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イノベーションの行動科学:新しい”何か”を生み出す人材の活かし方(全3記事)

中途半端な心理的安全性は「創造性が高い人」を黙らせる イノベーションを起こす職場の、良い意味で「無視できる」関係性

多くの企業が「イノベーション」に対して難しさを感じています。新しい“何か”を生み出すのは、どのような人材か。そうした人材を見つけ、育むには、どうすれば良いか。イノベーションを起こすために、人事に何ができるか。そこで今回は株式会社ビジネスリサーチラボ主催で行われた『人と組織の行動科学』出版記念セミナーの模様をお届けします。最終回の本記事では、イノベーションを起こす職場環境について語られました。

イノベーションを起こすには「人」と「舞台」が必要

伊達:ここで質問を一つ取り上げたいと思います。「創造性の高い人材が組織内で一発屋で終わり、早期離職しないための留意点はありますか」という質問です。

永島:一番に考えてあげなきゃいけないのは「連続性」なんですよね。その方がどんな方向に進みたいのかをしっかりと理解をした上で。そこまで組織側が労力を割いてその「連続性」を確保するのかというのも、個別で判断が必要だとは思います。

イノベーションって起こすのは人なんですけど、その人がどんな方向で何をやりたいのかという「舞台」が作れないと、そういう人が出てきても、別の環境に行ってしまうのは仕方ないかなと思います。

伊達:創造性の高い人が実力を発揮できる場を連続的に作っていけないと、そういう人は自ずと去っていってしまう。これが大原則ですね。

そういう場を作っていく役割は、どういう人が担っていくといいんですか。

永島:ハブになるのはHRかなと思っています。でも、そういう場を提案してくれたり、ふだんの仕事から切り出してくれるのは、やっぱり各本部の本部長だったり、あるいはそこの責任者の方なんですよね。

部署長は、今いるメンバーはとてもじゃないけどアサインできないような非連続でチャレンジングな課題をけっこう抱えてるんですね。「やれればやりたい」こと。そこをHRや人事なり経営が、どこまで見つけて切り出していけるかがポイントです。

今のメンバーではやれないからと、切り出したところにイノベーティブな環境は生まれてくるかなと思います。

「イノベーティブな職場環境」がないだけ

伊達:例えば人事なり経営なりがうまく正当化できるといいですよね。「いや、これは仕事なんですよ」とうまく説明ができると、社内でも示しがつきます。

永島:よく発表会をやっていましたよね。タスクフォースは、必ずその部長層が集まる会で発表してもらって、担当者の承認欲求を満たすようにしていました。

(伊達さんの)説明の中ではありましたけど、自己効力感が強くて自信がある人たちなので、ふだん承認されてない可能性が高い。こういう方たちが承認される場面を作っていくと、本人にもいいし、周りからも「ああ、うちにもそういう社員いたんだ」って認識されます。

なんかよく「うちにはイノベーティブ社員がいないだよなー」って経営者が言うじゃないですか。でも本当はいると思います。絶対。「イノベーティブな職場環境」がないだけだと思います。

伊達:経営者が発表会に時間を割いていること自体が、「この場を大事にしている」というメッセージとかにもなるでしょうね。

永島:そうですね。そこらへんまで巻き込むほど力むんじゃなくて、巻き込まれていく環境が......難しいですかね。

伊達:楽しめるといいんですよね、きっと。「巻き込む」となると大変なイメージがしてしまいますが、実はそういう場って本来楽しいものですよね。

永島:そうだと思います。

伊達:創造性を発揮できる場を持つ楽しさをうまく伝えていけると良いなと思います。

人を見つけるのに、「評価」は宝の山

永島:そうですね。「評価」って宝の山だと僕は思っていまして。今おっしゃったみたいに「人を見つけるため」に、評価にばらつきがある人を丸1日使って1回洗い出してみて、そのメンバーを集めて研修などやってみたりすると、ふだんと違う感じで色々な発想が出てくると思います。

伊達:評価がばらついている人を集めて、新しいことを考える時間を設け、その発表会をすると、本人にとっても周囲にとってもいい効果がありそうです。

永島:そうですね。そう思います。

伊達:創造性を発揮できる場を作ると、一定程度は辞めてしまう人も出てくるかもしれません。

永島:そうですね。

伊達:ただ、それはもうどうしようもないことかもしれません。「全員を辞めさせない」みたいなことが健全でもないですし。そういう可能性があったとしても、投資をし続けていると、そのうち何か大きなアイデアが出現する余地があります。

永島:おっしゃるとおりだと思います。クリエイティブな発言をできるような「心理的安全性」が大事だと言われていますが、本当にイノベーションを起こすようなクリエイティブって、ぶっ飛んでいますから、そんな簡単なことでもないかなと思います。

誰でもなんでも言い合えるフラットな関係性が理想だとも思いますが、日々業務の比率が高い組織ではなかなか難しいように思います。

創造性が高い人がいるチームは、良い意味で「無視できる」ことが大事

伊達:心理的安全性の研究で興味深いものがあります。アイデアを思いつく人が集まっているチームでは、心理的安全性が高いほうが問題解決に向かいにくいという研究です。

この理由は明確で、話が脱線するんですよ。

永島:楽しそうですけどもね。

伊達:楽しくて、いろんな話が出てきて、「で、何の話でしたっけ?」となり、問題解決に向かいにくいんですね。

心理的安全性を高めれば創造性が発揮できる一方で生産性を重視していると、話が脱線することがだめかのように感じられてしまう。

永島:ですね。中途半端な心理的安全性だと、逆にクリエイティビティの人は場の空気を読んで黙らきゃいけなくなって、合わせにいったりするんです。世の中で言われている「心理的安全性の空気」を読みにいく。だからもう本当の、なんでも言える家族みたいになれればいいのかなって思うことがあります。家族で息子がめちゃくちゃなことを言っても、怒ったりはしないじゃないですか。

伊達:それを聞いてふと思ったんですが、創造性が高い人がいるチームの中で大事なことは、良い意味で「無視できる」かなと。

いちいち「それって意味あるかな」「どうなんだろう」と受け止めていると、創造性が停滞してしまいかねません。

お互い聞いてるようで聞いていないときもある。そのぐらいの感じのほうが、創造性の高い人を活かせるのかもしれません(笑)。

永島:今の話を聞いていると、さっき「あいまい耐性」って話が出ましたよね。逆に上司にあいまい耐性があって、うまく「あ、今のはノイズだな」「お、今のはいいこと言ったな」って、イライラせずにいちいちやってあげられる人がいればいいですよね。

伊達:「おもしろいことを言ってるな」と、ある種半分ぐらいはスルーする。

永島:やっぱりクリエイティビティにはノイズが多いと思うんですよね。

「生産性」と「創造性」の両方を発揮できる人はいるのか?

永島:でも今日のミニ講義で、僕も自分のことが言われているみたいでドキッとしたんですけど、「こういう人いると大変じゃありません?」って問いがあったじゃないですか。

伊達:はい。

永島:度が過ぎちゃうと大変だと思いますが、それを押し込めると標準以下のパフォーマンスになってしまうと思います。

伊達:一番いい部分がなくなってしまいますからね。

永島:そうですね。1日10個作るジョブをやっていて、(いつもは)3〜5個しか作れなくて、いきなりある日100個作るような人たちですから(笑)。

今日、僕の話からは「優秀でエグゼキューションもできて、クリエイティビティもある人」は省いています。なぜならそういう天が二物を与えた人はほっといても活躍するから。今日はその話には触れてないんですけど、たまにそういう人もいますよね。

伊達:「生産性」と「創造性」の両方について高いパフォーマンスを発揮できる人は、確かにいますね。

永島:そういう人を採用したいっていう話は、たぶん「イノベーション採用の方法とは」みたいなタイトルで話される内容なのかなと思うんですけど、まあ、それは宝くじの世界かなと思ってまして(笑)。

伊達:なかなかいませんね。そういう人と出会うだけでも大変です。さらに出会っても、自社に来てくれるとは限らない。

永島:はい、起業家になってたりします。エグゼキューションもできて、クリエイティビティもある人は、みなさん創業したりしてますよね。

伊達:自分でやっちゃうという。

永島:会社に入る必要がない(笑)。

伊達:そうなると、創造性がある人材を早期に見極めて、そういう人に場所を提供していくほうが現実的ですね。

永島:そうだと思います。クリエイティビティ度は、両方できる人とそんなに変わらないと思うんですよ。だから、いない人を求めるよりは、身近にいるクリエイティビティを探していくほうが現実的かなと思いますよね。

「生成する人」と「実行する人」は分ける

伊達:すみません、盛り上がっているのですが、3つめの論点を最後にお話ししましょうか。「アイデアの生成と実行」ですね。

これは一緒の人ができるのか、役割分担をどうするのか。そういう問題についていかがでしょうか。

永島:ミニアイデアなら、生成から実行まで(1人で)持っていっていいと思うんですよ。ただビッグプロジェクトになるなら、外して顧問みたいにしたほうがいい。連続的に次のアイデアを生成をしてもらったほうがいいと思います。

考えた人にそのままやってもらうとこけることが多いと感じています。、後で評価を崩しがちです。チームに入れると、自分のアイデアを主張して、チーミングができなかったりする。

エグゼキューションは、計画を立てて、進捗管理をちゃんとしなきゃいけないですよね。さっき言った生産性と創造性が両立できるレアな人だったらいいですけど、一般的には両立しないはずです。

伊達:フェーズやアイデアの種類によって、「生成する人」と「実行する人」を分けた上で、役割をうまく引き継ぐ必要があるわけですね。

ここで、ちょっと聞いてみたいなと思うのが、例えば大きな変革を伴うアイデアとして思いついた人がいたとします。それを実行できる人に引き継ぎましたと。しかし、大きなアイデアであればあるほど、長い年月がかかるので、粘り強くコミットしていくことが求められます。

アイデアの生成者ではないのに、新しいことに高くコミットすることはできるのでしょうか。反発されることもあるかもしれない。でも、自分が思いついたアイデアでもないという状況の中でうまくいくものだろうかと不安になりました。

永島:そうですね。でも、アイデアの生成者が長く入っていながら、実行で潰れるアイデアも多くあるのが実態だと思います。

伊達:さっきおっしゃった「顧問」も、いい立ち位置なのかもしれないですね。

永島:本当に創造的なアイデアだったら、そんな形でもいいかもしれません。

日本の会社には「創造性を潰す部分」がある

伊達:実はこうして話しているうちに時間が迫ってきていまして......永島さん、少し延長しても大丈夫ですか。

永島:私は大丈夫です。

伊達:ではいったん締めましょう。その後、10分ほど延長戦を行えればと思います。

永島さんから、今日のご感想を含めて一言だけいただけますか。

永島:ありがとうございます。僕もちょっと考えながら、いろんなことを思い出しながら話してたんですけど。一般論で言うと、日本の会社って創造性を潰す部分があるかなって、感じるところがあって。

ここをどう拾ってあげれるかっていうのは、これから場づくりに大きく生産性を高めていく意味では大事なポイントだなと思っています。タレントマネジメントが一方向じゃなくて、いろんな方向でやれるっていうのがキーになってくると思いました。ありがとうございます。

伊達:タレントマネジメントも、生産性を高める方向性だけ進めると、創造性が豊かな人が排除される仕組みになりますよね。いったんここで締めます。ありがとうございました。

永島:ありがとうございました。

アイデアは問題解決ではなく、問題発見

伊達:では、10分を上限に、もう少しだけ深めましょう。

簡単に振り返っておきましょう。アイデアを生み出した人とそれを具現化していく人は違っている可能性がある。両者の関係をうまくマネジメントしていくことを考える上で、アイデアの種類は一つの視点になるという話が出てきていたかと思います。

アイデアの「革新性の高さ」は、どのように把握できるのでしょうか。「逸脱」の程度なんですかね。

永島:どうなんですかね。単純にいろんなアイデアがある中から選ぶというよりは、ある一定の基準の中で判断するしかないかなと思うんですよね。

新しいアイデアって別に何か基準がないと、その「新しさ」はわかんないですから。進みたい方向とか、こういうのがあると世の中が変わるんじゃないかとか。むしろクリエイティブなアイデアは問題解決ではなくて、問題発見なのかなっていう感じもしまして。

何が課題としてあるのかとか、いろんな問題が目の前で起きてる中で、どこをやると非常にいい方向になるのか。もしかしたらアイデア生成者でもいいし、周りの人でもいいので、「これやると、がんっと上がるよね」っていうテーマは選定が必要かなと思いますよね。

伊達:逆に言うと、大まかな方向性が合っていれば、アイデアがそこまで革新的でなくていいわけですよね。あとで化ける可能性もありますし。

永島:革新性って結果論なんで。結果としてどの問題をセレクトしたかっていうのが、後々の打ち手とセットになって「革新性」になってくるじゃないですか。

例えば小売業だったら、お客さんがレジで困ってるとか、並んでるとか、自分が苦労したみたいな「ベース」があるんですよね。

なので、クリエイティブ人材は、エグゼキューションで苦労して評価が低いことが多いですが、逆にその経験が1つのアイデアのベースになるんじゃないかなと思いますけどね。

「イノベーション」は後から名付けられるもの

伊達:野球でたとえると、ホームランを狙わなければならないわけではないんですね。とりあえずバットの芯に当てればいいですよ、というぐらいにしておく。そうすると、結果的にたまにスタンドインするみたいな。

永島:そうですね。こつこつ満塁にしてガツンと打つみたいな話だと思うんですよね。ヒットを打ったり、セーフティバントをしたり、その中からホームラン級の革新的なアイデアが生まれてくると思うんです。

iPhoneの開発も、iPhoneを作りたくてiPhoneを作ったんじゃないと思うんです。色々な課題の解決がiPhoneと総称されているイメージです。。

伊達:最初から大振りしないことですね。

永島:「こんなものがあったら便利なんじゃないかな?」みたいなところから始まっているはずなので、それがやっぱりコンテストかなと思いますね。ふだんの課題を出し合って、選んで、それを半年かけてみんなで解決していく。そういうタスクフォースですかね。

伊達:一見小さな改善に見えるものも大事にしていく必要があるんですかね。

永島:そうですね。ほとんどすべては既存のものだと思うんですよね。宇宙人が来るわけじゃないので、既存のものから離れたものはやっぱりできないです。目の前にあることをちょっと変えたことが、2つか3つ重なってイノベーションになる。イノベーションって後から名付けられるんだと思います。

批判が続くと潰れてしまうリスク

伊達:リアルタイムではイノベーションってどんな感じに見えているのでしょうね。

永島:わかんないすけどね。でも、本当にソニーのプレステもそうでしょうし、iPhoneもでしょうし、チーム内で喧嘩したり経営陣から怒られたりぐっちゃぐちゃになったり、事業停止になりそうになったりっていう流れもあったと想像します。

まさにご説明いただいたような、クリエイティビティの方が起こす問題みたいなことがいっぱい起きてるんじゃないですか(笑)。

伊達:なるほど(笑)。周囲からは、「なんであんなことやってるんだろう」「あそこ、いつも炎上してるな」と見えるかもしれないですね。

永島:そうですね。だから自己効力感が高いという話があったので、あんまり批判が続くと潰れるはずなんですよ。たぶんうまくいった人たちって、批判もされながら、称賛する人が一定いたんじゃないかなっていう感じもするので。そこの設定ですよね。

全否定されるように批判されて、やり抜いて成功したって人はいないですよ。創業者はいると思うんですけど、自己責任ですから。組織の責任とか、予算を背負ってそれができるってのは、ちょっと現実的じゃないかなと思いますよね。

意思決定者の中に「おもしろがれる人」がいる重要性

伊達:イノベーション研究でも、イノベーションを実現できたケースを見ていくと、経営層の1人が支援してくれたり、味方になってくれていたりしているんですよね。「あの人だけはわかってくれてる」という。予算をとってきてくれたり、守ってくれたりしている。

新しいものに対しておもしろがれる人が意思決定者の中にいると、「抜け道」ができるわけです。「自分の決裁で通しとくから、密かに進めといて」と。会社の中でも、抜け道が大事なんでしょうね。

永島:そしてそういう方々からは、一定の称賛をいただいてる状態かなと思いますね。まあ、ちゃんとやってる人から嫉妬を受けて見られるんじゃないかっていうご指摘もあって、そのマイナスはあると思います。人事って、結局そっちに目を配らなきゃいけなくなるんですけど。ただ、突っ走れるかどうかは覚悟次第かなと思いますよね。

伊達:ということで、延長戦の10分もあっという間に経ちました。

今回はイノベーションというテーマでお話をしてきたんですが、難しいテーマでありながら、現実的なお話を永島さんからしていただけました。

永島:いえいえ。一般論を申し上げることもできたのかなと思いますけど、それだと盛り上がらなさそうだったので、考えながらお話をさせていただきました(笑)。

伊達:以上で、本日の対談イベントを終了します。参加してくださったみなさん、あらためましてありがとうございました。永島さんも最後までお付き合いいただき、ありがとうございました。

永島:ありがとうございました。楽しかったです。

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