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経営者力診断スペシャルトークライブ できるマネジャーは、「これ」しかやらない!(全7記事)

短期だけでなく、長期で結果を残す「強いチーム」を作るには? ドラッカーも指摘した「これからのリーダー」に求められる能力

経営者やリーダー向けに、「経営」「マネジメント」をテーマとした各種セミナーを開催する経営者JPのイベントに、16万部のベストセラー『できるリーダーは、「これ」しかやらない!』の著者で、株式会社らしさラボ代表の伊庭正康氏が登壇。経営者JPの代表・井上和幸氏と共に、星野リゾート・星野社長が使ったメンバーを主役にする言葉や、かたちだけの1on1の危険性などを語りました。

星野リゾート・星野社長の「仕事の流儀」

井上和幸氏(以下、井上):このコーナーの冒頭で「遠心力」という言葉をいただきましたが、手放していくことで任された側のメンバーはやりがいになって、責任感もたぶん増していくし、任せてくれるボスについての信頼感が高まるというところもありますよね。

伊庭正康氏(以下、伊庭):そうですね。

井上:セミナーだから、強いて言うなら、メンバーによって受け取れるもののサイズがあるのかもしれないから、重たすぎるものを渡すと、ちょっと「勘弁してよ」となってしまうかもしれないので……。

伊庭:人を選ばないといけないですね。ここでもしご参考になればという映像がありまして。NHKの『プロフェショナル 仕事の流儀』という番組がありますよね。第1回が若かりし時の、現場でバリバリやっている時の星野リゾートの星野社長なんです。これがまさに「方針はトップダウン、やり方はボトムアップ」で、機会の与え方がめちゃくちゃうまいんですよ。

井上:おおっ。

伊庭:買い取ったホテルを再建するビジネスモデルで、言ってみれば買い取られた側のベテラン社員さんがいらっしゃるんですね。本来であれば乗り込んで社員の総入れ替えをしてやればいいんですけれども、買い取った先は基本的にリストラしないんです。

映像は仕立てとしてこうなっています。言葉を選ばず言うと、若干腐ったベテラン社員たちがいる古めかしい旅館を買収しましたと。でも、星野さんは「この人たちに本気になってもらわないと、結果は変わらないですよね」ということで、方針はトップダウンですよ。

星野社長の言葉が荒々しくて覚えているんですけれども、今とぜんぜん違うところがありまして。ミーティングで「さあ、みなさん、私たちがこの客だけは絶対満足させてやるという客はどこにいますか?」言葉がめちゃくちゃ悪いですよね。

井上:(笑)。

伊庭:「この客だけは」と示されるんですね。「言われてみれば」とメンバーたちが言うんですね。「じゃあこの客たちを絶対に満足させる方法だけを、まず私たちは考えるべきです。それを、お任せしたいと思います」と言って。

井上:なるほど。

メンバーを主役にする言葉

伊庭:方法を考えさせて、見事に蘇っていくシーンがあって。そこで部下の方が映って、星野さんがおっしゃる台詞を言うんです。星野さんは、答えを100知っているんですよ。

井上:そうでしょうね。

伊庭:全部知っているんですよ。でも「で、どうしますか?」が星野社長の口癖ですね。「で、どうします? で、どうしましょう」。すると部下は「え?」となるんだけど答えるんですよね。そして、また突っ込まれるんですよ。

「でもこうしたいと思います」「あ、いいんじゃないですか。じゃあそれで行きますか? どうします?」「それで行きます」と言わされるシーンがあり、部下の方の台詞、今でも明確に覚えています。「社長は私たちを主役にしてくれるんです」。これです。

星野さんがなぜそういうマネジメントをするに至ったか。「方法はトップダウン、やり方もトップダウン」で、離職者を続出させてしまった、つらい経験があると言っていましたね。

井上:「で、どうしますか?」(笑)。

伊庭:「で、どうしますか?」(笑)。

井上:使えそうですね。

伊庭:口癖だそうです。機会を与え、自己決定感を担保させる。16年前の映像ですね。私はメモを取りまくって見ました。今でもDVDが売っていますので、3,500円くらいで買えると思います。

井上:伊庭さんの今のお話で、だいぶみなさんエッセンスをつかんでいただいたと思います。明日からやりましょう。「で、どうします?」。考えさせるということですね。

伊庭:そこは我慢していらっしゃるみたいですね。その時の映像を見ると、我慢してやっているという感じはありました。

ドラッカーも指摘したリーダーの仕事の変化

井上:では、次に行きます。「強いチーム、どう作るの?」という、少し営業に寄った話ですが、強いチームを作る時に実際にどんなことをやっていくといいのでしょうか?

伊庭:かしこまりました。ちょっと分けてお話したほうがいいかなと思っています。「短期業績を出すための強さ」だけではなくて、長期的に強い組織を作るための仕組みと考えた場合は、これだろうなと確信持っているのは、「部下の声を聞く仕組み」を持っていることだと思います。

今であれば、1on1面談や1on1ミーティングもその1つでしょうし、先ほどのチームでミーティングをしながら、提案の機会を持つのもその1つだと思います。

今でも言われている話ですけれども、ドラッカーさんの言葉でこういう言葉があるそうですね。「リーダーの仕事が変わってくる」という流れがあって、「今までのリーダーは指示をすることだった。これからのリーダーは聞くことが仕事になる」という言葉があったんですね。正確に言うとちょっと違うかもしれませんが、30年前くらいの文献にあるわけですよ。

井上:なるほど。

伊庭:確かに「聞く場」というと、今はそんな研修ばかりやっているなと思うんですよ。1on1ミーティング研修たけなわでございます。

井上:(笑)。

伊庭:なぜ私は、最近こんなに1on1ミーティングの研修をやりまくっているのかな、「聞く」研修をやりまくっているのかな、と調べてみました。わかったことが、1on1面談が急激に増えているという背景がありました。

調べたところ、データの出どころは違ったんですけれども、2020年のデータで会社として公式に「1on1面談をしていますか?」という調査では、4割の企業が「している」という結果だったんですね。2020年、コロナになったばかりの時です。出どころは人事白書というもの。

今度は別の出どころになるんですけれども、リクルートマネジメントソリューションズさんの2022年1月の調査で、公式にやっているところが4割ではなくて7割だったんですよ。その実感、感覚値がすごくありまして。

じゃあなんで部下の話を、わざわざ時間を作って聞いてやらねばならないのかと言うと、部下の感じていることをとらえないと判断を誤るからです。良かれと思ってやったとしても、部下が「そんなことじゃないですよ」と言った時点で回らなくなるので。

部下の意見を聞きながら、総合的に判断したらドンとやらないといけないので、やっぱり聞く仕組みはかなり重要になるなと思います。

1on1以前の日本企業の「面談」

井上:逆に言うと、今までは聞いていなかったということですかね。

伊庭:聞いていないですね。私は各企業で研修をやっているんですけれども、1on1面談が入る以前は、1対1の面談も考課面談ぐらいしかない企業さまが多いです。

井上:そうでしょうね。

伊庭:しかも目標設定と考課しかやっていない。

井上:統計データでは正直わからないんですけど、よく聞くのは考課面談でもないですよね。

伊庭:通達です。

井上:給与フィードバック(笑)?

伊庭:「あなたの評価これです。給料これになります」という通達ですね。

井上:何か聞かれるわけじゃない会社さんはすごく多い。

伊庭:本当に多いですね。

井上:1on1をやっているという会社はだいぶ増えてきたと実感はしているんですけど。でもちゃんと目標設定が先にあって1on1をやっているという会社は日本全体の中でいうと、まだまだ少ないんだろうなという感じがあって。

伊庭:成長にも必要ですし、仕事へのコミットメントを高めるためにも必要なことですけれども、何でそこを言わずに「1on1」と言ったかと言いますと、すぐに着手できるからです。

井上:そうですよね。時間取って、ちゃんと会社の仕組みとしてやるわけですからね。

伊庭:そうですね。

かたちだけの1on1の危険性

井上:1つ象徴的な話がありまして。まさしく1on1を始めたある中堅企業のマネジャーの方から転職の相談をいただいたんですよ。

その会社は、マネジャーの方はメンバーの方と、マネジャーの方は部長の方と1on1をやっていて、そのマネジャーの方もそれまであまり聞けていなかったいろんな要望とか、メンバーの思いとかを、1on1で受け止めるようになったんですね。

それを今度はその方が部長の方との1on1で、「現場のメンバーたちはこんなふうに思っています」と伝え、部長の方も上の役員とかに「そうだな。話しとくよ」みたいになったんですけど。

結論、その会社さんはそういう1on1を、定例で隔週だったかでやるようになって、現場からどんどん話が上がってくるじゃないですか。そのマネジャーの方は、少なくとも状況をちゃんと可視化していこうという思いがあって、せっかくこういう機会ができたんだから良くしようと上の方に伝えたんですが。

少なくともその方から見えている限り、そこ止まりで、経営陣とか上位マネジメント陣のところでディスカッションされるとか、咀嚼されてそれについてのフィードバックがあるとかが、1年近く経ってもなかったと。

すると今度は、現場のメンバーたちが「言うのはいいんですけど、これ意味あるんですか?」という話になって。逆に、なんだ、言っても上は聞かないし、変わらないじゃんということで、それで離職者がすごく出始めた。

そしてその方が、トップの方の同行か何かの時にチラッと「この話、伝わってますよね」みたいに話をしたら、「そうなの? 聞いてないよ」と返された。ポジショントークで「聞いてない」と言ったのか、本当に伝わっていないのかはわからなかったようですが、いずれにしても彼はそれで折れてしまって、「ダメだ。うちの会社」と思ってらっしゃったんですよね。

伊庭:確かに。

1on1に必要な上司の「聞く力」

井上:伊庭さんはたぶん、そういうことが起きないことが必要だから、1on1研修をやっていらっしゃるんだと思うんですよね。ただかたちだけで1on1を入れるとそういうことが起こることもありますよね。

伊庭:あります。むしろ1on1面談をやらなかったほうがいい会社もあるんですよ。

井上:下手するとね。

伊庭:はい。これもリクルートさんの調査で、確か約3割の会社は「やらなかったほうがいい」という調査もあるんですよ。かたちだけでやっても、上司にスキルがないので何をやっていいのかわからない。1on1は部下の話を聞く場ですけれども、聞く力がない。聞くことができずに、我慢できずによかれと思ってアドバイスをしてしまう。

井上:ありがちですよね。

伊庭:「これをこうしてみたら?」と親心で言ったことが、部下にしてみれば指示に近くなるので、1on1面談をするたびに仕事が増える地獄の時間になるという。

井上:(笑)。

伊庭:やっぱり「聞く」力がないと、1on1面談をしてもあまり効果が出ないのが実情ですね。だから1on1は聞く力とセットかなとは、あらためて感じています。

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