2024.10.01
自社の社内情報を未来の“ゴミ”にしないための備え 「情報量が多すぎる」時代がもたらす課題とは?
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伊達洋駆氏:みなさん、こんにちは。定刻になりましたので、本日のセミナーを始めます。
本日は「イノベーションの行動科学:新しい“何か”を生み出す人材の活かし方」というテーマで、1時間にわたってセミナーを行います。
まず、最初に自己紹介をさせてください。株式会社ビジネスリサーチラボ代表取締役の伊達と申します。私はもともと神戸大学大学院経営学研究科で、研究者としてのキャリアを歩んでいたんですが、その途中でビジネスリサーチラボという会社を立ち上げて、現在に至っています。
ビジネスリサーチラボは、人事領域においてデータ分析を実施しています。例えば、組織サーベイであったり、社内に保管されている人事データを分析するといったサービスを提供しています。研究知見を活用している点と、それぞれの会社の事情に応じてオーダーメイド型でサービスを提供している点が特徴になっています。
私自身いろんなテーマで書籍を通じて情報発信を行っています。今年は『人と組織の行動科学』と『越境学習入門』という2冊を上梓しました。本日はその中でも特に、今年の2月にすばる舎から出した『人と組織の行動科学』という本の出版を記念した対談イベントです。
『現場でよくある課題への処方箋 人と組織の行動科学』(すばる舎)
「新しい”何か”を生み出すのは、どのような人材か」「そうした人材を見つけ、育むには、どうすれば良いか」「イノベーションを起こすために、人事に何ができるか」ということを本日お話しできればと思います。
本日は対談イベントですので、私1人がずっと話し続けるわけではなく、ゲストにレノバの永島さんをお招きしています。
対談の前に私のほうでミニ講演を行います。その上で、対談を実施するという流れで進めさせていただきます。
それでは「創造性研究から考えるアイデア生成」というテーマでミニ講演を行います。
イノベーションが今回のテーマになんですが、イノベーションというのは学術的には2つの要素に分けることができます。1つがアイデア生成。これはアイデアを生み出すことを指します。他方でアイデア実行という要素もあります。それはアイデアを具現化することですね。
アイデアを生み出すことと、それを形にしていくことは、どうやら違うらしいと分かっているんですね。
というのも、アイデア生成は、これはちょっと極端な話なんですが、個人でも「こういうことをやったらいいんじゃないのか」と思いつくことができますよね。
他方で、アイデア実行については、1人ではなかなか難しい。社内外のいろんな人の協力が求められるということです。そうした違いがあるんですね。
特に、今回のミニ講演の中では、アイデア生成に注目したいと思います。アイデア生成について掘り下げていくために、学術的な研究知見として、創造性研究を参照します。
まず創造性とは何だろうかということですね。日常的に創造性という言葉を使う人はなかなかいないかもしれません。創造性というのは学術的にはこのように定義されています。
「新しく有益で価値のあるものを生み出すこと」。これは特に経営学の中での定義になっています。
なんとなくはイメージできますよね。とはいえ、もう少し具体的に創造性をイメージしていきたいところです。例えば、こういう側面が創造性にはあります。
目標を達成するために新規で実用的なアイデアを出す。新しい技術、プロセス、製品のアイデアを探る。問題に対して新鮮なアプローチを提案する。こうしたことが創造性を発揮した行動です。
創造性を発揮しやすい人の特徴が明らかになっています。具体的には2つの特徴があることが、研究の世界では検証されています。
まず1つが、学習目標志向性が高い人。学習目標志向性というのは、自分の能力の向上を志向することを指します。要するに、成長志向ということですね。成長志向の人ほど創造性を発揮します。
2つ目は自己効力感が高い人。自己効力感というのは、自信のことを指すのですが、この場合の自信というのは、創造的に振る舞える自信です。自分は創造的に振る舞うことができると思っている人のほうが創造性が高い。なかなか興味深い結果ですよね。
つまり成長志向で創造に自信がある人が創造性が高い人なので、例えばそういう人を採用したり抜擢したりすることが重要になるかもしれません。
一方で、創造性が発揮しやすい環境というのもあるんですね。例えば会社から創造性が奨励されていること。上司からも奨励されていると創造性が発揮しやすい。職場からサポートも大事です。また、自由がないとだめですね。
他にも創造性が発揮しやすい環境はあります。十分な資源があること。挑戦的な仕事に取り組んでいることや、業務負荷の圧力が低いこと。それから会社からの障害が少ないことなども挙げられます。
きちんとリソースが割り当てられていて、ゆとりがある状況で、何かに挑戦していて、かつ会社から邪魔されない状況じゃないと、なかなか創造性は発揮できないんですね。
みなさんの会社は、今挙げた環境にどれくらい当てはまるでしょうか。自社のことを少し振り返ってみていただけるとありがたいです。
イノベーションの一要素であるアイデア生成を行っていく上で、創造性は非常に大事になっていくんですが、創造性というものは、他方で、一筋縄ではいかない難しさがあるんですね。
例えば、創造的な性格。例えばこんな性格が創造的だとして挙げられています。
有能な、確信している、自己中心的な、ユーモアのある、形式張らない、個人主義、洞察に満ちた、興味の対象が広い、創意に富む、しきたりにこだわらない。
みなさん、これらの性格の人をどう思いますか。一見、魅力的に思えるんですが、身近にいるとちょっと大変だと思いませんか。
形式張らなくてユーモアがあって楽しそうかなと思いきや、自己中心的でしきたりにこだわらないから、例えば会議とかで、今まで決めてきたことについて、「そもそもこれって意味があるんですかね?」とか、そういうことを言う可能性があります。
他にも創造性は、取り扱いがなかなか難しい側面があります。創造性っていろいろと紙一重な部分があるんですね。ある意味創造性にはリスキーな側面がありますよということが研究の中では指摘されています。
例えばネガティブ・クリエイティビティ。革新的ではあるんですけど、他の人に害がおよんだり、倫理的に問題があったりするようなアイデアを生み出すことです。
カンニングの画期的な方法を思いつくことが、ネガティブ・クリエイティビティの例です。確かに、新しい何かを生み出してはいるんですけど、ちょっと問題がありますよね。創造性は、こういう方向性にも発揮されます。
創造性って、既存のラインを越えてくるというところにすごみや良さがあるわけです。ところが、越えてはならない境界まで大きく超えてしまう可能性も含まれていると。そういうものとどう向き合っていくのかを考えていく必要がありそうです。
さらに創造性をどこに発揮していくのかという問題もあるんですね。生産的なことに創造性を使っているのであれば、組織としては問題ないかもしれないんですが、それ以外のことに創造性を使ってしまうこともあり得ます。
例えば、創造性が高い人ほど非倫理的な行動をとりやすいことを明らかにした研究があるんです。なかなか怖いですよね。
その理由の説明として言われているのが、創造的な人は言い訳がうまいので、非倫理的なことを行っても乗り切れてしまいます。
こうした思いもよらないところに創造性が使われることもあります。イノベーションのアイデア生成において創造性は大事な側面を担っている一方で、取り扱いが難しいものです。
では創造性とどのように付き合っていくことができるのでしょうか。そのことを、今日は対談の中で考えてみたいと思います。
本日のミニ講演のお話は『人と組織の行動科学』の中にも書かれていますので、そちらの本も手に取っていただけるとありがたいです。
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