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勝ち続ける組織が持つ「チームファースト精神」(全3記事)

「自己犠牲の精神」は、時としてメンバーの個性を奪う 元プロサッカー選手・中村憲剛氏が語る、成長するチームの特徴

昨今、働き方改革の浸透によって、残業時間削減や働く場所の自由化など、労働環境の整備が強く求められています。働きやすさに加え、仕事への誇りや充実感といった「働きがい」も重要課題の一つとなっています。Unipos 働きがいサミットでは、チームワークの土台となる「心理的安全性」と、やる気の源泉となる「エンパワーメント」の2つの視点から、一人ひとりが働きがいを感じる組織づくりの方法を学びます。本セッションでは、元プロサッカー選手の中村憲剛氏と、楽天大学学長の仲山進也氏によるトークセッションの模様をお届けします。

勝ち続ける組織が持つ「チームファースト精神」

司会者:それでは、さっそく基調講演を始めてまいりましょう。まず初めに講演のご登壇者の方をご紹介いたします。お一人目は中村憲剛さんです。どうぞよろしくお願いいたします。

中村憲剛氏(以下、中村):中村です。よろしくお願いします。

司会者:よろしくお願いいたします。自己紹介など、何か一言いただければと思います。

中村:みなさん、こんにちは。中村憲剛です。今回、ご招待いただきありがとうございます。僕が培ってきたチームに関する経験を仲山さんとお話しできればいいなと思います。よろしくお願いします。

司会者:ありがとうございます。私もサッカーの実践経験に基づいた中村さんのお話、非常に楽しみにしております。

中村:ありがとうございます。

司会者:続いて、モデレーターを務めていただきます仲山進也さんです。よろしくお願いいたします。

仲山進也氏(以下、仲山):よろしくお願いします。今日はモデレーターということで進行役を拝命いたしましたが、進行というよりは、憲剛さんと楽しくおしゃべりをするような感じで進められたらなと思っております。よろしくお願いします。

司会者:セッションタイトルは、「勝ち続ける組織が持つ『チームファースト精神』」です。それでは中村さん、仲山さん、お願いいたします。

仲山:ということで憲剛さん、よろしくお願いします。

漫画『アオアシ』とコラボした書籍を出版

仲山:憲剛さんは、こういう組織やチームみたいなテーマだけで話をすることってよくありますか。

中村:そこまでありません。なので、意外と緊張します。

仲山:僕は、このイベントのために、憲剛さんと顔合わせした時が一番緊張しました。

中村:大丈夫ですか(苦笑)。

仲山:はい。今日はこの前よりもリラックスした感じでいけそうな気がしています。今回、僕をお相手に選んでいただいたきっかけを、まずみなさんにも知っておいていただこうかなと思います。

漫画の『アオアシ』とコラボをした本を出させてもらった時に、憲剛さんが帯のコメントを書いてくださったというご縁があって、今日に至っているのかなと。あらためて帯コメント、ありがとうございました。

中村:いや、とんでもないです。帯は本当に大事なので、かなり悩みに悩んでがんばって書きました。

仲山:うれしいです。帯に「サッカー脳」とありますが、憲剛さん的に言語化してきているサッカー脳の中身と、この本(『アオアシに学ぶ「考える葦」の育ち方──カオスな環境に強い「頭のよさ」とは』)に書かせてもらってる中身ってどんな感じでしたか?

中村:だいぶリンクはしているなぁと思いました。もちろん、いろんな人がいてそれぞれ考え方は違うので、全部が全部一緒ではないんですけど、だいぶ同じだなぁ、近いなぁと共感したところはあったので帯を書かせていただきました。

「Jリーグ」と「会社組織」には似ているところがある

仲山:ありがとうございます。ちなみに憲剛さんは自己紹介不要だと思うんですが、僕は何者かわからないと思うので、ちょっとだけスライドを作ってきました。

1999年に楽天が20人ぐらいの時に入社をして、楽天大学という楽天市場出店者さんの学び合いの場を立ち上げました。楽天にはずっと所属し続けているんですが、なぜかたまにヴィッセル神戸とか横浜F・マリノスで働かせてもらえるというボーナスタイム的な体験をさせてもらっています。

あとはサッカー漫画の『GIANT KILLING』や『アオアシ』とコラボさせてもらって出版したり。マリノスで一緒にお仕事をさせていただいた、元日本代表の菊原志郎さんと共著で本(『サッカーとビジネスのプロが明かす育成の本質』)を出させてもらったりもしています。

それから、『サッカーマガジンZONE』という雑誌が以前あったんですけど、そこで「仕事で大切なことはすべてサッカーが教えてくれる」というタイトルで1年間連載をしていました。「サッカーと仕事ってこういうところで通じるよね」と考えることが趣味です。

憲剛さんとは『アオアシ』つながりというか、『アオアシ』アンバサダー。憲剛さんが関わっているのはジュニア版ですよね。

中村:そうですね。

仲山:漢字にふりがなが振ってあるバージョン(ジュニア版)が今、順次出ていて、12巻まで出たところです。憲剛さんが巻末にそれぞれの巻の解説を書いています。

中村:そうです。『アオアシ』はJリーグの下部組織の話なんですが、組織に所属する選手たちがどうやって伸びていくかは、組織や会社の話と似ているなと思って。そこも含めて、巻末で解説させていただいてます。

仲山:なので、これから『アオアシ』を読んでみようかなっていう人は、通常版よりも、実は『アオアシ ジュニア版』のほうがおすすめだと個人的には思ってます。

中村:(笑)。もし読んでいただけるなら、そちらのほうもありがたいですね。

仲山:いや、絶対に『ジュニア版』のほうがおすすめです。ということで、簡単に2人のつながりを紹介しました。

変化の激しい時代におけるチーム作りをサッカーから学ぶ

仲山:今日はもしかしたらサッカーについてそんなに詳しくない方もいらっしゃるかもしれないし、あんまり時間もないので、前提をざっくりとスライドにまとめてみました。

僕が出させてもらった『アオアシ』の本のテーマも、「変化の激しいビジネス環境では、自分で考えて動ける人材が大事」という話から入ります。個人的には(ビジネス環境が)サッカーにだんだん似てきてるなと捉えていて。

なので、サッカーから何かヒントを得ることはすごく大事になってきているのではないかと思っています。

憲剛さんが所属されていた川崎フロンターレは、もう本当に教科書に出てくるお手本のようなチーム作りができている存在だなと、僕は思っています。

ここに書いてあるように、風間(八宏)監督がベースを作り、鬼木(達)監督が引き継いで常勝チームになっている。いわゆるあうんの呼吸で意思疎通ができていて、それをみんなが共有して動ける、生き物のようなチームになっている。憲剛さんはその中心的な存在でありました。

あともう1つ、川崎フロンターレはサッカーをプレーするチームだけではなく、スポンサーさんや地域も含めた大きな意味でのチーム作りも非常に興味深くて、お手本のような活動をされているなと思ってます。現時点では憲剛さんはFRO(Frontale Relations Organizer)ですよね。

中村:はい、そうです。

仲山:リレーションシップオフィサー? 

中村:リレーションズオーガナイザー、同じような感じです。フロンターレを取り巻く組織や人とのリレーションズを円滑にし、望ましいかたちでつなげるっていう。

仲山:まさにこのへん、現在も中心的な存在を担われているという。

中村:そうですね(笑)。

仲山:あとは、代表チームの時の監督が(イビチャ・)オシムさんだったと。ここまでがまず前提の共有なんですが、何か補足などありますか。

中村:いや、まったくないです。大丈夫です。ありがとうございます。

「チームファースト」とはどういう意味?

仲山:じゃあ、どんどん進んでいきたいと思います。今日は聞きたいことがいっぱいあるんです。

中村:いっぱいある(笑)。

仲山:この中から、いくつか話せたらなと思っています。たぶん全部は話しきれないぐらいの項目があるんですが、どこからいきたいとかありますか。

中村:いや、もうお任せします。

仲山:そしたら、まず今日のタイトルのキーワードが「チームファースト精神」になっていたので1番目から。この「チームファースト」は、「チームに貢献する」という表現もよく使われますが、どんな意味合いで捉えているかから入っていいですか。

中村:サッカーは勝敗がつくスポーツなので、「チームに貢献する=勝利に貢献」となります。その観点から見ると、わりとわかりやすいと言えばわかりやすいスポーツなのかなと思います。

僕の場合は中盤(ミッドフィルダー)の選手だったので、チーム全体を見ながらフォワードの選手にどうパスをつなぐかとか、ディフェンスの選手とどうやって守るかというポジションでした。

フォワードの選手だったら点を取る。ディフェンス、ゴールキーパーの選手だとゴールを守る。どう貢献したかは数値化して可視化はできるんですが、僕の場合はわかりやすく数字には表れにくいポジションでした。

逆を言えば、その前の選手と後ろの選手をしっかりとつないで、チームにどう勝ち筋を見出すか、その設計図をどう作るかをずっと担っていました。僕の場合は自分のパフォーマンスはもちろんそうなんですが、まず絶対的にチームの勝利が先に来るイメージや意識はずっと変わらなかった。

だから、質問にあった「どんな意味合いか」と言われるとなかなか難しいのですが、チームとして戦うベースを遂行しつつも、一人ひとりの選手の個性を、勝利に貢献させることなのかなと思います。

「自己犠牲の精神」のいい面と悪い面

仲山:よく、「自己犠牲の精神が大事」みたいな表現も使われるじゃないですか。自己犠牲ってどう思いますか。

中村:いい言葉だなとは思いますが、そこに意識が傾きすぎると個性が出ないなと思います。要は周りの人を引き立たせるために働いて、それがその人の個性として評価されれば、チームの中での存在や役割がはっきりはしますが。

時として、そればかりではチームの中でなかなか輝きにくいのかなと。サッカーは、そういう競技スタイルでもあると思うんです。僕個人としては、自己犠牲の精神はすごく大事なんだけど、そこに意識を傾けすぎることは、個人という観点からするとあまりよくないのかなと思います。

その選手にはもっと(個性として)いいところもあると思うし。その選手だけが周りの選手たちのできなかったことを補うのではなくて、チーム全員でそれぞれできることやできないことをお互いに補ったほうがいいのかなと。

それは監督がどう判断するかだとは思うんですよね。ここに「水を運ぶ人は縁の下の力持ち」って書いてありますが、自己犠牲がすごくある選手を中盤において、周りの魅力を引き立たせるかどうかも、監督によっては考え方がぜんぜん違うと思います。

仲山:この「水を運ぶ人」って、代表の時に鈴木啓太選手がオシム監督から……。

中村:そう言われてましたね(笑)。

仲山:じゃあ鈴木啓太選手が自己犠牲のプレイスタイルかというと、「別に自分はこれが強みだから」っていう。

中村:そうですね。

仲山:自分は自分の仕事をきっちりやるっていう感じですよね。

中村:まさにそのとおりだと思います。「自分がこのチームの勝利にどうやったら一番貢献できるか」を自分のスペックも含めて判断した時に、その仕事がチームの勝利につながると考えて、彼は率先してやっていたのだと思います。僕は隣でやっていましたけど、非常にやりやすかったです。

そこでやっぱり感性というかセンスというか、彼のアンテナが高いのはすごく感じたので。そこは、サッカー選手に求められる大きな要素の1つだなぁと思いますよね。

「個人の利益」と「チームの利益」はイコールにする必要がある

仲山:あとは言い換えると、チームとしての仕上がり具合が高ければ高いほど、それぞれのメンバーの自己犠牲感が薄くなっていくと思ってるんです。

中村:そう思います。自分のやりたいことやできることとチームの勝利が直結すると、たぶんみんな前のめりに、前向きに、どんどん自分の仕事をやるようになるのかな。フロンターレもそうでしたし、オシムさんの時に代表でプレーした時もそう感じていましたね。

やらされているというよりも、そのチームでどう勝つかというコンセプトが明確に提示されると、自分はそこに向かってどう自分の個性を表現すればいいかが、はっきりと見える。

仲山:あと、すり合わさるという。

中村:そうですね。周りとのコミュニケーションも含めて、イメージが共有できると、そのチームがどんどん良くなっていったという感覚はあります。

仲山:そういう意味で言うと、チームファーストのファーストってどういう意味合いですか?

中村:チームの勝利が一番ということだと思います。個人の出来や記録よりも、まずはチームの勝利が一番大きな目標だというところをしっかりとぶらさない。その上で、勝利に向かってそれぞれの個性を出すという順番ですね。

仲山:順番。そのために自分の活かし方をチューニングしていく。

中村:そうですね。だから個人の利益とチームの利益をイコールにしなきゃいけないと、風間さんはよく言ってました。

仲山:チームファーストは順番の話であって、チーム100パーセントという意味合いではないっていうことですよね。

中村:だと思います。

一人ひとりが個性を出すために大切なこと

中村:僕はどちらかというと、チーム100パーセントで枠組みを作ってしまうと、その枠組みの中からはみ出ないので、その組織は大きくならないんじゃないかと思う人間で。チームファーストって誤解を招くかもしれないんですけど、まず個人の成長が大事になるかなと。

個人一人ひとりが成長し、その総和がチームの枠組みを作るべきだと僕は思っています。先に枠組みを作ってしまうとそこから出ていかない。

仲山:型にはめる、みたいな意味ですね。

中村:そうそう。一人ひとりが伸びていくことには、もう天井がないわけですよね。今、僕は指導者として選手たちを見てますけど、そっちのほうがおもしろいなって。僕が強制的に何かをやらせるよりも、彼らがある程度の基準を持った上で、一人ひとり成長していったほうがその総和が大きくなるなとすごく感じます。

仲山:風間さんは、「チームの利益と個人の利益は半々ぐらいでいい」って言ってませんでしたっけ。

中村:つまり、そこはイコールなんですよ。

仲山:イコールなんですね。バランスが取れてる状態が理想的。

中村:だから、どちらかが大きくてもだめというか、イコールじゃないとやっぱり傾いてしまう。

仲山:ちなみに僕はその状態のことを「自己犠牲的利他」じゃなくて、「自己中心的利他」という言葉を使うようにしています。みんなが自分がやりたくて得意なことをやると、それぞれお互いが「いいね」って思える組み合わせになっている状態。

中村:お互いが「いいね」となるには、チームとしての共通意識、ベースがみんなの中で共通理解されてないといけません。要は、土台がないのに各々がやりたいことや好きなことをやってしまうと崩れてしまうし、それは「いいね」にはならない。そこをしっかり遂行したうえで個性を出すことが大事なのかなと思います。

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