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iU客員教員 人材研究所 曽和氏講演「今後、企業に必要な人材とは」(全3記事)

挫折経験を乗り越えた“優秀な人”が仕事で折れやすくなっているワケ 今の企業に求められるのは「1勝99敗」を楽しめる人

2020年4月に開学し、2024年3月に第一期生が卒業を迎える学校法人電子学園 iU 情報経営イノベーション専門職大学は、変化を楽しみ、世の中にイノベーションを起こす人材を育成する大学です。本記事では、iU主催で行われたキャリアイベント「iU careerpunks 2022」より、客員教授で株式会社人材研究所代表の曽和利光氏による講演の模様をお届けします。人事のスペシャリストの視点から、「優秀な人」の評価が変わってきた例について解説しました。

高度成長期までは「現実型」の人が世の中のリーダーだった

曽和利光氏(以下、曽和):実際、人には特徴しかない。強み・弱みは、何をするかによって変わります。

これは人事の世界で一番有名な、「RIASEC(リアセック)」という古典的な職務特性理論です。ホランドという方が仕事を6つに分けて、「こういう仕事だったらこういう特性の人が向いてるんじゃないか」という理論を作った、フレームワークなわけなんですけども。

これじゃなくても、職務特性理論はいっぱいあります。こういうものを見ていくと、それぞれやる仕事によって求められる特性は違うんだと、改めて言うまでもなくおわかりだと思います。

つい「自社の求める人」となると、通り一遍になってきてしまうことがあります。なのでこういう職務特性理論からも「実は優秀さっていろいろあるんだ」と思っていただければと思います。

あと時代背景も優秀さに関わってきます。ものすごくざっくり捉えてますので、みなさんの業界であったり、会社のステージが違うんだっていう場合もあるかと思うんですけども。

例えば高度成長期まではある程度ゴールが定まっていて、「欧米を追いかけろ」と。戦後の焼け野原から、目標がもうすでにあって、それに追いつけ追い越せでやっていこうとしてた時期です。これはもう方向性が決まってるわけなので、あとはどれぐらいきちんとやるか、速くやるか、丁寧にやるか。そういう「生み出す活動」が重要な時代でした。

これはリアセックで言うと、あとで細かく見ていただければと思うんですけど「現実型」のところです。ちょっとだけ読ませていただくと、「現実的で粘り強く、控えめで落ち着いている人が向いていることが多い」。メーカーっぽい感じかもしれませんけれども、生産の時代ではそういう人たちが世の中のリーダーをやっていたことが多かったわけですね。

日本が豊かなバブル期は「芸術型」のスターが出てきた

ところが戦略コンサルティングとか、いろんなものが勃興してきた時期にちょうど符合すると思うんですけれども……日本が「ジャパン・アズ・ナンバーワン」と言われて、世界の時価総額10位以内に日本の企業がいっぱい入ってるみたいな時代がありましたよね。今はトヨタさんとかでも何十位になっちゃいましたけれども、その頃は日本は豊かで、バブルを謳歌していました。

この時期は先頭を走っていたわけですから、追いつけ追い越せとか、方向性が決まってるんじゃなくて、どんな方向性にするのかという「戦略を立てること」が勝ち負けを決めるような時代でした。ここは「芸術型」と書いたんですけど、ちょうど時代のスターは糸井重里さんとか。ああいうコピーライターやクリエイターの方々がガンガン出てきてたと思うんです。

リアセックで言うと芸術型。例えば「繊細で感受性が強く、内向的で衝動的な傾向があり、規則や集団を重視しない人が向いていることが多い」。こんな人たちが時代のリーダーだという時期もあったわけですね。もちろんこれは先ほどから言ってますように最大公約数なので、「今もこっちだ」という方もいらっしゃると思います。

今の時代のリーダーは、組織力のある「企業型」の人材

ところが最近ではどんどん環境の変化が激しくなって、良い戦略を立てれば勝ち負けが決まるような状況ではない。むしろ1年かけて戦略をじっくり立ててやってるうちに、もう世の中が変わって陳腐化している。そんなゆっくりやってる暇なんてない。もうとりあえずやってみて、「ダメだったら次、はいダメだったら次」みたいに、組織変革・柔軟性の高さみたいなものが企業の勝ち負けを決める時代です。

よく「組織の時代」と言われたりとかしますけれども、「組織力」。さっきの組織を変えていく力が大事になってくると、すごいリーダーシップが必要になったりします。さっきのリアセックで言うと「企業型」です。「積極的で社交的に富み、野心的で支配欲求の強い」……支配欲求ってすごいなと思うんですけど(笑)、これは直訳しただけなので。

このへんはもしかしたらiUの教育方針にも近いところなのかもしれません。「指導力・説得力・表現力、積極的で社交性に富み、野心的で支配欲求の強い人」。支配欲求っていうのは、自分がコントロールしたいってことですよね。それは起業にもつながると思うんですけど、そういう起業家や管理職、営業マンのように、企画や組織運営、経営などができるような人たちが、実は今の時代のリーダーなんじゃないかとも言えると思います。

今までトップに多かったのは「挫折経験を乗り越えてきた人」

ほかにも評価が変わってきた例がいろいろあるなと思っています。私は経営者とか人事担当者の方々向けの話をさせていただくことが9割ぐらいなんですけども、1割ぐらいはマイナビさんのテレビに出たり、もちろんこの大学の学生とのコミュニケーションなどです。

その時に学生さんに言われるのが、「面接で『あなたは挫折経験があるか』とすごく聞かれる」と。「なんで挫折経験があるかって聞くんですか? 僕、ないんですけど」みたいな話です。みなさんどうでしょう。挫折経験があるかどうかって、面接で聞いたりしますでしょうか。

挫折経験があるかどうか、聞くことにはもちろん意味があったと思うんですね。というのは、昔は先ほど言ったようにある程度方向性が決まってて、その中でどれだけがんばるかっていう、根性勝負、がんばる勝負のような時代があったわけです。

その時は挫折経験から生じた承認欲求、「なにくそ」という反骨精神だったり、「負けたくない」「見返してやる」「競争に勝ちたい」というのをモチベーションにしてる人が、ルールが明確な競争には強いんです。スポーツもそうかもしれませんし、ビジネスでもスポーツっぽいビジネスがありますよね。僕がいたライフネットのような金融や、あと不動産の営業とかもそうです。

ある程度(市場が)成熟して、勝ち負けを決めるポイントが決まっている。そうしたらあとはそれをどれだけきっちり、徹底的にがんばってやるかというのが勝負。こういう仕事が多かった時代は、やっぱり挫折経験を乗り越えてきた人が実際にトップになっていくことが多かったんです。

今の時代は「負け慣れていない」と、心が折れて潰れてしまう

ところが、私が実際に採用していた経験からも思うんですけれども……例えばスポーツとかでがんばっていた、成果を残していた。過去にいろんな挫折経験があって、反骨精神や「勝ちたい」という気持ちで勝ってきて、根性あるだろうな、ストレス耐性もあるだろうなって思う人が、いざ仕事を始めてみるとけっこうポキっと折れてしまって潰れてしまう。

あるいは早期退職になったり、メンタルヘルスの問題を起こしてしまう人が出てくるケースをけっこう経験しました。これは残念ながらというか、私の不徳の致すところでもあるんですけれども。

なんでだろうなと考えた時に、この(スライドの)真ん中のところですね。昔はルールが明確な競争だったのが、今は例えば新規事業であったり、新しい商品を出したり、ゴールの見えない試行錯誤をいっぱいやるような仕事をする場合に「負け慣れてない」と言いますか。

ファーストリテイリングの柳井正さんの本でも『一勝九敗』ってありましたし、例えばIT業界のみなさんでしたらよく「1勝99敗」のような、100回やって1個当たればいい、99回は失敗するんだ、ということを言ってると思うんですけど。

その99回の失敗をしているうちに、挫折経験から生じた承認欲求タイプは、誰からも認められずに潰れちゃうことがあったわけです。

例えばリクルートでもそうですが、新規事業をやる人たちはやっぱりつらいんです。既存事業でガンガン儲けてる人から見ると、「あいつら何やってんだ、金食い虫」みたいに(笑)、いろいろ批判されながらがんばっていかなきゃいけない。そういうところも気にしている人は、失敗し続けることに耐えられなくて、意外と弱かったりする。

実は挫折経験のある人に起こりがちな問題点

一方で、こういう優秀な人が折れるとどんなことがあるか。みなさんの会社でもたまにあるんじゃないかと思うんですけど、例えば「帰郷」とか「セルフハンディキャップ」ですね。これはもちろん例え話なんですけど、帰郷っていうのは「自分が輝いていた過去の『場』に舞い戻ってしまう」ということです。

例えば「部活のキャプテンで全国大会に出ていました」みたいな人が折れちゃうと、土日にスポーツのコーチとかをやり始めるんですよね。もちろんスポーツはすごく大事で、ずっとやってる人とかもいるので、そればっかりじゃないんですけども。

要は企業の場で輝けないので、自分が輝いてたところに戻っちゃう。故郷に戻っちゃうということが起こるんです。

あと「セルフハンディキャップ」というのは、僕は大阪の河内っていう、昔の方だったらわかるかもしれませんけど『ビー・バップ・ハイスクール』のようなヤンキーの人たちがいっぱいいた所で育ったんですけども(笑)。そういう人は、例えば持久走とかであまり一生懸命走らなかったりするわけですね。

なんでかというと、一生懸命走って負けたら“顔が潰れる”んです。いつもいじめてるあいつに負けたりすると、次からは偉そうな顔ができない。なので「こんなかったるいことやってられないよ」と。本気を出せば俺はすごいんだけれども、こんなのやれないよってことで、セルフハンディキャップ、つまりわざと力を抜くんです。「この仕事には意義が見出せない」みたいなことを言って、力を抜いちゃう。

このような、実は挫折経験のある人に起こりがちな問題点が、最近だと見えてきているわけですね。

すくすく育ってきた人の方が強い世の中になっている?

そして、逆にこれを否定される人も多いわけなんです。「あいつはすくすく育ってきたから、たぶん根性が足りん。つらいことがあったらダメだろう」みたいに思われるんですが、そういうスッと素朴に考えてしまう人のほうが意外に強い世の中になってるんじゃないかな、とも思うわけですね。

彼らは別に「勝ってやろう」とか「誰かに負けたくない」とか「評価されたい」っていうのがモチベーションではありません。何かというと「おもしろいからやる」とか「知的好奇心」とか、あるいは社会的意義、「役に立つ」。「これは社会にとって良い意義じゃないか」ということだからやるという方が多いわけです。

誰にどう思われるかは二の次でやっている人も多い。そうすると先ほどの、挫折経験のある人が耐えられなかった「ゴールの見えない試行錯誤」は、実はこういう人たちのほうが楽しめたりするわけですね。1勝99敗の99敗を、潰れないままいくことができるんじゃないかと思ったりするわけです。

これは極めて一般的な話なので、みなさんの会社で通用するかはわかりません。でも今の時代は、今まで優秀だと言われてきた人たちを「本当にそうなのか」と一旦疑ってかかって、今みなさんが置かれている環境において「本当はどんな人が重要なのか」を改めて考えていかなきゃいけない時代なのではないか。ということで、こんな例を挙げさせていただきました。

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