが、ブッダは「もっとアニミズムに学べ」と言っていたわけです。ルネサンスもそうですね。中世の停滞期に、「もっとローマに学べ」と考えたロマン主義、ロマン派もそうですよね。もっと昔の良さに学ぼうとした。
これはただの懐古主義じゃなくて、昔のティールとかグリーンとか、非常に人間性が尊重されていた生き方に戻っていくべきじゃないかという発想だと思うんです。
いろいろ話しましたけど、これからの時代はどういう時代でしょうか。産業革命で人が増えていたのに、日本は減り始めてもう20年ぐらいになるんです。しかも経済も、「失われた30年」と言われています。30年間停滞している。
これは「成長することこそ正しい」という見方からすると停滞ですよね。でも、人類、増えて止まって増えて止まって増えて止まった。止まった時に、アニミズムという宗教の基本ができたわけです。次に止まった時に、仏教、老荘思想、ソクラテスなどの思想・哲学ができたわけです。
次に止まった今、日本は本当に失われた30年なんでしょうか。もしかしたら、世界に先駆けて次の世代に入ったとも言えるんじゃないでしょうか。
もっと言うと、人類は1万年前に農耕を始めましたが、日本は3000年前に始めたと言われています。7000年も遅れてたんですよ。イギリスで産業革命が始まってから、日本は明治維新が起きるまで鎖国してましたから、100年ぐらい遅れてるんですよ。
もっと前、仏教が起きたのが紀元前5世紀ですが、仏教が伝来するまで1000年かかったんですね。インドからはるばる中国を通って、日本に入るまで、仏教伝来が1000年遅れてるんです。だからいつも日本は、発展フェーズに入るのが遅れてるんです。
これは「発展こそすばらしい」という見方からすると、いつも日本は遅れてるねっていうことになります。しかし、定常化は文化的な時代ですよ。
そう考えると、3000年前まで豊かだったね縄文時代。他の地域の人類は1万年前でぷつっとやめちゃった狩猟採集生活を、3000年前まで、7000年も長くやってたんですよ。3000年前って、人類スケールで見ると、本当にちょっと前ですよ。歴史が始まるちょっと前までやってたわけです。
それから次の豊かさ。2回目の定常化のところ。産業革命がイギリスから起こり、一気に世界が「成長こそすばらしい」というところにいったのに、日本は100年間、江戸時代の後期の豊かさを享受してたんです。
江戸時代の後期も象徴的ですね。江戸時代前期は人が増えます。戦国の世が終わりましたから、日本中が経済的に発展していくんです。その後、後半では、ぱたっと人口増加が止まるんです。止まっている時代は、武士は武道とか茶道、華道。町民は浮世絵や三味線が発展した、非常に文化的な時代なんです。
要するに経済が伸びている時よりも止まっている時のほうが、文化的に豊かな時代なんです。定常化1も長かったし、定常化2も長かった日本が、ついに定常化3に30年前から入ってるわけです。なんてラッキーなことでしょう。
経済成長から見ると停滞ですけど、心の成長から見ると、世界に先駆けて「心の成長時代」に入ってるんじゃないか。そう捉えることもできるのではないでしょうか。
ではこれからの時代はどういう時代になるかというと、ウェルビーイングの研究者として、「ウェルビーイング産業の進展」があると考えています。
ウェルビーイング産業を健康産業の心版と考えると、コーチング産業のようなものを想像できるかもしれませんが、そうではなくて、すべての製品・サービスが、人々の幸せのためにあると考えると、ウェルビーイング産業の市場規模は世界のGDP規模だと僕は思っています。
どうなるかというと、経済成長から心の成長。文化、芸術、感性、創造性、○○道、クールジャパンが重視される社会。
私は1年前から書道を始めたんですけど、60歳近くになって始めてもどんどん上達するんですよ。「道の世界」は終わりがないというか、ずーっと先まであるんですよね。そういうアートを追求するという、古くからあるもの。
それからクールジャパンと書きましたけど、今の日本の漫画や映画は世界的にすばらしいと言われています。だから日本からこの古いものと新しいものをうまく融合し、文化として世界に輸出する。あるいは日本に観光客をまた呼び戻すこともできるでしょう。
やっぱり日本に世界中の人が来て、この文化を感じる時代。私も技術者だったし、天下さんも大学の先輩ですが、経済が伸びていた時は、「科学技術によって日本は世界に貢献するんだ」という価値観がありました。それもあっていいと思うんですよ。
しかしこれからは、科学技術と、伝統工芸・伝統芸能みたいな技術が、うまく融合して、人間として豊かな時代になっていくべきなんじゃないかと思うんです。
「美しい心、美しい社会の時代へ」って書きましたが、僕は真面目にそう思ってるんですよ。産業革命以降は人類が「美しい心、美しい社会を忘れた時代」だと思うんです。
もっと前は、神道とか仏教といった宗教や、哲学・思想があったんですよ。悪いことをしたら地獄に落ちるぞって言われると、宗教を信じていた時代は「やばい、悪いことしたら地獄に落ちる」と思えました。「お天道さんが見てるよ」「お天道さんに恥ずかしくない生き方をしよう」と思えた時代もありました。これらが、定常化1の原始宗教または定常化2の高等宗教を信じていた時代ですね。
産業革命以降は、もちろん宗教を信じる人もいますけど、圧倒的に宗教を信じる人が減ったと言われています。倫理の規範が希薄化したんです。
倫理はただの学問。社会に貢献したほうがいいよ、優しい人がいい人だよ、悪いことしちゃだめだよっていう教育はありましたけど、昔みたいに「死んだ後は地獄に落ちるかもしれない」って本気で信じられた時代と比べると、美しい心というメカニズムが圧倒的に弱くなった時代でした。
法律で悪いことをしたら罰せられますよっていうのはありますけど、中心思想のない時代になったんですね。これを「ポストモダン」と言います。だから近代以降の時代は、美しい心が失われがちなんですよ。
定常化1・定常化2の文化・思想は、アニミズムとか仏教、あるいはキリスト教みたいなものがになっておたんですけど、じゃあ定常化3ではどうなんでしょう。新しい宗教なのでしょうか?
今更宗教は信じられないと思うんですよね。そうではなく、私がやってるウェルビーイングについての、幸福についての科学。......幸福についての科学って言うと、宗教っぽいんですけど(笑)、宗教じゃなくて科学のほうです。ウェルビーイングについてのサイエンス。こちらがこれからの定常時代の中心的な概念になるべきだと思うんです。
利他的な人は幸せである。誠実な人は幸せである。視野の広い人は幸せである。人と仲良くできる人は幸せである。自己肯定感が高く、チャレンジ精神のある人は幸せである。幸せの研究によって、統計学に基づいてわかってきたエビデンスを見ると、ぶっちゃけ「幸せな人はいい人」なんですよ。この科学的事実がもっと世の中に広がるべきだと思うんですよね。
みなさん幸せになりたいですか。不幸せになりたいですか? 不幸せになりたい人は、いないと思うんですよ。じゃあ、「幸せになりたいならいい方法を教えましょう」って言って、教育をすべきだと思います。
幸せになりたいなら、利己的より利他的なほうが幸せですよ。視野が狭いより視野が広いほうが幸せですよ。何か新しい世界を作るためにチャレンジしたほうが幸せです。
だから「幸福学」をちゃんと教育の中心にして、1と2で宗教が担った役割を、幸せについての学問が担えばいい。幸福経営学もそうですよね。幸せな経営とは、社員を幸せにして、社会を幸せにすることを大事にする経営です。そんな基本中の基本を、ちゃんと教育の柱にするってことによって、この人類の定常化3が豊かな時代になるんじゃないかと思います。
これを言うと、「いやいや、現代は日本も閉塞感が漂ってるし、トランプみたいな大統領が出てきたり、ロシアは戦争始めるし。美しい心どころか、なんかすさんだ心の時代なんじゃないんですか」っていう人がいます。
確かに今は過渡期なんですよね。人が増えていたところから止まったので、「やばい」となっています。自分の国を守らなきゃ、自分を守んなきゃっていう圧力によって、自分中心になる人たちが出てきてるのも事実です。
一方で、ピケティとかハラリとか、広井良典先生とか、私の幸福学とか。やっぱり、よりみんなで協力する社会を作らなければ、人類は破綻しちゃいますので、美しい心のほうにいくべきだ、ポスト資本主義を目指すべきだ、という考えも出てきている。
つまり、今はすごく幅広い考え方が出てきてる時代なんですね。最悪のほうにいくと、本当に第3次世界大戦とか、円の大暴落とか、大恐慌とか、本当に悲惨な苦しみを経て、「人類3.1」に移っていくかもしれません。
でも痛みを伴うのは嫌ですよね。そうじゃない、ソフトランディングシナリオも可能だと思います。こういう時代になるべきだと考える人が増えて、戦争はやめてみんなで協力して、環境問題、貧困問題を解決して、みんなのウェルビーイングを考えようよという時代になることを目指すこと。
今という時代は、実は歴史上の、農耕革命・産業革命に次ぐ過渡期です。ものすごい時代に我々生きています。ここでまさに「幸福経営学」が果たすべき役割についてお話ししました。ご清聴ありがとうございました。
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