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イノベーションの行動科学:新しい”何か”を生み出す人材の活かし方(全3記事)

未来の事業を作るのは、評価が「高い人」ではなく「ムラがある人」 創造性の高い人材を、組織の中から見つける方法

多くの企業が「イノベーション」に対して難しさを感じています。新しい“何か”を生み出すのは、どのような人材か。そうした人材を見つけ、育むには、どうすれば良いか。イノベーションを起こすために、人事に何ができるか。そこで今回は株式会社ビジネスリサーチラボ主催で行われた『人と組織の行動科学』出版記念セミナーの模様をお届けします。本記事では、ビジネスリサーチラボ伊達洋駆氏と、レノバCHR永島寛之氏の対談の模様を公開。クリエイティブ人材を採用・育成・評価するポイントが語られました。

「創造性の高い人材」を活かすには?

伊達洋駆氏(以下、伊達)では、対談の時間に入ります。永島さん、最初に自己紹介をお願いしてもよろしいですか。

永島寛之氏(以下、永島):レノバでCHRをやっております永島と言います。どうぞよろしくお願いします。

伊達:永島さん、よろしくお願いします。

永島:(伊達さんの講演を聞いて)私も創造性が高くて、世におもねらない人なのかと思って、ちょっと説教されていたような気がしました(笑)。

伊達:魅力的なんですけど、周りからすると危なっかしい側面もあるみたいな(笑)。

永島:危なかしい人事パーソンはダメですねー(笑)。よろしくお願いします。

伊達:対談のテーマを3つほど設定しているんですが、そのうちの2つを挙げてしまいます。1つめは「企業の中で創造性の高い人材の持つ可能性をどのように活かしていけばいいのか」というものです。2つ目は、「創造性の高い人材について、採用や育成や評価をどうしていけばいいのか」というものですね。

難しい問いではあるんですが、さっそくこの2つの問いに対して、まず永島さんの考えていることをお話しいただければと思います。

「創造性」は生産性を上げる可能性も、下げる可能性もある

永島:そうですね。まず前提のお話として、僕は前職のニトリ在籍時から今日に至るまで10年に渡って組織開発を担当していますが、組織開発のゴールは、一言で言うと組織の生産性、つまりプロダクティビティを上げていくということなんですよね。

今日、先生のお話を聞いていて、イノベーションで必要になる創造性、クリエイティビティというのは、この組織開発で必要な生産性を上げていくことは逆に作用することもあるのかなと思いました。クリエイティビティはイノベーションにつながって、生産性の角度をぐっと上げてくれる可能性もあれば、逆に作用すると生産性を下げるなというのを、あらためて感じました。

創造性と生産性という要素を両立させなければいけないのに、創造性がある人を排除するための人事制度を作ってきたのが世の中の組織開発だったりします。それだと組織の非連続な成長はできないよという、そういうお題なのかなと思い、今日はお話をさせていただこうと思っています。

伊達:さっそくおもしろい論点が出てきましたね。確かに生産性と創造性は、必ずしも相性がいいものではありません。

「今の事業を支える人」と「未来の事業を作る人」は分ける

伊達:ふだんは生産性を高めることを組織としては行っているかと思うんですね。そういう規範の中で、創造性の高い人材を採用したり育成したり評価したりしていくのは大変です。どんな工夫を凝らしていけばいいのでしょうか。

永島:そうですね。まず前提として、今の事業を支える、要はエグゼキューションをしていく人材というのと、未来の事業を作っていく人材というのを、明確に分けて考えないといけないなと思いますね。

創造性の高い人材をその他の人材と混ぜてしまうと、組織の生産性が下がっていくことになるのかなとは考えています。

どうやれば創造性の高い人材を採用できるかという本日の論点を僕も考えたことありますし、たぶんみなさんも、いろんな仮説を持ちながらそういう採用にチャレンジしていると思うんですよね。

そこに1つ私の仮説を言うと、クリエイティビティ、創造性のある方を最初から狙って採用するのって、魅力がある採用広報はできますが、実際にはなかなか難しいんじゃないかなと思っています。

採用プロセスで、確認していく内容をクリエイティブ人材側とそれ以外の人で分けるのはなかなか難しいです。

じゃあ、クリエイティブ人材をどうやって採用するかというと、僕の仮説では、特に意識しなくても、一定割合でクリエイティブ人材は自然と採用者の中に混ざってくると思っています。

1割なのか2割なのか3割なのか、比率は採用広報などの方法によって異なってくると思うんですけれども。ただ必ず入ってくるので、その方々をちゃんと見つけて、活躍できるような環境に置けるかという視点が、組織、人事、経営側に取っては大事だと思っています。

クリエイティブ人材の採用では、面接フローに「抜け道」を作る

伊達:狙って採りにいかなくても、一定程度は入ってくる。一方で、排除するような採用になっていないかは確認してもいいかもしれません。

創造性の高い人が入り込む可能性を極端に小さくするようなことを避ける。「ドアのノックする回数が何回だったから、この人はマナーをわかっていないので落とします」など、謎の厳しさがあると創造性が高い人が入る余地が減っちゃいます。

永島:そうですね。私は前職では最終面接官を担当していて、年間1,000人ぐらいの新卒の学生さんの面接をやっていました。

態度が悪いとか遅刻をする学生さんもいます。本当はだめなんですけど、そういう方にも「問い」はしっかり投げかけていて、遅刻の理由をおもしろおかしく話せるかどうかとか違った視点で見ていました。

そうはいっても遅刻してくる方はほとんど落選する中、キラリと光る方もいます。リクルーターは「ルールを守れない人は入れたくないです」と言いますが、「もしかしておもしろいんじゃないか」と思える時は思い切って合格にする場合もありました。

たぶん僕クリエイティビティ側の人だと思うので、そういう判断をしていたんだと思います。面接官の多様性も大事だと思います。

伊達:そういう人をおもしろがれる人が面接官の中にいれば、面接を通過できますね。

永島:そうですね。「君、おもしろいね」となるかならないかだと思っていまして。最近は構造化面接でフローをがっちり固める傾向がありますが、そこに抜け道というか揺らぎというか遊びを入れられるかで、さっき言ったようなクリエイティビティ人材の含有率が変わってくるかなと思います。

伊達:抜け道って興味深い表現ですね。ガチガチに作ってしまうと、創造性がある人の入り口がなくなってしまいます。

組織の中にいる創造性豊かな人材は、「評価のムラ」で見抜く

伊達:永島さんのお話からすると、採用で期待するよりも、入った後に組織として、いかにうまく創造性豊かな人材を見つけていくのかが重要かなと思いました。入社後の話についてもおうかがいできればと思います。

永島:やっぱりいかに見つけていくというのが大事になると思います。例えばリクルートさんのような会社だったら、創造性の豊かな人材がいきなり創造性をバンバン発揮できる環境があると思うんですけど、世の中はそういう会社ばかりじゃないと思うんですよね。

基本的には僕の前職の小売業では、特に若手はエグゼキューションをうまくできるかが評価対象になってたりするわけなんですよ。1日1日、しっかりと業務ができたかと。

なので、創造性豊かな人がの評価はムラがあることが多い印象でした。さっきお話しいただいたとおり、自己中心で興味の対象が広いという創造性が豊かな方は、職場では軽い問題児として見られてしまうケースも多いと思います。

人材を抜擢する時は、評価を高い順に上から見てしまうことが多いのですが、前職では業務以外の課外活動の評価も見るようにしていて、評価だけではなく、社内とコンテストでの活躍ぶりとか研修での学習姿勢などを参考にすることが多かったですね。

業務外の活動と評価を付き合わせると、異様に業務外の活動はできて、さまざまな提案をしてるんだけど、評価にムラがある人が出てきます。高い評価と低い評価を行ったり来たりする人には、クリエイティビティな可能性が非常に高いという肌感覚を僕は持っています。そういう方を抜擢することが多かったです。

伊達:今いいヒントをいただけました。いかに創造性が高い人材を早めに見抜けるのかが大事ですね。

クリエイティビティの高い人は、ワンチャンスに強い

伊達:今を支える人材と未来を切り開く創造性豊かな人材は、「混ぜるな危険」ほどではないかもしれませんが、ハレーションが起こったり、場合によっては生産性が下がったりする可能性さえあります。

創造性の高い人材を見つけていくためのヒントの1つとして、評価に注目すると良さそうだと。評価が平均的に高い人ではなく、評価のばらつきに注目していくとよさそうだと。

もう1つが、コンテストを初めとした課外活動、すなわち、与えられた役割ではなく、役割外のところで能力を発揮してくる人は注目に値するということですね。

永島:そうですね。私の仮説では、クリエイティビティの高い方はワンチャンスに強い。でも同じ成果を明日も明後日も継続的に出せっていうと、やっぱり難しいんですよね。だから、そのワンチャンを発揮する環境を作り続けるのが大切なんです。

社内でコンテストなどをやる時に、評価のいい人だけを集めがちですが、それは間違っていて。ちゃんと周囲にヒアリングをして、どういう人に参加してもらうかという視点で考えることが大事なんです。私は「熱い気持ちでワンチャンにかけてくる人」に注目してました。

伊達:先ほど、学習目標志向性が高い人は創造性が高いと言いました。学習目標志向性が高い人は、いろんなことに対して関心があり、これもやってみたい、あれもやってみたいって思いやすいんですよね。

そういう人に様々な機会を提供すると、そこに飛び込んできて、能力を発揮する可能性がありますよね。

評価がしっかりしている企業ほど、実は創造性が高い人を見つけやすい

永島:それから、評価制度がしっかりと運用されている会社の方で、定常業務の比率がいって以上ある企業ほど、実はクリエイティブな人材を見つけやすいというのも感じていました。

上司がきちんとしていればしているほど、継続的な成果が出ない方に対しては、正確に評価をしますので、しっかりと評価にムラが見える。結果として、クリエイティブ人材は昇格が遅れ、真ん中の評価を取り続ける人のほうが先に昇格するという状況になります。

伊達:評価がしっかりしている企業ほど創造性が高い人が浮き上がってくるというのは、考えさせられます。

永島:逆説的に言うとそうだと思います。だからイノベーションが起きない会社、起きてないという課題があるほうが、そういう人材を見つけにいきやすい可能性が非常に高いかなと思っています。

「創造性が高い人」を発見した後にすべきこと

伊達:創造性が高い人を発見できたとします。その後、どうしていくとよさそうでしょうか。

永島:答えは1つですね。早急な配置変更です。「あいまい耐性」ってあるじゃないですか。あいまいな状況とか、自分がちゃんと評価されないあいまいな状態も、「まあいっか」と思える人であれば一定期間は残ってくれるんです。

でもあいまい耐性の残存期間が切れると、合わないって辞めてしまうんですよね。会社側も評価が低い人の退職なので、「まぁしょうがない」ってなるんですけど、実は大きな宝を失ってる可能性がそこにはあります。

ここの判断が人事の腕の見せ所です。

伊達:「曖昧性」はいろんな解釈がある状況を指すんですね。もう1つ似たものに「不確実性」というのがあります。こちらは情報が足りない状況を指すんですね。いろんな解釈がある状況も、情報が足りない状況もストレスフルで、なかなか大変です。

ただ、それが平気な人がいるんですね。「自分はむしろ楽しんでいられる」とか「ぜんぜん平気です」という人がいる。特にそういう人を優先的に配置転換していくと良さそうですか。

永島:そうですね。配置先としてはそういう方々が活躍できるポジションだったり、あとタスクフォースとかいいですよね。ある特定の課題を短期間でやり抜くのに、そういう人間を集めたりとか。

そこで一旗上げると、その後はちゃんと評価をされるようになりますから。一旗あげる前がやっぱり苦しいわけです。「あいつ、違う意味ですごいね」みたいな感じにしてあげることですかね。人事をやっていて、一番興奮する場面ですね(笑)

伊達:一旗上げて一目置かれるようになると、今までネガティブに見られがちだった特徴も、「それもその人の特徴だから」と長所として認められるようになるかもしれません一旗上げるところまでできるだけ早くたどり着けるように支援していけるといいですね。

永島:そうですね。

人材の問題よりも、組織側の“入れ物”の問題の方が大きい

伊達:タスクフォースの話は具体的だなと思いました。期待してる人材を難易度の高いタスクフォースに呼んできて、「一度やってみてほしい」と頼むイメージですか。

永島:よくやってました。「今まで外注していたいた教育用の動画を内製するから、1ヶ月かけてこのレベルのものを作ろう」って集めたりとかするんですけれども、一つのタスクフォース終了後も連続的に同じような場を用意してあげないと、普段の仕事よりタスクフォースでやったことのほうがおもしろくなって、転職してしまうこともあったんで。

だから人材の問題よりも、組織側の入れ物の問題が大きいのかなって思います。

伊達:創造性の高い人が楽しんで働けるような仕事、ポジション、タスクフォースを企業が継続的に提供できないと、一度楽しみを味わってしまったからこそ、日常に戻って一層「あれ?」となってしまう可能性がありますもんね。

永島:そうですね。僕が昔メーカーに勤めてた時に、技術者の方とお話しすると、やっぱり何かを実現した人ってアングラ研究をやっているんですよね。要は時間外に会社の設備を使って、別の研究項目とかやって、そっから何かを見つけたりとか。

本当は意図的にそういう場を作ってあげる必要がありますよね。Googleとか……。

伊達:20パーセントルール(「従業員は、勤務時間の20パーセントを自分自身のやりたいプロジェクトに費やさなければならない」というルール)でしょうか。

永島:あれは非常にわかりやすいです。普段のエグゼキューションはちゃんとやってもらわないと、それはそれで仕事だったりするので。

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