2024.10.01
自社の社内情報を未来の“ゴミ”にしないための備え 「情報量が多すぎる」時代がもたらす課題とは?
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長尾彰氏(以下、長尾):もう一度繰り返します。「チームにならないとできないこと」があるところにチームが生まれます。「うちの会社はぜんぜんチームになれないんだよね」というのは、誰かが悪いわけではなくて、仕事のやり方や枠組みやシステムそのものに、もしかしたらチームを阻害している原因があるのかもしれません。
チーム作りを促進してくれるものを「16の条件」と表現をしています。これもまた、1から16まで全部説明をしてしまうと時間がなくなってしまうので、また次の機会にしたいと思います。特徴的なのは、16番の「フローが体験できる」というところです。
「フロー」という言葉、聞いたことがある方もいらっしゃるかもしれません。残念ながら去年お亡くなりになってしまいましたが、ミハイ・チクセントミハイさんという心理学者の方の「フロー状態」を参考にアレンジしました。
フローですから、「流れる」とか「夢中になって何かする」という意味合いなので、ここには文字通り「夢中」と書いてあります。
その仕事をどれだけ続けていても疲れない、すごく集中してやることができる、「楽しい」と感じることができる、いつやってもうまくできるとか、夢中になって仕事ができるイケている状態のことをフローと呼びます。
スポーツの世界では、フローのことを「ゾーン」なんて読んだりしますね。ボールが止まって見えるとか、サッカー選手なんかもグラウンドが俯瞰で見えて、後ろに目があるかのように、どこに誰かがいるのが見える時があるとかね。それをゾーンなんて呼んだりします。
長尾:ふだんの生活の中でもフローな状態はいろいろあるんだけれども、フローになるために、あるいはフロー以外の状態とはどんな状態なのかを説明しているのがこの図です。
縦軸が「挑戦」、プレッシャーや難易度のことです。右軸が「能力」で、知識・技術・経験も含めたものです。挑戦の度合いが高すぎて能力が低いと、①の不安を感じて不安ゾーンになるわけですよね。反対に、能力がすごく高いのに挑戦の度合いが低いと退屈を感じます。
フローも③と④の2種類があります。③は新しいことにチャレンジする時のフロー。④は習熟を繰り返してなれてきて、「とにかく、その作業をやることそのものがとても楽しい」なんて感じられるのが④の状態。③、④は両方フローです。
みなさんはいかがでしょう。月・火・水・木・金とお仕事をやっていく中で、日常業務ではそれぞれいろんな作業をされるわけですが、退屈を感じる仕事・作業や、不安を感じる作業・仕事もあれば、フローを感じるような仕事・作業もおそらくあると思うんです。
それを、この図に当てはめて考えてみてもらっていいですか。どんな時にフローになっているでしょうか。どんな時に不安を感じていますか。どんな時に退屈を感じているでしょうか。
メンバーも同じように図に当てはめてみて、メンバーがどんな仕事・作業をする時に退屈や不安を感じているか、あるいは何をしている時にフローを感じているか。メンバーのことをどれだけ認識されているでしょうか。
グループがチームに変わっていくために、ストーミングを越えるために、あるいは心理的安全性を生み出すためにも、まず必要なのは相互理解だと思います。
こんなふうにフローの図はとても使いやすいので、「この仕事はフローの図のどこのゾーンだった?」「何が不安だった?」「もし退屈だったらもう少しこれにチャレンジしてみようか」と当てはめてみてください。
長尾:もし不安だったら、もしかしたら目標を下げることもあるかもしれないけれど、「こういうことを学んでみようか」「こういう経験をしてみようか」「こういうことをインプットしてみようか」という、能力を上げるための働きかけもできるかもしれません。そんなふうに、この図を使ってもらうのもいいかなと思います。
「働きがいを感じる」って、つまりはフローな状態で仕事をすることだと思うんですよね。個人のフローだけじゃなくて、グループがチームになることでチームでもフローになれたら、おそらく第4ステージのトランスフォーミングに行けるんじゃないでしょうか。
さあ、あっという間に残り5分になってきました。実はこれは本(『宇宙兄弟 今いる仲間でうまくいく チームの話』)には書いていないことなんですが、先ほど「チームにならないとできないことがあるからチームになれる」という話をしました。
目標設定の仕方についての言説ですが、これはどこかの文献から引っ張ってきたわけではなくて。チームづくりの仕事をしてきて、うまくいくときとうまくいかない時があって、うまくいく時はどんな目標の設定の仕方をしてたかを振り返ってみたら、だいたい20種類ぐらい出てきました。それが、この20個のチーム化を促す目標の特長です。
目標設定はスマートに、「S・M・A・R・T」など、いろんな目標設定の仕方があります。もうちょっと細かく考えてみると、「こういった目標設定の要素があるとチームづくりしやすくなるよね」というものをまとめたものです。
長尾:僕が「あ!」と思ったポイントが2つあります。まず、9番目の「実現可能性は50パーセント」。やってみないとわからないというぐらいの難易度の目標設定をすると、「やってみる」を促しやすいですよね。
「やったことがないからできません」という人はよくいます。でも、やったことがある人が「こうやればできるよ」「よそはこのやり方でやったみたいよ」なんて情報提供したりすると、「やったことがないからわからないけど、よそでやってみてできたんだったらやってみようかな」と思ったりするんですよね。
その時に、実現可能性が5パーセントぐらいで、100回やって5回はできるけど95回は失敗しちゃうくらいの難易度だと、不安を感じますよね。反対に、ほぼ95パーセント実現できる簡単な目標だと、やっぱり飽きちゃいます。
先ほどのフローの図を思い出してくださいね。「やってみたらもしかしたらできるかも」というのが、フローな目標設定でポイントになるところです。
それから17番の「ナラティブ」という言葉を、ぜひ今日は覚えて帰っていただきたいなと思います。ナレーションやナレーターという言葉と語源が同じです。
基調講演で(中村)憲剛さんが「提示が大事だ」と話をされていました。例えば会社の目標や理念を誰かに伝える時、あるいは浸透させたい時に必要なことはプレゼンテーション(説明)よりも「ナラティブ」です。ナラティブとはどういう意味かというと、物事の枠組みを物語を通じて伝えることをナラティブと言います。
長尾:「何それ? どういう意味?」と思うかもしれないんですが、例えば「勧善懲悪」ですね。悪いものがいい人を倒し、正義が勝つという概念は、どこでどんなふうに学んできたでしょうか? 仮面ライダー、ウルトラマン、プリキュア、セーラームーンはちょっと古いですかね。これらはすべて物語です。
ああいった物語を通じて、僕たちは勧善懲悪というものがあるんだとわかってきます。ハッピーエンドもそうですね。最初はあまりよろしくない状態でも、最後にはみんな幸せに終わる。
ディズニー映画はだいたいハッピーエンドで終わって、バッドエンドのディズニー映画ってないですよね。そんなふうにして、私たちは物語を通じて物事の意味、概念を獲得していきます。
みなさんの会社がなぜ今ここにあるのか、そしてどこに向かっていこうとしているのか、そしてどんな価値を生み出そうとしているのか、ここに至るまでにどんな出来事があったのか。これらを物語を通じて語ることが、チーム化を促すためにも目標として必要です。
「なぜこの目標になったのか」ということを、ナラティブに語ることができたりすると、グループがチームに進みやすくなったりします。
長尾:最後にまとめです。これも本には書いていないことなんですが、グループをチームに変えること、成長・発達を促すこと、つまりチームビルディングとは何が大事なのかというと、だいたいこの8個かなと思います。
これも、今日の話の中で繰り返しお話してきました。1番目は「チームにならないとできないことを探しましょう」。部署がなかなかチームにならないのは、グループな状態でできちゃう仕事だからです。
チームになって自分たちで役割やルールを作らないと、自分たちで目標設定をしないと成し遂げられないことが仕事になっているのではなくて、「誰かから与えられればできる」という状況なので、なかなかチームにならないかもしれません。
2番目は「制約条件を事前に整理する」。やったことがいいことはたくさんあるけれども、「うちのチームでは、この仕事をする上ではこれをしてはいけないよ」という、ゴルフでいうところのOBゾーンでしょうかね。アウト・オブ・バウンズです。ここから先は出ちゃダメだよ、というラインをきちんと引くことです。
それから3番目が「集団の発達段階」。先ほどの成長ステージの話です。人間関係で、誰と誰がどんな関係なのか(を把握することが大事です)。
「この人とこの人はフォーミングだけど、この人とこの人最近ストーミングだね」「この人とあの人は、なんとなくノーミングっぽいな」「この人とあの人はトランスフォーミングしている。でもみんなはバラバラだから、この集団で考えたらまだぜんぜんフォーミングだよね」という、見立てができるような観察をすることが大事。
長尾:4番目は「相互リフレクションの機会創出」。難しい言葉で書いていますが、何が起きたか振り返りをしましょう。5番目の「整調的フィードバック」も振り返りが大事だということです。「整調的」ですから、整えていきましょうということです。
フィードバックはいろんな意味合いで使われています。アドバイスに偏ることなく「今はこういう状態だよね」「こうなりたいから、もう少しこうしていこうか」というコミュニケーションが大事になってきます。
6番目と7番目の「システム思考」と「ホールシステム志向」、いっぺんに言っちゃいます。部分だけを見て切り取るのではなくて、全体を見ましょう。会社の中だけを見るんじゃなくて、会社と取引先、あるいは顧客との関係性にも目を向けていこうじゃないかということです。
それだけではなくて、業界や社会そのものに目を向けて、「この社会において、うちの会社はどういう意味合いなのか」「どういう構造で、うちの会社はこの社会に存在しているのか」ということを、システムとして見る。
最後になんですが、「脱パターナリズム」という言葉もあります。「パターリズム」はちょっと難しい言葉かもしれませんが、哲学用語です。
役職がある人が優秀で、役職がない人は優秀ではない。例えば、「部長が新人に指導することは、部長が正しい。新人は力がないので、ちゃんと部長の言うことを聞くように」みたいな関係性のことをパターナリズムと言ったりします。
(脱パターナリズムとは)できる人が、できない人を正しい方向に引っ張る、指導する、矯正するのではなくて、お互いの違いを活かし合うことです。
先ほどチームワークの言葉をお伝えしました。みんなが同じことを同じようにできることではなくて、それぞれの違いを活かし合うような関係を作ることが、グループをチームに成長・発達させる上で大事なことなので、この8個にまとめてみました。
長尾:というわけで残り1分になっちゃいましたが、質疑応答の時間もいただいているということなので、ピックアップしてよろしいですか?
司会者:長尾さん、ご講演ありがとうございます。講演の中で視聴者のみなさんが、実際にチームのフェーズやスタイルに合わせて、「自分は○○タイプかな」というコメントが多く見受けられました。
ですので、Q&Aの欄には「実際にどういった働きかけをしたほうがいいのか」というご質問が多く見受けられましたので、さっそく1点ご質問です。
「部署メンバーのメンタルモデルがばらついている場合、リーダーはどのようなアプローチが必要でしょうか。またその場合、部署の段階は先ほどのフェーズ1~4のどこなのかという線引は、どのように判断するものなのでしょうか」というご質問でございます。
長尾:メンタルモデルがばらついているわけですし、そもそもメンタルモデルって表からパッと見えるようなものでもないですから、メンタルモデルという言葉の意味を説明した上で、仕事で何を大事にしているか。メンタルモデルと似た言葉で、この本の中では「マインドセット」という言葉を使っています。
「マインドセット」は大きく3つの言葉でできていて、「価値観」と「信念」と「世界観」の3つです。「価値観」は、何が好きか嫌いか。「信念」は、何が正しくて何が間違っているか。「世界観」は、何を美しいと感じて何を醜いと感じるか。
仕事をしていく上で、何が好きで何が嫌いか、何が正しくて何が間違っているか、どんな時に美しさを感じるか、あるいは醜いと感じるか。みんなが持っているマインドセットはバラバラなので、まずはそこの擦り合せをすることが大事なのかなと思います。
長尾:その場合の部署の段階は、まだお互いのことをよく知らない第1ステージのフォーミングの状態です。お互いのことをよく知らなくて、相互理解が進まないので、心理的安全性も低いままです。
反対に、お互いの持っているメンタルモデル、あるいは「こういう考えを持っている人なんだな」というマインドセットがだんだんわかってくると、心理的安全性が生まれるんじゃないかなと思っています。いかがでしょうか、答えになっているでしょうか。
司会者:ありがとうございます。「マインドセットを擦り合わせる」というヒントをいただいたかなと思うんですが、実際に方法はいくつかあると思うんですね。
例えば、組織の中で例えばワークショップや1on1をするとか。長尾さんがさまざまな企業さんと関わっていらっしゃる中で、どういった取り組みをされている企業さんに「マインドセットの理解が進んでいるな」と思われたご経験があるのか、お話しいただいてもよろしいでしょうか。
長尾:まずは、今日みなさんにお伝えしたようなお話を研修というかたちで情報としてみなさんにインストールしていただく。まずはチームの成長ステージのフレームワークを頭の中に入れていただいて、言葉の意味を整えてから、マインドセットはふだんの仕事の中で触れることができるので。
長尾:例えば、新人の方がコピーを取った時に「コピー取っている時ってさ、何を大事にしてコピーを取っていたの?」と、振り返る機会を設けているわけですよね。
だから、研修やワークショップをやってチームづくりをするというよりも、ふだんの仕事の中でお互いに何を大事にしているか、どんなマインドセットがあって、お互いにどういうメンタルモデルなのかを擦り合わせるような機会を意識的に持つようにしています。
なので、特別なことはしていないです。何か仕事や作業を終えた時に、「お疲れ。さっきの仕事どうだった? うまくいった? いかなかったところはどこ? 教えて」「もっとこうしたほうがいいのかなと思うんだけど、もしそうしなかった理由があるんだったら教えてほしいんだけど」という関わり方をしています。
司会者:ありがとうございます。いったんみなさんで情報という認識を揃えてから、ふだんの行動に対して行うのが非常にポイントだなと思いました。週に1回の1on1とかのタイミングだと、やっぱりズレが生じると言いますか、マインドセットの理解にはまだまだ補えない部分があるのかなと私も思いました。ありがとうございました。
長尾:サッカーで例えますと、とにかくマメにパス交換をすることが大事なので、マメさが大事かなと。面倒くさいんですけどね。でも、こまめにパスをしていたほうがいいプレイやスーパープレイが生まれやすくなるので、ふだんからパス回しを意識したコミュニケーションを取ることがすごく大事かなと思います。
司会者:たくさんのご質問をいただいておりましたので、のちほど長尾さまにもコメントをご共有させていただきます。お時間の都合上、質疑応答は以上とさせていただきます。ご登壇いただいたのは、長尾彰さんでした。ご質問、ご感想いただいたみなさま、そして長尾さん本当にありがとうございました。
長尾:ありがとうございました。
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